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Entry 2018/10/20
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千原ジュニア映画『ごっこ』あらすじと感想レビュー。是非に揺れる家族の物語|銀幕の月光遊戯7

  • Writer :
  • 西川ちょり

連載コラム「銀幕の月光遊戯」第7回

こんにちは、西川ちょりです。

今回取り上げる作品は、10月20日(土)より、ユーロスペースほか全国順次ロードショーされる日本映画『ごっこ』です。

早世の鬼才・小路啓之の同名マンガを熊澤尚人が監督して実写映画化。

千原ジュニアが主演し、『心が叫びたがってるんだ』『ユリゴコロ』に次いで熊澤尚人監督作品に3本連続出演となる平尾菜々花とともに、社会的孤立から生まれた父娘を演じています。

【連載コラム】『銀幕の月光遊戯』一覧はこちら

映画『ごっこ』のあらすじ


(C)小路啓之/集英社 (C)2017楽映舎/タイムズ イン/WAJA

ある家のシャッターを子どもたちがバズーカで撃ち始めました。子どもたちは言います。「引きこもりってのは個人の勝手では許されへんわ。うちの爺の年金誰が背負ってくれんねん」「引きこもりであわよくば生活保護コースか?」

中でフィギュア制作をしていた中年男がカッターを持ってドアを開けると子どもたちは慌てて逃げ去りました。

その時男がふと、向かいの家に目をやると、二階に傷だらけの少女が立っているのに気づきます。観ていると少女は右手を上げてみせました。指に少女はBB弾をはさんでいました。

男は咄嗟に向かいの家に這い上がると、少女を抱いて連れ帰りました。少女は男の頬に手をやり、「パパやん」と呼びます。

これが城宮とヨヨ子の出逢いでした。

数日後、城宮は帽子屋を営む実家にヨヨ子を連れて帰りました。年老いた父は「この年で孫の顔をみるとはな」と言い、「実はな、わし、もう死のうと思ってたんや。母さんもなくなってしもたしな。生きててもなんも楽しいことあらへん」と続けました。

「息子はどうするんや」と城宮が言うと、「安心せぇ。ちゃんと考えてる」と父は応えるのでした。

翌日、父は商店街の人々に「やっと老人ホームがあいたから行ってくる」と言って出かけていきました。

十数年ぶりに城宮が戻ったことを知った幼馴染で警察官のマチは、ヨヨ子が城宮の本当の子供なのか疑いの目を向けます。

城宮は好き嫌いをするヨヨ子を注意し、「ありがとう」「ごめんなさい」を言えるようにしような、と言ってきかせます。遊び方を知らないヨヨ子にいろんな遊びを教え、一緒に遊んでやり、二人の絆は日に日に深まっていきました。

ヨヨ子はBB弾を見つけるのが得意で、見つけるたび朗らかな表情で褒めてやる城宮。

小さい頃から感情が爆発したら止まらなくなる暴れん坊の城宮を観てきたマチは、城宮がちゃんといいお父さんになっているのを見て、少しばかり安堵を覚えます。

しかし祭りで、ヨヨ子が迷子になりかけた際、城宮が警察を嫌ったことがきっかけで、再びマチの心に疑問が浮かびます。

「本当のことを言って! 本当にあんたはヨヨちゃんのお父さんなんか!?」

問い詰められた城宮は「ヨヨ子は俺の子や」と言い、「警察に知らせてもしややこしいことになったら家にくるやろ。そしたら嘘がばれてしまう」と言って、畳をめくりました。

そこには父の遺骨が入った骨壷が収められていました。父は自分の年金を息子が使えるように自殺したんです。

それを聞いたマチは「年金の不正受給や。あかん。こんなことヨヨちゃんが喜ぶわけない!」と血相を変えました。

「ヨヨがおるから俺、今、真人間になれそうやねん。昔の俺知ってるやろ?」とすがる城宮に「ちゃんと働け! 自分の働いた金で養うのが親の責任や」とマチは必死に説得します。

マチの言葉が届いた城宮は市場の花屋で働くことにしました。しかし、ごっこ生活のような不安定な二人の暮らしは、ある日突然、崩れ去ってしまいます・・・。

熊澤尚人監督とは

大学卒業後、会社員として働きながら自主映画を制作し、『りべらる』が1994年度のぴあフィルムフェスティバルPFFアワードに入選。2004年に撮った短編映画『Tokyo Noir-Birthday-』がポルト国際映画祭最優秀監督賞を授賞。2005年に蒼井優を主演に迎えた「ニライカナイからの手紙」で長編デビューを果たします。

その後、『ダイブ!!』(2008)、『君に届け』(2010)、『近キョリ恋愛』(2014)、『ユリゴコロ』(2017)、『心が叫びたがってるんだ』(2017)などの話題作を発表。今、最も信頼できる監督の一人として活躍中です。

かねてから今の社会の不寛容さを題材にした作品を作りたいと考えていた熊澤監督は少路啓之の漫画『ごっこ』に出会い多くの社会問題を扱ったこの作品を映画化したいと強く思ったそうです。

厳しいスケジュールの中、スタッフの知恵と諦めない努力で映画を完成させました。

映画『ごっこ』の感想

登場人物の強い眼差し


(C)小路啓之/集英社 (C)2017楽映舎/タイムズ イン/WAJA

これは強い眼差しの映画です。千原ジュニア扮する城宮と平尾菜々花扮するヨヨ子が初めて出会う際の視線と視線のぶつかり合いは、何よりも衝撃的で、二人を結びつけるという点で説得力のあるものでした。

全編を貫く千原ジュニアの鋭い眼光にも驚かされますが、平尾菜々花のものすごく意志の強い眼差しにはさらに驚かされます。

訴えかける力というのでしょうか。幼い少女がこのような表情をすることで、これまでの境遇や苦しみが全て提示されているんです。お見事としかいいようがありません。

永遠に続いてほしかった中盤の展開


(C)小路啓之/集英社 (C)2017楽映舎/タイムズ イン/WAJA

二人の絆が深まって、ほのぼのとした時間が流れていく中盤が素晴らしく、このまま時間が止まってしまえばいいのにと願ってしまいました。なんだか昭和の懐かしい感じだとか、人情映画のような風味もあり、ほろりとさせられました。

城宮という男の過去については、あまり具体的に触れられないのですが、引きこもってしまう前にはおそらく壮絶な人生を歩んできたことが想像されます。

後半に彼が取る行動なども、そうした人生経験がもたらす狂気によるものでしょう。想像力をフルにかきたてられ、切なくも複雑な気持ちになってしまいます。

子どもは常に大人を観ている


(C)小路啓之/集英社 (C)2017楽映舎/タイムズ イン/WAJA

作品を観ていると、子どもというのは、やはり大人にものすごく左右されるものなのだということがわかります。

大人のちょっとした言葉や行動で、子どもは深く傷ついてしまうけれど、一方で、親に諭されることで、正しく成長していくんです。

冒頭のバズーカの子どもたちの言葉を思い出してください。なんとも子どもらしくないセリフです。

子どもたちは親や回りの大人が常々しゃべっていることを耳にしていて、自分の言葉にしてしまうのです。

自分よりも弱い人を罵り差別する心の貧しい社会は子供の心もスポイルしてしまいます。

大人には大きな責任があるんです。

確かに城宮とヨヨ子の関係は「ごっこ」だったかもしれません。ですが、城宮がヨヨ子にたくさんの笑顔を作らせたのは紛れもない事実です。そして城宮もまた、ヨヨ子からたくさんのものをもらっていたんです。

そんな二人の関係に目頭が熱くなるのを抑えることができません。映画は日本の”今”をリアルに見つめ、静かに告発しています。

社会的孤立から生まれた父娘の物語を是非とも目撃してください!

まとめ


(C)小路啓之/集英社 (C)2017楽映舎/タイムズ イン/WAJA

エンディングに流れるのはindigo la Endの「ほころびごっこ」です。映画の主題歌といってもいろいろあり、全然映画の内容と関係のない歌詞のものも多いのですが、この曲は、映画のキーワードになる言葉が歌詞にどんどん出てきます。

映画のために書き下ろされた曲で、メロディーが素晴らしいのは勿論ですが、歌詞をじっくり聞いていると、映画『ごっこ』への理解がさらに深まっていきます。

本編が終わってもすぐに立たずに、是非最後まで座って、この曲に耳を傾けてみてください!

『ごっこ』は、10月20日(土)より、ユーロスペースほか全国順次ロードショーされます!

次回の銀幕の月光遊戯は…

次回の銀幕の月光遊戯は、11月16日(金)より公開の『母さんがどんなに僕を嫌いでも』をご紹介いたします。

お楽しみに。

【連載コラム】『銀幕の月光遊戯』一覧はこちら

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