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Entry 2022/12/10
Update

【ネタバレ】映画『天上の花』結末あらすじと感想評価の考察。曼殊沙華(まんじゅしゃげ)と三好達治を通じて“愛の意味”を解く

  • Writer :
  • からさわゆみこ

戦争の時代に翻弄され、詩と愛に生きた詩人の生涯。

萩原朔太郎の娘・萩原葉子が1966年に発表した小説『天上の花 三好達治抄』を『いぬむこいり』(2017)の片嶋一貴監督が手がけた文芸映画『天上の花』。

萩原朔太郎の大回顧展「萩原朔太郎大全2022」の記念映画として製作されました。

三好達治は萩原朔太郎に師事し、彼の末の妹・慶子に一目ぼれして結婚を望みます。しかし、東大出身でありながら職につかず貧乏な書生だったため、朔太郎は難色を示します。

そこで朔太郎は「定職につけば嫁にやる」と約束し、三好は伝手を使って就職をしますが、会社があえなく倒産し、婚約は破棄されます。

十数年後、太平洋戦争で混乱した時代。三好は福井の三国に居を構え、慶子を呼び寄せ“妻”として一緒に暮らし始めるのですが……。

映画『天上の花』の作品情報


(C)2022「天上の花」製作運動体

【公開】
2022年(日本映画)

【監督】
片嶋一貴

【原作】
萩原葉子

【脚本】
五藤さや香、荒井晴彦

【キャスト】
東出昌大、入山法子、浦沢直樹、萩原朔美、林家たこ蔵、鎌滝恵利、関谷奈津美、鳥居功太郎、間根山雄太、川連廣明、ぎぃ子、有森也実、吹越満

【作品概要】
三好達治役を演じたのは「コンフィデンスマンJP」シリーズ、『草の響き』(2021)で主演を務めた東出昌大。三好達治が16年間恋焦がれた女性・萩原慶子役を、『ハナばあちゃん!! わたしのヤマノカミサマ』(2011)で主演を務めた入山法子が務めました。

原作者・萩原葉子の長男・萩原朔美がアルス社の社長役で、『20世紀少年』の漫画家・浦沢直樹が詩人・佐藤春夫役で出演するほか、闇市の女役を片嶋一貴監督『いぬむこいり』(2017)で主演を務めた有森也実が演じます。

そして、萩原朔太郎役には『なんのちゃんの第二次世界大戦』(2021)で主演を務め、『母性』(2022)にも出演した、吹越満が演じます。

映画『天上の花』のあらすじとネタバレ

(C)2022「天上の花」製作運動体

「僕は、あなたを16年4ヶ月思い続けてきた……」男はそう心でつぶやきながら、汽車の窓から静かな日本海を眺め、心を躍らせていました。

遡ること1927年秋、三好達治が馬込の萩原朔太郎の家を訪ねると、二度目の離婚をして出戻った朔太郎の妹・慶子が琴を弾いていました。

三好は慶子が振り向いた時、彼女の美しさに魅入られ呆然とします。一目ぼれした三好は、朔太郎の妻・稲子に取り入りますが、慶子は「東大出でも貧乏じゃ……」と興味なさげです。

諦めきれない三好は朔太郎に直接懇願し、慶子と結婚させてほしいと申し出ます。しかし、慶子は4人いる妹のうちの末っ子で、母から甘やかされて育ったためワガママ放題だと言います。

くわえて、決まった収入のない男に嫁がせるなど、母親は許さないだろうと言う朔太郎。そこで、三好は就職して養うことを約束し、婚約までこぎつけました。

三好は伝手で北原白秋の甥が経営する出版社“アルス”に就職しますが、経営が焦げつきわずか2ヶ月で会社は倒産してしまい、慶子との婚約も破談となります。

朔太郎は「結婚なんていいことないぞ」と忠告します。妻の稲子が幼い娘を2人残し、若い書生と駆け落ちしたからです。

やがて慶子は、作詞家の佐藤惣之助と再々婚してしまいました。失意の中で三好は詩人の佐藤春夫から、姪の智恵子との縁談を薦められます。

2人が見合いをした日、智恵子は三好の詩「雪」を拝読し、この詩の優しさに感銘を受けたと讃え、三好の子を生みたいと言います。そして、2人は1934年1月に結婚をしました。

以下、『天上の花』ネタバレ・結末の記載がございます。『天上の花』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)2022「天上の花」製作運動体

1944年、福井県三国町に向かう汽車に三好と慶子がいました。お腹が空いたという慶子に、三好は用意してきた“焼き鯖寿司”を出すと、彼女はペロリと全部平らげます。

三好は知人が三国に所有していた別荘を借り受けたあと、慶子を“嫁”として連れてきました。

途中、地元の漁師から声をかけられた三好は、慶子を“妻”だと紹介します。また、身の回りの世話をしている畠中哲夫とも海岸で会いました。

三好は戦傷により復員した盲目の按摩師ともすれ違います。畠中はこの辺の家を尋ねては、食べ物と引き換えで商売をしていると話します。

次に地元の芸術家・小野の家に立ち寄り、彼の妻とともに挨拶をします。

長い道のりを歩きようやくたどり着いた家は、海風に煽られ傷みの激しい家でした。玄関には“三好”と書かれた表札がありますが、カステラの入っていた木箱に三好が書いたと言います。

慶子は明るい表情になり「カステラがあるの!?」と聞きますが、三好は「とっくに食べてしまった」と言い、慶子をがっかりさせました。

その晩、三好が魚を捌き慶子に新鮮な刺し身をふるまいます。美味しい地魚に感動した慶子は、毎日食べられるとはしゃぎます。

しかし、日本海が見渡せて自然豊かな三国は、三好の創作活動にとって格好の土地ですが、都会の暮らししか知らない慶子にとって、そこは退屈で窮屈な孤島のようでした。

慶子は土地の生活に合うよう、モンペを縫い始めますが、三好は彼女にモンペなど着ないでほしいと願います。そして、東尋坊を一緒に眺めてほしいと言います。

東尋坊にて、彼は指で差しながら鳥の名前や説明をしますが、慶子はまったく興味を持たず、上の空で眺めます。

三好は部屋に籠って文筆に勤しみ、慶子は毎日長い時間を退屈に過ごしました。そして小野邸に出向いては、小野夫人と雑談して時間を潰します。

ある日、慶子は小野夫人から女性向けの雑誌を数冊借りて帰りますが、三好は“くだらない”本ばかりだと、慶子に文芸の本を数冊渡しました。

またある日には、三好は2階にいる慶子を呼び、茶箪笥にあった牛肉の包みを見せて怒鳴ります。慶子は肉をもったいないと思い、保存し続けた結果腐らせてしまったのです。

三好は美味しいうちに食べなければ、なんの価値もないと捨ててしまいます。しかし、その後も慶子はカビの生えた饅頭でも、カビを取りながら食べたりして三好を困らせました。

三好は戦争で苦しむ民衆の心を癒すため、直筆の詩を版で彫った詩集を出版すると慶子に話しますが、こんなご時世にそんな贅沢な詩集を買う人なんて、酔狂なことだと嘲笑するだけでした。

戦況が悪化し、米も底をつき野菜なども手に入りにくくなると、慶子は子どものように“ひもじい”と訴えるようになります。食用油の量が減っていると三好に伝えると、舐めているんじゃないかと返され、“鍋島の化け猫じゃあるまいに”と反論します。

三好は孔子の言葉尻を取って、“タクアン”の切れ目をそろえて切れず、ろくに炊事もできないと慶子を責めました。慶子は前夫の惣之助には炊事をしなくてもよい生活を与えてもらっていたため、三国に来てはじめてしかたなくやっていると訴えます。

三好は夕刻にも関わらず米を手に入れてくると言いだし、慶子は帰りが深夜になってしまうと止めますが、金目の物を持って家を飛び出します。

夜になって外は暴風雨に見舞われています。慶子は待ちくたびれて寝てしまいましたが、戸を激しく叩く音で目覚めます。三好は闇市で米や野菜と交換して帰ってきました。途中、憲兵に捕まりそうになったと話しますが、慶子は米や野菜を抱きしめ嬉しそうにしました。

そんな価値観の相違や三好の神経質で気難しい性格が、慶子の心をどんどん遠ざけただけではなく、あるできごとが2人を引き裂いていきました。

慶子の姉や母は戦況の悪化に伴い、埼玉の安中へ疎開したという知らせとともに、干し柿を送ってきました。それと一緒に、三好の子どもからの葉書も届きます。

慶子はその内容を読んで激怒しました。三好が密かに送っていた米や砂糖を使って、母・智恵子に“おはぎ”を作ってもらったと書かれていたためです。

慶子が干し柿を小野宅にもって行こうと包んでいるところに、三好は帰宅し葉書をつきつけられます。妻がひもじい思いをしているのに、別れた妻子にお金や米、砂糖をなぜ送れるのか問い詰められると、三好は“子どもが不憫だ”と答えました。

また慶子は、智恵子は働いて稼ぐこともできるのに、自分だけがこんなに不自由でひもじい思いをさせられていると責め立てました。

すると三好は全身をふるわせながら「子どもがいないから、気持ちがわからないんだ!」と慶子を殴りつけ、パニック状態に陥ってしまいます。

慶子は小野邸に逃げ込み、小野夫人に前夫の佐藤と比較した上で三好を罵倒しました。ところが小野夫人は、慶子の肩を持つどころか、三好の“愛の深さ”がそうさせてしまったのだと擁護しました。

しばらくして、三好が慶子を迎えに来ます。小野は三好に元軍人の癖であろうが、女性に手をあげるのはよくないとたしなめ、その晩は2人で家路に帰ります。

慶子は惣之助が作った映画の主題歌『湖畔の宿』を口ずさみながら歩きます。三好はたまらず「その歌は歌わないでください」と哀願します。しかし、慶子は構わず歌い続け、三好は振り上げそうになる拳をグッとこらえるのでした。

(C)2022「天上の花」製作運動体

慶子の気は晴れぬまま庭先で雑誌を読んでいると、三好は『花筐』という題の詩集を差し出し「あなたを想って書いた詩ばかりです」と言いますが、慶子は冷たくあしらい受け取りませんでした。その後も、2人の生活は険悪なまま過ぎていきました。

ある日、三好の留守中に畠中が“サッカリン”が手に入ったと持ってきてくれます。慶子はその甘さにウットリしながらも畠中に紅茶をふるまい、今度何かを差し入れてくれる時は、自分に渡してほしいと頼みます。

三好がお金も食料も別れた妻子に送ってしまい、家には何もないのだと話す慶子。帰って来たところでその言葉を立ち聞きした三好は、部屋に入らず再び外に出ていきます。

慶子がサッカリンを小分けして油紙に包んでいると、三好が再び帰宅。慶子は袂にサッカリンの入った包みをを隠しました。彼は慶子は“熱燗”を頼みますが、ぬるいと言って温め直させ、今度は熱いと言って怒ります。

三好の暴力は日増しに酷くなり、慶子もまたその暴力に“慣れて”しまう怖ろしさを小野夫人に訴え、慶子は三好に家を出ていくと言います。自由に使えるお金もなく、着物1枚買ってもらえない生活にも意味を見出せなかったのです。

三好は愛している想いを理由に引き止め、“1000円あげるから”と留まるよう言いだします。約束通り三好は慶子に1000円を渡したことで、彼女は家に留まりますが、さらに最悪な出来事が起こります。

三好の留守中に盲目の按摩師が家を訪ね、施術はどうかと聞きます。慶子は裁縫で肩こりが酷く、按摩師に施術を頼みました。

三好は畠中の家で、返品された直筆版の詩集を見て愕然とします。それに対して畠中は、聞きにくいことだと前置きし、なぜ“戦争詩(戦争を肯定し鼓舞する詩)”を書くのか聞きました。自然を題材にした優しい詩が特徴で、畠中はそんな彼の詩に心を打たれたからです。

三好は書きたくなくても依頼があれば、家族を養うための一つの手段だと答えました。

三好は畠中を連れて帰宅すると、慶子が横になり按摩師から施術されている姿を目にします。激しく憤った三好は按摩師を殴って土間に叩きつけ、慶子も激しく殴打すると、ヒステリーの発作を起こして倒れます。

慶子は小野邸に逃げ込み、小野夫人に今度こそ家を出ると言います。しばらくして迎えに来た三好を慶子は拒絶し続けますが、小野夫人は着の身着のままでは不便だと、荷造りしてくるよう促します。

しかし、三好は戻った慶子を着物の帯で縛り、荷造りした物を隠して慶子をほとんど監禁の状態にしました。慶子の方も、それに反抗するように食事を摂らなくなりました。

小野夫妻が心配し、三好の家を訪ねます。小野夫人は食事を持って2階へ来ますが、相変わらず“深く愛すればこそ”と、慶子をなだめるだけでした。

嫌気がさした彼女は、小野夫妻と三好が話し合っている間に、そっと家を抜け出して逃走しました。小雪の舞う夜に慶子は必死に走りますが、峠のトンネルにさしかかると、追いかけてくる下駄の音が聞こえてきます。

慶子に追いついた三好は、優しい声で「こんなに雪が積もって……寒いだろう」と言い、着ていた羽織を慶子に羽織らせて雪を払いますが、彼女はそんな彼を拒絶しました。

「あなたがどんな詩を書いたって、日本は戦争に負ける!」と叫ぶ慶子。その言葉は、三好の理性を根底から壊しました。

三好は何度も慶子を殴ったあげく、持っていた下駄で彼女の顔面を殴り、こめかみ辺りに大きな傷を負わせてしまいました。

慶子は小野邸で養生します。意識が戻った慶子が頭に巻かれた包帯を外すと、小野夫人は「奇麗なお顔が……」という言葉がこぼれます。慶子は「深い愛の結果がこれよ……」と言い放ちます。

容態が安定した慶子は畠中の手を借りて荷造りしますが、一番高価な着物がないと訴えます。畠中は諦めてとにかく行こうと家を出ました。

三好はそんな慶子を2階から見下ろし「今度は1万円で考え直してくれないか?」と、感情のない狂気に満ちた顔で投げかけます。

終戦を迎え、三好は畠中に『花筐』の詩「山なみとほに」を“山なみに遠に春はきて こぶしの花は天上に 雲はかなたにかへれども かへるべしらに越ゆる路”へと書き直し、自身の境遇を表しました。

1942年5月11日、萩原朔太郎が死去。その4日後には、朔太郎の葬儀委員長を務めた慶子の夫・佐藤惣之助が急逝しました。

三好は未亡人になった慶子にあろうことか、「16年と4ヶ月あなたを想い続けていました」と再び求婚し、三国に来るよう迫りました。

思いがけない申し出に慶子は断りますが、東京は戦争で危険で食料にも困るだろうが、三国に来れば安全で食べ物にも困らないと説得します。

慶子は惣之助が残した遺産が住んでいた家だけだと知って幻滅していたため、三好の言葉に心が揺らぎ、彼に特別な想いはないものの、智恵子との離婚を条件についていくことを決めます。

三好は躊躇せずに智恵子に離縁状を渡し、署名するよう願い出ました。智恵子は慶子の存在を察して、名前をしたためます。

智恵子は三好の詩「雪」……“太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪ふりつむ。”を口にし、子どもたちがいるのに見損なったと言います。しかし三好の表情は冷ややかで、心は慶子との生活でいっぱいでした。

1964年4月、朝刊を持って姪の葉子が慶子の部屋に行きます。そこには三好の訃報を知らせる記事が載っていました。そして、家からは三好が隠した一番高価な着物も見つかります。

それは、三好が慶子とはじめて会った日に着ていた着物でした。

映画『天上の花』の感想と評価


(C)2022「天上の花」製作運動体

三好達治を壮絶な愛憎に駆り立てたもの

“ないものねだり”という三好の欲望が、六道(地獄・餓鬼・畜生・修羅・人・天)をグルグルと彷徨わせた結果だと考えます。

三好は経済的に裕福とはいえない家庭に育ち、小学生の頃は病弱。そして半ば強制的に、学費のかからない大阪陸軍地方幼年学校に入学させられます。自分の要望通りの家庭環境でないところに、強制的に理不尽な世界に入れさせられたことは、精神的にフラストレーションを高めたはずです。

しかし、読書や短歌が三好の心のよりどころになり、23歳の時には萩原朔太郎の詩集『月に吠える』に魅了され、萩原朔太郎に師事し詩人の道に足を踏み入れます。

ニーチェやツルゲーネフのような思想家の影響もあり、独自の思想が詩に反映されたと考えると、軍部やマスコミの目に留まり“戦争詩”を書くことになったのも想像できます。

しかし、三好は萩原朔太郎のように、傍らには美しい妻を置き、詩人として優雅に生活をする、そんな理想を持っていたのではないでしょうか?

朔太郎の妻・稲子は若い書生と駆け落ちしてしまいますが、“純白”の花のような慶子は違うと、思えたのかもしれません。慶子を妻にすれば朔太郎より、理想的な夫婦になれると考えてもおかしくはないでしょう。

しかしその理想は、“戦争”という現実と“貧しさ”が阻みました

三好は慶子への愛を詩にしたためますが、文芸に興味のない慶子に届くはずもありません。詩集を読んでもらわないことには、己の想いは通じず、慶子からも愛情を得られないという悪循環に陥っていたように感じます。

かつて入りたくもない陸軍士官学校で受けた仕打ちは、戦争によって狂気に変わり、愛しているはずの慶子の存在が逆に「可愛さ余って憎さ100倍」になっていったのではないでしょうか。

三好にとって太平洋戦争の期間は、才能も経済もそして“愛”も思い通りにならなかった時代だったのです。

『天上の花』とは何を示しているのか?

映画『天上の花』は、この“天上の花”を“曼殊沙華(まんじゅしゃげ)”のことだと解釈し、イメージを膨らませたようです。

曼殊沙華は彼岸花とも呼ばれ、一般的には赤い色の花を咲かせます。萩原慶子をこの曼殊沙華のイメージにしたことで、登場した時に着ていた着物の色を赤にしたのだと推察します。

曼殊沙華は仏教的に“天界に咲く花”と言われ、おめでたいことが起きる兆しのシンボルとされています。三好にとって慶子との出会いは、喜びを感じるほどの嬉しいできごとで、その衝撃を表すのにふさわしい花です。

ところが「山なみとほに」で歌われる“天上の花”は、日本固有の樹木「こぶし」を示しています。こぶしの花は白色の花を春先に咲かせます。そして、とてもよい香りがします。

仏教上にはもうひとつ、“天上の花”と呼ばれる“曼陀羅華(まんだらけ)”という花があります。天上に咲く“芳香を放つ白い花”のことです。

“曼陀羅華”は見る人の心に悦楽を感じさせるとされ、天から仏が舞い降りる表現で用いられる花です。

三好の目には、“こぶしの花”のように清らかな白で芳香を漂わす、麗しい存在の慶子を「天上の花」と例えたように感じます。「山なみとほに」は、慶子は天から舞い降りてきた仏のようであり、やはり手の届かない仏のような存在だったと歌った詩ではないでしょうか?

なお、“曼陀羅華”の花言葉は「愛敬」や「偽りの魅力」です。また葉や花、タネなどには、陶酔させ幻覚を見せる作用もあります。三好は慶子の偽りの魅力に陶酔し、歪んだ愛で彼女を縛っていたのだと、考えざるをえませんでした

まとめ


(C)2022「天上の花」製作運動体

三好達治は慶子への愛、戦争を選んだ日本への愛に偽りはなく、「言葉の力」を信じる自分も愛しました。しかし、思い描いた理想が徐々に壊れて、慶子への愛も報われず、最後の砦だった「言葉の力」を慶子に全否定され、彼の精神は歪み崩壊しました。

そもそも、智恵子の愛に気づかない三好に真実の愛は語れず、慶子に届くわけもないと考えるのが、多数派の意見ではないかと思います。彼の思う愛は自己陶酔から派生した自己愛にすぎず、皮肉にも自然をモチーフにした、“抒情詩人”として称賛をうけた理由の理解にもつながりました。

戦争は人を狂わせ人生を狂わせます。しかし、三好達治にとって慶子の存在も人生を狂わせたのでしょう。

萩原朔太郎の死をきっかけに再会した慶子への想いが再燃し、その直後に彼女の夫が死去した偶然が、運命を狂わせたとしか言いようがありません。三国での生活がなければ、三好の慶子への愛は彼の紡いだ美しく優しい言葉の中で、真の愛に昇華できたのではとも感じてしまいます。

映画『天上の花』は三国で暮らしていた、三好達治と萩原慶子の生活に関わってきた人達の証言から書かれた小説が原作であり、真相のほどは誰も知りません。

DVや男尊女卑……現代ではコンプライアンス的に描きにくい作品で、暴力シーンや喫煙シーンを世間の声を恐れずに演出したことで、2人の真相にギリギリまで迫った映画だと思わせます。




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