連載コラム『増田健の映画屋ジョンと呼んでくれ!』第13回
変わった映画や掘り出し物の映画を見たいあなたに、独断と偏見で様々な映画を紹介する『増田健の映画屋ジョンと呼んでくれ!』。
第13回で紹介するのは、思わぬスマッシュヒットを記録し全米で絶賛されたホラー映画『バーバリアン』 。
批評家からもホラー映画ファンからも、観客の予想を裏切る展開が驚きを持って歓迎され 高い評価を得た作品です。
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映画『バーバリアン』の作品情報
【製作】
2022年(アメリカ映画)
【原題】
Barbarian
【監督・脚本・出演】
ザック・クレッガー
【キャスト】
ジョージナ・キャンベル、ビル・スカルスガルド、ジャスティン・ロング、マシュー・パトリック・デイヴィス、リチャード・ブレイク、ジェームズ・バトラー、カート・ブローノーラー、ソフィー・ソレンソン
【作品概要】
宿泊のために借りた、デトロイトのバーバリー通りの家に到着した女性。その家には、すでに見知らぬ男が滞在しています。行く当てのない彼女はその家に泊まりますが……。意表をつく展開が話題のサスペンス・ホラー映画。
『お願い!プレイメイト』(2009)で主演と共同監督を務めたコメディアンで、近年はコメディ番組を手がけているザック・クレッガーが監督した作品です。
DCドラマ『クリプトン』(2018~)やAppleTV+オリジナルドラマ『サスピション』(2022~)のジョージナ・キャンベルが主演。
『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』(2017)で”ペニー・ワイズ”を演じたビル・スカルスガルドと、『ギャラクシー・クエスト』(1999)から『House of Darkness』(2022)まで様々なホラー・SF・コメディ系作品で活躍のジャスティン・ロング。
そしてロブ・ゾンビ監督の『31』(2016)や『スリー・フロム・ヘル』(2020)、『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』(2018)に『フィードバック』(2020)のリチャード・ブレイクらが共演した作品です。
映画『バーバリアン』のあらすじとネタバレ
激しい雨の降る夜遅く、テス(ジョージナ・キャンベル)の運転する車はデトロイト郊外のバーバリー通りにある家の前に到着します。
彼女は明日行われる仕事の面接に備え、Airbnb(民泊できる家や施設を探せる大手サイト)で選んだこの家に宿泊するつもりでした。
ところが指定されたキーボックスに家の鍵がありません。物件を管理する不動産会社に連絡がつかず、途方にくれるテス。
やむなく車に戻ったテスは、宿泊先の家に明かりが点いたと気付きます。家の呼び鈴を押すと若い男がドアを開けました。
テスがこの家は私の宿泊先だと訴えても、自分はHomeAway(同じく民泊施設を探すサイト運営会社)で借りたと言う男は怪訝な顔をします。
雨は激しく、不安を感じながらも男に勧められ家に入るテス。男のスマホには確かに家を借りた確認メールが届いています。
この物件の宿泊予約がダブルブッキングされていたと知り困惑する2人。
テスは車に戻り宿泊可能なホテルを探そうとしますが、キース(ビル・スカルスガルド)と名乗った男は外は危険な場所だ、良ければ家の中にいるよう提案しました。
疑念を抱きつつテスは言葉に甘え、家の中でホテルに電話しますが空き室はありません。この日デトロイトでは医療関係者の大きな学会が開催され、ホテルの部屋は埋まっていたのです。
キースは寝室のドアは鍵がかかる、自分は居間のソファで寝るからここに泊まるよう提案しました。不安を覚えながらも言葉に従うことにするテス。
キースは彼女が警戒心を抱いていることを理解しつつ、一緒にワインを飲もうと提案します。何かと気遣う態度を見せるキースにようやく心を許し、テスは明日ドキュメンタリー映画の監督のリサーチ職の面接を受けると話します。
その監督の映画をキースは見ていました。監督の次回作が、荒廃し不動産物件が安くなったデトロイトに集まったアーテストたちのコミュニティを描く作品と知り、自分も取材対象だと告げるキース。
彼はコミュニティの創設者の1人で、新たな活動拠点を求めてこのデトロイトのさびれた地域を物色していました。2人は意気投合して共にワインを飲み、会話は弾みプライベートまで語り合います。
夜遅くまで話した後、2人で寝室を準備しテスは寝室に鍵をかけベットで、キースは居間のソファで眠りにつきました。
ところが、テスは奇妙な物音に気付き目覚めます。何故かドアは開いており、居間からキースのうなされる声が聞こえてきます。恐る恐る近寄りキースに声をかけるテス。
飛び起きたキースは悪夢にうなされていただけでした。キースはドアは開けていないと否定し、疑問を感じながらも扉を閉めたテスは再び眠りにつきます。
翌朝彼女が目覚めた時、キースは先に家を出ていました。彼の残したメモを読んだテスは急いで準備し家を出ます。すると昨晩は夜の闇で見えなかった光景が露わになっていました。
周囲には廃屋が並び、キースが語ったように誰もが危険を覚える場所でした。彼女は荒廃した地区を車で走り抜けデトロイト中心部に向かいます。
仕事の面接は相手に好印象を与え順調でした。担当者は明日の返事を待つよう告げますが、テスが民泊した場所を聞き顔色を変えます。宿泊先を変えるよう言う担当者を笑顔ではぐらかすテス。
彼女が不安を覚えつつバーバリー通りの家に戻り、車から降りると黒人の大男が叫びながら駆け寄ってきます。慌ててテスが家に入り鍵をかけると、男は家からすぐ出ろと叫びました。
テスは荷物をまとめ警察に通報しますが、電話の相手は人手が無いと警官の派遣を断ります。気を取り直しトイレを使おうとしますが、トイレットペーパーがありません。
ストックは地下室にありました。彼女が階段を降りトイレットペーパーを手に戻った時、地下室に通じる扉が独りでに閉まりました。
扉は開かずテスは閉じ込められます。窓から覗きキースが戻っていないか探しますが、外に誰の姿もありません。
スマホを置いて入ったので誰とも連絡できません。扉の鍵をこじ開ける物が無いか探していると、壁の穴からロープが伸びていると気付いたテス。
ロープを引くと地下室の壁の隠し扉が開きます。その先に入る事を躊躇したテスも、好奇心にかられ鏡の反射で内部を照らし隠された通路に入ります。
通路の先の部屋は無人ですが汚れたベットの脇には、三脚に据えられた古いビデオカメラとバケツが置いてありました。
壁には血で付いたのか、人の手形が残っています。おぞましい目的で使用された部屋かもしれないと気付き、慌てて逃げ出したテス。
すると激しいノックの音がします。キースが帰って来たと気付いたテスは採光窓から彼に呼びかけます。彼女は気付いたキースに窓から家の鍵を渡します。
家に入ったキースが彼女を地下室から解放しました。隠された地下牢のような部屋がある、一刻も早く家から出ようと訴えるテスに、彼女の発言が理解できないキースは中を確認すると言いました。
怯えたテスは中に入る事を拒みますが、地下室に閉じ込められないよう外で見張って欲しいと頼むキースの言葉に従います。しかしすぐ戻ると言い地下室に入ったキースは、いつまで経っても戻りません。
彼女が呼びかけても返事はありません。やむなく地下室の扉を開けたまま固定し、階段を降り隠し通路の先にいるキースに呼びかけるテス。
地下牢のような部屋にもキースの姿はありません。テスは部屋の先に扉があり、開けるとさらに下に降りる階段と細い通路があると気付きます。
彼女が通路に呼びかけると、助けを求めるキースの声が返ってきました。彼の声は懇願するように変わり、テスは意を決し闇へと続く階段を降りました。
息を吞み暗く細い通路を進むテス。格子戸を開けた先には人間も入るような、大型動物用の檻がいくつもあります。彼女が叫んだ時に突然姿を現すキース。
なぜ下に降りたと責めるテスに、キースは何者かに噛まれたと訴えます。引き返そうとするテスにそっちに奴らがいる、と彼は逆方向に逃げろと主張します。
2人が言い争った時、恐ろしい姿をした全裸の女(マシュー・パトリック・デイヴィス)が叫びながら姿を現します。その女はキースの頭を掴むと人間離れした力で何度も殴り、壁に叩きつけました。
場面は突然変わり、海に面した道を陽気な音楽を流しながらオープンカーを走らせるAJ・ギルブライド(ジャスティン・ロング)の姿が映し出されます。
シットコム(シチュエーション・コメディドラマ)俳優のAJのご機嫌な気分は、かかってきた電話で打ち壊されます。番組の関係者から、共演の女優が彼をセクハラ行為で告訴したと知らされるAJ。
スキャンダルは大きく報道され、番組からの降板は確定的です。彼は裁判すれば勝てると主張し争う姿勢を見せますが、裁判費用を工面する当てはなく、資産管理者からは不動産物件を売るように勧められます7。
逮捕される可能性もある中、金を調達しようと不動産を処分しにAJはデトロイトに向かいます。不動産会社から鍵を受け取った
AJが向かったのは民泊用に手に入れた家でした。
その家の前には、今もテスの乗用車が停められたままになっていたのです。
映画『バーバリアン』の感想と評価
アメリカでスマッシュヒットを記録し、「恐るべき映画」と絶賛された話題のホラー映画はいかがだったでしょうか?
悪趣味で「センシティブな内容」を含みながらもユーモラスで、しかも社会風刺の要素がある点が高く評価された作品です。それらについて解説しましょう。
本作監督のザック・クレッガーはコメディアン、コメディ作家として活躍している人物です。大学在学中にコメディ劇団を結成、ニューヨークを中心に活躍しテレビやハリウッドへの進出を成し遂げました。
コメディアンがホラー映画、それもコメディホラーではなく社会派要素のある映画を手掛ける?、と疑問に思う方もいるかもしれません。
しかし『ゲット・アウト』(2017)のジョーダン・ピール監督もコメディアン出身の人物。観客を不快にさせかねない題材を巧みに処理し、社会風刺要素をウィットに富む描写で見せるのは、コメディ畑の人物ならではの能力でしょう。
インタビューに対し「ギャヴィン・ディー=ベッカーの著作『暴力から逃れるための15章』を読み、本作のアイデアを思い付いた」と答えたクレッガー監督。
アメリカの防犯コンサルタントである著者が記したこの本は、暴力犯罪の前には必ず前触れや危険信号がある。それを察知すれば犠牲者にならずに済む、と説いた著作です。
「この本は女性は男性が発するサインに対し、潜在意識の中で働く警報システムを尊重するよう勧めています。男性と女性では見知らぬ人と接した時の反応が異なる事は理解していましたが、この本を読むまで深く考えていませんでした」
「映画『バーバリアン』では男性なら気にも留めない、でも女性なら誰でも気付く”危険信号”を、できるだけ多く描きたかったのです」
この監督の言葉を聞けば、本作が男性目線寄りの多くのホラー映画…登場する女性は犠牲者という名の獲物…とは異なる、賢明で勇敢な女性主人公が登場する意味が理解できると思います。
このように鋭い視点や社会風刺に富んだ本作。しかし決して堅苦しい作品ではありません。
女性の脅威となる存在とは何者か
クレッガー監督が女性が”脅威”を感じ”危険信号”が鳴り響く舞台に選んだのが、民泊の一軒家での男性宿泊客とのダブルブッキングでした。
主人公テスを演じたジョージナ・キャンベルは極めて慎重に振る舞います。その姿には女性だけでなく男性も共感を覚えるのではないでしょうか。
一方先客のキースを演じたビル・スカルスガルドも彼女の立場を理解しつつ、自分が危険人物では無いと証明しようとします。
もっとも彼は『IT/イット 』(2017)で”ペニー・ワイズ”を演じた人物。ホラー映画ファンなら脳内の警報システムが働き”危険信号”が鳴り響きます。
しかし最善を尽くしたテスは予想外の脅威に遭遇します。それはこの家を宿泊先に選んだ結果ですが、そもそもデトロイトのこの場所を選んだのが大間違い…これも社会風刺でしょう。
予想外の展開に驚いた観客は、次に場面転換に遭遇して戸惑います。ジャスティン・ロング演じるAJが登場し、映画のテイストは変わりコメディ色が漂い始めます。
AJはキースと全く異なる人物、自己中心的な”天然モノの女性の脅威”です。ちなみに彼はシットコム番組の
共演女優にセクハラを行いますが、クレッガー監督もシットコム番組で活躍した人物、ちょっとしたお遊び設定でしょう。
最初AJの役を「そんな役柄を演じる事が多い」、ザック・エフロンにオファーしたが断られたと話す監督。しかしこの役に対し間違った考え方をしていたと気付きます。
「私たちが想像できるようなレイプ犯は怖くない。怖いのは魅力的な性犯罪者のイメージです。大柄で攻撃的な男ではなく”トム・ハンクスのような男”です」
「では、”トム・ハンクスのような男”って誰だろう。ジャスティン・ロングだ、そうしよう。そんな感じで彼を起用しました」と監督はインタビューで語りました。
ジャスティン・ロングは『ギャラクシー・クエスト』(1999)で映画デビューして以来、様々なコメディ系作品に出演していますが、ホラー映画ファンなら『ジーパーズ・クリーパーズ』(2001)、そして『Mr.タスク』(2014)でトンデモない目に遭ったのはご存じでしょう。
彼の過去作を知る者なら、本作で見せたコミカルな姿はより増幅されて感じられたでしょう。ジャスティン・ロングが登場し作品のテイストが変わるのは観客には予想外の展開です。その狙いは何でしょうか。
「テスのような自分の周囲の出来事に過敏な女性の反対の存在は、自分が周囲にもたらす影響への自覚が全くない男性です。性犯罪者でありながら、周囲に与えた被害を全く考えていない男性=AJを登場させれば、テスの試練と同じものを経験させられると思いました」
「それが面白かったんです、2人は同じ”針の穴”をくぐるわけですからね。これは道徳的なテストです。テスはこの試験に合格し、AJは不合格だった」と監督はインタビューで説明しています。
さて、劇中でAJがテスと出会うとまた場面が転換します。この第3幕で、映画『バーバリアン』の物語に潜む恐ろしい設定が露わになるのです。
観客が共感する怪物こそ魅力的
突然映画は1980年代のデトロイトを映し出します。デトロイトはかつて自動車産業の中心地として繁栄し。人口で全米第5位を誇る大都市でした。
繁栄を支えた要因の一つが南部から流入した黒人労働者たちですが、1940年代末に黒人居住地が拡大し始めると白人住民の流出、自動車工場の移転が始まります。
公民権運動の時代である1967年、黒人住民による暴動が発生。この事件は映画『デトロイト』(2017)で描かれました。
1970年代になると日本車がアメリカ市場を席捲し始め、デトロイトの自動車産業は衰退の一途をたどります。ダウンタウンは荒廃し浮浪者があふれ、治安は悪化します。
80年代にこの傾向はさらに進みます。当時のデトロイトを背景に作られた映画がロボコップ』(1987)。その後もデトロイトの苦境は続き、富裕層と貧困層が異なる地区で異なる生活を営む都市となります。これを題材にした映画が、エミネム主演の『8 Mile』(2002)でした。
ともかく80年代に多くの白人住人がデトロイトから転居しますが、映画の舞台となる家の住人、リチャード・ブレイク演じるフランクはある理由からこの地に住み続ける事を選びます。
彼の選択には恐ろしい理由がありました。この件の直接的描写はありませんのでご安心を。しかしフランクのおぞましい行為が「彼女」を生んだのです。
クレジットで”The Mother”と呼ばれるこの女性を演じたのは、男優のマシュー・パトリック・デイヴィスです。彼が演じた理由はお判りでしょう。
マシュー・パトリック・デイヴィスはインタビューで撮影の舞台裏を語っています。「トンネルの暗闇から現れた(特殊メイクを終えた)私を見たジャスティン・ロングは動揺していました」
「そして彼は”別の映画の現場に戻ろうかな、この映画はもう嫌だ”と言うと私の胸を見て笑い、股間を見てまた笑いました」…確かに撮影現場で「彼女」に遭遇したら、そう反応するしかないでしょう。
「彼女」とAJのシーンに私は大いに笑いました。しかし「彼女」は父であるフランクが犯した行為の産物です。
「私にとって彼女(The Mother)は、映画全体の中で最も共感できるキャラクターです」とインタビューで話した監督。「誰かが彼女の事を、レザーフェイスとキングコングを合わせたような存在と言いましたが、その通りだと思います」
「映画に登場する怪物で一番面白いのは、観客が共感を覚える怪物だと思います。彼女を一人の人間として見せる事が重要でした」
地下空間に人々に恐怖をもたらす異形の怪物が潜んでいる。それは怪物自身は知らない、背徳的な行為が生んだものかもしれません。
しかし怪物は、孤独で哀れな存在でした。H・P・ラヴクラフトの傑作短編ホラー小説「アウトサイダー」のあらすじです。
「アウトサイダー」に登場した怪物は、映画など後のホラー作品に大きな影響を与えます。直接インスパイアを受けた作品にスチュアート・ゴードン監督の『キャッスル・フリーク』(1995)があります。
『キャッスル・フリーク』に登場する怪物は、『バーバリアン』の「彼女(The Mother)」の男性版だと呼べるでしょう。
まとめ
予想を超えた展開に驚き、恐怖とユーモアに溢れた展開が評判を呼び、思わぬヒット作となった『バーバリアン』。その物語の背景には人間や社会に対する鋭い風刺が潜んでいます。
舞台となった家、そしてデトロイトという場所にもメッセージが存在しています。産業の衰退や都市の空洞化で栄えていた居住地区が荒廃する。これはアメリカの各地で起きている現象です。
一方で人気の高い都市部の不動産物件は高騰し、それが理由で居住者が去るケースもあります。家族と過ごし幸せを築いた思い出深い家も、このような外的要因で手放さざるを得なくなる例も多数あります。
そんな誰かの思い出に満ちた物件を、単なる投資の対象としか考えない人間も存在します。本作のAJは手に入れた物件を危険な地区にあるのに民泊用に使用し、ろくに点検もせず地下空間にもそこに住む住人にも気付かずにいました。
このような風潮…今現実にアメリカで身近に存在する悲劇を、巧みに本作を構成する恐怖の要因として取り入れています。監督も「この映画がそんな話題のきっかけになれば嬉しいです」と語っています。
その後、こんな言葉を続けました。「それは私の意図ではありません。本作のストーリーの表面下で様々なことが起き、観客はそれを話題にすることもできます。
しかし私の唯一の狙いは、観客が映画館で叫んで笑い、楽しい時を過ごすことです。それ以外の要素は全ておまけです」
『バーバリアン』というタイトルも、書いた脚本のデータを保存する際名前を付ける必要があり、その時”バーバリ通りにある家”と書いたと思い出して「バーバリ通りの住民だから”バーバリアン”だ」と名付け、それがタイトルになったと監督は説明しています。
「予告編を見た人のコメントの1つに、”バーバリアン(Barbarian)のタイトルはAirbnbのアナグラムですね”と書いてありました。その発想は全くありませんが、素晴らしい発見で大好きな指摘です」とインタビューで語る監督。
この映画に登場した人物で、”バーバリアン(野蛮人)”は誰でしょうか。女性にとって全ての男性はそんな一面を持っているのかもしれません。
鬼畜な所業を行ったフランクは当然ですが、AJもフランクと別のタイプの無自覚な”バーバリアン”と呼べるでしょう。
見た目と行動は「彼女(The Mother)」こそが”バーバリアン”ですが、そう呼ぶには純粋な母性と持つ無垢な怪物です。そう考えると命がけで自分を救ってくれた「彼女」に銃を向け、発砲したテスこそ冷酷な”バーバリアン”かもしれません。
こんな考察もクレッガー監督が語った「おまけ」要素の産物です。しかし、現代のアメリカを風刺する様々な要素が巧みに織り込まれたストーリーが、観客を楽しませる様々な「おまけ」を提供してくれるのです。
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増田健(映画屋のジョン)プロフィール
1968年生まれ、高校時代は8mmフィルムで映画を制作。大阪芸術大学を卒業後、映画興行会社に就職。多様な劇場に勤務し、念願のマイナー映画の上映にも関わる。
今は映画ライターとして活躍中。タルコフスキーと石井輝男を人生の師と仰ぎ、「B級・ジャンル映画なんでも来い!」「珍作・迷作大歓迎!」がモットーに様々な視点で愛情をもって映画を紹介。(@eigayajohn)