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Entry 2018/06/24
Update

映画『万引き家族』ネタバレ考察。ラスト結末に見たスイミーの謎と秘密

  • Writer :
  • シネマルコヴィッチ

地上波で是枝裕和監督の『そして父になる』が放映されていた際に、涙をぬぐいながら、ラスト・ショットの情感を味わいました。

しかも、日本屈指の録音マン弦巻裕担当の成せるものか、ショットのフレーム外から、ひぐらしの鳴き声を聞いた途端、無性に『万引き家族』が観たくなり、翌日、劇場に観に行きました。

今回は映画『万引き家族』の重要なキーワード「見る」という考察に触れながら、レオ・レオニの『スイミー』、そしてラスト結末をどのように判断したらよいのか、詳細に解説をしていきます

そして、あなたも映画のラストについて一緒に考えていきましょう。

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「見る」ことを突き詰めた編集


(C)2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

本作『万引き家族』で大切なキーワードは、見るという行為です。

それが理由となるのは、映画上映後に鑑賞した観客の顔が一同に、映画のラスト結末で描かれた意味を読み取ることができなかったという、不安げな顔を見せていました。

それは、これまでの是枝作品が、非常に分かり易い傾向にあったからです。

そのことを『万引き家族』では、一切潔く排除しました。それが伺えるのが監督自ら行った潔い編集作業に見て取れます

これまでとは違うテンポとリズムで切られた編集段階での演出は、編集のみを専門で行うプロの編集マンでも、日本人に出来るスタッフはいないのではないかというと些か言い過ぎでしょうか。

唯一、すぐに思い浮かべるとすれば、すでに2008年にお亡くなりになった、映画『復讐するは我にあり』などの編集を担当した浦岡敬一に匹敵するといっても良い、面白い編集を是枝監督は見せていました

そのことにより、近作を例に挙げれば、『海街diary』にあった映画の緩さの排除、『そして父になる』の浪花節調な泣かせは封印。また、『三度目の殺人』の“ある種の慢心さ”といった部分が、大きくそぎ落とされました。
(補足:“ある種の傲慢さ”とはシンプルにいえば、黒澤明監督の『羅生門』の引用では世界は獲れないという意味)

いうまでもなく、『万引き家族』は、外国人が好む映画であり、世界基準の映画という作品に仕上がっていました。

2018年のカンヌ国際映画祭で、女優のケイト・ブランシェット審査委員長が務めた際に惜しみない賞賛を述べていましたが、パルムドール(最高賞)に値する快心作です。

さて、そんな海外向けな編集のほかにも、削ぎ落としたものがあります、それは作品タイトルです。

当初、題名は『声に出して呼んで』でしたが、是枝節好きとしては共感を抱きますが、こちらは少し感傷的過ぎます。

敢えてストレートに「万引き+家族」で、『万引き家族』としたことで、一目瞭然にどのような映画か理解ができる方が、やはり良いでしょう。

本作が犯罪映画であり、例えるなら「日本版の『オーシャンズ11』だ」ということも察しがつきます。

海外向けに配慮したタイトルの改題(編集)だといってよいでしょう。

しかし、タイトルのストレートさに比べ、作品内容は日本の観客から見れば、一般的にやや難解に思われた方も多かったことでしょう。

次に『万引き家族』に描かれていた「見る」という行為をヒントに、映画を少しづつ紐解いていきましょう。

「見る」という行為は、なぜ大切なのか?


(C)2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

万引きという行為は、「人の目を盗んで行う」ことだからです。

「人の目を盗む」非常に面白い言葉ですね。

goo辞書ではこのように記載されていました。

「人に見つからないように、こっそりする」

また、Weblio辞書類語辞典で「人の目を盗んで」を調べると、意義要素をこうあります。

「他人に見られないように密かに行うさま」

そして、類語はこのように並べられています。

「人目を盗んで、人目を避けて、人目を忍んで、こっそりと、秘密裏に、隠れて、人の目を盗んで、衆目を避けて、誰も見ていないところで、誰も見ていないうちに、陰で、目をかすめて、隙を突いて、裏で、裏側で、人目に付かない様に、ばれないように、目を盗んで、ひっそりと、おしのびで、人目をはばかって、こそこそと、こそっと、人に気づかれないように」

このひとつ1つについて、個々の言葉から映画『万引き家族』を振り返ってみると、柴田一家それぞれのキャラクターの様子やエピソードを鮮明に思い出すでしょう。

もちろん、そのほかにも登場した、独居老人を見回る民生員、万引きを黙認する駄菓子屋の粋な川戸のオッサン、4番さんというキャラクターまで、「人目を盗み」行う、「見る」というものと関連づけられるはずです。

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学校で勉強する奴は馬鹿だ!

擬似家族である一員の柴田祥太は、千葉県松戸で「人さらい」にあった子どもです

現在、荒川区か足立区という界隈に住む父親的役割を務める柴田治が、パチンコ屋に停めてあった自動車の車上荒らしをした際に、拉致してきました。

また、自分の本名を与えた息子のような存在で、治自身が捨てきれない夢や希望といった身代わりを少年に背をわせてもいました。

かつて、治は、信代の店に出入りをするようになって、人目を忍び不倫関係になった末に、信代の亭主を殺害しました。

信代とは“犯罪の契り”を交わした仲でもあります。

劇中には描かれていませんが、信代の夫を殺害したのは実は信代の方で、その際には愛するが故に治が身代わりになったのでしょう。

だから今回は彼女の方が服役したということです。

治に「あんたは5年の執行猶予があるから」と言い、今回の拉致事件の身代わりになりますが、その執行猶予が真の理由ではありません。

愛の応答です。

何をするにも行動的なのは、治ではなく信代の方でしたね。

さて、そんな2人の信代の夫殺害事件の犯行が警察に見つかって裁判を受け、治は執行猶予5年の刑になっています。

祥太は小学校高学年だとすれば、この5年内の小学校2年生の時に拉致されたのでしょう。

彼はもともと小学校に通っていたごく普通の少年です。

「学校で勉強する奴は馬鹿だ!」と、新しく人さらい(拉致)をおこなった妹ゆりに言いますが、その言葉の裏では、祥太の本心は小学校に通いたかったのです。

ゆりに翔太は真意を吐露し、やがて、ゆりに同じように拉致された自分の存在を見ていくようになります。

そのことが思春期の翔太と相まって、彼は“負の連鎖を止める”という、成長していくことになります。

ぼくがみんなの「目」になる

参考映像:『スイミー』(*原画はレオ・レオニによるものではありません)

小学生だった祥太は、教科書に載っていたレオ・レオニ原作の『スイミー』をとても大切にしていました。

『スイミー』の原作者である絵本作家のレオは、オランダ出身のアメリカ人で、『スイミー』を1963年に発表しました。

原作を日本で翻訳したのは、詩人の谷川俊太郎。日本語版の正式なタイトルは、『スイミー―ちいさなかしこいさかなのはなし』。

“小さな賢い”とは、まさに祥太自身を指す、『万引き家族』の核心となるテーマのメタファーであり、象徴です。

ちなみに、1977年から光村図書出版が発行する小学校2年生用の国語教科書に、『スイミー』は掲載されていましたから、習い覚えたことを記憶している人は多いはずです。

治に祥太がスイミーの話を告白するのは、ゆりの存在にヤキモチ(あるいは負の連鎖の気づき)を焼いた祥太が反抗して、自ら作った秘密基地(廃車)のある空き地です。

あの場面では誰も知らないような夜を演出し、俯瞰のロング・ショットで撮影され、優しく描かれていました。

決して是枝監督は登場人物に近づくことなく、巧みな距離感で、彼らの会話を必要以上に語らせておらず、映画らしい素敵な場面でした。

しかも、あの告白こそが、祥太が父親的存在の治から自立する“思春期の始まり”ということも、一緒に押さえておきましょう。


(C)2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

そのことを『万引き家族』では、物語の終盤で父親越えする瞬間を南千住行きのバスに乗って施設に戻っていくという、名シーンの翔太の表情で見せています。

ゆりのためにわざと捕まったと治に告白した祥太。彼は見せた覚悟は、自分がスイミーになるという決意なのです。

大きなマグロは、今の見て見ぬ振りや無関心という社会

そう読み取れば、安藤サクラ名演技で見せた母親になりたかった信代が、警察の一方的な世間体や、印象という価値基準で攻め続けられた取り調べて見せた表情と、大きく関連付けもできるでしょう。

翔太は柴田家という小さな魚たちの「目」になるスイミーなのです。

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近藤龍人の視線のカメラワーク


(C)2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

治と別れの一夜をともにした祥太。

あの晩の深夜に降り積もった雪で雪だるまを作り遊ぶシーンは、是枝監督の『三度目の殺人』で象徴的に登場した、雪に寝そべった重盛、三隅、山中咲江という、奇妙な擬似親子とシンクロするイメージです。

『万引き家族』を観ながら、そのことを思い出した是枝ファンも多かったことでしょう。

“雪はどこまでも清く純白、そして誰にも平等に降り積もるもの、そして儚く消えていく”という象徴だと意味を見出すと、擬似家族への是枝節が少し理解できるかもしれません。

翌日なり、雪だるまが解けることで、治と祥太の関係も消えていくということを暗に示唆させた訳です。

しかし、何といって択一なのは、そのすぐ後に、祥太がバスに乗り込み、それを治が追いかけるシークエンスです。

バスに追いつけず、下手にフレームアウトしていくリリー・フランキーの切なさのある治の表情も確かに見事でしたが、あのタイミングというか、絶妙にフレームに収めきるという感性は、撮影担当した近藤龍人の力量あってのことです。

ここだけでなく、近藤カメラマンは随所にセンスの良いカメラワークを見せています。

例えば、テレビ放映されたメイキング映像の番組では、足を怪我した治とゆりが河原を歩くシーンで、フレーム手前に祥太なめの平行移動した際に、全ての人物をフレームに捉え撮影した近藤カメラマンのカメラワークを是枝監督は高く評価して、唸っていました。

はっきりとした指摘できる検証を今は行えませんが、かつての是枝監督の初期作品にあった、“映画にとって大切なもの”を、近藤カメラマンはしっかりとフレームに収める力量があるので、今後が楽しみな人材です。

少し気になって調べてみると、近藤龍人のカメラマンが撮影を行った作品は、『太陽』 (2016/入江悠監督)、『オーバー・フェンス』(2016/山下敦弘監督)、『ホワイトリリー』 (2016/中田秀夫監督)、『美しい星』(2017/吉田大八)、『武曲 MUKOKU』(2017/熊切和嘉監督)。

そして、2018年の是枝作品『万引き家族』となります。

正直、治と信代が柴田家の居間でソーメンを食べ、遠雷に欲していく場面は、かつてよく見たの日本映画の色調

そして奇しくも同じくパルムドールを獲得した“今村昌平監督の作品ではないか?”と想起させ、日活スタジオに根付いた伝統の「情交の艶(怨念)」なのではないかと、思わず嬉しくなりました。

しかし、安藤サクラとリリー・フランキーをフレームに撮り切ったのは、近藤カメラマンが長年経てきた実力なのは言うほかありません。

1976年生まれのカメラマン近藤龍人は、映画ファンなら覚えておくべき逸材だと言えます。

まとめ


(C)2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

本作『万引き家族』に登場する柴田一家は犯罪を犯し、人目を避けて人生の裏を生きている擬似家族たちです。

そのことは、血以上の繋がりである、義理と人情を契りの盃(白菜鍋、カレーカップ麺のコロッケづけなど)を交わしたような、まさに“ヤクザ柴田一家”なのです。

だからこそ彼ら弱者は、一般的なものを恐れながら、一般的な常識や世間体に生きようとする「一般人」をよくよく観察する(見る)のです。

弱い者、臆病な者は常に大いなる観察者です。そのように用心深くしていないと、強い者に消されてしまう存在だからです。

それこそが是枝裕和監督があぶり出そうした、光に輝く表社会の闇(大きな黒いマグロ)があるのです。

本作は、映画のラスト結末の読みを、それぞれ観客の各自にさせています

しかし、『三度目の殺人』の時のように、重盛が三度目の殺人を犯すことで背負っていく事柄を、観客に想像させて読ませるような単調なラストではありません。

先に述べた編集という演出方法を巧みに生かし、終盤にそれぞれのキャラクターに“何かを見させて”答えを出さずに終わっています

観客はそれらを人物たちの表情を頭の中でモンタージュすることで、この映画のラストを理解しなければなりません。

まさしく、これこそが本作『万引き家族』の大きな特徴であり、カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞するだけの価値があるのだと言えます。

例えば、女優松岡茉優が、安藤サクラにも劣らぬ名演技を見せた柴田亜紀。彼女は柴田家に戻り、いったい何者を見たのでしょう?

また映画のラスト・ショットは、佐々木みゆが演じた虐待を今も受ける少女ゆり。

彼女の絶望の淵、あの何も変わらない状況の視線の先を、観客のあなたはどう読み解きますか?

弱い小さな魚たちは、バラバラになるのでしょうか。

弱者の立場である少年祥太が、“ぼくがみんなの目になるんだというスイミー”のような決断を選んだことで、父親越えの成長とともに、社会の真の成熟という未来を問いかけているのです。

何よりも是枝監督の円熟を、外国映画でしか見られらような演出方法で描き、艶のある日本映画らしい作品に仕上げたことは大きく評価できることです。

ドキュメンタリー出身の監督として、自らの基盤を育んできたことで、現在の社会に絶望と希望の両面を見ている観察者でもあるのでしょう。

【追記:蛇足考察】個人的な見解ですが、柴田亜紀は何かを目撃するまでに、家の外と室内でショットを割っています。あそこまで秒数を割き、是枝監督が編集して見せたかった、現実を超越した存在だと考えられます。つまり初枝ではないでしょうか。幽霊です。祥太は未来を見つめ、ゆりは現実、亜紀は非現実という“奇跡”のようなもの。このあたりも実に今村監督ぽい作品と観ることができます。

▼さて、祥太は父親越えをしましたが、こちらは父親になる映画。

(C)2013「そして父になる」製作委員会
映画『そして父になる』を
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