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映画『犬猿』あらすじネタバレと感想。ラスト結末も【吉田恵輔作品】

  • Writer :
  • 馬渕一平

『ヒメアノ〜ル』の吉田恵輔監督が約4年ぶりとなるオリジナル脚本を映画化!

窪田正孝、新井浩文、「ニッチェ」の江上敬子、筧美和子ら異色の組み合わせが果たしてどのような化学反応を起こすのか?

兄弟姉妹という不思議な関係性を描いた意欲作。

2月10日(土)よりテアトル新宿ほかにて全国公開中の映画『犬猿』をご紹介します。

1.映画『犬猿』の作品情報


(C)2018「犬猿」製作委員会

【公開】
2018年(日本映画)

【脚本】
吉田恵輔

【キャスト】
窪田正孝、新井浩文、江上敬子、筧美和子、阿部亮平、木村和貴、後藤剛範、土屋美穂子、健太郎、竹内愛紗、小林勝也、角替和枝

【作品概要】
監督は『さんかく』(2010)『ヒメアノ〜ル』(2016)などで注目を集める吉田恵輔。

『麦子さんと』(2013)以来、約4年ぶりとなるオリジナル脚本の映画化!

真面目な弟・和成に窪田正孝、凶暴な兄・卓司に新井浩文、賢すぎる姉・由利亜にお笑いコンビ「ニッチェ」の江上敬子、おバカな妹・真子に筧美和子を起用。

本作の主題歌を担当するのは、ロックバンド「ACIDMAN」。

かねてよりACIDMANのファンであったという吉田監督からのオファーを受け、大木さん(Vo,G)が映画のために「空白の鳥」を書き下ろしました。

兄弟姉妹という不思議な関係性に焦点を置いた新たな家族ドラマは、一体どのような物語を生み出すのでしょうか。

2.映画『犬猿』のあらすじとネタバレ


(C)2018「犬猿」製作委員会

和成は車のカーナビで恋愛映画のCMを冷めた目で見ていました。

そのCMにはタレント活動を行っている真子の姿が。

営業周りをしていた和成は隣に駐車していた男から因縁をつけられます。

その男は和成を脅して金をたかろうとしていましたが、同乗する子分が和成は卓司の弟であることに気付きました。

慌てた様子の男は、兄の卓司には黙っているように頼み、その場を立ち去ります。

兄の卓司は強盗の罪で服役し、最近出所していましたが暴力的な兄を嫌う和成は関わることを避けていました。

小さな印刷所の社長として働く由利亜は担当営業の和成に対して仄かに恋心を抱いています。

そこでは妹の真子が社員として働いていますが、仕事も出来ず頭の悪い妹のことを由利亜は見下していました。

和也が仕事から家に帰ると出所したばかりで仕事と金の無い卓司の姿が。

金がないはずの卓司は知り合いが経営しているキャバクラに和成を連れていきます。

その店の店長は卓司が強盗で捕まった時に話を持ちかけてきた人物で、卓司は警察に通報して自分を裏切ったのではないかと疑っていました。

卓司は今日の会計は全てタダにしろと凄み、一緒にいたボディガードの男をボコボコにします。

和成が前に車のことで因縁を付けられた相手のことを話すと、卓司はその男にも暴力を振るい、復讐の証拠写真を和成に送ってきました。

和成の事をデートに誘いたい由利亜でしたが上手くいかず、それを見ていた真子がフォローして3人で一緒に食べに行くことに。

3人でステーキを食べていると和成の携帯に卓司から電話が掛かってきました。

家の鍵を取りに行くために卓司が店にやって来て、そこで4人が初顔合わせしますが、兄のことを嫌う和成は居心地がとても悪そうでした。

ある日、和成は無茶な仕事の依頼を由利亜になんとか出来ないかと頼みにいきます。

由利亜は仕事を頑張ったご褒美として二人でどこか一緒に出掛けてくれるならと条件を出し、和成はそれを快諾しました。

仕事は無事間に合い、和成と由利亜は二人きりでデートに出掛けます。

由利亜はとても楽しそうでしたが、和成はあまり楽しそうではありません。

由利亜は和成から誕生日プレゼントとして赤い菊の花が刺繍された手ぬぐいをもらいます。

家に帰って赤い菊の花言葉を調べ、それが「あなたを愛してます」だと知り、由利亜は狂喜乱舞。

卓司は新しく始めた事業が大成功。高級外車を乗り回し豪華な部屋に住み高い食事を楽しむ豪勢な暮らしをしています。

父親が借金の連帯保証人になったせいで和成は毎月両親にお金を渡していましたが、その借金も卓司が一括返済。

安い給料でコツコツお金を貯めている和成は兄の成功を疎ましく思っています。

関係を発展させたい由利亜がそれとなく和成に彼女の有無を尋ねると、和成は真子と付き合っていると答えました。

そのことを知らなかった由利亜は真子に対して嫉妬し、姉妹の関係はより悪化。

今までは和成の無茶な仕事の依頼に対しても優しい対応をしていた由利亜ですが、その態度も急変します。

一方、女優として成功したいと焦る真子は仕事を取るために業界関係者とホテルにいるところを卓司に見られてしまいます。

真子は和成には黙っていて欲しいと卓司に頼み、その場を逃げるように後にしました。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『犬猿』ネタバレ・結末の記載がございます。『犬猿』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。
卓司の事業は違法ドラッグを扱っていたものだったため、卓司は警察に追われ姿を消します。

和成は真子に対し、兄の転落ぶりをどこか嬉しそうに語っていました。

しかし案の定、卓司は和成を再び頼って家を訪ねてきたため、嫌々ながら和成は兄を家に匿います。

そして、印刷所の営業担当が和成から別の人に変わったことで由利亜は半ばストーカー化し、和成の携帯に電話を何度もかけ、家にも押しかけます。

叔父と叔母が家を訪ねてきている時に、真子は彼氏から結婚の話が出ていると、ワザと由利亜に聞こえるように言いました。

由利亜は仕返しのため、真子が行った過激なグラビア撮影の映像を皆に見せます。

それに気付いた真子は慌ててテレビを消し、由利亜に対して怒りをぶちまけました。

由利亜と真子は大喧嘩になり、取っ組み合いに発展。

一方の卓司と和成も、卓司がタバコの火を消し忘れて家の壁とソファを燃やした事をきっかけにして大喧嘩に。

卓司は怒りのため約束を忘れ、つい真子の枕営業について和成に明かしてしまいました。

和成も強盗事件を警察に通報したのは自分だと卓司に明かします。

怒りを鎮めるため、和成は家から出ていきました。

真子も同じように家から飛び出します。

和成は真子に電話を掛け、枕営業の事実を確認し、真子は泣いて謝りました。

和成が出ていき一人部屋に残された卓司の元に、卓司がボコボコにした男たちが集団で復讐にやってきます。

取り押さえられた卓司は刃物によって首筋を切られ、大量の血が流れ出します。

卓司が首の傷口を押さえて部屋で座り込んでいるところに、和成が帰ってきました。

和成は慌てて救急車に連絡をしようとしますが、ふいにこのまま何もしなければ兄は死ぬに違いないと考えます。

そのまま外に出て道を歩き出す和成。

一方、真子が家から帰ると由利亜が左手の手首を切って血を流しながら床に座り込んでいます。

真子は意識が朦朧とした様子の由利亜に泣きつきながら、救急車を呼んで一緒に乗り込みました。

道を歩いていた和成でしたが心が抑えきれず、来た道を駆け戻りながら近くにいる人に救急車を呼ぶように訴えます。

和成も卓司と一緒に救急車に乗り込みました。

2台の救急車はそれぞれ兄弟と姉妹の想いを乗せながら、同じ病院を目指します。

卓司と由利亜はどちらも一命を取り留めました。

次の日、4人が屋上で楽しそうに話していると、卓司の元に警察がやって来ました。

それからしばらくして、服役している卓司の面会に訪れた和成は、兄のために仕事を紹介してあげようとしていましたが、ちょっとしたことでまた不穏な空気に。

仲直りしたかに思えた由利亜と真子もまた、ふとしたきっかけで険悪なムードに。

血の繋がったそれぞれの兄弟姉妹はこれからも仲良く、時に喧嘩しながら共に生きていきます。

4.映画『犬猿』の感想と評価


(C)2018「犬猿」製作委員会

兄弟姉妹。親子とはまた違った独特の血縁関係の可笑しさや鬱陶しさやありがたさを描いた本作。

吉田監督作で随所に出てくる登場人物たちへの意地悪な目線がこの作品内でも多く見られ、彼らを徹底的に追い込みます。

姉妹映画でもあった『さんかく』、そして自身の体験を反映させた『ばしゃ馬さんとビッグマウス』

この二つの過去作に見られた要素に、『ヒメアノ~ル』で培った不穏描写をミックスさせたような作風でした。

基本的には笑える会話シーンがその多くを占めますが、時に胸が締め付けられるほどに切ないシーンや人の闇を感じさせる不穏なシーンが挟まれ、作品としての密度はとても高いです。

特にラストの卓司から出てくるある言葉は兄弟が実際にいる方は本当に号泣必至。

要するに吉田監督は、前作『ヒメアノ~ル』に続いてこれまたとんでもない傑作を作り上げました。

吉田作品に登場するキャラクターはいずれも人間臭いのが特徴です。

人によって接する態度を変えてしまうことだったり、自分のプライドを保つために周りの人を攻撃したり、思い込みで取ってしまう傍から見れば痛い言動であったり。

他人からは絶対に見られたくない人間の持つズルさや愚かさまでも、カメラを通して観客にキッチリ伝えます。

しかしそこには、人間とは欠点ばかりのどうしようもない生き物であるという諦観が流れているわけではありません。

そんな人生が上手くいかない人々を見つめる視線は決して突き放したものではなく、あくまで優しく寄り添ったものです。

個人的にこの資質は『ぐるりのこと。』や『恋人たち』で知られる橋口亮輔監督に近いものを感じています。

元々は上手い役者を揃えて、ロマン・ポランスキーの名作『おとなのけんか』のような四つ巴の会話劇を作りたいという想いから脚本作りをスタート。

上手い役者と飛び道具的な人を合わせることを得意とする吉田監督。

その効果が今回も非常に上手く機能していて、主演4人はいずれも素晴らしい演技を披露していました。

兄の卓司を演じた新井浩文は凶暴性をさらりと表現しながら、どこか憎めないキャラクターを見事に作り上げています。

特に江上敬子が演じた由利亜との絡みはいずれも最高に笑えるので必見です。

弟の和成を演じた窪田正孝は真面目ながら内に狡猾さを秘めた難しい役柄を演じ切っています。

現在放送中のドラマ『アンナチュラル』でも好演していますが、イケメン枠などではなく演技派として大いに注目していきたい俳優です。

飛び道具として期待された芸人の江上敬子とタレントの筧美和子は、上記の俳優二人と同じレベルとまでは言いませんが、とても役にハマっていました。

特に若い頃の藤山直美をイメージして当て書きされたという由利亜役の江上敬子は、映画初出演でこれだけ素晴らしい演技を見せたので、これからもっともっと俳優の仕事が増えていくのではないでしょうか。

筆者自身も上と下どちらもいるので兄弟の関係というものの不思議さはよくわかっています。

大好きという感情、鬱陶しさ、ある種の嫉妬、上から見下される感じ、本当に全部あります。

私も経験がありますが、なぜか偶然全く同じ服を買ってきたりするんですよね。

そのあたりの兄弟あるあるも上手く描かれていました。

今は原作ものばかりなので、オリジナルの脚本を書ける映画監督は非常に貴重です。

笑えて切なくて泣ける、超一級の兄弟姉妹ドラマをぜひ劇場でご堪能ください。

まとめ


(C)2018「犬猿」製作委員会

兄弟姉妹を扱った作品だと最近では、ウディ・アレン監督作『ブルージャスミン』に是枝裕和監督作『海街diary』やジョン・カーニー監督作『シング・ストリート 未来へのうた』などがありました。

本作も新たな兄弟姉妹映画の名作として間違いなく名を刻むことでしょう。

吉田監督の次回作は今年の秋に公開予定、『ワールド・イズ・マイン』などで知られる新井英樹の漫画を始めて映像化した『愛しのアイリーン』です。

映画作家として一つ上のレベルに上がった感のある吉田監督が再び原作ものに挑戦するとのことで、今から楽しみでなりません。

※吉田監督の「吉」は「土よし」。

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