連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第237回
PFFアワード2019日活賞とホリプロ賞の2冠受賞作『スーパーミキンコリニスタ』(2020)で注目を浴びた草場尚也監督の待望の劇場用映画初監督作品『雪子 a.k.a.』。
人生に迷ったアラサー教師の主人公・雪子が、ラップを通して自分と向き合い答えを探す姿を描くと同時に、教師という仕事の明暗も浮き彫りにしています。
主演を務めるのは、映画や舞台など作品規模にとらわれず意欲的に活躍する山下リオ。自分は何をすべきかと常に迷う主人公の気持ちを、ラップにのせて見事に表現しています。
本作は、教員とラップというユニークな組み合わせで、草場尚也監督が描く‟不安に生きる全ての人に贈る優しい物語”となりました。
映画『雪子 a.k.a.』は2025年1月25日(土)よりユーロスペースほか全国順次ロードショー。劇場公開に先駆けて本作をご紹介します。
映画『雪子 a.k.a.』の作品情報
【日本公開】
2025年(日本映画)
【原作】
鈴木史子、草場尚也
【監督・編集】
草場尚也
【脚本】
鈴木史子
【製作】
鈴木ワタル、桑原佳子
【音楽】
GuruConnect
【主題歌】
ポチョムキン 泰斗a.k.a.裂固 瑛人
【ラップ監修】
ダースレイダー
【キャスト】
山下リオ 、樋口日奈、占部房子、渡辺大知、石田たくみ(カミナリ)、剛力彩芽、浅田芭路、猪股怜生、滋賀練斗 池尻稀春、中村映里子、池田良、ダースレイダー、立仙愛理、椿、カツヲ、りゅうと、赤間麻里子、PONEY、石橋凌
【作品概要】
「スーパーミキンコリニスタ」でPFFアワード2019日活賞とホリプロ賞をダブル受賞した草場尚也監督の劇場映画初監督作品『雪子 a.k.a.』。30歳を前に人生に迷った小学校教師の女性が、ラップを通して自分と向きあっていく姿を描いたヒューマンドラマです。
『あのこは貴族』(2021)『記憶の居所』(2024)などの山下リオが主演を務めます。共演者として、雪子の同僚教師役で樋口日奈と占部房子、恋人役の渡辺大知、友人役で剛力彩芽、父親役で石橋凌。
Darthreider & The Bassonsとして活動中のダースレイダーがラップ監修を務めています。
映画『雪子 a.k.a.』のあらすじ
記号のように過ぎていく29歳の毎日に、漠然とした不安を感じている小学校教師の雪子。
不登校児とのコミュニケーションも、彼氏からのプロポーズにも本音を口にすることを避け、ちゃんと答えが出せずにいます。
ラップをしている時だけは本音が言えていると思っていたのですが、思いがけず参加したラップバトルでそれを否定され、立ち尽くしてしまいました。
いい先生、いいラッパー、いい彼女に……なりたい?と自問自答しながら、30歳の誕生日を迎えます。
でも現実は、30歳になったところで何も変わらない自分でしかない。
それでも自分と向き合うために一歩前へ進んだ彼女が掴んだものとは―――。
映画『雪子 a.k.a.』の感想と評価
『雪子a.k.a.』は、ラップをしている小学校の女性教員が、自分の生き方を見出す物語です。
主人公の雪子は、職場では“吉村先⽣”“雪⼦先⽣”と呼ばれ、仲間とラップしている時はMCネームとして“サマー”と名乗り、恋⼈や友人からは“ゆっきー”、登場人物の中で⽗親だけが“雪⼦”と呼んでいます。
名前一つ取り上げても、いろいろな呼び方をされているのに気が付きます。1人の人間のその場その場における呼び方も違ってくるように、人生についての考え方や人間への感じ方も多様性があるものなのでしょう。
30歳という年齢を目前にして、結婚、仕事、ラップと、自分を取り巻く生活要素について、このままでいいのかと雪子は悩みます。
教員としても中途半端、結婚にもいまいち決断がつきません。自分が何をしたいのか、あやふやな気持ちを雪子はラップで歌います。
雪子が披露するラップの歌詞は、ラッパーのダースレイダーが本作の為に書き下ろしました。雪子がラップに乗せて気持ちを解放していくさまに共感を覚えることでしょう。
HIPHOPが誕⽣したのは1973年のアメリカ・ニューヨークのブロンクスだと⾔われています。2023年にHIPHOP生誕50周年を迎え、今や世界で最も⼈気のある⾳楽ジャンルの⼀つとして広がりを⾒せています。
そんなHIPHOPのラップで、ありのままの⾃分をさらけ出す爽快感は、体験した人でないとわかりません。
自分を見出すことや自分の気持ちに素直になることの大切さを、雪子はラップと教員という2つの顔で観る人に教えてくれているようです。
まとめ
新鋭・草場尚也監督が、教員とラップをコラボさせて誕生した不安に生きる全ての人に贈る優しい物語『雪子 a.k.a.』。
自分に自信が持てない主人公が、どのようにして自分らしく生きる術を見出すのか。
ラッパーのダースレイダーが本作の為に書き下ろしたという雪子が披露するラップの歌詞は、生きることへの雪子の本音と言えます。
言葉にして本音を語るラップの良さがよくわかり、ラップ好きの方は必見、そうでない方も楽しめます。
映画『雪子 a.k.a.』は2025年1月25日(土)よりユーロスペースほか全国順次ロードショー。
星野しげみプロフィール
滋賀県出身の元陸上自衛官。現役時代にはイベントPRなど広報の仕事に携わる。退職後、専業主婦を経て以前から好きだった「書くこと」を追求。2020年よりCinemarcheでの記事執筆・編集業を開始し現在に至る。
時間を見つけて勤しむ読書は年間100冊前後。好きな小説が映画化されるとすぐに観に行き、映像となった活字の世界を楽しむ。