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森達也映画『FAKE』ネタバレ感想と考察。ゴーストライター疑惑の作曲家・佐村河内守の真実と嘘|だからドキュメンタリー映画は面白い11

  • Writer :
  • 松平光冬

連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』第11回

“奇跡”の人から一転、“疑惑”の人へと変貌してしまった男。

日本中の注目を集めてしまった一人の作曲家に密着した、衝撃の119分。

『だからドキュメンタリー映画は面白い』第11回は、2016年公開の森達也監督作『FAKE』。

「現代のベートーベン」と称されるも、様々な疑惑からワイドショーの主役となってしまった作曲家、佐村河内(さむらごうち)守の素顔に、森自ら迫ります。

【連載コラム】『だからドキュメンタリー映画は面白い』記事一覧はこちら

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映画『FAKE』の作品情報

(C)2016「Fake」製作委員会

【日本公開】
2016年(日本映画)

【監督】
森達也

【キャスト】
佐村河内守、佐村河内香、森達也

【作品概要】
『A』(1998)、『A2』(2002)といったドキュメンタリー作品を発表してきた森達也監督による、およそ15年ぶりの単独監督作。

2014年に、ゴーストライター騒動で話題になった作曲家・佐村河内守に密着し、それまでベールに包まれていた彼の素顔に肉薄します。

劇場公開時は、「衝撃のラスト12分」という宣伝文句も手伝い、連日観客が多数押し寄せるヒットとなりました。

映画『FAKE』のあらすじ


(C)2016「Fake」製作委員会

聴覚に障害を抱えながら、ゲームソフト『バイオハザード』、『鬼武者』の音楽や、「交響曲第1番 HIROSHIMA」などの作品を発表した作曲家・佐村河内守。

2013年3月に放送された、作曲活動に密着したNHKのドキュメンタリー番組が大きな反響を呼んだ彼は、「現代のベートーベン」と称されることとなります。

ところが2014年2月、ノンフィクション作家の神山典士が、作曲家の新垣隆が18年間にわたって佐村河内のゴーストライターを務めていたことと、彼が聴覚障がい者ではないという告発記事を『週刊文春』で発表する事態に。

これを受け、佐村河内は作品が自身だけの作曲でない点については認めるも、新垣に対しては名誉毀損で訴える可能性があると語り、以降は表舞台から姿を消します。

その佐村河内に、ドキュメンタリー監督の森達也が単独インタビュー撮影を敢行。

ベールに包まれていた佐村河内と彼の妻・香への生活模様に迫るとともに、彼らを取り巻く周辺事情をも併せて映し出していきます。

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分かりやすさを求めるメディアへの挑戦

(C)2016「Fake」製作委員会

本作監督の森達也は、かねてからメディアの“二分化”に異議を唱えたドキュメンタリーを撮り続けています。

善と悪、白と黒、右と左、プラスとマイナス、そして真実と嘘といったように、メディアは物事を分かりやすく2つにすることで伝える――そうすることで生まれる弊害に、警鐘を鳴らす森。

オウム真理教について大半のメディアが、「麻原彰晃に洗脳された危険な宗教団体」、「凶悪な殺人集団」というイメージしか与えなかったのに対し、森は『A』、『A2』で、信者自体は素朴で純粋な人間であるいうことを露わにしました。

要するに、そうした純粋な人間がなぜ犯罪を起こしたのかを考えるべきだと、主張したのです。

その森が今回選んだ被写体が、ゴーストライター騒動で悪評が付いた作曲家の佐村河内守。

森と佐村河内のやり取りは、基本的に森の質問に対し、佐村河内の妻の香が手話で伝達するという形式で進行。

ただ、佐村河内の耳は全く聞こえないのではなく、聞こえる音と聞こえない音があり、体調によっても聴覚度合が変わるという感音性難聴です。

つまり、「耳が“全く”聞こえない作曲家」という分かりやすい紹介にしてしまったメディアの弊害が、ここでも表れています。

本作では、嘘つき呼ばわりされた佐村河内の日常を通し、現状メディアの在り方を問います。

張りめぐらされる森達也の「仕掛け」

(C)2016「Fake」製作委員会

本作を初めて観ようとする人の大半は、「佐村河内守は本当に嘘つきなのか」という興味を持っていると思われます。

取材当初こそ森の質問に苛立ちながら答えるも、次第に佐村河内が、本来は穏やかで理性的な口調の持ち主であることが分かります。

また、食事前には豆乳をコップに溢れんばかりに注ぎ、必ずワンパック空にするようにしたり、デザートには必ず大きなケーキが出るという、独特かつユニークな日常も明かされます。

聴覚障害や作曲能力の有無への疑惑こそ完全に消えないものの、佐村河内本人は嫌悪感を抱かせる人物でなく、さらに妻の香から献身的に尽くされる夫であることがうかがえます。

その一方で、森のカメラは佐村河内を訪ねる者たちも映します。

取材に訪れた海外メディアが「なぜ楽譜の書き方を学ぼうとしなかったのか」、「家に楽器がないのはなぜか」など、矢継ぎ早に彼に質問を浴びせます。

それらに対し佐村河内は上手く回答できず、ついには黙りこくってしまいます。

またある時には、番組プロデューサーが彼にテレビ出演を依頼しに来ます。

それを断った佐村河内に、森は後日、彼が出るやもしれなかった大晦日の特番を見せます。

そこに映っていたのは、ゴーストライターを務めていた新垣隆。

依頼時に聞いていた企画とは異なるバラエティな内容に憤る佐村河内は、自身へのバッシングを「(騙されたと思い込んでいる)全メディアの復讐だ」と語り、森に「僕を信じてくれますか?」と問います。

森は「信じなきゃ撮れない。あなたと心中する覚悟です」と即答するも、逆に「でも僕があなたに嘘をついている可能性もある」と言って、佐村河内を戸惑わせます。

わざと苛立たせるような質問をしたり、新垣出演のテレビ番組をわざわざ見せたり、信頼をぐらつかせるような言葉をわざと発したりと、至る所で佐村河内に「仕掛け」を施す森。

そして映画は、大きな「仕掛け」が待つラストへと向かいます。

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真実か嘘(FAKE)か、その曖昧さを楽しむ


(C)2016「Fake」製作委員会

2016年に本作が劇場公開された際に話題となったのが、「誰にも言わないで下さい。衝撃のラスト12分」の宣伝コピー。

初公開から年月が経っていることもありますので、ここではその詳細を記します。

それでも知りたくないという方はご注意ください。

長らく密着取材しているにもかかわらず、一向に作曲する様子を見せない佐村河内に対し、森は痺れを切らしたかのようにこう問います。

「あなたは音楽が好きなんでしょう?だったら音楽を作りましょうよ」。

しばらく熟考する佐村河内。

それから約1か月後、佐村河内宅を訪れた森が目にしたのは、買ったばかりの真新しいシンセサイザーに触れる彼の姿でした。

補聴器をつけ、香にメロディー調整をしてもらいながら、作曲活動をする佐村河内(それ以前に、佐村河内が作曲活動をしていたとされる日々の大半を、森は撮り逃している)。

そして遂に完成した『Requiem(鎮魂歌)』と名付けた楽曲を、森と香に聴かせます。

演奏を終え、曲の出来に満足げな佐村河内に、香はいつものようにケーキを出します。

「僕はやっぱり、お2人の愛を撮りたかったのだと思う」と語る森は、この日で密着取材を終わりにすることを伝えます。

そして最後の最後で、「今、僕に何か隠していたり、嘘をついていることはないですか?」と尋ねます。

そう言われた佐村河内は押し黙ってしまいます。

少しの静寂ののち、彼が何か言いかけようとした瞬間、画面がブラックアウトして映画は終わります。

このラストの一連の流れについて、森はいつ終わるか分からない取材を半ば強引にエンディングにするために、「ほとんど苦し紛れ」で提案したものと述懐。

また、ラストでの森の問いかけに、佐村河内がどう答えたのかという国内外のメディアの質問に対しても、「何と言ったか忘れてしまった」と煙に巻いています。

佐村河内自身も、森の提案はある程度想定していたと明かしています。

「佐村河内守に対する様々な疑惑が明かされるのでは」という期待で本作を観ても、結局はどこまでが真実で、どこまでが嘘なのかが曖昧なまま終わりを迎えます。

しまいには、豆乳を飲み干す日課も、時おり挿入される佐村河内の飼い猫の映像も、そして愛情あふれる夫妻の姿ですら「仕掛けられた」事なのかと、何から何まで疑ってしまうかも…。

ただ、森が過去作で示したように、真実と嘘(FAKE)は明確に二分化できるものなのか、その解釈は観た者次第。

そうしたことを鑑みても、本作『FAKE』は、ドキュメンタリーではなく「森達也映画」というジャンル分けをして観るべき作品なのかもしれません。

最後に、森が『FAKE』のパンフレットに寄せた文章を引用します。

視点や解釈は無数にある。一つではない。もちろん僕の視点と解釈は存在するけれど、最終的には観たあなたのもの。自由で良い。でも一つだけ思ってほしい。
様々な解釈と視点があるからこそ、この世界は自由で豊かで素晴らしいのだと。

次回の「だからドキュメンタリー映画は面白い」は…

(C)アラフォー・フィルムパートナーズ

次回は、2019年4月6日(土)より公開の『アラフォーの挑戦 アメリカへ』。

語学勉強のためアメリカにホームステイをした女優・松下恵が、現地生活を通して多様な価値観に触れ、人生観を見つめ直していきます。

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