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Entry 2024/04/12
Update

『雪の花』原作ネタバレあらすじと感想評価。実写化で主演の松坂桃李が疫病との闘いに勝利する理由を解説!

  • Writer :
  • 星野しげみ

吉村昭の天然痘と闘った町医の物語『雪の花』が待望の映画化に

小説家吉村昭が1988年に発表した『雪の花』。江戸時代末期を舞台に、数年ごとに大流行して多くの人命を奪う天然痘と闘った一人の町医者の実話を描いた物語です。

この小説が『雪の花 ともに在りて』というタイトルで映画化されることが決定しました。映画『雪の花 ともに在りて』の公開は2025年1月24日(金)予定

映画化にあたり、主人公・笠原良策を演じるのは、『居眠り磐音』(2019)の時代劇をはじめ、『流浪の月』(2022)や『空白』(2021)などに出演した松坂桃李。良策の妻に『』(2018)の芳根京子、師匠に『孤狼の血』(2018)で松坂と共演もした役所広司といったキャストが名を連ねています。

監督は、『散り椿』(2018)や『博士の愛した数式』(2006)、『峠 最後のサムライ』(2022)などの小泉堯史監督。

実力派俳優の揃った映画公開に先駆けて、疫病と闘う一人の医師の感動の生涯を描いた原作『雪の花』をネタバレありでご紹介します。

小説『雪の花』の主な登場人物

【笠原良策】
江戸時代末期の福井藩の町医。数年ごとに流行する天然痘の種痘を試みる

【日野鼎哉】
京都在住の蘭方医。良策に蘭医を教える師匠

【笠原千穂】
良策の妻。私財をなげうち、天然痘を闘う夫良策を支える

【松平春嶽】
福井藩主。笠原の嘆願書を受け、天然痘の種痘を許可する

小説『雪の花』のあらすじとネタバレ

天保8年(1837年)。福井の町は盛夏の頃でしたが、気温は低く、雨が降り続いていました。3年ほど前から気候が不順で、前年は5月に雹が振り完全な冷夏となり、綿入れを着て過ごさねばならないほどでした。これでは作物は育ちません。そのうえ8月には大暴風雨の襲来で洪水がおき、9月には霜が降って田畑の作物は実らず、大飢饉となりました。

年が改まった今年になると、飢えと寒さで死亡する者が多く現れます。この夏も気温があがらず、耕作物は大凶作で餓死者は増すばかりでしたが、さらに天然痘患者が出始め、あっというまに福井藩領内に広がっていきました。

天然痘は伝染力が非常に強く死に至る疫病として人々から恐れられていました。たとえ命を取り留めても顔中に醜いアバターが残り、不幸な生涯を送らなければならないために、忌み嫌われたのです。

天然痘は全国に流行していきましたが、医者は天然痘を治す方法を知らず、牛の糞を黒焼きにして飲ます、という療法をするしかありませんでした。

そんな方法が病気に効くわけがなく、日を追うごとに天然痘による死亡者は増えます。福井藩でも天然痘の死者の棺を乗せた大八車がひっきりなしに焼き場へ向かうようになりました。

焼き場へ向かう道を見下ろす川の土手の上でその様子を、福井の町医者、27歳の笠原良策はじっと見ていました。

良策は、幼いころから人命を救いたいと願って医学の道に入ったのですが、天然痘については他の医師と同じように手を拱いている以外に方法はありません。

医者としての無力さを痛感する良策は、ふとしたことで蘭学を修業したという大武了玄という医師と知り合い、蘭方に興味を持ちます。

そして、京都に日野鼎哉という優れた蘭方医がいることを知り、入門。漢方医でありながら強い向学心で蘭方医術を学び始めます。

ある時良策は、京で鼎哉から一冊の書物を見せられました。それは清国の医書で、種痘のことを記した本でした。

異国では牛も天然痘にかかり、それは牛痘と言いました。牛痘は人間にもうつるのですが、症状は軽く、しかも牛痘にかかった者は天然痘には罹りません。

良策はこの方法なら天然痘を封じ込めることが出来るかもと思いました。

けれども種痘のやり方がわかっても、日本では肝心の牛痘の膿が手に入りません。代用品として、発痘した人のかさぶたを清国から送ってもらおうにも、日本は鎖国している最中ですので、輸入とかはできません。

そこで良策に名案が浮かびました。福井といえば藩主は松平春嶽。幕末四賢候のひとりです。

知識ある春嶽に、国の災厄を退治できる方法だと嘆願すればなんとかなるかもと、嘆願書を出しました。けれども待てど暮らせど返答はありません。

何度となく催促に行くのですが、無のつぶてです。実は受け取った町奉行所の役人が、放置していたのです。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには小説『雪の花』ネタバレ・結末の記載がございます。小説『雪の花』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

その間にも天然痘が大流行し、大勢死んでいきます。

もう正規ルートで対応する役人は当てにならないと思った良策は、福井藩の藩医に働きかけて口利きをしてもらい、何人もの人を伝い、ようやく春嶽の所へたどり着いて種痘の許可がおりました。

春嶽は老中・阿部正弘からの正式な輸入許可もとりつけてくれました。良策は京都で接種にトライすることになりました。ここにくるだけで、すでに良策は40才になっていました。

その頃佐賀藩が独自に種痘に成功していました。良策も京都で接種に成功し、種痘所が開設されました。

大阪からやって来た緒方洪庵にかさぶたをわけてやり、いよいよ念願の福井藩内へかさぶたを持ち帰る日が来ました。

種痘というのは基本的に子供に接種するのですが、子供から子供へと継いでいかなればなりません。

厄介なことにそのタイミングは種痘してから7日目という制約があり、もしもその日に種痘することが出来なければ、種痘は断ち切られてしまいます。

京都から福井までは山越えをして6日か7日かかります。まず京で雇った子供に種痘をし、3日後ちゃんと発痘したかどうか確認をして、すぐに京都を出発。

出発して4日目(種痘をしてから7日目)、子供の腕から痘の膿を取って別の子供に種痘をします。この子を福井へ連れ帰れば、福井藩内に種痘を広めることができるのです。

ところが福井への途中にある険しい山岳地帯は早くも大雪に見舞われていました。種痘のタイムリミットを計算すると、幼児や親もつれて総勢12名で2メートルもある雪の中を進まねばなりません。

しかも子供の親が、やっぱり怖いから子供には接種させないと言い出す始末……。良策はしぶる親をなだめすかし、やっとの思いで福井へ辿り着きました。こうまでして命がけで福井へ着いたのに、天然痘を怖がって子供に種痘させようとはしません。

良策の妻も子供たちに種痘をさせようと親の説得に当たりますが、京や大阪と違い、田舎の福井では、種痘という言葉さえ初めて聞くし、種痘をすれば天然痘にかからないといくら説明しても、信じてくれないのです。

また京都では種痘所を開く手続きを役人がしてくれましたけど、福井藩は何の音沙汰もなく、むしろ白い目で見ています。何度嘆願書を出しても、受け取るだけで協力してくれません。藩医すら良策の邪魔をします。

接種を受けてくれる子供が見つからず、子供探しで良策が町を歩くと「めっちゃ医者が来よった」と石を投げつけてくる有様で、良策は福井の人々から忌み嫌われるようになっていました。

ですが良策が最も恐れていることは、せっかく持ち帰った痘苗が切れてしまうことでしたので、何と言われようと、接種を受けてくれる子供探しに奔走します。

そんな苦労が続き、自分の命を捧げる決意をもして、ついに良策は役人に対する激しい憤りを書いた口上書を提出します。

死に物狂いでとったこの方法が藩に届き、公的な種痘所・除痘館も作られ、ようやくいい方へ向かい出します。

しかし、相変わらず世間の種痘に対する理解は疎く、西洋からの妖術扱いで、種痘を受ける子供はほとんどいませんでした。このままではせっかくの痘苗が絶滅してしまうと、その重大な事実を福井藩の重鎮・中根雪江に訴えます。

中根は驚き、町奉行所に種痘を受ける子供をただちに探すよう命じます。これによって種痘を受ける子供が連れてこられ、良策は難を逃れました。

翌年、再び福井藩内で天然痘が流行しはじめて死者が続出。ですが、種痘した子供は感染をまぬがれていました。それを知った子を持つ親たちは、自分の子供にも種痘をさせようと除痘館に押しかけました。

種痘の効き目が皆に認められると、良策は福井の町だけでなく、遠い地にも種痘医を派遣して種痘をおこなうようになります。

こうした良策の種痘に対する努力は大きな結果を生みます。種痘法は、福井のみならず府中、鯖江、大野、敦賀の各藩につたえられました。また金沢や富山にも痘苗が分けられ、多くの人々を天然痘の害から救いました。

良策は明治3年(1870年)7月、福井の孝顕寺病院医長介兼主務役に任じられ、その後、文部省種痘免許を受けました。

明治7年(1874年)9月、良策は病気療養のため東京の霊岸島越前堀に移住し、明治13年(1880年)8月に72歳で死去しました。

小説『雪の花』の感想と評価

吉村昭原作の『雪の花』は約170ページの実話をモチーフにした短編小説です。江戸時代末期の日本に猛威を振るった天然痘と闘う一人の町医者の生涯を描いています

当時鎖国をしていた日本では、東洋医学が主流でした。医療の最先端をいく西洋の医療を受け入れることは少なく、まして病原菌を体内に入れて免病気に対する疫をつける種痘という医療方法など、みなは怖れてやりたがりません。

天然痘がどんな病気であるか、見たり聞いたりして、その恐ろしさを充分に知っているのに、人々は祈祷やまじないのような民間療法に頼っていました。

一方幕末には、先進的な考えを持った名だたる英雄が数多く歴史に登場します。福井藩主・松平春嶽、薩摩藩主・島津斉彬、土佐藩主・山内容堂、宇和島藩主・伊達宗城の4人も、幕末四賢候と呼ばれる知恵に富み人望厚い藩主たちでした。

その中の一人福井藩主・松平春嶽は、良策の種痘法に感銘を受け奨励をするのですが、部下である奉行所の役人たちが蘭医の種痘を煙たがって協力をしてくれませんでした。

良策は自分の生涯をかけて天然痘を撲滅しようとしますが、それを拒もうといくつもの難関が待っています。最初の難関は、京都から福井へ戻る旅に遭遇する豪雪。次に阻んだのが、人々の近代医療への無知と偏見でした。

福井の方言で天然痘は「めっちゃ」というそうです。天然痘の種痘を勧める良策は、「めっちゃ医者」と人々から怖れられ、嫌われて闇討ちをされたりします。

それでも良策は人々を病魔から救うために、ただひたすら種痘の良さを説いて回ります。いつかこの努力が報われることを信じて……。

日本での天然痘の種痘は、町医の笠原良策が生涯をかけてやり通した偉業でした。どんなお金持ちでも一国の主でも、天然痘に罹れば命を落としていた時代に、良策は一筋の明るさをもたらしました。

金銭も名誉も眼中にはなく、ただ人の命の尊さだけを想って時の藩主を説き伏せ、種痘の広まりに成功した良策がいたからこそ、天然痘が撲滅した現代があると言えます。

こんな影のヒーローとも言える良策の努力を知っている人がどれだけいることでしょう。またその命がけの偉業は、良策一人だけで成し遂げられたのではなく、良策の言葉を信じて協力をした人々がいたことも忘れてはなりません。

ひとつの疫病の種痘が世の中に認められるようになるまでの苦労を、現代に生きる私たちは知っておくべきでしょう。

映画『雪の花 ともに在りて』の見どころ

小説『雪の花』の主人公は、天然痘撲滅に生涯をささげた医師・笠原良策です。タイトルを『雪の花 ともに在りて』とした映画で、医者という職業に誇りと責任をもって種痘にのぞむ良策は、松坂桃李が演じます。

松坂桃李にとって、本作は『居眠り磐音』(2019)以来の時代劇となります。

雪中行軍ともいえる雪山越えを成し遂げたのに、雪よりも冷たい種痘への世間の仕打ちが待ち受け、それに耐える良策を、泥くさく逞しく演じてくれることでしょう。

また京都在住で良策に蘭医学を教える蘭方医は役所広司が演じます。『孤狼の血』(2018)でみせた松坂桃李との息のあったコンビぶりを再び見ることができるのでは、と期待が高まります。

小説と映画では少々タイトルが異なります。あえて、映画のタイトルに「ともに在りて」と付けたところに、小泉堯史監督の映画に対する思惑があるのではないでしょうか

人々を疫病から救いたいという一途な願いは、豪雪の中に咲く美しい花のようにも思えます。

笠原良策は種痘成功のために奔走しますが、京都の日野鼎哉をはじめ、福井藩主の松平春嶽や藩士の中根雪江、それに良策の愛妻など、良策の周囲の人々の助けがあってこの偉業が成し遂げられたのです

良策の必死の思いが次第に周囲の人々に浸透していく様は、本作の見どころと言えるでしょうから、ぜひスクリーンでご覧ください。

映画『雪の花 ともに在りて』の作品情報

【日本公開】
2025年(日本映画)

【原作】
吉村昭:『雪の花』(新潮文庫)

【監督】
小泉堯史

【キャスト】
松坂桃李、芳根京子、役所広司

まとめ

実話を描いた吉村昭の小説『雪の花』をネタバレありでご紹介しました。

世界中に猛威を振るった天然痘という疫病は、歴史を塗り替えてしまうほどの脅威があり、罹れば死ぬか一生消えない傷を持つという怖さを持っています。

そんな疫病が、江戸時代末期において数年おきに日本を襲いました。誰もが指をくわえて見ているしかない病との闘いに、新たな医療方法を習得した笠原良策が果敢に挑みました。

1人の町医が私財をなげうち、生涯をかけて取り組んだ天然痘撲滅への物語をぜひ知って下さい

小説は松坂桃李を主役に迎えて小泉堯史監督が映画化しました。映画『雪の花 ともに在りて』の公開は、2025年1月24日(金)予定です! 


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