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Entry 2023/01/29
Update

『イニシェリン島の精霊』ネタバレあらすじ考察と感想評価。2つの絶縁を言い渡された“パードリックの心情”とは⁈

  • Writer :
  • からさわゆみこ

人間の友情、別離、孤独、悲哀をコミカルかつシニカルに描く

今回ご紹介する映画『イニシェリン島の精霊』は、映画『スリー・ビルボード』で2017年ベネチア国際映画祭で脚本賞、トロント国際映画祭で観客賞を受賞した、マーティン・マクドナー監督の5年ぶりの作品です。

本作も第79回ベネチア国際映画祭で最優秀脚本賞、第80回ゴールデングローブ賞では最優秀作品賞、最優秀脚本賞を受賞しました。

舞台は1923年、アイルランドで内戦に揺れ動く中、紛争などどこ吹く風といった一見のどかで平和なアイルランド諸島の“イニシェリン島”。

この平和な小さい島では島民全員が顔見知り、純朴で陽気な男パードリックは、毎日14時にパブで親友のコルムと他愛のない、楽しい時間をすごすのが日課でした。

しかし、友情を育んできたはずのコルムから、突然の絶交を言い渡され、パードリックは困惑し理解できず、どうして急にそんなことをいうのか“理由”を追究するのですが・・・。

映画『イニシェリン島の精霊』の作品情報

(C)2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

【公開】
2023年(イギリス映画、アメリカ映画、アイルランド映画)

【原題】
The Banshees of Inisherin

【監督・脚本】
マーティン・マクドナー

【キャスト】
コリン・ファレル、ブレンダン・グリーソン、ケリー・コンドン、バリー・コーガン

【作品概要】
パードリック役には『ヒットマンズ・レクイエム』(2008)でゴールデングローブ賞の最優秀主演男優賞を受賞したコリン・ファレルが務め、本作でもベネチア国際映画祭とゴールデングローブ賞で、最優秀主演男優賞を受賞しました。

パードリックの親友だったコルム役には、「ハリーポッター」シリーズでマッドアイ・ムーディー役を怪演したブレンダン・グリーソンが務めます。

ファレルとグリーソンはマーティン・マクドナー監督の『ヒットマンズ・レクイエム』でも共演をしています。

その他の共演は、マクドナー監督作品『スリー・ビルボード』にも出演しているケリー・コンドン、『エターナルズ』(2021)のバリー・コーガンです。

映画『イニシェリン島の精霊』のあらすじとネタバレ

(C)2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

1923年、アイルランド諸島の孤島“イニシェリン島”は、対岸の本土では同じ民族同士の内戦が繰り広げられていますが、完全に蚊帳の外状態で平穏そのものです。

島民のパードリックには無二の親友コルムと、午後2時にパブでビールを飲みながら、他愛もない話をする日課がありました。

パードリックはいつものようにコルムの家に行き、ドアをノックしますが返事がなく、窓から中をのぞき込みコルムに声をかけますが、コルムは煙草を吸って無視しました。

仕方なく家に帰ると洗濯物を干している妹のシボーンが、帰りの早い理由を聞き、とりあえずもう一度、店に行ってみるよう促します。

パブに1人で来たパードリックに、バーテンダーは「コルムは一緒じゃないのか?」と聞きます。もう一度、誘ってみようとパードリックはコルムの家に行きますが、コルムの愛犬しかおらず、窓から1人でどこかへ向かうコルムの姿が見えました。

パードリックがパブに戻るとコルムが来ていました。パードリックが彼の隣に立つと「他へ行け」と冷たくあしらいますが、先にいたのは自分だと反論すると、コルムは外にある座席に移りました。

納得できないパードリックはコルムの前に座り、「僕が何かしたなら教えてくれ」と言葉をかけると、コルムは彼に「何もしてない。ただ、嫌いになった」とそう告げて立ち去ります。

昨日まで仲のよかった友人から絶交を言い渡され、落ち込んだパードリックは家に帰ります。道すがら島の警察官ビーダーに挨拶しますが無視され、その息子ドミニクとも会います。

変った性格の彼は“鉤のついた棒”をみつけたと、パードリックに見せますが、構う気にもなれなれず家に帰ります。

しかし、いつもより帰りの早い兄を怪訝そうに見るシボーンは、めったに訪ねて来ない“マコーミック夫人”が来ていると、不機嫌になります。

マコーミック夫人は2人の両親が亡くなって9年になることに、感慨深げになります。そして、パードリックとコルムが仲たがいしたことに触れました。

夫人は「親友だったんじゃ?」と聞くと「今でも親友だ」と答えますが、夫人は「違うね」と否定します。パードリックは居心地が悪くなり外に出ると、対岸から砲撃音が聞こえてきます。

本土での独立戦争が激しさを増していました。「せいぜい戦え、何の戦いか知らんが」そうつぶやきながら、パブに戻っていきました。

パブに入ると陽気な音楽が流れています。コルムがバイオリン(フィドル)を弾き、客たちと一緒に音楽を楽しんでいました。

ドミニクも店に入ってきますが、彼は4月までパブの出入りが禁止されています。「もう4月になる」と言って気ままに楽しみます。

パードリックは楽しそうな客の輪に入れず、仕方なくドミニクの隣に座り、その様子を眺めていました。

するとコルムがパードリックとの友人関係をやめるとを知ったドミニクは、「12歳の子供かよ」とコルムに絡み和んだ空気を壊してしまいます。

いたたまれなくなったパードリックはドミニクを連れて店を出ます。ドミニクの家に寄り、裸のまま椅子で寝入るビーダーの酒を取って、外で飲み明かすことになります。

シボーンに興味のあるドミニクはパードリックに彼女のことをあれこれ聞きますが、パードリックはコルムからの絶交を受け止められず、それどころではありません。

パブに行かないパードリックはペットのようにしている、ミニロバのジェニーを家に入れて可愛がりますが、シボーンはそのことが許せず苛立ちます。

そしてその苛立ちは理由もなく兄と友人関係を解消したコルムに向き、理由を聞くためパブに行きます。

コルムはパードリックを「やつは退屈な存在」と言います。シボーンはそんなのは以前からわかってるはずで、島の男全員同じだと言い返します。

するとコルムはシボーンに「あんたなら理解できると思うが」と前置きし、余生は音楽や作曲に費やすため、パードリックとのバカ話の時間が無駄なのだと答えました。

以下、『イニシェリン島の精霊』ネタバレ・結末の記載がございます。『イニシェリン島の精霊』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

(C)2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

コルムの態度に納得していないパードリックも、理由が知りたいと迫りますが、作曲に専念する話しをし、無駄話に時間を割かれたくないと訴えます。

さらに「もし話しかけて俺に構うなら、その度に指を1本を切り落とし、おまえにくれてやる」と言いだします。

一緒にいたバーテンも仰天し2人をみつめます。「今から開始だ」と口に指をあて黙るよう合図し、去っていきました。パードリックが呼び止めようとするのを制止し、「あそこまでいうのは本気だ」とつぶやきます。

父親の酒を盗んだことがバレたドミニクが、父親からの暴力でケガをしてパブに来ます。パードリックは彼を一晩家でかくまってあげます。

夕食の時、ドミニクは“ハッタリ”かもしれないから話しかけてみろとけしかけ、シボーンに怒られます。彼女に気のあるドミニクは意味深な質問をして、余計に怒らせてしまいました。

日曜日、島民は教会に行き祈りを捧げます。コルムはパードリックを無視し続けます。そして帰り際パードリックは、神父に何か耳打ちをしてから帰路につきました。

コルムは懺悔室に行き罪を告白しようとしますが、パードリックとの絶交について聞かれます。コルムはそのことが懺悔に値するのか問い、不機嫌になると神父を侮辱し去っていきます。

雑貨店に牛乳の代金をもらいに行ったパードリックは、警官のビーダーといさかいを起こし、ビーダーが息子のドミニクを“やかん”で殴ったと暴露し、逆鱗に触れてしまい殴られます。

さらに痛めつけようとしたビーダーを止めたのが、コルムでした。コルムはパードリックを馬車に乗せ、手綱を操作し途中まで一緒に帰ります。

そしてコルムはパードリックを慰めるように、背中を叩き肩を抱きました。パードリックは思わず涙し、このまま2人の関係が修復するのかと思われましたが……。

コルムの決心は変わっていませんでした。パブで音大の生徒たちとセッションをしたり、作曲の話しをしたりし、パードリックを無視します。

パードリックはやけ酒を煽り泥酔すると、コルムに絡み嫌いなものが“3つ”あると「警官、バイオリン弾き、そして・・・」3つ目がどうしても出てきません。

ドミニクが呼びに行ったシボーンが迎えに来て帰ります。翌日、パードリックは謝罪するためコルムの家に向かいました。しかし、コルムは謝罪を拒否します。

家に帰ったパードリックはシボーンと食事をしていると、外から何かを投げつけられる音がして、外の様子を見に出ます。そこには切断された指が一本落ちていました。

シボーンは大きなショックを受けますが、パードリックはその指が汚れないようにと、箱に入れて保管しようとしました。シボーンはその箱を持ってコルムの家に行きます。

コルムはシボーンに再び「あんたなら理解できると思うが」と前置きしながら、この島にいるべきではないと諭しました。

シボーンは郵便局を兼務する雑貨屋で、手紙を受け取っていました。開封された跡をみつけ激怒します。雑貨屋の女店主が盗み読みし、本土の図書館からの採用通知かと聞きます。

コルムは左手人差し指のない手で、バイオリンを弾き作曲を続けています。パードリックはパブで音楽学校のデクランが、コルムと話しているのを目撃し、激しい嫉妬にかられました。

パードリックは道でどこかへ向かうデクランをみかけ、馬車に乗って行くかと声をかけます。彼は喜んで馬車に乗りますが、パードリックは見かけない顔だがデクランか確認します。

港でデクランを捜すよう言われたと話し「君の父親が車にはねられた」と嘘をつきました。彼を島から追い出しコルムから引き離すためです。

パードリックはパブでそのことをドミニクに得意げに話します。ドミニクの反応は予想に反し、パードリックだけは他の島民と違い“意地悪”ではないと思った・・・と幻滅します。

帰り道パードリックはマコーミック夫人を見て、石垣の影に隠れ通り過ぎるのを待ちました。夫人は通り過ぎるふりをして、立ち上がった彼に「島に二つの死がおとずれる」という予言を伝えます。

その晩、パードリックはベッドでシボーンがすすり泣くのを聞き、何かあったのか聞きますが、彼女が何でもないと答えると、パードリックはそれ以上は何も聞きませんでした。

朝もやに煙る湖畔にシボーンが佇んでいました。彼女は靴を脱いで立っています。湖の対岸にはマコーミック夫人が手を振っているように見え、シボーンもそれに答え手を振ります。

マコーミック夫人は手を振っているのではなく、誰かを手招きしているようでした。すると背後からドミニクが現れてシボーンに声をかけます。

彼は一か八かにかけて言いたいことがあると、シボーンに愛を告白しプロポーズしました。しかし、シボーンはその申し込みをやんわりと断ります。

ドミニクはがっかりしつつも、予想はしていたと言いながら「あっちの方に用があるから」と岸に沿って去っていきました。

(C)2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

そして、シボーンはパードリックに島を出ると告げます。パードリックは激しく動揺して、これからの生活をどうしていけばいいのかと嘆きます。

島での生活に耐えきれなくなったと訴えるシボーンは、トランクに荷物をまとめはじめます。パードリックはたまには帰ってくるよう、未練がましく言いますがシボーンは首を縦には振りませんでした。

崖の上からシボーンの乗る船に手を振りながら見送るパードリックがいました。パードリックはジェニーをはじめ、家畜を家の中に入れ寂しさを紛らわせます。

島一番の馬鹿と呼ばれているドミニクにさえ嫌われ、唯一の味方だったシボーンすらも自分の元から去るという現実に、パードリックはふっ切れたかのように、コルムの家へ向かいました。

コルムは浜辺にいました。パードリックが曲はできたか訪ねると、完成したと答え”イニシェリンの精霊”という題に決めたと話します。

そして、この曲を「お前の葬式で演奏することにならなきゃいいが」と、冗談とも本気ともとれないことを言います。

2人は和解に向かうのか・・・?と思わせる雰囲気になりますが、パードリックはデクランに嘘をつき、島から追い出したことを告白し、再び険悪な空気になります。

パードリックは帰宅する途中、ビーダーに呼び止められ、またドミニクをかくまっているのかと、恫喝し殴りかかろうとしますが、そこにマコーミック夫人が現れ、ビーダーを手招きします。

夫人は湖畔に連れて行き、鈎の付いた棒で何かを引き寄せます。それは水死体となったドミニクでした。

パードリックが去った後、コルムが部屋に入ると愛犬が“毛切りハサミ”を咥えて外に出ました。コルムは犬に微笑みかけ、その毛切りハサミを取り上げます。

コルムは険しい顔をしてパードリックの家に向かいます。そして、無言で切断した指を投げつけます。彼の左手の指は全てありませんでした。

帰宅したパードリックは家畜たちの様子がおかしいことに気づき、ふと地面に目をやると指が落ちていました。

血痕をみつけ家の周りを見て歩くと、他にも落ちていて家の脇を回った時、ロバのジェニーが倒れているのをみつけます。ジェニーはコルムの指を誤飲していました。

コルムは指を失いながらも、パブで音楽仲間と“イニシェリン島の精霊”を演奏します。そこにパードリックが乗り込み、コルムの指をのどに詰まらせジェニーが死んだと責めました。

パードリックは「明日の2時におまえの家を燃やす」と宣告し店を出て行きました。パードリックは庭にジェニーを埋め、絶望に打ちひしがれながら眠ります。

宣言通り、パードリックはコルムの家に行き、火を放つとたちまち燃え広がります。家の中で椅子に座ってうなだれているコルムを見て、パードリックは去っていきました。

シボーンは兄に手紙を送りました。本土は親切な人ばかりで、毎日が輝いていると伝えます。そして、“手遅れ”にならないうちに、本土で一緒に暮らそうと綴っていました。

翌朝、コルムの家は跡形もなくなっていました。そして、コルムは逃げ出して無事でした。浜辺に立っているコルムのところにパードリックが近寄ります。

コルムが「そういえば砲弾の音が聞こえなくなったな」といい、内戦が終戦したことを予感させました。そして、「これであいこだ。終わりにしよう」と言います。

しかし、パードリックはコルムが生きてる間はあいこではないと言い、「終わらない方がいい戦いもある」と告げました。焼け焦げた椅子に座ったマコーミック夫人がみつめています。

映画『イニシェリン島の精霊』の感想と評価

(C)2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

映画『イニシェリン島の精霊』は1923年4月頃が舞台です。作中で聞こえる砲弾の音は1922年6月から1923年5月に勃発した、アイルランド内戦を暗喩しています。

アイルランド共和国は独立を求め、統治国家イギリスに敵対していました。1921年アイルランド自由国を建国しますが、北アイルランドはイギリスの統治下になりました。

アイルランド内戦はこのことへの反発で始まりました。つまり、去年までは同一の敵と闘っていた仲間が、敵国に寝返ったような形になったことへの反発です。

ある日、昨日まで友好的だったコルムから突然、絶交を言い渡され戸惑うパードリックの関係をこのアイルランド内戦と重ね合わせて演出しました。

マーティン・マクドナー監督は自らのルーツである、アイルランドの精神を映画にしたいと脚本を手掛けたと語ります。

アイリッシュ・パブ、フィドル(バイオリン)、ケルン十字などと共にアイルランドに古くから言い伝えられている、死の預言者“バンシー”を登場させ、架空の島“イニシェリン”に神秘的な世界観を創り上げました

パードリックが言い渡された二つの“絶縁”

(C)2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

劇中パードリックの妹シボーンは「この島の人間は全員“退屈”よ!」と、コルムに突っかかる場面があります。

この物語の発端ともいえるコルムのパードリックに対する絶交の発端です。日常生活が単調で、刺激的な出来事が少ない孤島の特性が影響していました。

島民は島以外での生活は考えられないが、外部で起きているゴシップネタには貪欲で、時々入ってくる情報が唯一の娯楽と言っても過言ではありません。

コルムはことあるごとにシボーンに「おまえさんなら理解できる」と言います。シボーンはこの退屈な島で唯一、読書だけを楽しみにしていました。

恐らく島で一番の秀才で本土で学び、本土で職に就き暮らしていましたが、両親の死をきっかけに島へ戻り、兄の世話をするようになったのでは?と推測できました。

本土への憧れは消えず、一生をうだつの上がらない兄の世話で終わるのかと考えた時、本土へ戻る準備と決心に繋がったのだと考えることができるでしょう。

コムルもまたフィドル奏者として、世界を旅していたのでは?と彼の家にあった郷土品から推察できます。

パードリックと年齢差があることは見て取れ、コムルが人生の総仕上げに入っていたとわかります。

世界を見てきたコムルが晩年に入り、故郷のイニシェリン島に戻り、素朴な青年パードリックと仲良くなったのだろうと推測できます。

しかし対岸での内戦を鑑みながら、いつ終えるともわからない命と向き合い、自分の生業であったフィドル演奏に再び目を向けたのでしょう。

何かを成し遂げたくなったのだと考えると、生産性のないパードリックとの会話は無駄でしかないと感じたのだと察します。

パードリックはコルムの言い分を“自分勝手”だと言いました。しかし、本当に自分勝手なのはパードリックであり、自分の中の小さな世界ではコルムの気持ちは一切理解できません。

妹を生活の便宜上必要としているだけですし、コルムの才能や知性の深さもわからず親友だと思い込み、ただの暇つぶしの相手としか見ていません。

向上心もなく“いい男”という取柄しかないパードリックはこうして、唯一無二の友人と妹から見放されていきました

シボーンは因習深い孤島は人を卑屈にするとわかっていて、兄を本土に来るよう誘いました。しかし、その予感通りパードリックは“卑屈”になり、コルムとの関わりを“敵対関係”にすることで繋ぎ止めます

死の預言者“バンシー”の存在について

原題になっている「Banshees」はアイルランド語で、Banは“女性”、sheesは“妖精”という意味です。“バンシー”は死の預言者として、アイルランドやヨーロッパの一部で言い伝えられています。

死が近い人がいる家にそれを伝えると言わせる妖精で、死神のように死を与えるものではありません。

アイルランドには旧家に固有のバンシーがいて、故郷を離れて暮らしている者にも、一族の死を伝えたといわれています。シボーンは本土に暮らしていたころ、このバンシーから両親の死を伝えられたのかもしれません。

シボーンは湖畔で裸足になり泣いていました。マコーミック夫人が彼女を訪ねた晩、何か予言を残したのでしょうか?それはパードリックが聞いた予言と同じでしょうか?

「島に二つの死がおとずれる」という予言を“パードリックの死”と解釈し、絶望して自死しようとしていたとすれば“二つの死”は成立しますが、実際はミニロバのジェニーとドミニクの死でした。

生活する上で頼りにしていたコルムとシボーンが去り、ある意味、素朴な者同士だったドミニクとジェニーの死は、パードリックの心身にとって大きな痛手となります。

コルムが指を落としていく理由も、彼にとって命ともいえる指を失うことも、死に値すると思います。彼はその指をかけてやり遂げたいことがあると、パードリックに伝えたかったのでしょう。

浜辺のコルムとパードリックをみつめる、バンシーのマコーミック夫人の姿が、2人の人生に暗い影を落としているように見えました。

まとめ

(C)2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

映画『イニシェリン島の精霊』は現代社会のコミュニティーでも見られる、人間関係の縮図がありました。

SNSというインターネット上の孤島ともいえるその場で、繰り広げられる人間関係にも似ていないでしょうか?

楽しくコミュニケーションをとっていた相手が突然消えてしまったり、拒否(ブロック)したりする現象です。確たる理由があることもありますが、実はある程度時間をかけたコミュニケーションの果てに、「もう限界」という瞬間が突然起こるのです。

この映画は単に人間関係の突然の変化を、アイルランド内戦に重ね合わせただけでなく、ふと自分にとって、有意義な時間を与えてくれているのか?そんな取捨選択の意識が働き、友好関係を切ってしまうことがあるという、人間の摩訶不思議さを伝えていました。

映画『イニシェリン島の精霊』は「昨日の友は、今日の敵」のような極端さは、実は珍しくなく誰にでも、コルムやパードリックのような一面があるのだと、気づかせてくれる作品でした。





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