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Entry 2023/12/05
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『愛と死の記録』あらすじ感想と評価解説。日活の名匠監督 蔵原惟繕が渡哲也×吉永小百合で描いた“原爆の衝撃”とは⁈|広島国際映画祭2023リポート3

  • Writer :
  • 桂伸也

広島国際映画祭2023・ヒロシマEYE『愛と死の記録』

2009年に開催された「ダマー映画祭inヒロシマ」を前身として誕生した「広島国際映画祭」は、世界的にも注目されている日本の都市・広島で「ポジティブな力を持つ作品を、世界から集めた映画祭。」というポリシーを掲げ、毎年おこなわれている映画祭。

「ダマー映画祭inヒロシマ」の開催より、2023年は15周年という節目を迎えました。

本コラムでは、映画祭に登壇した監督・俳優・作品関係者らのトークイベントの模様を、作品情報とともにリポートしていきます。

第3回は、1966年に公開された蔵原惟繕監督作品『愛と死の記録』。トークイベントでは、蔵原監督のご息女である梅澤文子さんが登壇しました。

【連載コラム】「広島国際映画祭2023リポート」記事一覧はこちら

映画『愛と死の記録』の作品情報


(C)1966 日活株式会社

【日本公開】
1966年(日本映画)

【監督】
蔵原惟繕

【キャスト】
渡哲也、吉永小百合、中尾彬、浜川智子、佐野浅夫、滝沢修、垂水悟郎、三崎千恵子、鏑木はるな、芦川いづみ、漆沢政子、日野道夫、河瀬正敏、宇野重吉、萩原光子ほか

【作品概要】
被爆者の男性と偶然出会った一人の女性との純愛物語。

「劇団民藝」の大橋喜一と小林吉男が共同で脚本を執筆、『愛の渇き』(1967)『青春の門』(1981)『南極物語』(1983)などを手掛けた蔵原惟繕が監督を担当しました。撮影は『涙くんさよなら』『野生の照明』『ええじゃないか』などの姫田真佐久。

キャストとして広島の楽器店に勤める娘・和江役を吉永小百合、印刷会社で働く青年・幸雄役を渡哲也が担当しました。

映画『愛と死の記録』のあらすじ

広島の印刷工場で働く男性・幸雄(渡哲也)は、ある日バイクに乗車中、街中で一人の女性・和江と接触事故を起こしそうになります。

和江に幸いけがはなかったものの、自身の働く楽器店の売り物であるレコードに傷をつけてしまい、幸雄は義理を通そうと弁償を強く申し出、それがきっかけで二人の間には恋が芽生え、お互いに幸せなひと時を迎えます。

しかし幸雄は幼いころの被曝という過去があり、幸せの絶頂の中突然発病してしまいます。状況を察した和江は千羽鶴を折って幸雄の回復を祈りますが……。

「広島国際映画祭2023」梅澤文子さん 登壇

本作は「広島国際映画祭2023」の初日となった11月23日に上映され、上映後には特別ゲストとして梅澤文子さんが映画祭の代表・部谷京子とともに登壇し、家族である蔵原監督の思い出を語りました。

広島の原爆投下当時、特攻隊の練習生として呉にいたという蔵原監督は、たまたま手術後の治療をおこなっており、一人訓練に遅れていった状況にあったとのこと。「爆発を目撃した瞬間に気を失ったそうなんです」と、梅澤さんは、蔵原監督の言葉を振り返ります。

また、家で蔵原監督の遺品を整理していたときに、一冊のノートに原爆投下の様子がスケッチで描かれているのを発見、原爆投下という事件が蔵原監督にとっていかに痛烈で心から消えない記憶であったかを思い知らされた様子を見せます。

広島へのこだわりは本作以外の作品にも感じられるポイントがあり、1962年公開の『憎いあンちくしょう』では広島を中継する部分を織り込むなど多くの作品で広島に触れるところがあり、梅澤さんも「(確かにそういった場所を)わざわざ選んだと思います。結構そのようなところにこだわる人だったので」と蔵原監督の隠れた一面を明かします。

そしてその執念で撮影された本作ですが、残念ながら検閲でかなりのシーンを削られたという経緯もあり、100%やりたいと思っていたことがやれなかったと残念がっていた様子も感じられたことを振り返りつつ、その中でも本作の中では貴重なシーンである「原爆ドーム内での撮影」に関し「『あれは自分にとってのご褒美だった』と、いつも言っていました」と回想。多くの悔いを残す中で、自分なりの成果を上げたことを回想します。

一方、本作でメインキャストを務めた渡、吉永は当時まだ若く経験も浅かったため「『演技は全然だったからすごく指導したんだ』と言っていたのを覚えています」と、当時の現場について蔵原監督から聞いた様子を語りながら、吉永が以後この撮影経験をきっかけに原爆詩の朗読をライフワークにするなどの平和啓蒙活動を続けていることに対して「非常にありがたかった」とコメント、蔵原監督の思いの広がりを感じさせます。

梅澤文子さんより寄贈された、本作の脚本

なお、梅澤さんは今回の広島への来訪を記念に、家で保存してあったという、蔵原監督が使用していたという本作の台本を映画祭へ寄贈。送られた台本は初稿段階より決定稿まで複数版が存在し、初稿の段階では幸雄役には浜田光男の名が記載されているとのこと。

また梅澤さんが「普段はそれほど台本を大切にする人ではなかった」と語る蔵原監督でしたが、本作の台本は表紙をテープなどでしっかりと補強し大切に使用していた様子もうかがえ、いかに本作の撮影に向けた気持ちが強かったかを思い知らされたことを語っていました。

まとめ

本作は、広島を故郷とする人であればおそらく多くの人が「ここはあの場所では」と推測できるような画に満ち溢れています。そこには広島が「平和を訴え続ける都市として生き続ける使命を持った場所」であることを示しているようでもあり、生活の様式の変化はあれど、作品は今でもしっかりとこの時代で生き続けていることを伺え

当時の花形でもあった渡、吉永の恋愛シーンはやはり若い人の気持ちをつかむものでありますが、蔵原監督が「自分へのご褒美だった」と語る原爆ドーム内でのシーンは非常にショッキングなイメージ。このシーンの登場は、そこまで展開していた恋愛劇に非常に大きな影をもたらしていきます。

さらに織り込まれる峠三吉の「原爆詩集」の序章、慰霊碑と平和公園に存在するオブジェ。そして終焉に向けて見せる和江の表情は、単なる恋愛悲劇を超えて、本作で伝えるべきメッセージのイメージをより強い力へと変えていきます。

時代の移り変わりを超えて見えてくるその痛烈な提言は、本作では色褪せているようにも見えません。多くの人に今という時代を生きることの意味を改めて感じさせてくれる作品であると言えるでしょう。

【連載コラム】「広島国際映画祭2023リポート」記事一覧はこちら




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