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Entry 2020/08/26
Update

映画『ポルトガル、夏の終わり』ネタバレ考察とラスト解説。ロメールや清水宏のヴァカンス映画を彷彿させる

  • Writer :
  • 西川ちょり

世界遺産の街で、家族が過ごす最後の夏

映画『ポルトガル、夏の終わり』が2020年8月14日(金)より、全国順次公開されています。

ポルトガルの世界遺産の街・シントラに家族を呼び寄せた女優、フランキー。美しく幻想的なその街で、フランキーと家族のそれぞれの過去、現在、未来が浮かび上がります。

イザベル・ユペールがフランキーを演じ、『人生は小説よりも奇なり』(2014)のアイラ・サックスが監督を務めています。

映画『ポルトガル、夏の終わり』の作品情報


(C)2018 SBS PRODUCTIONS / O SOM E A FÚRIA (C)2018 Photo Guy Ferrandis / SBS Productions Productions

【日本公開】
2020年(フランス、ポルトガル合作映画)

【原題】
Frankie

【監督】
アイラ・サックス

【キャスト】
イザベル・ユペール、ブレンダン・グリーソン、マリサ・トメイ、ジェレミー・レニエ、パスカル・グレゴリー、ビネット・ロビンソン、アリヨン・バカーレ、グレッグ・キニア、セニア・ナニュア、カルロト・コッタ

【作品概要】
女優である母親の呼びかけで、ポルトガルの世界遺産の町シントラに家族旅行として集まってきた人々の姿を描くヒューマンドラマ。

監督は『人生は小説よりも奇なり』(2014)のアイラ・サックス。イザベル・ユペールが主人公の女優、フランキーを演じた。

第72回カンヌ映画際コンペティション部門正式招待作品。

映画『ポルトガル、夏の終わり』あらすじとネタバレ


(C)2018 SBS PRODUCTIONS / O SOM E A FÚRIA (C)2018 Photo Guy Ferrandis / SBS Productions Productions

ポルトガルの首都リスボンの近郊都市シントラ。ホテルのプールで、水着姿で泳ぐフランキーは高名な女優です。

彼女の姪であるマヤが「人に見られて、写真を撮られるよ」と心配して声をかけますが、フランキーはどうじません。

ポルトガル王家の夏の避暑地として愛され、世界遺産にも指定されているシントラは、風光明媚で神秘的な街として知られています。

フランキーは、その街に、家族や友人を呼び寄せていました。夫のジミーと元夫のミシェル。ミシェルとの間に生まれた息子のポール。ジミーの連れ子の義理の娘シルヴィアとその家族という顔ぶれです。

皆は家族旅行だと思っていましたが、フランキーは一人だけ家族以外の女性を招待していました。ヘアメイクアップアーティストのアイリーンです。

フランキーは密かに、ニューヨークに行くという息子のポールとアイリーンをくっつけようと考えていました。しかし、アイリーンはカメラマンの男性ゲイリーを同伴していました。

ゲイリーは、ホテルに着くや、アイリーンにプロポーズします。しかし、彼の結婚後の一方的な計画はアイリーンの心に響きません。アイリーンははっきりと意志表示をせず、街の見学に出かけようと彼を誘いました。

義理の娘シルヴィアは、結婚生活に問題を抱えていました。これまで何度も夫と別れようとしましたが、そのたびに思いとどまってきました。しかし、もうこれ以上、我慢することができません。

娘と2人で暮らすための物件を探しており、隠れて電話をしている母に、マヤは何をこそこそしているの?と尋ねます。

シルヴィアの娘マヤは母の気持ちに気づいていました。離婚してほしくないマヤは怒って一人で「リンゴの浜」という海水浴場に出かけていきました。

途中の電車の中でマヤは一人の同世代の少年と知り合いました。彼の両親は離婚したそうですが、幼いころは、毎夏、家族で「りんごの浜」を訪れたそうです。

今はポルトに住んでいるという彼は、サッカーがきっかけでシントラに住む友人ができ、懐かしい故郷に帰ってきたのでした。マヤと少年は口づけを交わしました。

フランキーの夫、ジミーはホテルのカフェの店員に、泣きはらした目をしていることを見破られていました。

実は、フランキーは病に侵されており、もうあまり長くないと言われていたのです。

そんな彼に元夫のミシェルが声をかけます。ミシェルはフランキーから離婚を求められたときはとても驚きショックだったと言います。

離婚後、彼は自分がゲイであることに気が付きました。彼はジミーに語ります。「フランキーの後は、物事が変わる。人生が変わるんだ」

突然雨が降り、あずまやで雨宿りをしていたフランキーのところに、アイリーンとはぐれてしまったゲイリーが駆け込んできました。

ゲイリーはすぐにフランキーに気が付いて挨拶をし、アイリーンにプロポーズしたことを報告しますが、フランキーは彼の独善なところに気が付きます。アイリーンの良いところを並べて述べたあと、フランキーは小雨になったからとその場を離れました。

ポールは、恋愛も仕事もうまくいっていませんでした。ポールは、母がもう相当悪いことも聞かされていました。

少しばかり、彼はパリの家の相続をあてにしていたのですが、フランキーは家を処分したお金は俳優養成の奨学金に使うと言い、彼を落胆させます。

ゲイリーほホテルに戻っていたアイリーンに、リスボンに行くと言い、旅立っていきました。彼は、フランキーとの会話で、アイリーンには受け入れてもらえないことを悟ったのです。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『ポルトガル、夏の終わり』ネタバレ・結末の記載がございます。『ポルトガル、夏の終わり』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。
その後、アイリーンはフランキーと偶然山中の道路で出逢います。再会を喜んだのもつかの間、フランキーは突然意識を失い倒れてしまいます。

しばらくして気がついたフランキーとともに、アイリーンはゆっくり下り坂を歩いていました。フランキーは、病気のこと、もう長くないことを告げます。

アイリーンは目に一杯涙をため、フランキーと抱き合いました。フランキーはアイリーンに「探す前に発見せよ」という言葉を贈るのでした。

アイリーンとポールはフランキーが2人をくっつけようとしていることを知りましたが、ポールは昔話を彼女に聞かせるだけでした。

ホテルのベッドで静に眠っているフランキーをジミーは優しく抱きしめました。

マヤが電車で帰ってくると、駅には父だけでなく母も迎えに来ているのが目に入りました。彼女は、母の元に走っていき、思わず抱きついていました。

夕刻になり、フランキーは山頂に向かって歩き始めました。山頂で集合をかけていたのです。

フランキーは山をあがってくるアイリーンとジミーが仲睦まじく話している姿を振り返ってじっと見ていました。

そんな彼女の姿を一足早く山頂に登っていたミシェルが双眼鏡で眺めていました。

一人、また一人と家族たちが集まってきました。彼らはそれぞれゆっくりとユーラシア大陸の西の果ての海に面する岬へと向かいました。

素晴らしい日没の風景をたっぷり目におさめ、彼らは、ひとり、またひとりと下山していきました。

映画『ポルトガル、夏の終わり』感想と評価


(C)2018 SBS PRODUCTIONS / O SOM E A FÚRIA (C)2018 Photo Guy Ferrandis / SBS Productions Productions

アイラ・サックス監督の前作『人生は小説よりも奇なり』(2014)はニューヨークを舞台としていましたが、本作の舞台はポルトガルの世界遺産の街、シントラを舞台としています。ポルトガル王家の夏の避暑地として親しまれ、イギリスの詩人バイロンが「この世のエデン」と呼んだ、それはそれは美しい街です。

イザベル・ユペール扮する女優のフランキーは、この地に家族を呼び寄せます。実は彼女は病を患っていて、もう長くないのですが、それは物語の中盤にさりげなく明かされます。集まってくる家族も、知らされている人とまだ知らされていない人がいるようです。

何か特別な事が起こるわけではありません。今を生きるのに懸命な若い世代と、生と死の間で揺れ動く老年を迎えた親世代が、それぞれの想いを胸にしながら、この美しく瑞々しい、シントラの大地をゆっくりと彷徨うだけといってもいいのですが、自然、人生、家族というものを捉える映画の眼差しが、観る者の心に暖かく染み渡って行きます。

『人生は小説よりも奇なり』は、長年連れ添った熟年同性カップルが念願の挙式をあげたものの、失業や、保険、年金などの問題が重なって、同居していたアパートを離れなくてはならなくなり、別々に親族の家に居候することになってしまうという物語でした。

親族たちにもそれぞれの生活があり、彼らは肩身の狭い思いを強いられます。「これって、ニューヨーク版『東京物語』では⁈」という印象を受けたのを覚えていますが、それもそのはず。アイラ・サックス監督は、小津安二郎に非常に造形の深い監督なのでした。

今回は、ヨーロッパの海に面した街を舞台にしたことで、エリック・ロメールを徹底研究したそうです。

確かに姪の海辺でのエピソードは『海辺のポーリーヌ』(1983)を、ラストは『緑の光線』(1986)を彷彿させますが、どことなく、日本映画的な雰囲気も感じ取ることができます。もしかしたらアイラ・サックス監督は清水宏の『按摩と女』(1938)や『簪』(1941)といった“古き日本のヴァカンス映画”にも造形が深いのではないかと想像をたくましくしてしまいます。

まとめ


(C)2018 SBS PRODUCTIONS / O SOM E A FÚRIA (C)2018 Photo Guy Ferrandis / SBS Productions Productions

イザベル・ユペールは、ポール・ヴァーホーヴェン監督の『エルELLE』(2016)や、ニール・ジョーダンの『グレタGRETA』(2019)など、強烈な印象を残す作品群と、『間奏曲はパリで』(2013/マルク・フィトシ)やミア・ハンセン=ラブの『未来よこんにちは』など、知的で可愛らしささえ感じさせる作品群という、ある意味両極端なジャンルを自在に横断しています。

本作ではイザベル・ユペールは「女優」役として登場します。「女優・フランキー」も数々の幅広い作品に出演してきたであろうと想像させます。

品のあるたたずまいを見せるフランキーは実は病を患い、もう長くないという宣告を受けています。家族を集めたのもこれが皆で集まれる最後の機会だろうと確信してのことでしょう。そんな彼女は、ある意味、演出家のように家族に影響を与えていきます。

もっとも、彼女が目論んでいた息子への恋のキューピッド計画はまったくのからぶりに終わってしまいます。人間、特に家族の気持ちなんてままなりません。けれども、その目論見は違った形で現れ、フランキーは、遠くない未来の姿を山の上から目撃することとなります。

ラスト近く、2人で話をしている人物の様子をじっと見ているフランキー。その視線で観客は、「結婚の泉」の水を飲んでいた人物が誰だったかを思い出すことになります。彼らはただ喉が渇いて飲んでいただけのように見えたのですが。なんと巧みな構成なのでしょうか。

映画は世にも美しいエンディングへと続いていきます。はるか頭上から定点で撮られた奇跡のような映像には誰もが魅入ってしまうことでしょう。

本作は、アイラ・サックスの『人生は小説よりも奇なり』に惚れ込んだイザベル・ユペールがラブコールを送り、アイラ・サックスがユペールのために脚本を描き下ろし、制作された作品です。

アイラ・サックスとイザベル・ユペールの見事なアンサンブルを観た思いです。

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