異例の反響を呼ぶ短編映画『カウンセラー』がついに2022年3月より、ユーロスペース渋谷での2週間レイトショー上映が決定!
2021年10月・下北沢トリウッドでの封切り後の同館アンコール上映をはじめ、2022年も岡山メルパ・名古屋シネマテーク・神戸資料館といった全国劇場にて上映が拡大されるなど、異例の反響を呼び続けている短編映画『カウンセラー』。
SKIPシティ国際Dシネマ映画祭にて、短編初のSKIPシティアワード受賞という快挙を達成し、清水崇監督など多数の映画人からも高い評価を得ている本作の監督・脚本を手がけたのは酒井善三監督。42分間、あっと驚く結末まで観る者を翻弄します。
このたび、倉田真美役を演じられた鈴木睦海さん、吉高アケミ役を演じられた西山真来さんにインタビュー取材を敢行。
W主演として緊迫感のあるやりとりを2人で演じられた感想、それぞれの役作りや酒井監督の演出について語ってくださいました。
CONTENTS
倉田真美と吉高アケミ、異なる演技のアプローチ
倉田真美役:鈴木睦海さん
──本作は、42分間で怒涛のように物語が進んでいきます。中でも鈴木さん・西山さんの二人芝居の場面は緊迫感があるものでしたが、それぞれの役を実際に演じられてみてどのような感想を持たれましたか?
鈴木睦海(以下、鈴木):倉田真美という役を演じましたが、結構難しかったです。それはなぜかというと、倉田真美は作品内における立ち位置が受け身なんです。そういう立場で自分に何ができるのか、撮影中はずっと模索していました。
西山真来(以下、西山):初めての体験が多い撮影でした。鈴木さんと二人の場面は特にそうなのですが、リハーサルをしっかりやって、一緒に作品を作っていったような気がします。
鈴木さんの反応で私がやるべきことが分かったし、酒井監督のイメージと私が作り上げてきたアケミのイメージの中間のような人物像を作り上げていくことができました。その結果、自分の思考や感情、感覚が追いかけっこしているといいますか、まだ感情が追いついていないけれどせりふを言っているという、不思議な感覚があって面白かったです。
──撮影はどのように進んでいったのでしょうか?
鈴木:撮影そのものはスピーディーに進んでいきましたが、リハーサルは2日間ぐらいかけてじっくりやりました。また撮影当日になって監督の演出が変わったこともありました。
先ほど西山さんがおっしゃいましたが、役者が作り上げてきた人物像だけでなく、酒井監督が持ってきた役のイメージを現場で一緒にディスカッションする……ということが、撮影当日まで行われていたような気がします。
実は酒井監督には、倉田に関するキャラクターノートも事前にいただいていました。倉田という女性は、こういう背景があって、こういう経歴があるということが書いてありました。
西山:今、酒井監督が鈴木さんへキャラクターノートを渡されたという話を聞いて驚きました。私は一切そういうものがなかったんです。もしかしたら酒井監督は、私と言葉でやりとりするよりも、実際に演じながら人物像を作り上げていった方が良いと思ったのかもしれません。
また吉高アケミは、あらかじめ筋道を通してしまうとつまらない人物像になってしまうような気もしました。実際、撮影中にも「この場面ではこうだったけど、次の場面では別人になったみたいに演じていいですよ。人間ってそういうことありますから」と酒井監督に言われました。もしかしたら酒井監督は、役者や演じる役によって、演出の仕方を変えているのかもしれません。
短編作品ならではの「密度の濃さ」
──42分間で役を演じ切るのは大変だったと思います。短編作品ゆえに感じられたことはありますか?
西山:長編作品のように、演じる役がいろいろな体験を経てじっくり変化していくという進め方ではありませんが、短編作品だからこそ役として鮮やかに変貌していくことができたので、密度が濃い時間を過ごすことができました。
鈴木:役者としては短編だから特別なことはなくて、通常と変わりがなかったです。ただ倉田真美という女性にとって、ある1日だけの話となるので、何日かかけてその人物の人生を描いていくのとは違うと感じました。密度の濃さはありましたし、今回ずっと表情を撮られているという意識があったので、そこが難しかったです。
お互いが役者として信頼できるパートナー
──お互いの役者としての魅力についてお聞かせください。
西山:私が演じたら、むっつー(鈴木)はそれに反応してくれるので、むっつーの反応で自分の演技を知ることができました。鏡のような存在で、嘘がなく信頼できるパートナーでした。
鈴木:そう言っていただけてうれしいですね(笑)。私は西山さんが出演されている作品をたくさん観ていたので「西山さんと共演できるんだ!」と単純にうれしかったです。
西山さんは、普通の表情をしていても笑顔でいるような感じがして、西山さんの人柄が自然ににじみ出ていると思うんです。そして役と融合した時には、さらに説得力が増します。たぶん西山さんはとても面白い方だと思うので、演じるキャラクターの魅力が増すのかもしれませんが、そういうところを役者として私も見習っていきたいです。
「普通の人」ゆえに怖いアケミ、「船」の役割を担った真美
吉高アケミ役:西山真来さん
──それぞれが異なるアプローチを通じて演じられた役への思い入れをお聞かせください。
西山:吉高アケミは、観ている人にとって不気味で怖い存在だと思います。でも私は演じている時、全くそんな思いがなかったんですよ。今考えたら嘘みたいなんですが……私の中では「不気味で怖い人」ではなく、自分が信じていることをそのまま普通に話しているだけの人。だからすごく真面目に演じました。ただできあがった映像を観たら、めちゃくちゃ怖い人になっていて……(笑)。
最初から吉高アケミを「不気味で怖い人」と思って演じるよりも、普通の人だという思いで演じたからこそ、結果的により生々しいホラー作品ができあがった気がします。それが酒井監督の狙いだったのかもしれません。
アケミは衝撃のラストを迎えるわけですが、最初に脚本を読んだ時、監督に「こういうラストでなければいけないのでしょうか」と聞きました。その際に酒井監督は「映画は高尚なものではなく、俗なものだと表現したい」とおっしゃっていました。その言葉が印象的でしたね。
鈴木:そんな吉高アケミにずっと振り回される倉田ですが、酒井監督には「倉田は、映画を観ているお客さんと一緒に恐怖を体験していく船みたいな役割」だと伝えられていました。
最後まで理解できないことが起きていきますが、倉田の目の前で次々と起きていく出来事にどう影響されていくか、そういう意味で倉田という役をどう肉付けしていくか、監督と話し合って作り上げました。また西山さんが演じるアケミが本当に怖くて、あれを目の前でやられてしまうと、素で恐れおののくことができましたね。
現場の雰囲気も演出の一つ
──改めて作品の見どころをお願いいたします。
西山:撮影期間は短かったのですが、リハーサルをじっくりできたことはもちろん、撮影現場自体はとても和やかで、少人数でしたがすごくしっかりとした体制だったのでスタッフや現場の雰囲気が良かったです。
精神的な安全を感じられ、自由な心の状態で落ち着いて作り上げた作品です。何より酒井監督自身が楽しんで作られていました。
この作品を通して、現場の雰囲気も演出の一つなんだと実感しました。俳優だけでなく、関わったスタッフ全員がいたからこそできた作品だと思うので、みんなで生み出した作品をじっくり観ていただけたらと思います。
鈴木:完成した映像を観た時、まず思ったことは「何これ、楽しい!」でした。『カウンセラー』ってそういう作品なんだなと改めて思ったんです。脚本を読んだだけでは分からなかったことが、編集や音響の効果もあって、全く想像できなかった作品としてできあがりました。
観る前は「どんな作品かな?」と思うでしょうが、遊園地へ行くような気持ちで、映画館の座席に座って上映が始まるのを待ってもらえたらと思います。
インタビュー/咲田真菜
鈴木睦海プロフィール
1988年生まれ。日本マイム研究所にて身体表現を学ぶ。
主な出演作に、大工原正樹監督『やす焦がし』。
酒井善三監督『RIP』に続き二度目の出演。
西山真来プロフィール
1984年生まれ。
木村文洋監督『へばの』、坂本礼監督『乃梨子の場合』、堀禎一監督『夏の娘たち ひめごと』、濱口竜介監督『寝ても覚めても』、いまおかしんじ監督『れいこいるか』などに出演。
映画『カウンセラー』の作品情報
【公開】
2021年(日本映画)
【監督・脚本】
酒井善三
【製作】
百々保之
【キャスト】
鈴木睦海、西山真来、田中陸、松本高士、平仁、亀田梨紗、蒲池貴範
【作品概要】
『あれから』(2012)『SHARING』(2014)の脚本、『おもちゃを解放する』(2012)『RIP』(2018)などの監督を手がけた酒井善三による短編心理サスペンス映画。
主演を務めたのは『やす焦がし』(2016)『RIP』(2018)の鈴木睦海、そして『夏の娘たち~ひめごと』(2017)『乃梨子の場合』(2015)の西山真来。
SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2021・SKIPシティアワードを受賞した本作は、2021年10月31日に下北沢トリウッドで封切りされるも、好評により同館でのアンコール上映が決定。その後も岡山メルパ・名古屋シネマテーク・神戸資料館などの全国劇場にて上映が拡大され、3月にはユーロスペース東京にて2週間レイトショー上映が決定しました。
映画『カウンセラー』のあらすじ
ある心理相談室に勤める心理カウンセラー・倉田真美は、妊娠6ヶ月目で産休前最後の出勤日を迎えていました。
予定していた最後の相談者を見送った後、一人の女性・吉高アケミが予約なしでやって来ます。やむなく「相談内容だけでもお聞きしましょうか」と伝えた倉田に、アケミは「……妖怪が見えるんです」と語り始めます。
謎めいた彼女の口から語られる暗い過去の物語が、奇妙なことに倉田を妄想に駆り立てゆき、不安の渦に堕としてゆきます……。
執筆者:咲田真菜プロフィール
愛知県名古屋市出身。大学で法律を学び、国家公務員・一般企業で20年近く勤務後フリーライターとなる。高校時代に観た映画『コーラスライン』でミュージカルにはまり、映画鑑賞・舞台観劇が生きがいに。ミュージカル映画、韓国映画をこよなく愛し、目標は字幕なしで韓国映画の鑑賞(@writickt24)。