死神が人間界の営みを学び、真実の「愛」を知るラブファンタジー
今回ご紹介する映画『ジョー・ブラックをよろしく』は、映画『明日なき抱擁』(1934)のリメイク作品です。
『明日なき抱擁』が公開された当時、映画界からの絶賛と評価が高かったこともあり、第19回ゴールデンラズベリー賞で、最低リメイク続編賞にノミネートされるという経緯があります。
ニューヨークの「パリッシュ・コミュニケーション」の取締役ビル(ウィリアム・パリッシュ)のもとに、夜突然見知らぬ男が訪ねてきます。
その男はビルを迎えに来た死神でした。ジョーは人間の世界に興味があり、ビルを案内人にしてこの世界を見て周ろうと目論んでいました。
ビルの娘スーザンは、彼の顔を見るなり驚きます。ジョーは朝、街のカフェで初めて出会い、意気投合した青年にそっくりだったからです。
映画『ジョー・ブラックをよろしく』の作品情報
(C) 1998 Universal Studios – All Rights Reserved
【公開】
1998年(アメリカ映画)
【監督】
マーティン・ブレスト
【脚本】
ロン・オズボーン、ジェフ・レノ、ケビン・ウェイド、ボー・ゴールドマン
【原題】
Meet Joe Black
【キャスト】
ブラッド・ピット、アンソニー・ホプキンス、クレア・フォーラニ、ジェイク・ウェバー、マーシャ・ゲイ・ハーデン、ジェフリー・タンバー
【作品概要】
ジョー・ブラック役を『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』(2008)、『マネーボール』(2011)に出演し、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)で、初のアカデミー助演男優賞を受賞したブラッド・ピットが演じます。
ウイリアム・パリッシュことビル役は、『羊たちの沈黙』(1992)、『ファーザー』(2021)でアカデミー賞主演男優賞を受賞した、アンソニー・ホプキンスが演じます。
監督は『ビバリーヒルズ・コップ』(1985)、『ミッドナイト・ラン』(1988)のマーティン・ブレストが務めます。
映画『ジョー・ブラックをよろしく』のあらすじとネタバレ
(C) 1998 Universal Studios – All Rights Reserved
謎の幻聴で目を覚ました紳士は、肩から腕にかけて違和感を感じますが、異常はなく顔を洗ってベッドに戻るとまた、「イエスだ…」という幻聴が聞こえ困惑します。
紳士の名前はウィリアム・パリッシュ、通称ビルです。ビルの娘のアリソンは、65歳になる父のバースデーパーティーを、盛大に行うため準備に大忙しでした。
ビルはニューヨークでは知らぬ者がいない、“パリッシュ・コミュニケーション”の社長であり、大統領とも親交のある大富豪です。
ビルにはアリソンのほかに、スーザンという娘がいます。ビルは2人の心優しい娘、部下でスーザンの恋人ドリュー、アリソンの夫クインスに囲まれ暮していました。
彼の誕生日はパリッシュ・コミュニケーションと、ボンテキュー社との提携契約が交わされる日でもありました。
そんな順風満帆なビルでしたが、スーザンのドリューに対する愛情が、希薄であることが気になっています。
ドリューはビルにとって有能な右腕ですが、スーザンが彼に情熱的な愛を持たぬまま、結婚を視野に入れていることに不満を持っています。
恋愛に対して冷めているスーザンにビルは、“相手無しでは生きられない”と思えるほどの経験がなければ、人生には意味が無いとスーザンに諭します。
内科医のスーザンはドリューとの関係に情熱はなく、打算的に捉えていました。ビルは「心を開けば、稲妻に打たれる」と、真に人を愛せる豊かな人生を望みました。
ヘリがニューヨークに到着し一行が歩きだすと、ビルには「足が地につかぬ想い、恋に酔い、我知らず、歌い踊る気持ち」という、スーザンに説いた言葉が幻聴として聞こえます。
スーザンは勤務先の病院に向かう前に、コーヒーショップに立ち寄ります。店に入ると電話ボックスで、通話相手をしきりに元気づけようとする男性の声を聞きます。
スーザンは仕事のことをノートにまとめながら、男性の会話を微笑ましく思いながら耳を傾けました。
電話を済ませた男性は、スーザンの斜向かいに座り、彼女を一瞬で意識しました。男性はスーザンに声が大きかったことを詫びると、スーザンは楽しい会話だったと返します。
青年は大学生の妹が失恋したと話し、「恋愛なんて永遠じゃない」と言うと、スーザンはその言葉に共感しました。
その反応に青年は興味を抱き「なぜそう思うの?」と、人懐こくスーザンに話しかけますが、彼女は切り上げようとします。
青年はそれでもお構いなしに、妹の恋バナや仕事をみつけ、ニューヨークに来たばかりの恋人募集中だと話します。
スーザンが内科医だと知ると、何かあったら診てもらおうと微笑みます。そして、話を引き延ばそうと、コーヒーのおかわりをすすめます。
“パリッシュ・コミュニケーション”では、明日の取締役役員会の前に、契約の調印をすることを確認し、ビルは社長室に入ります。
ビルがネクタイを緩めると、突然胸に強い痛みを覚え、また「イエスだ」という幻聴が聞こえてきました。
彼は「何のことだ?」とつぶやくと、質問の答えが“イエス”だと声がします。ビルは声の主を尋ねますが、自分でよく考えるよう言われます。
ビルは声の主と問答し、何者なのか知ろうとすると、胸の痛みが強くなり、声は「君は主導権を取れない」と言い放ち苦しめます。
そして、「今日のところは許す」と言い、ビルの痛みも落ち着きます。
一方、スーザンの方は仕事と結婚観について、青年と話していました。青年は結婚したら妻の意向を優先し、それが夫婦であり、互いに思いやるものだと力説しました。
スーザンは同じ価値観の人は少ないと言いますが、青年は「稲妻に打たれるのを待とう」と言い、彼女はその言葉に驚きます。
青年はスーザンに「好き」になったから、診察してもらうのをやめると言い、彼女も「とても好き」になったから診察しない・・・、そう言いながら名残惜しそうに別れます。
2人は何度も振り返りますが、タイミングが合いません。青年はスーザンが角を曲がっていくのを見送り、交差点を渡ろうとした時、自動車にはねられてしまいました。
その夜、ビルのニューヨークの家では、パーティーの打ち合わせをするため、家族が集まります。アリソンがしきりに内容を話しますが、ビルは上の空です。
すると再び、幻聴が聞こえてきます。しかも、声の主は玄関先に来ていると言い、ビルは家政婦に確認させると、玄関ロビーにいたと伝えられます。
書斎に声の主を通し、ビルは会いに向かいます。声の主は書庫の裏側に身を潜め、威圧的な言葉で、永遠の千年、無限の時を生き、全ての存在を司る者と名乗ります。
そして、人類に興味と関心を持ち始めたと話し始め、ビルと共に発つ前に、人間界を案内するよう命じます。
ビルがなぜ自分になのか問いかけると、彼の権力・知識・経験からその役目を与えたと話し、自分の興味を満たすよう言いました。
声の主は案内係を引き受ける代わりに、時間を与えるといいます。それは寿命のことでした。ビルは体の不調から“死期が近いのか?”と自分に問いかけていました。
声の主はその問いに「イエス」と答えていたといいながら、姿を現してきます。
するとそれは、スーザンがコーヒーショップで出会った青年でした。ビルは若い姿をした声の主に、再び何者なのか聞きますが、答えさせようとします。
ビルが出した答えは「死神」でした。死神は人間界に紛れ込むために、人間の体に憑依したと言います。
死神が興味を抱いている人間界を、ビルがガイドしている間は、見返りとして彼の命が引き伸ばされます。
死神はビルの家族と夕食を共にすると言い、自分の命令は絶対だと告げます。ビルは半信半疑で取引を受け入れました。
以下、『ジョー・ブラックをよろしく』のネタバレ・結末の記載がございます。『ジョー・ブラックをよろしく』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。
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ビルは彼をダイニングに案内し、アリソンとクインス、ドリューに“友人”だと紹介します。名前を聞かれてビルは、適当に「ジョー・ブラック」と名付けて紹介しました。
アリソンとクインスは戸惑いながらも、ジョーを好意的に招き入れました。しかし、遅れて帰宅したスーザンは、ジョーの姿を見て驚きます。
しかも朝、陽気に話していた青年とは別人のように、よそよそしい彼に困惑し気分を害してしまいます。
ビルはスーザンと顔見知りだったことに驚きますが、ジョーが肉体を必要として、青年の身体を乗っ取ったと知り愕然とします。
ジョーはゲストルームに案内されますが、ビルがいなくなると屋敷の中の探検をはじめます。
鏡で自分の姿を確認したり、厨房で使用人が食べていたピーナツバターに興味を示して、味見をするとそれを気に入りました。
ジョーは最上階のプールに迷い込みます。プールではスーザンが泳いでいました。ジョーは彼女の泳ぐ姿に、不思議な感情を抱きます。
そして、急によそよそしくなったのは、知らない街で仕事に追われていたせいだと詫び、もっと違う世界を知りたいと、スーザンに友達になってほしいと頼みます。
スーザンはジョーが街に来たばかりだと思い出したように、彼を許して友達になることを了承しました。
翌日、ジョーはビルと一緒に会社にもついて行き、取締役員会に無理矢理出席します。ドリューはジョーに対し、ビルとスーザンの関係にも不信感があり怪訝そうです。
ドリューはおかまいなしな態度のジョーの存在に次第に苛立っていきます。会議ではボンテキュー社との合併について、ビルの経営方針とかけ離れていると、意見が対立しました。
ドリューはボンテキュー社との合併は、会社の新たな発展のために必要と考えますが、ビルは利益重視ではなく、自社で新しい事業拡大をするべきだと考えます。
ドリューが合併の道は「死と税金」のように避けられないと言うと、ジョーはその言葉に反応して口を挟み、ドリューの苛立ちを助長してしまいます。
ビルは会議を閉会し、社長室へ戻るとジョーに1人にしてほしいと、金を渡して散策に行くよう促します。
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ジョーが向かったのはスーザンの勤める病院でした。スーザンは戸惑いながらも、奇想天外な行動と言動に、あの朝の青年を感じていました。
そこに受診しにきた老婦人が、ジョーを見つめ彼も彼女を凝視します。すると彼女は「オベア」とつぶやき、怯え始めます。
スーザンは付き添いの娘に何のことか聞くと、ジャマイカの「悪霊」という意味だと言いました。
ジョーは「私はオベアではない」と話しかけ、娘に入院の手続きをするよう言い、ジョーは老女にオベアではないが、あの世から来た者だと告白します。
すると彼女は張り裂けそうな痛みから解放されたいがために、ジョーに助けを求めます。その助けとは、あの世に連れて行ってほしいということでした。
ジョーはまだ寿命が残っていると諭しますが、彼女は強く死を望んだため、ジョーはその願いを叶えるように、肩にそっと手を添えると、老女の表情が和らぎます。
ジョーが「もう少し辛抱して」と声をかけると、彼女は病室へ連れて行かれました。
スーザンはジョーが病院に来てくれたことを歓迎しましたが、ドリューの存在と診察の途中で話ができないと謝り、仕事に戻っていきます。
ジョーが会社に戻ると、ビルは亡くなった妻から伝授された、ラム肉のサンドイッチを振舞います。ジョーはビルと妻のなれそめについて興味を示します。
ビルは少し話し始めたところで涙ぐみます、そこにドリューが社長室を訪ねてきました。そして、合併の話を白紙にすることに抗議します。
ジョーは幾ばくも無い寿命のビルに、事業に執着する意味を問いかけると、ビルは一代で築き上げた会社を、やすやすと手渡すことに抵抗があると語りました。
クインスはビルの考えを支持すると言いながら、他にも交渉できる企業があると、来週にでも紹介すると持ちかけますが、ビルは「ジョー次第だ・・・」と言いました。
クインスはそのことをドリューに話すと、“ジョー次第”という言葉に怒りを覚えます。
二晩続けてのパリッシュ家の夕食会は、ビルが心優しい娘と家族に感謝し、明日も家族で夕食を共にしたいと言い、アリソンとスーザンはそんな父を微笑ましくみつめます。
ジョーはスーザンの病院で会った、ジャマイカ人の患者について話し、医師としてのスーザンを讃えます。するとその話にビルとドリューが過剰に反応します。
ビルはスーザンに興味を抱くジョーを嫌悪し、家族を巻き込まないよう釘を刺します。
ドリューはスーザンにジョーが彼女を見る目つき、話し方が嫌いだと言い放ちます。ところがスーザンはそんなドリューにうんざりし、自分はジョーが好きだと返します。
その様子を見ていたジョーにスーザンは、彼の魅力について語り始め、ジョーはその言葉とスーザンの眼差しに戸惑いを覚えました。
ビルはジョーに関心を向けるスーザンに理由を聞くと、彼女はビルが話した恋愛観の“稲妻”に打たれたかもしれないと言います。
しかし、ビルはその“稲妻”とは違うと、急にドリューを評価し始めます。スーザンはジョーと父には、2人だけの隠し事があると察します。
一方ドリューは秘密裏に取締役達を集め、ビルはパリッシュのために尽力してきた関係者よりも、何者かもわからないジョーの言葉に耳を傾けていると、不信感があると訴えます。
そして、クインスとの話で今後の合併交渉も、“ジョー次第”だということを発言させ、役員達を扇動していきます。
ビルの家では3日目の夕食会で、アリソンがパーティーに出すケーキの試食を促しますが、ビルはパーティーもケーキにも興味がなく、つれない態度をしてしまいます。
父のために一生懸命なアリソンは泣き出し、ビルは我に返り繕おうとします。そんな家族の様子をジョーは、微笑ましくみつめました。
その晩、ジョーとスーザンは初めて、くちづけを交わしました。
翌日、パリッシュ社では役員が招集され、ビルはドリューから、ジョーとの関係を説明するよう詰め寄られます。
ビルは答えることができず、法規によって解雇されてしまいました。
そして、そのことはビルの誕生日パーティーで発表すると告げ、ボンテキュー社との新たな交渉について、会議を遂行しはじめました。
ところがそのボンテキューとの合併は、後にパリッシュ社を解体し、条件の良い企業に切り売りし、利益を得るという画策でした。
そのことを知ったクインスは、ビルを裏切りドリューの片棒を担いでしまったと、自責の念で自失放心になってしまいます。
屋敷に戻ったジョーは、仕事の合間に立ち寄ったスーザンとプールで、彼女への愛を自覚し、2人は結ばれます。
ビルは抱擁しキスをする2人を見てしまいます。ビルはジョーには死後の世界に連れて行く以外に、何か目的があり自分を苦しめていると思い責めたてます。
ビルはジョーが人間の言葉に感化され、宇宙の法則を破るドジをしたと言います。ジョーは冷静を装いながらも、的を得られ憤慨します。
ジョーはスーザンに会いに病院へ行きますが、夜勤のため不在でした。そこで彼は出会った老女を見舞いに行きます。
老女は正体を明かさず、スーザンに恋をしたというジョーに、ここにいては2人とも不幸になる、一緒にあの世へ行こうと諭します。
ところが恋を知ったジョーは「孤独は嫌だ」と言います。老女は楽しい思い出のまま戻る方が利口で、人間もこの世では孤独だと教えます。
ジョーはビルと発つ日をパーティーの晩と決めました。そして当日、ジョーはクインスに恋について迷いがあると話します。
彼はクインスにアリソンのことを愛しているか聞くと、彼は即答で愛していると答えます。理由は彼女が自分の欠点を全て許し、お互いに隠しごとのない関係だからだと言います。
しかし、クインスは事業のことで、ビルを裏切る形になったことを悔いていました。ジョーはそのことを今すぐに、ビルに伝えるべきだと促します。
ビルはアリソンへのスーザンとは別の愛を伝え、アリソンもそのことを理解していると、惜しみない愛を父に捧げたいと答えます。
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パーティーが始まり、ドレスアップしたスーザンが会場に到着します。ジョーは彼女の姿をみつけ、2人は歩み寄ります。
ジョーは今夜、発つとスーザンに伝えますが、裏腹に別れたくないとも言い、スーザンは離れないと伝えました。
クインスはビルにドリューの謀略を話しました。ビルはドリューをパーティー会場に呼ぶよう、クインスに指示しました。
ジョーはスーザンを愛しているから、一緒に連れて逝くと言いだしますが、ビルは彼の言う「愛」には本質的なものが欠けていると、語気を強めます。
ビルは「真の愛とは奪うことではなく、生涯を懸けて相手への信頼と責任を全うする事、そして愛する者を傷つけないこと」と諭しました。
何よりもスーザンは生きて出会った青年を愛していて、ジョーではないと言い放ち、娘のことを命がけで愛していると告げます。
立ち去ろうとするジョーにビルは、許可を得ようとしたのは、彼に善の心が芽生え、気が咎めているからと指摘し、スーザンに自分の正体を告げ、反応を見るよう言います。
ジョーは再びスーザンの元に行き、話したいことがあると言いますが、自分が何者であるか言いだせません。
沈黙しているとスーザンが、コーヒーショップで出会った日に青年が「互いを思いやる相手をみつけたい」と言った、希少な相手は私だと言います。
さらにスーザンはあのコーヒーショップで、会話を交わした青年に恋したと告げました。その時、ジョーは彼女が愛しているのは、自分ではないと悟ります。
ジョーはスーザンを抱きしめますが、彼女はジョーの心が離れていくのを感じ、彼がコーヒーショップの青年ではないこと、理由もわからぬまま、別れが来ると察します。
ジョーはスーザンに「愛をありがとう」と告げて、彼女の元を離れました。ドリューが到着する時、ビルは取締役たちを電話の向こうに待機させ、事の一部始終を聞かせようとします。
ビルはドリューの魂胆は知っていると詰め寄りますが、ジョーが吹き込んだでたらめで、証拠がないと反論します。
そこで突然ジョーは自分の正体を明かすと切り出し、国税局の秘密調査員だと名乗ります。
ボンテキューには悪質な脱税疑惑があり、証拠を掴むためビルに協力要請をしたと告げます。
役員に真実を話し会社を辞任すれば、罪は免れると追究すると、電話の向こうで聞いていた役員達は、再びビルを社長として迎える準備を進めると言います。
パーティーはビルのスピーチで、フィナーレを迎えようとしていました。ビルは何度もアリソンを抱きしめ、感謝の言葉を言います。
群衆の中に不安げなスーザンの姿を見つけたビルは、自分の人生は満ち足りて何の悔いもない、何が起こっても心配しなくていいと諭します。
スーザンは頭で理解しつつも、ビルに何が起こるのかと不安の涙を流します。ビルは彼女の手を取り、2人はダンスを踊ります。
その様子をジョーは小高い丘の上からながめています。やがて、曲が終わり花火が盛大に打ち上がります。
スーザンは近くで花火を観ようと誘いますが、ビルは彼女を1人で行かせ、ジョーの待つ丘へと歩きだしました。
ジョーは花火の打ち上がる美しい光景と、スーザンとの別れに涙を流しました。ビルは「別れがたいのが生」だとジョーに教えました。
2人は丘の上の庭園に架かる橋を渡っていきます。何かを感じ振り向いたスーザンは、その2人の姿を見て、胸騒ぎから後を追いました。
しかし、しばらくすると橋の向こうから、ジョーが1人で戻って来ます。彼はスーザンを見て戸惑い、“ここはどこ?”といった表情で、何が何だかよく覚えていない・・・と言います。
それでも彼は、街角を曲がって消えた彼女と、あれきり会えないと思っていたのに・・・と、嬉しそうに話します。
スーザンがコーヒーショップで・・・と言いかけると、青年はその時のことを語り始め、彼女が「好き」と言ってくれたことが、胸に刺さったと言います。
すると、彼女は「とても好き」だと訂正し、スーザンは知らない者同士と言うと、青年は時間をかけて、お互いを知り合おうと答えます。
スーザンは彼を父に「会わせたかった」と、青年は「会いたかった」と言うと、彼はこの先のことは「時に委ねよう」と、彼女の手を取りパーティー会場へ戻って行きました。
映画『ジョー・ブラックをよろしく』の感想と評価
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思いやる「人間愛」に満ちた映画
映画『ジョー・ブラックをよろしく』の見どころは、人間と死神のラブロマンスや親子愛、夫婦愛など愛に満ちた物語というところです。
寿命を迎えたビルに接近した死神は、彼の博識さと人望から人間界に興味を持ちました。きっかけは死神の気まぐれと好奇心からの、人間界でのバカンスです。
死神はビルのことを知るうちに、スーザンにも興味を持ち接近しあの朝、青年の肉体を奪ったのでしょう。そして、人間の体を通して死神は、愛することや愛する者との別れを惜しむ気持ちを学びます。
ジョーは宇宙を司る死神として、欲しいものを手に入れることはたやすい立場です。ところがジョーの正体を見破った老女から、死神と承知の上での恋愛か?と問われ迷いました。
そのことでジョーはわざわざ、ビルにスーザンも一緒に連れて逝くと宣言をしました。
ビルからも老女と同じことを言われ、スーザンに正体を言えないジョーは、彼女が愛しているのは自分ではないと、諦めるきっかけを突きつけられました。
「死神」と「人間」の立場の逆転
ジョーがビルを人間界の案内人に選んだことで、死神が持ち得ない人の「情」を知ります。そして、ビルの死が近づくうちに立場が逆転します。
ジョーは死を司る、大天使サリエルであろうと推察します。サリエルは神の意志を執行する司令官の役割があり、その命令は絶対です。
ところがビルの人となり、ビルの家族との関わりの中で、神の絶対命令も及ばない「愛」や「生」の意味を説かれていき、ジョーの口から「学ばせてもらった」と言わしめます。
ビルのセリフには深い意味を持つものが多くあり、生きていく中で重要な格言にも満ち溢れています。
邪視を持つサリエルには、ひざまづくのが人間ですが、愛に満ち充実した生涯を送った人間にとって、死は恐れるに足らないことでした。
ビルの持つ善知識は邪なサリエルにすら良心を与え、ラストシーンのこの世を去る2人の姿は、まるで父と息子のように見えました。
まとめ
(C) 1998 Universal Studios – All Rights Reserved
『ジョー・ブラックをよろしく』は、名優アンソニー・ホプキンスの生き様すらも、ビルから垣間見れる説得力がありました。
また、好青年と死神の傲慢という二面性を演じる、若きブラット・ピットの演技、表現の秀逸さが光る名作でした。
スーザンが「人混みに佇む姿がセクシー」というセリフがありますが、まさにブラッド・ピットの魅力が凝縮された作品のひとつでもあります。
1934年の名作をリメイクし、ラズベリー賞にノミネートされてしまいますが、当時の作品を知らない者にとっては、新鮮かつ重厚なラブストーリーだったといえます。
何にも代えがたい存在、ずっとそばに居たい存在、確かにその出会いは希少ですが、「思いやる」「さらけ出す」「許す」の3つの気持ちを持つことで、深く知り合うことができると、本作は教えてくれました。