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映画デトロイト|あらすじネタバレと感想。モーテル事件と暴動ラスト結末も

  • Writer :
  • 馬渕一平

1967年7月、アメリカ史上最大級の人種暴動の最中に起きた実際の事件、「アルジェ・モーテル事件」を描く衝撃作。

手掛けるのは『ハート・ロッカー』や『ゼロ・ダーク・サーティ』といった社会派の力作で知られるキャスリン・ビグロー監督。

人種差別の残忍さ、恐ろしさを徹底的に描ききった『デトロイト』をご紹介します。

以下、あらすじや結末が含まれる記事となりますので、まずは『デトロイト』の作品情報をどうぞ!

1.『デトロイト』の作品情報


(C)2017 SHEPARD DOG, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

【公開】
2018年(アメリカ映画)

【原題】
Detroit

【監督】
キャスリン・ビグロー

【キャスト】
ジョン・ボイエガ、ウィル・ポールター、アルジー・スミス、ジェイコブ・ラティモア、ジェイソン・ミッチェル、ハンナ・マリー、ケイトリン・デバー、ジャック・レイナー、ベン・オトゥール、ネイサン・デイビス・Jr.、ペイトン・アレックス・スミス、マルコム・デビッド・ケリー、ジョセフ・デビッド=ジョーンズ、ラズ・アロンソ、イフラム・サイクス、レオン・トマス3世、ベンガ・アキナベ、クリス・チョーク、ジェレミー・ストロング、オースティン・エベール、ミゲル・ピメンテル、ジョン・クラシンスキー、アンソニー・マッキー

【作品概要】
『ハート・ロッカー』や『ゼロ・ダーク・サーティ』で知られるキャスリン・ビグロー監督が、黒人たちの不満が爆発して起こった1967年のデトロイト暴動と、その暴動の最中に殺人にまで発展した白人警官による黒人たちへの不当な尋問の様子をリアリティを追求して描いた社会派実録ドラマ。

キャストは『スター・ウォーズ 最後のジェダイ』のジョン・ボイエガ、『レヴェナント 蘇えりし者』のウィル・ポールター、『シビル・ウォー キャプテン・アメリカ』のアンソニー・マッキーほか。

脚本は『ハート・ロッカー』『ゼロ・ダーク・サーティ』のマーク・ボール。

2.『デトロイト』のあらすじとネタバレ


(C)2017 SHEPARD DOG, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
1967年、夏のミシガン州デトロイト。

権力や社会に対する黒人たちの不満が噴出し、アメリカ史上最大級の暴動が発生…。

デトロイト市警、クラウス

暴動勃発から3日目の朝。警官のクラウスは盗難して逃げる黒人を追い掛け、背後から発砲。

弾を背中に喰らった黒人はそのまま逃げ切りましたが、出血多量で結果として死亡。

クラウスは後からその事実を聞かされ、上司にドヤされます。

反論するクラウスですが丸腰の相手を後ろから射殺したため、正当防衛が成立するはずはありませんでした。

本来なら権限を奪われるはずのクラウスはパトカーに乗ってその後もパトロールを続けます。

食料品店の警備員、ディスミュークス

暴動が発生したため、店を夜通しで警備することになったディスミュークス。

同僚と一緒に店の戸締りを確認していると、外で州兵が待機している現場を見かけ、ディスミュークスはコーヒーを渡しに行きました。

彼は黒人として上手く立ち回るためには、白人にある程度へつらうこともやむを得ないと考えているタイプの人間でした。

ザ・ドラマティックス、ラリーとフレッド

その夜、“ザ・ドラマティックス”というデトロイト出身のヴォーカル・グループのステージがいよいよ幕を開けようとしていました。

リード・シンガーであるラリーは夢への第一歩となるそのステージを一際楽しみにしていました。

しかし、遂に“ザ・ドラマティックス”の出番となった時に暴動が悪化し、残念ながらコンサート自体も急遽中止に。

客が誰もいなくなったステージ上で、ラリーは歌うはずだった曲を一人寂しげに歌い上げました。

その姿を親友であるフレッドは見ていることしか出来ませんでした。

家に帰る途中で乗っていたバスに石が投げ込まれ、メンバーたちは歩いて帰ることに。

アルジェ・モーテル

あまりにも危険なためそれぞれ二手に分かれ、ラリーとフレッドは近くにあった安モーテルへ逃げ込みました。

そこで出会った白人の女の子、ジュリーとカレンに誘われ彼女たちの部屋に二人は向かいます。

その部屋にはカール、オーブリー、マイケル、リーという4人の黒人がいました。

微妙な空気が流れる中、カールが突然銃を取り出しそれを使って白人警官の黒人に対する酷い対応を真似てみせます。

そして、銃声が鳴り響きラリーたちは言葉を失います。

しかし、それはただの競技用のスターターピストルで、カールはラリーたちを驚かせようとしただけでした。

その後、カールは白人警官たちをビビらせようと、モーテルの窓からそのピストルをデトロイト市警に向かって数発放ちました。

ちょっとしたいたずら心のつもりがデトロイト市警はそれをスナイパーによる狙撃だと判断し、州兵と共にアルジェ・モーテル前に駆け付けると、外から部屋に向かって一斉掃射。

無数の銃弾がモーテルの部屋を貫き、中にいたラリーたちは一斉に床に伏せました。

昼間の一件もあってか我先にとクラウスは現場に駆け付け、そこに事件の顛末を気にしたディスミュークスも武装して足を踏み入れます。

ここからクラウスたち白人警官による地獄の尋問が始まります。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『デトロイト』結末の記載がございます。『デトロイト』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。
カールは死にたくないと慌てふためき、外に逃げ出るために階段を駆け下ります。

しかし、モーテルに侵入したクラウスがその姿を見つけ銃を発射。

背中から至近距離で銃撃を受けたカールはそのまま床に突っ伏し、彼の身体から止めどなく血が流れ出します。

今回は正当防衛として言い訳出来るように、クラウスは持っていた小型ナイフをカールの手の側に置きました。

クラウスの相棒であるフリン、まだ警官として経験の浅いデメンズもモーテル内に入り、そこでジュリーとカレンという白人の女の子が黒人のグリーンと一緒に部屋にいる現場を発見します。

モーテルの1階に全員が集められました。

宿泊客はラリー、フレッド、オーブリー、マイケル、リー、グリーンの黒人男性6人とジュリーとカレンの白人女性2人。

警官側はクラウス、フリン、デメンズの3人。そして、州兵のロバーツ。

そしてその様子を伺いにやって来たディスミュークス。

カールが殺されたことに動揺するラリーたちはクラウスらによって徹底的に痛めつけられ、精神的な恐怖を与え続けられます。

銃はここにはないと言う彼らの言葉は全く通じず、クラウスは一種の興奮状態に陥っているようでした。

マイケルとリーはそれぞれ別の部屋に連れていかれ、銃撃によって殺されたかに思えましたが、それは残されたメンバーを怯えさせて銃の在り処を吐かせるための脅しでした。

実際には銃砲のみで、マイケルとリーには声を出さずにジッとしているようにと命令していました。

クラウスたちは黒人ばかりでなくジュリーとカレンにも暴力を振るい、売春婦と決めつけて罵り、ついにはジュリーの服を破り取ってしまいます。

ベトナム帰還兵であるグリーンは酷く痛めつけられ、ボロボロにされてしまいます。

狂気じみてきたクラウスたちの悪行ぶりには州兵も関わることを避け、ディスミュークスもまずい事態に進んでいることは分かっていながら何もすることが出来ません。

残されたのはラリー、フレッド、オーブリー。

クラウスはデメンズにも経験させようと、別室に連れて行ってオーブリーを殺すように命じます。

デメンズは言われたとおり真に受けて本当に無抵抗のオーブリーを射殺してしまいました。

さすがに行き過ぎた事態を収集させるため、クラウスは一人一人を口外無用と脅してモーテルから逃げさせます。

皆怯えながら逃げて行き、最後に残ったのはフレッド。

同じように脅しますが、フレッドはカールの死体を見つめて泣きながら「あそこにあるのは死体だ」と言います。

その言葉を聞いたクラウスはフレッドを撃ち殺しました。

死者が3名となったアルジェ・モーテルでの惨劇はニュースにも大きく取り上げられました。

事件後に聴取を受けるクラウスたち。

口裏合わせをしようとしていたクラウスですが、正直者のデメンズは自分がしたことを全て白状しました。

相棒であるフリンも諦め、洗いざらいを打ち明けました。

クラウスも同様に尋問され、3人は裁判にかけられることになりました。

アルジェ・モーテル事件の裁判

ラリーたちも法廷に証言人として出廷し、それぞれの言葉でクラウスたちの行いを批判し、想いを語りました。

陪審員や裁判長を含め全てが白人であり、始めから黒人にとって難しい裁判であることは明らかでした。

結果としてクラウスたちは無罪となり、無抵抗な一般市民3人を銃殺したにも関わらず罪に問われることはありません。

その判決を傍聴席で聞いていたディスミュークスは、何もすることのできなかった責任の重さに耐え切れず、裁判所の外で嘔吐。

事件のその後

事件後それぞれが人生を歩んでいく中、ラリーは“ザ・ドラマティックス”に戻ります。

しかし、白人たちに対する怒りや憎しみが消えず、ラリーはグループを脱退。

“ザ・ドラマティックス”はその後大成功を収め、R&Bヴォーカル・グループとして人気を博しました。

事件によって深い心の傷を負い、人生を狂わされたラリーはその後、デトロイトにある教会の聖歌隊に応募。

そこで生活費をもらいながら聖歌を歌い続けています。

3.『デトロイト』の感想と評価


(C)2017 SHEPARD DOG, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
182cmの長身を誇る超男前な女性映画監督、それがキャスリン・ビグローです。

イラク戦争の爆発物処理班を描いた『ハート・ロッカー』(2010)で女性として初めてアカデミー賞監督賞に輝きました。

続く『ゼロ・ダーク・サーティ』(2013)では、ビンラディン暗殺任務をこれまたものすごい緊迫感で映し出すことに成功。

社会を切り取るテーマを扱うとどうしても説教臭くなりすぎたり、退屈で間延びしてしまいがちですが、彼女の撮る映画にはそれが全くありません。

痛烈なメッセージを観客に届けながら、しっかりと映画そのものの面白さで長尺を見せ切ってしまいます。

今回の『デトロイト』でもその手腕は遺憾無く発揮されていて、142分の強烈な映像体験がそこには映されています。

画面は終始落ち着きがなく不安定、かつ映画作品ではあまりない不自然なズームアップが繰り返されます(一人称視点というわけではないので画面酔いはしません)。

この生々しい手触り感たっぷりのカメラワークによって臨場感と緊張感が増幅し、まるでその場に居合わせてしまったかのような感覚が味わえます。

さらに、上に挙げた作品でもそうでしたが今回も音響効果にかなり気を使っていました。

銃声、叫び声(あの泣き声とか本当に凄い!)、ドアの開け閉め、怒鳴り声、息遣いなど。

映画館は暗闇のため普段よりも聴覚が敏感になっていますので、音による暴力がさらに効果を発揮します。

その前にラリーの歌声やコルトレーンのサックスの音色など、美しい音を入れてより緩急を付けているあたりも上手いとしか言いようがありません。

警官が女性の身体を見る時の気持ち悪い目つきとかも本当に最低最悪で、女性監督ならではの演出も発揮されていました。

また、役者さんの起用も素晴らしく、レイシスト警官のクラウスを演じたウィル・ポールターは文句無しですね。

眉毛がとても特徴的な俳優で、あの憎たらしい顔つきだけで腹が立ってきます。

『メイズ・ランナー』(2014)のギャリー役など、今後の悪役界を担う新たなスターの誕生を目にした気がします。ぜひ、ウィレム・デフォーのようになって欲しいですね。

ディスミュークスを演じたジョン・ボイエガは『スターウォーズ』シリーズのフィンとして世界的な知名度を誇っている人気者。

普通の力量の人が演じたらこのキャラクターは立ち位置が難しいので、全く印象に残らない役になっていたと思いますが、纏うオーラはヒーロー然としている善人でありながら勇敢すぎない小市民という非常に絶妙なバランスを見事に体現。

決定的な行動が取れないことを自分の中で正当化してしまう弱い気持ちは誰にでもあるのではないでしょうか。

そして、アメリカではすでに多くのファンを獲得しているアルジー・スミスが演じたラリー。

聖歌でこの世の生き辛さを神に対して突きつけるところは綺麗な歌声も合間って、とても素晴らしいシーンでした。

男前で華があり繊細な演技も上手い。これから間違いなく大活躍する逸材だと思います。

抜群の演出力を誇るキャスリン・ビグロー監督の最新作に、これからの映画界を賑わすであろう新たな3人のスターが出演しているわけですから見逃さない手はありません。

扱うテーマは重く苦しいものですが、これが今も続く現実です。

社会派だから堅苦しそうという固定観念は取り払い、映画ファンなら是非とも劇場に足を運ぶべき作品です!

まとめ


(C)2017 SHEPARD DOG, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
2012年に17歳の黒人少年を自警団員が射殺した事件・「トレイボン・マーティン射殺事件」の容疑者が無罪判決となったことをきっかけに全米各地で抗議の声が拡大。

2016年にアメリカで「ブラック・ライヴズ・マター」(Black Lives Matter)運動が社会現象化しました。

これは「黒人の命は白人と同等に尊い」というメッセージを打ち出した抗議デモのことです。

しかし、今もなお白人警官による黒人射殺事件は後を絶ちません。そしてそのほとんどが無罪判決を下されています。

現在はスマホの普及により正当防衛など成立のし得ない状況で撃ち殺した現場を動画で記録することが可能になったので、懲役判決になったケースも出てきてはいますが、約40年前の「アルジェ・モーテル事件」は今のアメリカ各地で繰り返され続けています。

ライアン・クーグラー監督の『フルートベール駅で』(2014)はまさにそういった事件の痛ましさ、差別の恐ろしさを描いた作品でした。

差別や偏見を扱った映画は数多く存在しますが、監督の大半はやはり当事者である黒人がほとんど。

これを白人女性であるキャスリン・ビグローが監督した意味はとてつもなく大きいと思います。

差別ほどくだらない思想はないと改めて思わされる本当に見事な作品でした。

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