母はもういない、“何か”が入り込んでいる——介護をする女性の周りで起きた異変とは
配信ドラマ『フィクショナル』(2024)、映画『カウンセラー』(2021)の酒井善三監督が、フェイクドキュメンタリーシリーズ『イシナガキクエを探しています』(2024)などを手掛けたテレビ東京のプロデューサー大森時生をタッグを組んだスリラー。
父の死を機に、母の介護を始めた長女の佳奈。しかし、次第にその周囲で異変が起き始めます。
やつれた姿で妹の杏里の家にやってきた佳奈は、「あれはもうお母さんじゃない。“何か”が入り込んんでいる——」と言い始めるのであった。
主演を務めたのは、『雪子 a.k.a.』(2025)が約1年にも及ぶロングヒットとなった山下リオ。
妹役には、『石がある』(2024)、『彼方のうた』(2024)の小川あん、姉妹と親交のある精神科医の熊谷をマキタスポーツが演じました。
映画『遺愛』の作品情報

©︎2026「遺愛」製作委員会
【公開】
2026年(日本映画)
【監督】
酒井善三
【脚本】
宮﨑圭祐、酒井善三
【企画プロデュース】
大森時生
【キャスト】
山下リオ、小川あん、藤井京子、瀬戸さおり、関口アナン、市野叶、小島叶誉、マキタスポーツ
【作品概要】
『このテープもってないですか?』(2022)、『SIX HACK』(2023)などでタッグを組んだ酒井善三監督&大森時生プロデューサーがおくるサスペンス。
監督の酒井善三は、短編映画『カウンセラー』(2021)でSKIPシティ国際Dシネマ映画祭2021のSKIPシティアワードを受賞しました。その他、配信ドラマ『フィクショナル』(2024)が話題となった気鋭の監督です。
大森時生プロデューサーは、『イシナガキクエを探しています』(2024)、『UFO山』(2025)などのフェイクドキュメンタリーを手掛け、本作が初の劇場映画プロデュースとなりました。
主演は『雪子 a.k.a.』(2025)の山下リオ。妹の杏里役には『石がある』(2024)、『彼方のうた』(2024)の小川あん、精神科医の熊谷役には『MONDAYS このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』(2022)などのマキタスポーツが務めました。
映画『遺愛』のあらすじとネタバレ

©︎2026「遺愛」製作委員会
父が亡くなり、認知症の母の介護を始めた佳奈。
ある日、やつれた様子で佳奈は妹の杏里の家にやってきて、杏里の息子のゆうたの身が危ないと言い始めます。
「どういうこと?」と困惑する杏里に佳奈が話始めます。最初は介護と仕事をうまく両立できていると思っていたという佳奈。
しかし、母は窓の外を見て、くしで何かをとかす仕草を繰り返し、何かが見えている様子です。佳奈はそれを単なる幻視だと思っていました。
何かを思い出すきっかけになればとともに作った人形。その夜、佳奈は恐ろしい夢を見ます。
翌日、夢が現実になります。佳奈が見たのは高校の同級生が亡くなる夢だったのです。別の同級生から連絡があり、葬式に参加した佳奈は嫌な予感がしてその同級生を夜家での飲みに誘います。
その日、同級生が働いている建設現場で事故が起き作業員が亡くなりました、同級生は佳奈に誘われなかったら現場に行く予定だったと言います。
安心した佳奈でしたが、同級生は自宅に帰宅したところ待ち構えていた亡くなった同級生の妻に突き落とされ亡くなります。
映画『遺愛』の感想と評価

©︎2026「遺愛」製作委員会
介護の疲れか、それとも母の中に“何か”いるのか——。
介護と仕事の両立ですり減っていく佳奈の姿は、現代社会と地続きのように思えます。
そんな日常に潜む、根源的な恐怖を本作は浮き彫りにします。
それは正体の分からない何かに対する恐怖であったり、身近な存在が実は別の存在なのではないかという懐疑心に基づく恐怖です。
本作は決して何かの存在を映像として見せることはなく、観客にとっても本当に何かがいるのか、佳奈の妄想なのか分からないのです。
佳奈の同級生の死は単なる偶然か、それとも母の中にいる何か仕業か……。
主人公ですら観客にとっては信じられず、もやもやとした気持ちや言いようのない恐怖を観客に残す本作。
本作を見た後、いつもの日常は何か違って見えてくるかもしれません。
見ないふりをしていたこと、気づかなかったことが不意につながり、何かの真理を得たような気持ちになる、そんな経験をしたことがあるかもしれません。
しかし、全ては誰かの手の上で転がされているだけなのかもしれませんし、都合よく解釈しているだけで全てに意味などないのかもしれません。
この映画も、現実世界も、どう解釈するかは私たち次第なのです。
まとめ

©︎2026「遺愛」製作委員会
父の死後、母の介護をしていた佳奈の周りで起こる異変、恐怖を描いた映画『遺愛』。
長女である佳奈は今までいろんなことから逃げてきたと言います。
だから、実家を売って母を施設に入れず、自分が仕事と両立しながら母の介護をすることを決めます。
しかし、介護はそう簡単なものではなく、誰の手も借りず、認知症で会話もできない母との生活は次第に佳奈を蝕んでいきます。
もし〜だったら、とつい疲れから酷いことを考えてしまう、そんなことは誰にだってあります。
そんな小さな佳奈の黒い感情が、母の中にいる“何か”と共鳴して暴走してしまったのかもしれません。
それとも、佳奈が1人で思い込みと現実が分からなくなってしまったのかもしれません。
一方で、佳奈はもしかしたらまだ、母の中にかつての母の心の一部が残っていて反応してくれるのではないか、という希望を抱いていました。
“何か”の狙いを知って必死になるのも、妹の杏里とその息子のためであり、佳奈は誰かのために必死になっているのです。
杏里のいうように、愛されたい、可哀想と思って欲しくて被害者のように振る舞う一面もあったかもしれませんが、佳奈は家族を思う優しさをもっている人物です。
それが裏目に出てしまう悲しさと残酷さ。
最後に残ったのは、愛なのか、それとも呪いなのでしょうか……。



































