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Entry 2021/12/21
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日本映画『カウンセラー』あらすじ感想と評価解説。酒井善三監督の描いた結末に至るまでアイデアに溢れた“緊張感”|タキザワレオの映画ぶった切り評伝「2000年の狂人」5

  • Writer :
  • タキザワレオ

連載コラム『タキザワレオの映画ぶった切り評伝「2000年の狂人」』第5回

今回ご紹介するのはDrunken Bird制作の短編スリラー『カウンセラー』です。

産休前最後のカウンセリングを終えた心理カウンセラー・倉田のもとに、「妖怪が見える」と相談に現れた謎の女性。彼女の口から語られる回想が、現実と妄想の境目を揺るがしていく緊迫の怪奇サスペンスです。

2021年10月31日(日)より下北沢トリウッドにて公開を迎え、好評を博したことで同館での12月18日(土)〜24日(金)の再上映にまで至った『カウンセラー』。

2022年以降も名古屋シネマテークでの1月22日(土)〜28日(金)上映、神戸映画資料館での1月29日(土)/30日(日)限定上映も決定された本作をネタバレなしでご紹介します。

【連載コラム】タキザワレオの映画ぶった切り評伝「2000年の狂人」記事一覧はこちら
 

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映画『カウンセラー』の作品情報


(C)DrunkenBird 2020

【公開】
2021年(日本映画)

【監督・脚本】
酒井善三

【製作】
百々保之

【キャスト】
鈴木睦海、西山真来、田中陸、松本高士、平仁、亀田梨紗、蒲池貴範

【作品概要】
『あれから』(2012)『SHARING』(2014)の脚本、『おもちゃを解放する』(2012)『RIP』(2018)などの監督を手がけた酒井善三による短編心理サスペンス映画。

主演を務めたのは『やす焦がし』(2016)『RIP』(2018)の鈴木睦海、そして『夏の娘たち~ひめごと』(2017)『乃梨子の場合』(2015)の西山真来。

SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2021・SKIPシティアワードを受賞した本作は、10月31日(日)より下北沢トリウッドにて劇場公開されたほか、好評につき同館での1週間の再上映も決定。さらに2022年以降も名古屋シネマテークでの1月22日(土)〜28日(金)上映、神戸映画資料館での1月29日(土)/30日(日)限定上映も決まっています。

映画『カウンセラー』のあらすじ


(C)DrunkenBird 2020

ある心理相談室に勤める心理カウンセラー・倉田真美は、妊娠6ヶ月で産休前最後の出勤日でした。

予定していた最後の相談者を見送ったあと、ある一人の女性・吉高アケミが予約なしでやって来ます。

やむなく「相談内容だけでもお聞きしましょうか」と伝えた倉田に、アケミは「……妖怪が見えるんです」と語ります。

そして妖怪が見えるきっかけとなった身の上話を始めるアケミ。

謎めいた彼女の口から語られるのは、不倫相手・栗林との出会い、そして夫と息子に起こったこと。

暗い過去の物語が、奇妙なことに倉田を妄想に駆り立てゆき、不安の渦に堕としていきます。
 

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映画『カウンセラー』の感想と評価


(C)DrunkenBird 2020

第18回SKIPシティ国際Dシネマ映画祭にて、史上初となる短編作品としてSKIPシティアワードに選ばれた本作。

同映画祭の国内コンペティション部門の審査委員長・國實瑞惠は「いままでの日本ホラーにない、人間をえぐることで観客を引き込むポテンシャルの高さを感じました。まさしくおもしろさにハマりました」と本作を大絶賛しました。

映画祭での評価通り、本作の先の見えない展開、アイデアの凝らされた独特の緊張感は今まで類を見ない映画体験でありながら、非常に映画らしいと感じさせる深みがありました。

主人公の口から語られる結末も、映画がつく嘘と個人の妄想との交錯が混乱を生み、鑑賞後の余韻に苦みを残します。

どこかへと連れていく現実


(C)DrunkenBird 2020

結末という答えに至るまで鑑賞中の観客が感じるのは、何を見せられているのか分からない困惑とそれでも画面から伝わってくる緊張感。しかし提示された結末すら、嘘と妄想の過程を経た1つの答えに過ぎず、解釈は委ねられてしまいます。

不安な妄想に引き込まれていく主人公に懸念を抱かせて終わるという、語り手のみならず作り手すら信用できない奔放な作品でありながら、表現しようとするものの輪郭がくっきりと伝わってくるのは、何を意図している描写かどうか感覚で理解できるから。

古典映画の知識がなくとも本作のジリジリと煽るサスペンスには好奇心を刺激され、外側に開けた結末は興味深いという二層の面白さが連なっているのです。

鑑賞後にインスパイア元の作品と比較すると、テーマからラスト結末に掛けて冒頭の時点で暗示されていたことに気付くという仕掛けは真っ当なミステリーであり(作り手がどこまで意識しているかは推測ですが)、本作は古典映画から続く伝統的な表現とアイデアの入門として楽しむことができるように作られています。

“妖怪”が出てくるラストにトンチを利かせた怪奇ホラーの要素も見出すことができ、江戸川乱歩やイングマール・ベルイマンの作品を彷彿とさせる場面もありました。

何も起きていないように見えるシーンでも、常に何かが鼓動し続け、一瞬の隙もなく緊張感を人物の細かい動き=“アクション”によって保ち続けています。

これは監督本人も意識したという「本のページをめくる手が止まらない」ような面白さで、興味の持続が物語の推進力になり、観客の注意を惹き続けます。

例えばタイトルクレジットが出た直後のシーン。

雨が降るため閉めた窓は外の騒がしい雨音を遮り、患者の話に耳を傾けるきっかけを生み出したと同時に、後半においては窓の反射を利用した効果的なショットによって、煽りに煽った緊張を恐怖と困惑に変える道具として機能するのです。

フレームに収められた全てがアクション


(C)DrunkenBird 2020

本作の演出として特徴的なのはシーンの繋げ方そのものです。

シームレスな動作のつながりが時制を飛ばし、台詞が場面をまたいで別の文脈同士を結びつける接続詞として機能しており、効果的な映画のはったりには痛快さがありました。

さらに全く繋がりを持たない人物の動作が、主人公の妄想を扇動していく段階を表しています。

それは上から下へと流れるアクションとしてのみ連続性を持つものです。

エレベーターが2階から1階へ下降する動き、カウンセリングルームのある3階まで上る階段、そこから待合室まで下る動き、窓の外の雨、お茶を淹れるポッドのお湯、乾燥わかめをふやかすための水道の蛇口、待合室で流れている滝の映像……これらをひっくるめた水の動きが、妊婦である主人公がこの後行うであろう“胎児をこの世に産み落とす”というアクションに繋がります。

陰謀めいてはいますが、これら意図的な繋がりを思わせる要素とは、一見すると観客の注意を無意識下で誘導しているように感じるものの、次のアククョンをシームレスなものとして飲み込みやすくするためのちょっとしたギミックに過ぎません。

意味深な動きの1つ1つに機能性を見出してしまいそうになりますが、本作において最も効果的だったのは、前述した要素に内包された環境音とほぼ一体化した音楽です。

それは登場人物の心情と呼応するようでした。水が上から下へと落ちる音が徐々に主人公の不安をこみ上げ、遂には映画の枠をはみ出し観客へと伝染させる何かに対する憎悪と自己嫌悪。

水だけでなく人物を取り囲む環境音が、場面を跨いで反復することによって、人から人への伝染と言動に伴う応報とを接続していました。

本作は音楽と人物描写、台詞と動作とを、BPMの違う曲同士を繋げるDJのように文脈をまたいで接続する特徴的な演出が見どころ。

患者の褒められない行いを断罪しない、ジャッジしない目線に立ち続けるカウンセラーは患者が抱える醜い一面を繊細にすくい上げ、それを浄化する職業です。しかしカウンセリングの過程で排出された“産業廃棄物”はカウンセラーの中で蓄積され、個人の内面の醜さと結合し新たな妖怪を生み出してしまいます。

本作に登場する妖怪とは、いったい何が生み出したものなのか。ぜひ映画を観てお確かめください。

まとめ


(C)DrunkenBird 2020

本作を一言で評するならば、「何度も観れる短編」です。

閉鎖的なカウンセリングルームを利用した機能的な演出と映画的なジャンプが小気味良く、回想シーンと対話シーンとを見事に接続していました。

説明的でない回想シーンは脳内補完しようとする観客の想像力を助け、描かれなかった部分への恐怖を増長させるサイコスリラーとしての秀逸さ。

1時間以上に伸ばせるものを丁度良く感じられる必要最低限にとどめ、アイデアと技術で非常に映画的な42分に仕上げた驚異の短編映画です。

初見時には意味不明だったシーンの1つ1つに意味があったのだと、ハッとさせられる2回目の鑑賞には更なる驚きと感動があるので、複数回鑑賞必須の作品。

インスパイア元として引用した作品も古典的名作ばかりということもあるため、本作のモノクロ版制作も期待したいところです。

【連載コラム】タキザワレオの映画ぶった切り評伝「2000年の狂人」記事一覧はこちら

タキザワレオのプロフィール

2000年生まれ、東京都出身。大学にてスペイン文学を専攻中。中学時代に新文芸坐・岩波ホールへ足を運んだのを機に、古今東西の映画に興味を抱き始め、鑑賞記録を日記へ綴るように。

好きなジャンルはホラー・サスペンス・犯罪映画など。過去から現在に至るまで、映画とそこで描かれる様々な価値観への再考をライフワークとして活動している。

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