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Entry 2021/01/27
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映画『なんのちゃんの第二次世界大戦』あらすじと感想評価。キャストの吹越満が現代における“戦争”を熱演する|映画という星空を知るひとよ48

  • Writer :
  • 星野しげみ

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第48回

映画『なんのちゃんの第二次世界大戦』は、太平洋戦争の平和記念館を設立させることで、祖父の過去を改ざんしようとする市長と、それに反対する戦犯遺族の物語。

平成生まれの河合健監督が、現代にまで引きずる太平洋戦争の暗い影と関係者が抱える心の傷を新しい目線で描き出します。

主人公の市長には実力派の吹越満を迎え、敵対する南野家の女性軍の幼子にフレッシュな新人も起用。市長対南野家のちょっとコミカルな攻防戦が始まります。

『なんのちゃんの第二次世界大戦』は、東京・ユーロスペースにて5月8日(土)より公開されます。

【連載コラム】『映画という星空を知るひとよ』一覧はこちら

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映画『なんのちゃんの第二次世界大戦』の作品情報

(C)なんのちゃんフィルム
【公開】
2021年(日本映画)

【監督・脚本・プロデューサー】
河合健

【キャスト】
吹越満、大方斐紗子、北香那、西めぐみ、西山真来、高橋睦子、藤森三千雄、きみふい、細川佳央、河合透真

【作品概要】
映画『なんのちゃんの第二次世界大戦』の監督は平成生まれの新鋭・河合健。

主人公の市長を演じるのは、『ちゃんと伝える』(2009)『冷たい熱帯魚』(2011)『嘘八百 京町ロワイヤル』(2020)『大コメ騒動』(2021)など数々の作品に出演している吹越満。

記念館設立に反対する一家には、大方斐紗子、北香那、西山真来が出演し、現地オーディションで選ばれた新人西めぐみの熱演も注目です。オール淡路島ロケを慣行し、キャストの8割は現地住人で撮影されました。

映画『なんのちゃんの第二次世界大戦』のあらすじ

(C)なんのちゃんフィルム

平成最後の年。外来種である亀の大量繁殖問題に悩まされている架空の街、関谷市でのこと。

関谷市長の清水昭雄(吹越満)は、太平洋戦争の平和記念館設立を目指していました。

そんなある日市長のもとに一通の怪文書が届きます。

『平和記念館設立を中止せよ。私は清水正一を許さない』

記念館設立の中止を訴えるその文書を送りつけてきたのは、街で石材店を営む BC 級戦犯遺族の南野和子(大方斐紗子)。

清水正一(藤森三千雄)とは昭雄の祖父で、国民学校の教師として子供たちに反戦を訴え、街の偉人と言われている人物です。

そして、怪文書の送り主・南野和子は、正一の教え子でした。

彼女は戦時中の正一が本心から反戦を訴えていたのか、その事実を知っていました。

本当に正一が反戦論者なら、自分の子供、つまり昭雄の父親に「国勝(くにかつ)」という名前をつけるわけがない、というのです。

怪文書に対して、街の平和推進委員会が和子に抗議に行きますが、あっけなく返り討ちにあってしまいます。

しかし、突然和子が急死。そこから、平和祈念館を設立して正一の過去を改ざんしようとする市長と、正一の過去を許さないという和子の意志を継ぐ南野家の女たちの攻防劇が始まりました。

和子の逝去によって、南野家に集結したのは、思想とは無縁の長女・えり子(髙橋睦子)、国際ボランティア活動を行う孫の紗江(西山真来)。同じく孫娘で石材店を共に営む光(北香那)。そして、紗江の娘である小学生のマリ(西めぐみ)。

思想もバラバラの南野家が、それぞれの思惑で市長の昭雄にぶつかっていきます。

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映画『なんのちゃんの第二次世界大戦』の感想と評価

(C)なんのちゃんフィルム

『なんのちゃんの第二次世界大戦』は、太平洋戦争のBC級戦犯の遺族である南野和子の意志を継ぐ家族と、関谷市市長の清水昭雄の対立を描いています。

亀と戦時中の写真に籠る想い

関谷市は外来種である亀の大量繁殖問題の解決策として、有志の子供たちで亀捕獲部隊を結成して、亀駆除をさせていました。

外来種の亀とは、本作では「ミシシッピアカミミガメ」のこと。

小学生の南野マリ(通称なんのちゃん)が、年上の子供たちを前にして、ミシシッピアカミミガメの繁殖と太平洋戦争の敗戦国となった日本との関連を解くのですが、これがまた凄い。

亡くなった曾祖母にあたる南野和子が乗り移っているのではないかと思うほどの、理路整然とした力説が、小さな女の子から飛び出します。

元気いっぱいのマリを演じるのは、オーディションで選ばれた新人の西めぐみ。サングラスがよく似合い、物おじしないはっきりとしたセリフ回しは、将来の大物を予想させる怪演ぶりでした。

本作では、無残な戦争の様子はひとつも映し出されませんが、戦時中と思われる数枚の写真がところどころにアップで出てきます。

それは軍人でもなく、焼け野原でもなく、ごく普通の人々の日常生活の様子でした。戦後や戦時中の何気ない日常生活のひとコマですが、今とでは随分違うということが感じられます。

このようなところにも、平成生まれの河合健監督が持っている、近いようで遠い太平洋戦争への微妙な距離感が込められているのでしょう。

戦犯と反戦論者

(C)なんのちゃんフィルム

さて、本作で出てくる、「戦犯」と「反戦論者」。

太平洋戦争が終わって、戦争へと導いた責任を負わされる「戦犯」と戦争はいけないと唱える「反戦論者」ですから、全く逆の立場の人を指しています。

戦犯とされた人の遺族は、その後肩身の狭い想いでひっそりと生きてきました。そんな遺族の一人南野和子が、反戦を唱えていたはずの教師清水正一の嘘を知り、許しがたいと思うのは当然です。

平和記念館設立にかこつけて、街の偉人とされる清水正一をたたえるというのが、和子の怒りにさらに火をつけました。

これは太平洋戦争に限らず、現代社会でもあり得る状況で、幼いマリの眼にも「大人なんて信じられない」といった構図に見えたのです。

大人の狡さと後ろめたい想いを隠して、満面の笑みを浮かべる市長・清水昭雄。

祖父の過ちを認めたいけれども保身に走ってしまう気弱な市長を、映画やドラマで様々な役をこなす実力派の吹越満が好演しています。

まとめ

(C)なんのちゃんフィルム

平和記念館設立をめぐって対立する市長と南野家の女性たちの攻防戦を描いた『なんのちゃんの第二次世界大戦』。

戦争は終わったとされますが、表にでない裏の世界でまだまだ戦禍は残っているようです。

戦禍とは何かと紐解くと、やがて人間の持つ‟欲”や‟保身”といった煩悩に辿り着き、それは現代社会でも十分に存在するものだということが分かりました。

それとともに、市長と南野家のような両極端の思想が存在するという事実も心に突き刺さります。

水と油のように決して交わらない2つの思想は深い亀裂を生み出します。‟第二次世界大戦が持ち込んだ亀裂”は、一枚の記念写真にもはっきりと映し出されていますので、お見逃しなく。

本作を手掛けた河合監督は、1989年生まれ。日本映画学校(現・日本映画大学)卒業後、 助監督として、瀧本智行、熊切和嘉、入江悠などの監督作品に携わり、 また、その合間に自主映画を2本製作したといいます。

本作公開にあたり、監督は以下のように語っていました。

僕が戦争に対して切実に感じること。それは戦争の悲惨さよりも前に、語り手によって事実が簡単に崩れ落ちてしまう恐ろしさだ。何があったのか、誰が悪いのか、人に聞けば聞くほど、もうわけが分からなくなってくる。この混乱、何かと似ているなと思ったら、今の政治に対しても同じだった。その感覚をそのまま映画で表現しようと思った。平成生まれの僕と太平洋戦争との不透明な距離感。どうか、実感してほしい。

戦争体験者や語り部が少なくなってくる現状に、現代社会を生きている者は自分の眼で何が真実かと確かめなければならないと、考えさせられます。

次回の連載コラム『映画という星空を知るひとよ』もお楽しみに。

【連載コラム】『映画という星空を知るひとよ』一覧はこちら


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