Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

ファンタジー映画

『惑星ラブソング』あらすじ感想と評価レビュー。広島の新たな時代に向けた“平和の足掛かり”をファンタジーを持って提唱する

  • Writer :
  • 桂伸也

映画『惑星ラブソング』は2025年5月に広島で先行公開予定、以降全国順次ロードショー!

広島の街並みを舞台に、新時代の平和に向けた意識の在り方を問うファンタジー映画『惑星ラブソング』


(C)惑星ラブソング製作委員会

現代の広島を舞台に、若者たちが「平和」への道筋を中心にポジティブな未来を掴むきっかけを探る姿を描きます

これまで故郷・広島で五作の長編映画を発表してきた時川英之監督が、反核という重要なテーマにチャレンジ。従来の反核を訴える作品群とは異なり、大胆な発想で新たな時代の「平和」を想起させる物語となりました。

映画『惑星ラブソング』の作品情報

【公開】
2025年公開予定(日本映画)

【英題】
Love Song for Hiroshima

【製作・監督・脚本】
時川英之

【製作】
横山雄二

【キャスト】
曽田陵介、秋田汐梨、チェイス・ジーグラー、八嶋智人 他

【作品概要】
将来への不安を抱えながら広島で日々を過ごす若者が、謎多きアメリカ人旅行者との出会いと交流の中で自身の過去や広島の悲しい歴史、そして平和への道に向き合っていく姿を描いたファンタジー。

本作を手がけたのは『彼女は夢で踊る』(2020)『鯉のはなシアター』(2018)『ラジオの恋』(2014)など広島を拠点に映画制作を続ける時川英之監督。『彼女は夢で踊る』に続いてのアナウンサー・横山雄二との共同プロデュースのもと、原爆ドームを中心にほとんどを広島県内で撮影しました。

主演は『交換ウソ日記』『なのに、千輝くんが甘すぎる。』(ともに2023)の曽田陵介。また『つぎとまります』(2024)『リゾートバイト』(2023)などの秋田汐梨、オーディションで選ばれたアメリカの俳優チェイス・ジークラー、ベテラン・八嶋智人らが名を連ねています。

映画『惑星ラブソング』のあらすじ

広島の若者モッチとアヤカはある日、謎めいたアメリカ人旅行者であるジョンに出会い、広島の街を案内することになる。ジョンには不思議な力があり、広島の街に何かを見つけていく。

一方、小学校で広島の歴史を聞いて怖くなった少年ユウヤは不思議な夢を見る。そして夢の中で出会った少女は、彼を戦前の広島へと案内する。

広島の街に起こる不思議な物語が交錯し、少しずつ一つの大きな渦になる。広島の過去と現代が交錯し、現実と幻が融合し始める。やがて街の人々は、未だ体験したことのないある出来事に遭遇し、忘れていたあの平和の歌が街に響く。

広島から放つ、愛と平和のファンタジー。

映画『惑星ラブソング』の感想と評価


(C)惑星ラブソング製作委員会

この作品は「平和の象徴」的なシンボルとされる広島を背景に、新世代の人たちが「平和」という課題に対し、どのように向き合っていくかを考えさせられるドラマ作品。

世界のさまざまな地域で紛争も起きている現在、2025年には広島の被曝80周年という節目を迎えることもあり、「平和のための活動」は重要な課題として、さらに注目を集める傾向にあります。

しかしそこで大きな課題となるのが、若い世代に向けてのアピール。いわゆる「戦争を知らない」世代が日本の大多数を占めるに至った現代において、国際情勢はさらに複雑化する一方で、そんな世界が若い世代から見れば遠いものにも見え、「平和に向けての活動」の重要さを理解しながらもモチベーションを持つまでには至らない傾向が見えてきます。

広島の被曝にまつわるメッセージをたたえた映画作品は、ドキュメンタリーを含めこれまでたくさんの作品が発表されており、その悲惨な状況は見る者に強い印象を放つ一方で、個々人としては平和に向けて「何をすればいいのか?」とその動機付け自体に悩む懸念も、今という時代では考えられるわけです。

今に生きる人々がいかに「平和」に対しての行動のきっかけを掴んでいくか。「何をすべきか」の答えを出すことは非常に難しいことでありますが、本作はその課題に向けた一つのヒントを呈した作品でもあります。



(C)惑星ラブソング製作委員会

若い世代が「広島の被曝」という歴史的事件に関心を持ち、新たな第一歩を歩みだしていくという物語として、近年では2020年に『おかあさんの被爆ピアノ』が公開されたました。

広島という地に対して、この作品の主人公は被爆三世という当事者でありました。これに対して本作の主人公モッチは「現在、広島で生きている」という接点のみ、どちらかというと被曝の当事者とは離れた視点より物語のテーマに注視した物語となっています。

物語の筋は奇想天外なものですが、過去の広島の経緯をにおわせながら徹底して過去の当事者的視点を外し、現代に存在する危機に対して今に生きる人の考えをさまざまに想起させるものであります。

モッチたちは、数々の奇妙な出来事に遭遇する中で自身の意識を変えていきます。その展開は時にコミカルで、過去の広島における被曝を扱った作品と比較すると相当のギャップもあり、人によっては戸惑う可能性も否めないでしょう。

しかし逆に新たな時代における「平和に向けた活動」を即していく中での新たなアプローチとして、思い切ったチャレンジをおこなった意欲作であると見ることもできます。


広島国際映画祭 映画『惑星ラブソング』上映後舞台挨拶


(C)Cinemarche

本作は2024年11月に広島でおこなわれた「広島国際映画祭2024」でプレミア上映され、上映後には本作でプロデュースを務めた横山雄二と、主演の曽田陵介が登壇し本作に込めた思いなどを語りました。


(C)Cinemarche

時川監督とともに共同プロデュースを務めた横山は、反核というテーマを本作で扱うにあたり、バランスという点に関して多くの議論を交わしたと振り返ります。

そのバランスとは、作品の「受け入れられやすさ」。過去の反核をテーマとした映画は核兵器使用の悲惨さ、残酷さを訴える重い表現を中心としたものが多い印象であり、「平和に向けての活動」の中でその表現が必要な状況も多くある一方で、「受け入れられやすさ」を考えた新たな視点で反核を訴えるコンセプトが必要があることを考えていたことを振り返ります。

そしてファンタジックなイメージのある本作は、平和への思い、願いをやわらかなイメージで表現しており「過激な描写がなくても反戦映画はつくれる」というポリシーで本作を作り上げたとコメント、映画に込めた反戦への強い思いをアピールしました。

まとめ

主演 曽田陵介(広島国際映画祭 舞台挨拶にて)


(C)Cinemarche

作品の中で非常に印象的なのが、主人公モッチの描かれ方にあります。

本作を手がけた時川英之監督は、物語を描く上でのバランス的な議論の中で「人それぞれに『平和』との距離感が違うことを思い知らされた」と語っています。

モッチが不透明な自分の将来に悶々としながらも平凡に広島で毎日を過ごし、さまざまな人と出会う中で、まさに時川監督が感じたような「人それぞれの『平和』への距離」に疑問を呈しながら、徐々に自身の意識を変えていく様は、「平和」という考えを新たに考えさせられるものとなっています。

曽田陵介演じるモッチのたたずまい、表情は時にピュアで、「平和」に対して無関心というよりも「新たに知るもの、事への戸惑い」、そして方向が定まってからの意欲的な意思のようなものも感じられます。

その人物像からは物語の中に敷かれている、複雑な状況の中で物事をポジティブな方向へ導く導線のようなものを感じられるでしょう。

映画『惑星ラブソング』は2025年5月に広島で先行公開予定、以降全国順次ロードショー!



関連記事

ファンタジー映画

映画『隠された時間』あらすじと感想レビュー!ネタバレなし考察も

2017年8月19日(土)より新宿シネマートほか順次公開される韓国映画『隠された時間』。 主人公ソンミン役をカン・ドンウォン、そして300倍のオーディションから選ばれた少女スリン役にシン・ウンスが出演 …

ファンタジー映画

アニメ映画『グリンチ(2018)』あらすじネタバレと感想。ラスト結末までの詳細な解説

有名絵本を「ミニオン」シリーズや『SING』のイルミネーションスタジオが映画化! 意地悪で孤独なグリンチがクリスマスを盗むという大胆な作戦に打って出る! 楽しいギャグと見事なアニメーション、教訓と感動 …

ファンタジー映画

金子雅和映画『アルビノの木』感想と考察。あらすじの森と白鹿様の隠喩の深意とは?

金子雅和監督が海外で行われた各国の映画祭で、10冠の名誉を掴み取った映画『アルビノの木』。 ポルトガルで開催されたフィゲイラ・フィルム・アート2017では、日本映画初である最優秀長編劇映画、最優秀監督 …

ファンタジー映画

リング・ワンダリング|ネタバレあらすじ感想と結末の評価考察。笠松将×阿部純子で描く幻想的な“生と死の実感”

失われた人々に触れ、東京の土地に眠る記憶がよみがえる幻想譚! 『アルビノの木』(2016)が海外の映画祭で高く評価された金子雅和監督。 自然と人間の関係性を描いてきた金子監督が手がけた映画『リング・ワ …

ファンタジー映画

深田晃司映画『海を駆ける』あらすじネタバレと感想。ラスト結末も

鬼才・深田晃司監督の映画『海を駆ける』は、インドネシアで海からやって来た謎の男が起こす奇跡と、不可解な現象を描きます。 バンダアチェの風景の映像美とディーン・フジオカをはじめとする若手俳優たちのみずみ …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学