孤独を感じ、子供と大人の狭間で揺れる少女の初めての恋を描く甘くて苦い恋
『若さと馬鹿さ』(2019)、『新しい風』(2021)などの監督を務め、『岬の兄弟』(2018)ほか役者としても活躍する中村祐太郎が監督を務めた映画『スウィートビターキャンディー』。
大学受験を控えている女子高生のサナエ(小川あん)は、人付き合いが苦手で、孤独を感じていました。
そんなサナエは、家政夫としてやってきた裕介(石川法嗣)に、自分と似ている部分があると感じ、恋心を抱いていきます。
子供と大人の狭間で揺れる少女の一夏の甘くて苦い初恋をみずみずしく眩く描き出します。
『あいが、そいで、こい』(2019)、『約束の時間』(2019)など多数の作品で活躍している小川あんが主演を務め、『カナリア』(2002)の石川法嗣が家政夫の裕介を演じました。
映画『スウィートビターキャンディー』の作品情報
【公開】
2022年(日本映画)
【監督】
中村祐太郎
【脚本】
中村祐太郎、小寺和久
【出演】
小川あん、石田法嗣、田中俊介、清水くるみ、松浦祐也、片岡礼子
【作品概要】
第16回大阪アジアン映画祭出品作品。『若さと馬鹿さ』(2019)、『新しい風』(2021)の中村祐太郎監督が、オリジナル脚本で前作にあたる『アーリーサマー』(2016)の地続きの世界を描き出しました。
サナエ役を演じたのは、『あいが、そいで、こい』(2019)、『約束の時間』(2019)などの小川あん。
その他のキャストは、『カナリア』(2002)、『友罪』(2020)の石川法嗣、『タイトル、拒絶』(2020)、公開待機作として『向田理髪店』(2022)が控える田中俊介、『わたし達はおとな』(2022)、『宇宙でいちばんあかるい屋根』(2020)の清水くるみなど。
映画『スウィートビターキャンディー』のあらすじとネタバレ
裕福な家庭で育ったサナエ(小川あん)は、人付き合いが苦手で、家族と共にいても孤独感を感じていました。
大学受験を控えた高校三年生の夏休み、東京の大学に行った姉・ユキエ(清水くるみ)が帰ってきている中、両親の仕事の都合により家政夫を雇うことになります。
家にやってきた裕介(石田法嗣)を見たサナエは最初怖い印象を受けますが、次第に興味を持ちはじめます。
自分の部屋にある舐めかけの飴がなくなっていることに気づいたサナエは、慌てて裕介のところに向かうと、庭の草木に水を上げながら飴を舐めている裕介の姿がありました。
私が舐めたやつなのに、何で勝手に舐めるかなと怒るサナエに裕介は驚きつつも謝ります。
後日、サナエは裕介に話しかけるも、相手にされず構ってほしいサナエは卵を割り裕介の仕事を増やして構ってもらおうとします。卵の片付けにきた裕介の前で更にサナエは牛乳をこぼそうとします。
するとその牛乳は、裕介の頭にもかかってしまいました。シャワーを浴びて牛乳を落とした裕介にサナエは髪の毛を乾かしてあげると、強引に座らせ髪を乾かし、セットしようとします。
戸惑いながらもされるがままだった裕介の肩にサナエは頬を寄せ、突然のことに驚いた裕介は何しているんだよ、と離れようとします。
いいからもう少しこのままでいさせてとサナエは言います。
少しずつ、ぶっきらぼうだけれど謎めいた裕介にサナエは惹かれていきます。一方でユキエも裕介の見た目の良さを気に入り、勝手に写真を撮ってSNSにあげてしまいます。
サナエとユキエの父親が社長を務め、母親も働いている会社の部下である山下(田中俊介)は以前からユキエと男女関係にあり、娘を取り込んで社長の座を奪おうと画策していました。
しかし、東京の大学に行ってからユキエは山下に素っ気なくなり、SNSに裕介が写っているのを見た山下は、サナエの家で家族らと食事をした後、裕介を車で送ろうと声をかけます。
山下は、裕介を雇い、家を手配しているのは自分だ、姉妹に手を出すなと牽制します。裕介は何のことだかわからず戸惑い、翌日ユキエに勝手に写真を撮ってSNSにあげたことを怒り、何考えているんだ、頭悪いのかと罵倒します。
今までと違う怖い裕介の姿にユキエは唖然とします。学校に行こうとしていたサナエはたまたまその会話を聞いてしまいます。
学校から帰ったサナエは裕介に、勝手に写真あげるのはダメだよね、でもあの人何で怒られたか分かっていないよと話します。そして迷惑かけてごめんなさいと謝ります。
映画『スウィートビターキャンディー』感想と評価
分かりたいという気持ち
誰といても自分は1人なんだ、という孤独を感じていたサナエが出会った訳ありの家政夫・裕介。
裕介はかつて女性にストーカーし、その女性を殴ったという過去があります。しかし、サナエは裕介の過去に対し、クズだと決めつけず、どうしてそんなことをしたのか知りたいと言います。
ストーカーも暴行も許されない行為ではありますが、裕介がどういう経緯でそのような行為をしたのか、一方的な情報しか与えられておらず、見方を変えれば違う真実が見えてくる可能性もあります。
サナエは真っ直ぐに裕介にぶつかり、裕介を知ろうとしますが、裕介はそんなサナエを拒絶してしまいます。
裕介はサナエのように仲の良い家族ではなかったと言っています。更に過去のこともあり、人に心の奥底を見せることに対する恐怖、自分が大切なものを壊してしまうのではないかという恐怖も感じています。
裕介が感じている居場所のなさに対し、少年院出身である山下は、俺らみたいなものはどんなことをしても居場所を手に入れるしかないと考えていますが、裕介は手段を選ばない山下のようになろうとは思っていません。
一方、サナエは家族や友達といても自分が1人なのだという孤独を感じていましたが、裕介といる時間はちゃんと2人だと思えたと言っています。同時に、同じように裕介も感じているはずだとサナエは思うのです。
どこかでサナエは裕介には自分がいる、自分が守ってあげる、と母性本能のような感情も抱いています。それは拒絶されてきた裕介にとっては初めての温もりだったのかもしれません。
そのような温もりに対してどうすれば良いのか分からない戸惑いに加えて、身に覚えのないことで山下によって奪われてしまうことに対する怒り、さまざまな感情が裕介を再び暴力行為を行ってしまう結果になりました。
出所してもなお、裕介のそばにいようとするサナエに対し、裕介は嬉しさ以上に戸惑いが大きかったのではないでしょうか。お互いを思う気持ちはあるのにうまくいかない2人の不器用さが苦しくなります。
初めて恋を知ったサナエのひたむきさと苦しさが印象的ですが、裕介の視点に立ってみると初めて出会った温もりと恋であったかもしれません。
まとめ
孤独を感じていたサナエが同じように孤独を感じていた裕介に出会い、恋を知っていく甘くて苦しい映画『スウィートビターキャンディー』。
時には子供のような無邪気な残酷さで裕介の気を引こうとしたり、大人のように肌を触れ合わせたり、戸惑う裕介の全てを受け止めようとする母性本能を垣間見せたり…少女と大人の狭間で揺れ動くサナエはひたむきであると同時に危険さも併せ持っている印象を受けます。
裕介に対する思いを抑えられないサナエの行動は逸脱しているとも言いかねないところにまでいってしまいます。
その一方的な思いと行為によってサナエは周りが見えなくなっている状態であり、犯罪行為と側から思われても仕方ないところまで行動がエスカレートしてしまう危険性があるのです。
また、友人にサナエが受験勉強に前向きになってくれて良かったと言われている場面もあり、サナエの思いの盲目性が垣間見えるのです。
しかし、そのように自分でもコントロールできないほど相手に対する思いが大きくなってしまうのが恋愛でもあります。恋の甘さと苦しみを知り、戸惑うサナエのピュアさを小川あんがみずみずしく演じ、キャンディーなどが世界観に煌めきを与えます。