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Entry 2019/03/10
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香港映画『G殺』あらすじと感想レビュー。リー・チョクバン監督の語り口の旨さに酔いしれる|OAFF大阪アジアン映画祭2019見聞録2

  • Writer :
  • Cinemarche編集部
  • 西川ちょり

連載コラム『大阪アジアン映画祭2019見聞録』第2回

毎年3月恒例の大阪アジアン映画祭が今年もスタートしました。

今年は第14回目となり、2019年3月08日(金)から3月17日(日)までの10日間に渡ってアジア全域から寄りすぐった多彩な作品51作が上映されます。

国内外から多数のゲストが来阪。舞台挨拶やトークイベントなどが行われる注目の映画祭です。

本稿ではその中でコンペティション部門選出作品のトップを切って上映された香港映画『G殺』(2018)を取り上げます。

【連載コラム】『大阪アジアン映画祭2019見聞録』記事一覧はこちら

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香港映画『G殺』(2018)とは

『G殺』は、香港のベテラン監督の助監督を数多く務めた、リー・チョクバン監督の長編デビュー作です。

過去に大阪アジアン映画祭でも上映された『誰がための日々(一念無明)』(2016)、『どこか霧の向こう』(2017)といった傑作インディーズを排出し続ける香港政府の監督デビュー作補助制度 “首部劇情電影計劃”から生まれた一本です。

香港の映画評論家団体が選出する第25回「香港電影評論学会大獎」の推薦作品に選ばれ、さらに第38回香港電影金像獎では、助演女優賞・ホアン・ルー、 新人賞・ラム・セン、新進監督賞・リー・チョクバン、撮影賞、編集賞、音響効果賞の6部門にノミネートされました。

映画『G殺』のあらすじ

香港の風俗街にある古いアパートの6階G室。

若い男性のチェロ奏者がバッハの無伴奏組曲第一番Gメジャーを奏でているすぐ側で、中年の男と若い女が肉体を貪り合っていました。

突然、室内に飛び込んできたのは女性の生首。チェロ奏者は卒倒し悲鳴をあげます。

警察はチェロ奏者の少年、彼と同じ学校に通うアスペルガー症候群の少年、そしてその学校の男性教諭を参考人として尋問します。

教諭は教え子の女子生徒と関係を持っていたことを追求され、彼女の継母とも関係を持っていたのではないかと疑われていました。

カシアン学院は、名門校として知られていますが、女子生徒シウムイは、クラスメイトは皆意地悪で男子は卑猥なことで頭がいっぱい、とため息をつきます。

チェロ奏者の少年とアスペルガー症候群の少年だけは他の男子と違っていました。シウムイがアルファベットで好きな文字は?と尋ねると少年は「G」だと応えました。

(Gカップではないのに)クラスのみんなはシウムイのことを「G」と呼び、シウムイの母親は胃癌(Gastric cancer)で、警官であるシウムイの父親は、拳銃(Gun)で人を撃ち殺し、父の愛人は中国大陸からやってきた売春婦(広東語でGai)で、教室の黒板には大きく重力(Gravity)と書かれ、先生の時計はG-SHOCKで、少年のTシャツに書かれた文字はGAPだ…。

Gで始まる言葉が次々と飛び出し、複数の人間が激しく交錯する中、生首を巡る人間関係とその真相が次第に明らかになっていきます・・・。

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映画『G殺』の感想と評価

チェロを弾く少年と、同じ部屋で絡んでいる男女という不可思議なシチュエーションをワンショットで見せ、そこに生首が転がり込んでくるというショッキングな冒頭から、映画は怒涛の展開を見せます。

大勢の人間の過去と現在を、語り手を変えながら次々と見せていく手腕は初の長編映画とは思えない熟練ぶりで、リー・チョクバン監督の語り口の旨さに思わず引き込まれてしまいます。

“G”で始まる、“G cup”、 “Gun”、 “Guts”といった英単語が画面に溢れ、まるで言葉遊びをしているような遊戯性が、スピーディーなリズムを作り、観るものの興味を惹きつけるのです。

一方で、物語は複雜で混沌としており、煙にまかれたような、狐につままれたような気分にさせられるのも事実です。

この奇妙な物語の奥にあるもの、映画に込められたメッセージといったものを観客は必死に読み取ろうとしますが、映画は簡単にはヒントを与えてくれません。

そんな簡単に要約されてたまるか!という尖った意志すら感じられます。

そんな中、胃癌を患ったシウムイの母が娘に語りかけます。「人はよく“もっと広い世界”というけれど、どの世界も苦しみで溢れている」と。

確かに学校での人間関係に苦しむ生徒に大人がかける言葉によくありがちなのが、“この狭い世界が全てではない。あなた方の知らないもっと広い世界がある”といった言葉です。

けれど、母親はその広い世界が人々を救うことなんてないんだと言っているのです。

実際、政府や社会は弱い者イジメとしかいいようのない行為を繰り返しており、広い世界は学校とまるで変わらないのではないか!?

これは現在の香港社会への痛烈な批判であり、また、“世界中”に漂うそうした空気への警鐘と読み取ることができます。

シウムイの父を演じるのはチャップマン・トーです。久しぶりにこんな悪徳警官を観たなぁと溜息をつかせる怪演ぶり。

ドア一つの開け締めだけで次々と彼を取り巻く奇怪な人々を描写し、社会の不条理な仕組みを露呈させていく場面は絶妙なユーモアセンスを感じさせます。

悪徳警官といえば、汚職が続いた頃の過去の香港警察を想像させ、この父親が古い体質の香港の象徴であることを示唆します。

チェロ弾きの少年の両親は、香港を見捨て海外へ移住しています。少年は一人で香港に残る選択をし、アパートで暮らしているところにこの悪徳警官に侵入されてしまうのです。

女性をとっかえひっかえ連れ込む警官に対し、少年はチェロを弾き続け、「お前は最中にいつも弾いている」と警官が絡むと、「練習中にいつもしている」と少年は言い返し、言葉遊びのようなやり取りの中に、少年の意地が見え隠れしています。

そんな中で浮かび上がってくるのが、雨傘運動後の香港に住む若者たちの閉塞感と彼らの決意のようなものです。

本作は、暴力と性という、猥雑で、いかがわしい無秩序なものが全編に溢れていますが、青春映画としての初々しさ、瑞々しさが同時に成立しているのです。

現在の暮らしの息苦しさと未来への展望が見えない不安に押しつぶされそうになりながら、頼るべき大人もいない世界で、意志を持って生きようとする少年少女の姿は、儚いながらも清々しく、弱々しくも大胆です。

それはまた、リー・チョクバン監督自身の、香港を拠点に思うように映画を取り続けようという決意表明にも感じられます。

まとめ

女子高生のシウムイに扮するハンナ・チャン(陳漢娜)は、『SPL 狼たちの処刑台』(2017/ウイルソン・イップ監督)で、ルイス・クーの娘を演じていました。

かなりハードな内容の作品でしたが、本作でも彼女はある意味地獄巡り的な役割を演じています。

カメラは何度も正面からのハンナ・チャンを捉え、彼女はスクリーンからまっすぐな眼差しを向けてきます。

どんなに卑猥な言葉を口走っても凛然とした美しさを保ち、映画が持つピュアな部分を二人の男子高校生と共に死守し続けます。

男子高校生に扮したラム・セン(林善)、カイル・リー(李任燊)にも是非注目してみてください。

『G殺』は、3月16日(土)の10:20より、ABCホールで上映されます。上映後は、リー・チョクバン監督と出演者のアラン・ロク(陸駿光)の舞台挨拶が予定されています。

【連載コラム】『大阪アジアン映画祭2019見聞録』記事一覧はこちら

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