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映画『タイトル、拒絶』ネタバレあらすじと感想解説。伊藤沙莉が演技力で見せたセックスワーカーの“女たちの生き様”

  • Writer :
  • 菅浪瑛子

2013年初演の舞台を主宰の山田佳奈自ら映画化、セックスワーカーの女たちを描いた映画が公開!

「私の人生なんて、クソみたいなもんだと思うんですよね」という伊藤沙莉演じるカノウの核心をつく独白から始まり、そんなカノウの視点を中心にセックスワーカーの女性を描く群像劇。

11月13日から新宿シネマカリテ、シネクイント他にて公開中です。

自分の人生に不満を抱えたカノウはセックスワーカーの体験をうけるも…逃げて雑用係に。

そして様々な事情を抱えセックスワーカーとして働く女性たちとの交流を通し、描かれるヒリヒリした痛みとそれでも生きていかなくてはならない彼女たちの苦しみを女性監督ならではの視点で、山田佳奈が描きます。

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映画『タイトル、拒絶』の作品情報


(C)DirectorsBox

【公開】
2020年(日本映画)

【監督・脚本】
山田佳奈

【プロデューサー】
内田英治

【劇中歌】
女王峰

【キャスト】
伊藤沙莉、恒松祐里、佐津川愛美、片岡礼子、でんでん、森田想、円井わん、行平あい佳、野崎智子、大川原歩、モトーラ世理奈、池田大、田中俊介、般若

【作品概要】
劇団「□字ック」主宰の山田佳奈が2013年に初演を迎えた舞台を映画化したセックスワーカーの女たちを描いた群像劇。

デリヘル嬢たちを俯瞰的な目で見つつも、自身のコンプレックスに苛まれどこか羨ましいと思うカノウ役を演じたのは、今引っ張りだこの女優・伊藤沙莉。この役を誰にも渡したくなかったと、意気込んで挑んでいます。

デリヘル嬢たちを演じる女優には恒松祐里、森田想、佐津川愛美などの若手女優がそろい、一歩離れたところで見守る年上のデリヘル嬢の役を片岡礼子が務めます。

映画『タイトル、拒絶』のあらすじとネタバレ


(C)DirectorsBox

「私の人生なんて、クソみたいなもんだと思うんですよね」

上半身は下着、下半身はリクルートスーツのまま、悪質なポン引きを禁止する看板の前で、自分の人生に毒づくカノウ(伊藤沙莉)の姿が映し出されます。就職がうまくいかず、デリヘル嬢になるつもりで体験入店に来たカノウはいざという場面で怖気づき部屋から逃げ出してしまいます。

その後カノウはデリヘル嬢ではなく、世話役となりデリヘル嬢に振り回され、厳しく管理する山下(般若)にこき使われる日々を送っています。自分を『カチカチ山』のたぬきだと思い込み、デリヘル嬢の中でも一番可愛く人気のあるマヒル(恒松祐里)をうさぎだと思っています。

デリバリーヘルス「クレイジーバニー」の事務所では香水やたばこの匂いが入り混じり、アツコ(佐津川愛美)やキョウコ(森田想)など若いデリヘル嬢たちが雑談し、少し離れた所に年上のデリヘル嬢シホ(片岡礼子)や、隅にいていつもノートに何かを書いているチカ(行平あい佳)がいます。

キョウコ(森田想)はスタッフの良太(田中俊介)に想いを寄せ、良太の運転でホテルに仕事しに行っては、デルヘル嬢と本気で恋愛するわけがないと酷い言葉を浴びせられますが、それでも好きだと伝え続けます。

そして我の強いアツコは大きな声で客の話をしたり、他のデリヘル嬢に喧嘩をふっかけたりして事務所の空気を悪くします。

そんな空気でも一番人気のマヒルが帰ってきて、マヒルの何事も気にしない明るさに場の空気が落ち着いていきます。

そんなマヒルは街中の清掃員のおじさんを見かけると動画に撮って、冗談のようにお金もためて用務員や清掃のおじさんを雇って暮らすと日々言っています。

誰にも文句を言わず常に明るいマヒルでしたが、彼女は暗い過去を抱え、時折会いにきてはお金をねだる妹・カズヨ(モトーラ世理奈)がいます。

姉妹は母親の恋人から虐待され、カズヨはマヒルのように要領よく生きられず、暴力的な男と付き合い、抜けられないまま妊娠しています。

マヒルは家族が平穏になるならと母親の恋人と体の関係を持ち、今もデリヘル嬢として体を売り金に執着しています。そのように平然と体を売り、金を受け取るマヒルのことをカズヨは気持ち悪いと思っています。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『タイトル、拒絶』ネタバレ・結末の記載がございます。『タイトル、拒絶』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

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(C)DirectorsBox

ある日、「クレイジーバニー」に若くてスタイルの良い女の子が入ってきます。そこから少しずつ「クレイジーバニー」の人間関係が崩れていきます。

誰もが羨むマヒルは山下とも関係を持ちつつもしっかりお金を払わせ、そんなマヒルに対し山下は文句を言う日々。

それでも他の生き方のないマヒルはたくさんの客に体を売り、お金をため、ゴミを集めるおじさんの動画を撮り続けます。妹・カズヨと話しながら冗談なのか本気なのか掴めない笑顔で東京なんて燃えたらいいと呟くマヒル。

アツコは山下から店に出ないように圧力をかけられ、やけっぱちになっています。そんなアツコに対し、新人はこんな店で働いている時点で皆社会の底辺なのにその中で上に立とうとするなど馬鹿らしいと言い放ち、冷ややかな態度をとります。

カノウはそんな彼女らの愛に飢え、掃き溜めの中でも自分を認めてもらいたいと足掻く姿を俯瞰的な立場で見つめています。

そして事務所に一人でいたマヒルと会い、マヒルは山下と関係を持っていること、過去に母親の恋人とも関係を持っていたことをカノウに話します。

「たくさんのゴミためを吐き出された私はどうすればいい」と呟くマヒルを見て、皆が羨むうさぎだと思っていたマヒルの心情・過去を知り、動揺します。

同じスタッフの良太も山下に否定され、罵倒され、それでもそんな良太のことを好きだと訴えるキョウコを突き放しながらもその愛情に揺らいでいきます。

もう一人のスタッフのハギオ(池田大)は自身も体を売り、女性の相手をしています。マヒルに「私としたい?」と聞かれ戸惑うも、体を売る商売に対する嫌悪感と虚しさをどこかで感じています。

それぞれが様々な事情を抱えながらも、何とか生きているなか、新人に侮辱され、山下にも侮辱されたことに怒ったアツコが事務所にやってきて謝罪を求めます。

「めんどくせえな、ブスのくせにつけあがりやがって」と暴言を吐く山下にとうとうカノウが口を開きます。

「こんな仕事やっているからとかじゃなくて、女である時点でもうだめなんすね。好きで体を売っているわけない、好きでブスやっているわけがない」

偏見の目で見られ、頑張って生きていても人間として認められない、商品のような扱いで下に見られる、そんな彼女たちの叫びを目の当たりにしたカノウの叫びは山下には届かず殴られてしまいます。

騒動のなかアツコが持ってきた液体をまき、ライターを手にします。皆が呆然としているなか、そのライターを取り上げたのはマヒルでした。

しかし、そのライターは火がつかず…「本気でやる気ならライターくらい用意しとかないと」マヒルの乾いた笑いが響きます。

その騒動があった後日、事務所は何者かの放火によって焼けてしまいます。後片付けをするカノウとハギオ。カノウはハギオにマヒルのこと好きかと尋ねます。

男だったらそりゃ関係を持ちたいという欲望がないわけではないけど…と前置きして、自身も体を売っていること、それに対する嫌悪感などをカノウに話します。何故その話を私にしたのかとカノウがハギオに聞きます。

「だってカノウとはそういう感じにならなさそうじゃん」

そのハギオの言葉に動揺したカノウはハギオが帰った後一人で泣きます。自分が信じていたこと、頑張っていたこと、そんなこと全てが崩れ落ちたのかもしれません。

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映画『タイトル、拒絶』感想と評価


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伊藤沙莉が演じるカノウの衝撃的な独白から始まり、デリヘル嬢たちの群像劇が描かれていく本作。彼女らが抱えているもの、リアルな叫び、それでいてどこか優しく見つめる姿勢は観客の心にも突き刺さります。

なかでも印象的なのは恒松祐里が演じるマヒルでしょう。マヒルは過去に母親の恋人から暴力を奮われ、家族がうまくいくならと母親の恋人と関係をもったという過去を持っています。

今も金に執着し、用務員を雇って暮らすというのが彼女の口癖です。その言葉の奥にあるのは、自分は人の出したゴミを受け取る側という世間、彼女ら自身の認識でしょう。

商品のように扱われる彼女たちは、体液を吐き出し、ゴミ箱に捨てられるティッシュや避妊具と同じと思われ、自分たちもそう思っているのです。

マヒルにとってそんなゴミのようなものを処理してくれる存在が、街中でゴミを集める用務員や清掃員なのでしょう。

そしてそんなマヒルと同じ環境で育った妹カズヨはマヒルとは価値観が全く異なります。母親の恋人と関係を持ち、今も体を売り金をもらっているマヒルを気持ち悪いと言います。

一方でマヒルは子供を堕した経験もあり、誰かと恋愛して子供を産もうとしているカズヨのように生きようとは思っていません。それでも姉妹はお互い違う道を進んでいることを理解しています。

「そんなに皆がいたがったら、私はいたがれない」とぽつりとマヒルが呟くシーンがあります。マヒルは「クレイジーバニー」のデリヘル嬢のなかでも人気で、「皆マヒルちゃんになりたい」とカノウは思っており、カノウがたぬきなら、マヒルはウサギだと思っています。

そんなマヒルでさえ、人には言いにくい過去を持ち、過去のトラウマを引きずるわけでも、自死を選ぶわけでもなくひっそりと生きています。彼女の笑顔はギリギリで生きている彼女の危うさでもあり、そのことに気づいたカノウは自分が信じていたものが崩れたように感じるのです。

愛を信じていないマヒルとは違い、愛すること、愛されることに飢えているのがキョウコでした。キョウコは同じく愛に飢えた良太の心を感じ取り、どんなに暴言を吐かれても良太に好きを伝え続けます。

そして手編みのマフラーをあげたり、お金を奪われても文句を言いません。そんなキョウコを拒絶しつつも、自身のトラウマからかその愛情に涙したり、愛情に飢えた自分に苛立ち、キョウコに当たる良太。そんな良太を愛し、愛されることで自身の存在価値をキョウコは見出そうとします。

そして、かつてキャバ嬢もやっており、既婚者と恋した経験などもある年上のデリヘル嬢シホはこんな私でも誰かと共にいて、必要とされることが嬉しいと言います。

彼らの姿は、マヒルのように生きる手段ではなく、愛情への飢えを抱えた人々の孤独、誰かに必要とされたいという気持ちがありありと伝わってきます。

そんな彼女らを俯瞰的に見つめているカノウ。カノウ自身も自分にコンプレックスを抱え、どうせ自分なんてという気持ちを抱えタヌキ役に徹しようと思いながらもどこかで違う自分になりたいと思い続けています。

しかし、デリヘル嬢たちの世話を焼き振り回されながらも彼女らが抱えるものを知っていき、自分が信じていた価値観、ウサギだと羨んでいたものが覆され、女性の生き方、自分自身のアイデンティティが揺らぎ新たに確立されていきます。

それが山下にぶつける言葉となり、ラストの泣くシーンに繋がっていくのです。それは、それでも生きていくしかない女性たちへの涙でもあります。

どんなに偏見の目で見られようと、消費され捨てていかれようと、そう生きるしかない。居場所なんてないことを嘆いても縋って生きるしかないのです。

その嘆きも叫びも否定せずにぶつけさせて描く山田佳奈監督の姿勢や、伊藤沙莉や恒松祐里の全力で痛みと叫びを体現する演技が観客の心に突き刺さります。

また『タイトル、拒絶』というタイトルには、勝手に偏見の目で見て決めつけ、商品のように付加価値をつけて消費する現代社会の縮図に対する抗議の表れなのかもしれません。

まとめ


(C)DirectorsBox

山田佳奈監督の舞台を映画化した『タイトル、拒絶』。

デリヘル嬢たちの実情をカノウの視点で描くことで、社会の底辺のようなところで、様々な実情を抱えながらもそこで生きていくしかない女性の哀しさ、彼女らが抱える淋しさを痛いほどリアルに描きます。

彼女らの痛みがぶつかり合い、それでも誰かに認めてもらいたい、大切にしてもらいたい。そんな心の叫びが観客に突き刺さり、そのなかで痛みと共に生きようとする彼女らの姿に勇気をもらえるでしょう。

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