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映画『渇愛の果て、』あらすじ感想と評価解説。妊娠・出産の厳しい現実に向き合いながら希望を胸に歩み出すヒロイン

  • Writer :
  • 谷川裕美子

映画『渇愛の果て、』は2024年5月18日(土)より新宿K’s cinema他全国順次公開

劇団「野生児童」主宰の有田あんが監督・脚本・主演を務め、友人の出生前診断をきっかけに妊娠・出産について取材して実話を基に撮りあげた群像劇『渇愛の果て、』が2024年5月18日(土)より新宿K’s cinema他全国順次公開です。

主人公・眞希を有田あん、その夫・良樹を『エッシャー通りの赤いポスト』(2021)の山岡竜弘が演じます。

子どもを持つ幸せを夢見ていた女性が授かったのは、難病を持った赤ちゃんでした。障がい児の我が子を受け止めるまでの主人公の葛藤と希望を、周囲の人々の思いを織り交ぜながら丁寧に綴ります。

映画『渇愛の果て、』の作品情報


(C)野生児童

【公開】
2024年(日本映画)

【監督・脚本】
有田あん

【編集】
日暮謙

【キャスト】
有田あん、山岡竜弘、輝有子、小原徳子、瑞生桜子、小林春世、大山大、伊藤亜美瑠、二條正士、辻凪子

【作品概要】
劇団「野生児童」主宰の有田あんが監督・脚本・主演を務めた群像劇。友人の出生前診断をきっかけに、妊娠・出産について取材して実話を基に撮りた長編デビュー作です。

もとは舞台劇でしたが、新型コロナにより中止となったことから映画として新たに生まれ変わりました。

「家族・人間愛」をテーマにあて書きベースの脚本を書いてきた有田が、シリアスな内容ながら軽快な会話劇やミュージカル調を活かして軽やかに仕上げています。

周囲に支えられながら障がいを持つ我が子と向き合う主人公夫婦の姿とともに、医療関係者や友人らなど様々な立場の人たちに思いも丁寧にすくい取ります。

夫・良樹役の『エッシャー通りの赤いポスト』(2021)の山岡竜弘のほか、輝有子、小原徳子、瑞生桜子、小林春世、辻凪子らが出演。

映画『渇愛の果て、』のあらすじ


(C)野生児童

山元眞希は、高校以来の親友たち里美・桜・美紀に、「将来は絶対に子供が欲しい!」と言い続け、“普通の幸せ”を夢見ていました。

妊娠した眞希は、友人たちから温かく祝ってもらい、夫・良樹と共に順風満帆な妊婦生活を過ごしていました。しかし、出産予定日が近づいていたある日、体調不良によって緊急入院します。

子供の安否を確認するために出生前診断を受けますが、結果は陰性でした。胸をなでおろした眞希でしたが、いざ出産を迎えると、赤ちゃんは難病を患っていました。

我が子を受け入れる間もなく、次々へと医師から選択を求められ、疲弊していく眞希。唯一、妹の渚にだけ本音を語っていましたが、親友には打ち明けられず、良樹と子供のことで悩む日々を送ります。

そんな中、事情を知らない親友たちは眞希の出産パーティーを盛大に開きますが、それぞれの子供や出産に対する考えがぶつかり…。

映画『渇愛の果て、』の感想と評価


(C)野生児童

本作が長編デビュー作となる有田あん監督が、取材をもとに出産・妊娠の厳しい現実を描いた作品です。

高校時代から子どもを生むことを願っていた主人公の眞希は、念願通り妊娠し、最高の喜びに包まれます。「普通」の幸せを求めていた眞希。しかし、それがどれほど贅沢な願いなのかは知りませんでした。

眞希は出産直前に我が子に障がいがあることを知らされ、絶望のどん底に落とされますが、家族や親友、医療者らに支えられ、子どもと共に生きていく覚悟を決め、明るく前を向き始めます。

本作は決して「みんなで考えるべき」という姿勢はとりません。「妊娠・出産は百人百様」であるという事実を、仲良し4人組の笑い合うシーンや、明るいミュージカル調での解説を交えるなどコミカルな味わいを交えながら、淡々と軽やかに綴ります

無事に健康に生まれてくることがどれほど奇跡的なことか、家族や親友の存在がどれほどありがたいものか暗闇にいる時ほど、明るい光のありがたみがわかるものです。

夢に満ちあふれ、明るく笑い合っていた女子高生たちが、時を経て人生の荒波に投げ込まれ溺れそうになっている姿に、胸が締め付けられます。それでも彼女たちはつないだ手を離しませんでした。互いの存在が、傷ついた羽を休める宿り木となっていきます。

男性側が抱く無力感と共に、医療者側の思いや立場も丁寧に描かれます。失意の母親にどうやって寄り添えばよいのか、手探りで行動を選び取ろうとするさまに胸打たれずにはいられません。

まとめ


(C)野生児童

実話をもとに妊娠・出産の現実に起こりうる厳しい事態に向き合い、立ち会ったさまざまな人々の思いを丁寧にすくい取ったヒューマンドラマ『渇愛の果て、』

子どもを産むためにどれほどの覚悟が必要か教えられます。しかし、覚悟が決まらなければ生めないとなれば、誰も子どもを生むことができません。子どもを授かり、現実に向き合ったときに、必要に迫られて芽生える強さなのでしょう。

障がいがあるから不幸になるわけではなく、すべては困難にどう向き合うかにかかっていることを教えられます。

映画『渇愛の果て、』は2024年5月18日(土)より新宿K’s cinema他全国順次公開です。


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