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Entry 2021/02/03
Update

韓国映画『夏時間』あらすじ感想と解説評価。ユンダンビ監督が描く“日常生活”という印象深い描写が胸を熱くする

  • Writer :
  • 桂伸也

映画『夏時間』は2021年2月27日(土)より全国順次ロードショー!

三世代家族の何気ない日常の風景から、世代を通した理解を問う映画『夏時間』。

とある一家の、夏のひと時の風景から韓国の『今』を描いたこのドラマ。本作を手掛けたユン・ダンビ監督は長編デビュー作となった本作により、数々の映画祭で多くの賞を受賞しました。

観客からは「2020年、最も期待できる映画」との口コミも受けており、ユン監督は才能あふれる新人女性監督の台頭が目覚ましい韓国映画監督の一人として名乗りを上げました。

また主演を務めたチェ・ジョンウンも新人ながら、繊細に揺れ動く少女の心情を見事に表現し、今後の活躍を大いに期待させるデビューを果たしました。

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映画『夏時間』の作品情報


(C) 2019 ONU FILM, ALL RIGHTS RESERVED

【日本公開】
2021年(韓国映画)

【監督・脚本・製作】
ユン・ダンビ

【キャスト】
チェ・ジョンウン、ヤン・フンジュ、パク・スンジュン、パク・ヒョニョン、キム・サンドン

【作品概要】
韓国のとある一家の日常を舞台に、母親の家出を機に祖父のもとへ残された家族と共に越してきた少女が、その生活を通して家族らとの関係を見つめる姿を描きます。

本作はプサン国際映画祭で韓国映画監督協会賞及び市民評論家賞、NETPAC(アジア映画振興機構)賞、KTH賞を受賞。さらにロッテルダム国際映画祭で Bright Future 長編部門、第45回ソウル独立映画祭で新しい選択賞、第8回ムジュ山里映画祭で大賞(ニュービジョン賞)と、数々の映画祭で多くの賞を獲得しました。

作品を手掛けたのは、本作が初長編作品となるユン・ダンビ監督。主演は長編作品初出演となるチェ・ジョンウンのほか、2020年にヒットした韓国ドラマ『愛の不時着(2019)』にも出演したパク・スンジュン、映画、舞台と幅広く活躍するヤン・フンジュ、『カンウォンドの恋』(1998)『Duck Town』『Cinema with you』などの韓国インディーズ作品に立て続けに出演しているパク・ヒョニョンらが出演しています。

映画『夏時間』のあらすじ


(C) 2019 ONU FILM, ALL RIGHTS RESERVED

夏休みのある日。10代のオクジュ(チェ・ジョンウン)は、母親に逃げられ事業に失敗した父ビョンギ(ヤン・フンジュ)、弟ドンジュ(パク・スンジュン)らとともに、祖父ヨンムク(キム・サンドン)の家に引っ越してきました。

引っ越ししてすぐ慣れたヒョンギやドンジュと違い、大きな庭に広い居間、2階の窓際に置かれたミシンなど、これまでの自分の住まいとは違う違和感に戸惑いが隠せないオクジュ。

家にはさらに離婚寸前に陥った叔母のミジョン(パク・ヒョニョン)が訪れ、一家とともに住み始めてしまいます。

そんな居心地の悪さを、恋心を抱いた同級生への想いで逃避しようとするオクジュでしたが…

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映画『夏時間』の感想と評価


(C) 2019 ONU FILM, ALL RIGHTS RESERVED

何気ない日常の中に埋め込まれた時代性

様々な理由で離れていた親子、兄妹が再び一緒に生活にするようになるという物語の発端。物語から見えるこの家族の構成、人と人との関係は、近年の日本国内でも似たようなケースがあり、非常に共感を覚えます。

戦後の復興、そして成長から現代にいたるという経緯をたどった国では、おそらく同様の家族関係が現代社会の構図の一つとしてクローズアップされているのではないでしょうか。その意味では、非常に普遍性を感じるテーマが描かれています。

現在の国を形作った父世代、そして祖父世代。少女世代は、その後をこれから引き継いでいくわけですが、上の世代は近代的な国を作り上げるという功績があるにもかかわらず、ある意味みじめな生活を送っているじゃないかと、彼女らは自分たちの生活を送る中で解せないものを抱えています。

この物語のポイントは、人同士の対立の中で描かれる人間模様にありますが、まさにこの人同士の関係構図は、完全に理解できていない世代の事情、国の事情を引き継ぐ子どもたちの、不安な思いを現しているようです。

この普遍的なポイントを何気ない日常のシーンより切り取ったそのセンスからは、時代性というものにおいて強いアピール性が見えてきます。

特に今大きな問題を抱えている世の情勢の中、あらゆる国ではその問題への対処自体にたくさんの課題を抱えています。

こうした時代において、若い世代がいかにそれぞれの国を担っていくのか、その理解と覚悟を得るためのヒントのようなものが本作には描かれているといえます。

本作は美術要素を除き、エピソードの中に具体的な時代が特定できる背景がほとんど描かれていません。にもかかわらず今という時代性が表現されているという点に、この物語が高く評価されるポイントがあるといえます。

リアリティーへのこだわりに従ったキャスティング


(C) 2019 ONU FILM, ALL RIGHTS RESERVED

また本作は映像のとらえ方も非常に独創的です。作品ではある程度被写体と距離を置き、どちらかというと全景のアングルを主体としています。

人それぞれの表情をアップでとらえた画は少ないのですが、このシーンの連続の中で、時々アップの表情がふと現れる格好になっています。

このタイミングづくりが絶妙であり、表情が適度なタイミングで現れるたびに、冒頭から始まる日常の風景がスッと見る側に印象深く焼き付き、共感できるものとなります。

総じて見ると「ドラマ的」、作為的な見え方と、リアルでドキュメンタリ―チックな見え方の、ギリギリの境を狙ったような構図も感じられます。

また本作はキャスティングも非常に理にかなったものとなっています。舞台などでも活躍するヤン・フンジュの起用は、そういった意図に合致すると考えられます。

さらに今回大抜擢となったチェ・ジョンウン、韓国インディーズ映画界で活躍しているパク・ヒョニョンの起用など、どちらかというと全景でのショットで表現が発揮できる配役が、物語のリアリティーを引き上げています。

また新人である主演のチェ・ジョンウンは、映画の序盤ではどちらかというと印象の薄い表情ですが、物語が展開していく毎にその表情の印象が強くなっていき、物語の少女の存在と見る側の心理との距離をグッと縮めていきます。

非常に存在感のある演技を披露しており、今後の作品出演で大きな飛躍を遂げていくことも予想されます。こうした人物の起用は、作品の見え方に影響する大きな要素になっているといえます。

まとめ


(C) 2019 ONU FILM, ALL RIGHTS RESERVED

ユン・ダンビ監督は、かつて日本の東京藝術大学で1週間の特別講義を受けた経験があり、その時に是枝裕和監督の作品で美術監督を務めた磯見俊裕からのレクチャーを受けています。

本作はその時に受けた「いくらセットを作り込んでも、実在する空間の意外性やディテールは真似できない」という助言をもとに、実存するロケーションを舞台に選び、撮影を行ったといわれています。

その意味ではロケーションも物語も韓国のものでありながら映画作り、物語作りという点で日本映画からの影響も、本作から感じられる点もあるかもしれません。

2020年は映画『はちどり』を手掛けたキム・ボラ監督など、若い女性監督が素晴らしい才能を発揮し、海外でも高い評価を得られる作品を次々と生み出しています

こうした動きは、若い女性の視点には何か今を象徴するヒントが隠されているという動向を示されているようでもあります。

ユン監督も本作で独自の視点をもって時代を描き上げました。このような流れは「次はどのような視点で時代が描かれるのか」と、ある種大きなムーブメントをも予感させます。

映画『夏時間』は2021年2月27日(土)より全国順次ロードショーされます!

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