Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

ヒューマンドラマ映画

映画『田園の守り人たち』あらすじと感想。戦争を背景に移りゆく女性たちの暮らし

  • Writer :
  • 20231113

『田園の守り人たち』は2019年7月6日(土)より、岩波ホールにて公開!

ミレーの絵画を思わせる美しい田園風景の中、寡黙に働く女たちが描かれます。

それは男たちを戦場にとられた後、代わって女たちが銃後として必死に農園を守る姿でした。

戦争の不条理と時代のうねりに翻弄される女たちの生きる姿。そして、その胸中に渦巻く思いを描いた珠玉の作品『田園の守り人たち』をご紹介いたします。

映画『田園の守り人たち』


(C)2017 – les films du Worso – Rita Productions – KNM – Pathe Production – Orange Studio – France 3 Cinema – Versus production – RTS Radio Television Suisse

【公開】
2019年7月6日(土)(フランス・スイス合作映画)

【原題】
Les gardiennes

【監督・脚本】
グザヴィエ・ボーヴォワ

【出演】
ナタリー・バイ、ローラ・スメット、イリス・ブリー

【作品概要】
第一次大戦下のフランスの農村を舞台に、そこで逞しく生きる女たちの姿を通して、美しい田園風景と時代の変遷を描いた作品。

監督は『神々と男たち』で、カンヌ国際映画祭グランプリを受賞したグザヴィエ・ボーヴォワ。

映画に登場する美しい田園風景は、ジャン=リュック・ゴダールにレオス・カラックス、河瀬直美や諏訪敦彦とも組んだ撮影の名手、キャロリーヌ・シャンプティエの手によるものです。

そしてこの映画に音楽を提供したのが、2019年に惜しまれつつ世を去ったミシェル・ルグラン。その旋律が美しい映像を彩ります。

映画『田園の守り人たち』のあらすじ


(C)2017 – les films du Worso – Rita Productions – KNM – Pathe Production – Orange Studio – France 3 Cinema – Versus production – RTS Radio Television Suisse

1915年、第一次大戦下のフランス。2人の息子を西部戦線の戦場に送り出した未亡人オルタンス(ナタリー・バイ)と、その娘でやはり夫を戦場にとられたソランジュ(ローラ・スメット)。

働き手を奪われた母娘は女手だけで、昔ながらのやり方で残された農園を守っていました。冬を前に種まきに備えなければならず、2人は息子や夫に代わる働き手を必要としていました。

そこでオルタンスは、新たな働き手として孤児院出身の娘フランシーヌ(イリス・ブリー)を雇い入れます。誠実に働く彼女は皆の信頼を得て、家族のように暮らし始めます。

前線から一時休暇で農園に帰って来る2人の息子と、ソランジュの夫。オルタンスの次男・ジョルジュは美しいフランシーヌに魅かれ、2人は手紙を交わすようになります。

季節の移り変わりと共に田園は美しく姿を変え、激動する時代が昔ながらの農村の暮らしにも、様々な影響を与えます。そして田園を守る女たちも同様に、様々な経験を重ねていきます…。

映画『田園の守り人たち』の感想と評価


(C)2017 – les films du Worso – Rita Productions – KNM – Pathe Production – Orange Studio – France 3 Cinema – Versus production – RTS Radio Television Suisse

戦争を背景に移りゆく人々の暮らし

人類が初めて経験する、国家の総力戦であった第一次世界大戦。フランスではグランドール(大戦争)と呼ばれています。映画はこの歴史上の大事件を背景に、女たちが守る農村の移りゆく姿を描いています。

男たちを戦場に奪われただけではありません。農村に暮らす人々が、共に力を合わせ大地を耕す昔ながらの営みも、人手不足による新たな働き手の流入や、戦争と同様に機械化の波が押し寄せてきます。

1917年、アメリカが参戦し連合国へと加わりますが、戦闘経験のないアメリカ軍はフランスに駐留すると、長い期間を前線の後方で訓練に励む事になります。

農作業への機械の導入と、新大陸からやってきた若いアメリカ兵たちとの交流が、フランスの伝統的な農村の風景と価値観を、否応なく変えていく様相を映画は描いています。

歴史のうねりの中に身を置いた人々の、様々な視点と行動を丹念に描く事で、映画はグランドールを経て大きく変わった、フランスの姿を描いています

男たちが戦場にいる間、様々な変化を経験した農村ですが、戦争が終わり彼らが戻ってくると、どの様な姿になるのでしょうか。

時代に翻弄される人々の姿を淡々と描写することで、歴史の中に生きた人々の日常の姿を描いた作品です。

キャロリーヌ・シャンプティエによる美しき田園風景


(C)2017 – les films du Worso – Rita Productions – KNM – Pathe Production – Orange Studio – France 3 Cinema – Versus production – RTS Radio Television Suisse

この映画の一番の魅力は、美しい映像で描かれたフランスの農村の風景です。

まだ機械化が進んでおらず、人と家畜が共に働く昔ながらのやり方で大地を耕し、その恵みを収穫し、得られた産物を自らの手で加工する、牧歌的な風景が美しく描かれています。

それは同時に、多くの労力を要する作業を意味しますが、かつて農村に存在した、自然と共に暮らす人々の姿を見事に再現しています。

この映像を生み出したのがキャロリーヌ・シャンプティエ。グザヴィエ・ボーヴォワ監督のほぼ全ての作品の映像を担当しており、『神々と男たち』ではセザール賞最優秀撮影賞を獲得しました。

『田園の守り人たち』で描かれる農村の風景は、監督自らがロケハンを行い、農村に建つ家を数多く見て回った上で選びだされたものです。その四季折々の姿を、キャロリーヌ・シャンプティエがシネスコ画面に捉えています。

その風景画の様な映像は、自然の風景を際立たせる為に、多くのシーンでBGMを排したスタイルと相まって、時にフランソワ・トリュフォーや、エリック・ロメールの作品を思わせます

また傾く太陽や様々な色合いの雲を背景にした映像は、映画にフランスの風景画を思わせる、絵画的な美しさを与えました。

本作の優れた撮影技術は、セザール賞・リュミエール賞の両賞にノミネートされています。

ミシェル・ルグランの音楽と戦争の描き方


(C)2017 – les films du Worso – Rita Productions – KNM – Pathe Production – Orange Studio – France 3 Cinema – Versus production – RTS Radio Television Suisse

自然の音だけが流れ、静かに流れる時間が映画の大半を占める中で、ここぞという場面に巨匠・ミシェル・ルグランの手掛けた美しい旋律が流れます。

極めて印象的に使われる音楽ですが、グザヴィエ・ボーヴォワ監督がミシェル・ルグランの楽曲を使用するのは、『チャップリンからの贈り物』に続いて2作目です。

監督はミシェル・ルグランの代表作である『シェルブールの雨傘』を、直接戦争に関わらない人々及ぶ戦争の影響を描いた、一つの戦争映画であると語っています。

『田園の守り人たち』も『シェルブールの雨傘』と同様、直接戦争を描くこと無く、それが同時代を生きる多くの人々に様々な影響を与えてゆく様相を描いています

まとめ


(C)2017 – les films du Worso – Rita Productions – KNM – Pathe Production – Orange Studio – France 3 Cinema – Versus production – RTS Radio Television Suisse

伝統的な姿を残すフランスの田園風景を、余すところなく描いた映画『田園の守り人たち』。

その美しい映像はこの映画の見所ですが、同時に戦争と時代の流れに呑まれゆく人々の姿を描く、優れた歴史絵巻でもあります。

劇中で母娘を演じた名優ナタリー・バイと、『ブルゴーニュで会いましょう』に出演しているローラ・スメット実の親子で、息のあった演技を見せています。

重要な役であるフランシーヌを演じたのは、女優の経験は皆無ながら、オーディションで選ばれたイリス・ブリー。ベテラン俳優を相手に引けをとらない演技を見せ、セザール賞・リュミエール賞の、有望新人女優賞にノミネートされました

他にも映画では、ナタリー・バイの兄役の人物など重要な役を含め、当時の農村に暮らす人々の雰囲気を伝える容貌を持った、多くの人々を探し出してカメラの前で演じさせています。

この様な努力を経て描かれた、第一次大戦下のフランスの田園風景を、当時の歴史に思いを馳せながらご覧ください。

関連記事

ヒューマンドラマ映画

映画『浜の記憶』あらすじと感想。元東宝の名優加藤茂雄が演じる年の離れた男女の孤独な物語

映画『浜の記憶』は2019年7月27日(土)よりK’s cinemaにて公開! 黒澤明監督の『生きる』や成瀬巳喜男監督の『流れる』など、数多くの東宝作品に出演したほか、テレビドラマ『太陽に …

ヒューマンドラマ映画

【ネタバレ】小説家の映画|あらすじ結末感想と評価解説。ホン・サンス映画の愛好者キム・ミニよる《記憶と想像》が物語を帰結する

「物語の本質」を女優と小説家の姿を通し描く 今回ご紹介する映画『小説家の映画』は、『逃げた女』(2021)、『イントロダクション』(2022)でベルリン国際映画祭の銀熊賞を受賞した、韓国映画界の名匠ホ …

ヒューマンドラマ映画

映画『島守の塔』あらすじ感想と評価解説。キャストの萩原聖人が新境地と“結末の香川京子のセリフ”に刮目してほしい

映画『島守の塔』は2022年7月22日(金)より全国ロードショー! 第二次大戦終結間近、沖縄に大きな被害を被った沖縄決戦の中、県民の命を救うべく奔走した人々の姿を描いた映画『島守の塔』。 終戦間近に沖 …

ヒューマンドラマ映画

【ネタバレ】ネクスト・ゴール・ウィンズ|あらすじ感想と評価解説。最弱サッカーチームとワケあり監督が1ゴール&初勝利を狙う“奇跡の実話”

世界最弱サッカーチームが悲願の1ゴールを狙う奇想天外の実話 アカデミー脚色賞を獲得した『ジョジョ・ラビット』(2019)のタイカ・ワイティティ監督による2023年製作の『ネクスト・ゴール・ウィンズ』。 …

ヒューマンドラマ映画

映画『ハドソン川の奇跡』あらすじネタバレと感想!ラストの結末も【イーストウッド監督とトムハンクス作品】

名匠クリント・イーストウッド監督と名俳優トム・ハンクスが初タッグ。 乗員乗客155人全員が奇跡の生還を果たした航空機事件「USエア1549便不時着水事故」を映画化。 今回紹介するのは『ハドソン川の奇跡 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学