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Entry 2020/07/06
Update

『ディエゴ・マラドーナ 二つの顔』映画考察と評価感想。有名サッカー選手の伝説の頂点と底辺の7年間をたどる|だからドキュメンタリー映画は面白い50

  • Writer :
  • 松平光冬

連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』第50回

その男は英雄か神か。それとも悪魔かペテン師か――。

今回取り上げるのは、2021年2月5日(金)より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ渋谷、グランドシネマサンシャイン他にて緊急公開の『ディエゴ・マラドーナ 二つの顔』。

『AMY エイミー』でアカデミー長編ドキュメンタリー賞を受賞したアシフ・カパディア監督が、アルゼンチンの伝説的サッカー選手ディエゴ・マラドーナの波乱万丈の半生を追います。

【連載コラム】『だからドキュメンタリー映画は面白い』記事一覧はこちら

映画『ディエゴ・マラドーナ 二つの顔』の作品情報

(C)2019 Scudetto Pictures Limited

【日本公開】
2020年(イギリス映画)

【原題】
Diego Maradona

【監督・製作総指揮】
アシフ・カパディア

【製作】
ジェームズ・ゲイ=リース、ポール・マーティン

【編集】
クリス・キング

【音楽】
アントニオ・ピント

【キャスト】
ディエゴ・マラドーナ、フェルナンド・シニョリーニ

【作品概要】
アルゼンチンの名サッカー選手ディエゴ・マラドーナが、1984年にイタリアのSSCナポリに移籍し、91年に故郷に戻るまでの7年間を中心に追ったドキュメンタリー。

『AMY エイミー』(2015)で第88回アカデミー長編ドキュメンタリー賞を受賞したアシフ・カパディア監督が、マラドーナ本人の協力を得て製作。

500時間に及ぶ未公開映像をもとに、栄光と波乱に満ちた半生をひも解きます。

映画『ディエゴ・マラドーナ 二つの顔』のあらすじ


(C)2019 Scudetto Pictures Limited

1984年、世界的な人気を誇るアルゼンチン出身のサッカー選手ディエゴ・マラドーナは、熱狂的な観客が集うイタリア南部のクラブSSCナポリへの移籍を決意します。

マラドーナの加入により、成績不振の弱小クラブと云われていたナポリは、着実に上位に上っていきます。

一方、86年に開かれたFIFAワールドカップメキシコ大会では、準々決勝のイングランド戦での“神の手”“5人抜き”による連続得点を上げるなどの破竹の勢いで、アルゼンチン代表チームを優勝に導きます。

さらには87年のクラブ史上初のセリエA優勝とコッパ・イタリア優勝の2冠を獲得した立役者として、英雄のように崇め立てられていくマラドーナ。

しかしプライベートでは、マフィアとの交際、愛人とのゴシップ、コカイン常用での逮捕と、トラブルメーカーとしての顔も浮き彫りに。

相反する“二つの顔”を持つ者の頂点と底辺に満ちた7年間を、貴重な映像でひも解いていきます。

名サッカープレイヤーにして稀代のトラブルメーカー

(C)2019 Scudetto Pictures Limited

サッカーについて詳しくない方でも、ディエゴ・マラドーナという人物の名を一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。

1970年代から90年代まで活躍した名サッカープレイヤーでありながら、その一方でスキャンダラスな話題を提供してきたトラブルメーカーとして認知している方もいると思われます。

本作『ディエゴ・マラドーナ 二つの顔』は、そんなマラドーナの1984年から91年までの約7年間を追っています。

監督のアシフ・カパディアは、27歳で夭折したイギリスの歌手エイミー・ワインハウスの知られざる素顔に迫ったドキュメンタリー『AMY エイミー』で、アカデミー長編ドキュメンタリー賞を受賞した実績の持ち主。

本作はマラドーナ本人の協力を得て、その7年の間に収められた膨大なアーカイブ映像を元に、彼の実像に迫ります。

ディエゴとマラドーナが最も相反する7年間

(C)2019 Scudetto Pictures Limited

2020年11月25日にブエノスアイレス郊外の自宅で、60歳の生涯を閉じたマラドーナ。

本作製作時は存命だった彼を被写体にしたドキュメンタリー映画にするのなら、現在進行形の姿を追うのが普通かもしれません。

にもかかわらず、なぜ本作では彼の“今”ではなく、1984年から91年までの7年間に焦点を当てたのか。

84年にクラブSSCナポリに移籍したマラドーナは、ヨーロッパの強豪クラブを次々と撃破し、弱小チームだったナポリをセリエAの頂点に導きます。

さらに86年のメキシコW杯では、イングランド戦での“神の手”“5人抜き”ゴールといった印象的なプレイを見せ、アルゼンチン代表優勝の立役者としてMVPに選出されるという、まさにサッカープレイヤーとしての絶頂期を迎えます。

しかしその一方で、愛人女性との間にできた隠し子の認知をめぐる騒動や、ナポリを牛耳っていたマフィアとの癒着、そしてドラッグ使用疑惑といった負の話題も集約した時期でもありました。

劇中で、マラドーナの元パーソナルトレーナーのフェルナンド・シニョリーニが言います。

「マラドーナの中には全く異なる二つの顔がある。愛想が良くて陽気なディエゴと、問題を抱えて苦悩するマラドーナだ」

そんな相反する二つの顔が最も色濃く出ていたナポリ時代の7年間こそが、マラドーナという人物を知るには最適といえましょう。

ちなみに、マラドーナに密着したドキュメンタリーとしてはすでに、『アンダーグラウンド』(1995)のエミール・クストリッツァ監督の『マラドーナ』(2008)があり、こちらでは取材時のプライベート事情や、反米反英思想に基づく政治的見解について触れられています。

参考:『マラドーナ』(2008)

悪童か神童か、ペテン師か教祖か

(C)2019 Scudetto Pictures Limited

マラドーナは、「サッカーとは騙し合いのスポーツだ」と語ります。

相手を騙すようなフェイントをかけたボール運びを駆使し、時には反則であるハンド(腕)を使ってゴールを狙う。

イングランド戦での“神の手”も故意にやったと認め、「ハンドなんてジュニアユースの頃から何度もやってきた」とペテン師のように悪びれることなく答える彼は、まさに“悪童”です。

かと思えば、“神の手”を披露したその数分後には、小柄な体格でイングランドの選手5人を鮮やかにドリブルで抜いてゴールを決め、“神の子”と称されました。

(C)2019 Scudetto Pictures Limited

『世界でいちばん貧しい大統領 愛と闘争の男、ホセ・ムヒカ』(2020)のムヒカ元ウルグアイ大統領然り、『FAKE』(2016)の佐村河内守然り、これまで当コラムで紹介したドキュメンタリー映画の被写体の多くは、想像を絶する困難を抱えた者、激動の人生を送ってきた者、そして世間を騒がせてきた経歴を持つ者です。

その観点からすれば、ディエゴ・マラドーナほどドキュメンタリー映画向きな人物はいないでしょう。

現役時にFCクラブの監督や幹部と幾度となく衝突し、引退後もパパラッチに対して空気銃を乱射すれば、女性蔑視発言をして物議を醸すなど、いつの時代でも世間を騒がせます。

それでも、マラドーナに魅せられる者たちは根強く存在します。

前述のクストリッツァ監督の『マラドーナ』では、「マラドーナ教」なる新興宗教が登場。

信者たちは、“教祖”マラドーナを象った簡易的な礼拝堂の前で結婚の誓いを立てます。

(C)2019 Scudetto Pictures Limited

彼は悪童なのか神童なのか、ペテン師なのか教祖なのか。人によってディエゴ・マラドーナの顔は異なります。

では、当の本人は自分を何者だと思っているのでしょうか。

そもそも彼がサッカープレイヤーとなったのは、貧乏ながらも必死に育ててくれた両親への恩返しと、兄弟たちの生活を支えるためでした。

彼が家族思いな人物であることは、劇中で家族たちと戯れる貴重映像が出てくることからも明らか。

終盤で、これまで起こしてきたトラブルの贖罪とばかりに“父”の顔を見せる彼は、ディエゴでありマラドーナであり、そしてまごうことなき一人の人間なのです。

『ディエゴ・マラドーナ 二つの顔』は、2021年2月5日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ渋谷、グランドシネマサンシャイン他にて全国ロードショー!

次回の連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』もお楽しみに。

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