Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

ヒューマンドラマ映画

Entry 2021/08/16
Update

映画『浜の朝日の嘘つきどもと』あらすじ感想と評価解説。ロケ地福島で高畑充希×タナダユキが描く社会と“創作”の関わり

  • Writer :
  • 桂伸也

映画『浜の朝日の嘘つきどもと』は2021年9月10日(金)より全国ロードショー!

閉館の危機に瀕した映画館の存続をめぐって、さまざまな人の思いが交錯する姿を描いた『浜の朝日の嘘つきどもと』。

福島県に実在する映画館が舞台の本作は、福島中央テレビ開局50周年記念作品として制作がスタート。2020年10月30日(金)には映画のストーリーの後日譚となる物語が、同タイトルのテレビドラマとして放送されました。

監督を務めたのはテレビドラマと同じくタナダユキ。キャストにはドラマで主演を務めた高畑充希をはじめ、柳家喬太郎、竹原ピストル、大久保佳代子、甲本雅裕、佐野弘樹、神尾佑ら個性派キャストが名を連ね物語を盛り上げています。

スポンサーリンク

映画『浜の朝日の嘘つきどもと』の作品情報


(C) 2021 映画『浜の朝日の嘘つきどもと』製作委員会

【公開】
2021年(日本映画)

【監督・脚本】
タナダユキ

【キャスト】
高畑充希、柳家喬太郎、大久保佳代子、甲本雅裕、佐野弘樹、神尾佑、竹原ピストル、光石研、吉行和子

【作品概要】
福島県南相馬市に実在する映画館「朝日座」を舞台に、さまざまな災禍を経て長い歴史を持つ映画館が閉館の危機に直面、閉館を阻止すべく立ち上がった一人の女性の姿を描きます。

百万円と苦虫女』(2008)『ロマンスドール』(2020)などのタナダユキが監督・脚本を担当。

キャストには『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』(2018)などの高畑充希が主演を務めるほか、落語家の柳家喬太郎、『ラブ×ドック』(2018)などの大久保佳代子らが出演しています。

映画『浜の朝日の嘘つきどもと』のあらすじ


(C) 2021 映画『浜の朝日の嘘つきどもと』製作委員会

福島県の映画館「朝日座」は100年近くの歴史を経て、地元住民に親しまれてきました。

しかし長い年月の中で客足は大きく減り経営も苦しくなってきたために、支配人の森田保造(柳家喬太郎)は閉館を決意します。

ある日、森田が映画館の前で35ミリフィルムに火をつけ処分しようとしていると、そこに突然現れた若い女性(高畑充希)に止められます。

彼女は茂木莉子と名乗り、経営難の朝日座を再建するためにやってきたと語ります。

こうして名画座を守ろうとする莉子の挑戦は始まり、彼女の行動に森田の思いは徐々にゆらいでいきます。

スポンサーリンク

映画『浜の朝日の嘘つきどもと』の感想と評価


(C) 2021 映画『浜の朝日の嘘つきどもと』製作委員会

コミカルなセリフ回しや間の取り方など、コメディータッチな展開によって、映画を観る者はどんどんと引き込まれていきます。その一方で物語には深いテーマが刻みこまれており、映画ファンをはじめ大小問わず「創作」に関わる人々、「創作」を愛する人々に一つの「答え」を見せているとも感じ取れます。

また本作は2011年の東日本大震災やその後の復興についても触れており、さらにはコロナ禍、主人公が抱える複雑な生い立ちなど、近年の社会で注目を浴びているさまざまな課題や問題を物語の背景としています。

そんな中、閉館を余儀なくされている一つの映画館「朝日座」をいかに存続させていくかというポイントが、物語の焦点となります。

ここで考えるべきは、「朝日座」という映画館を一つの象徴的な存在として描いているところにあり、これが映画やその他の「創作」によって生まれるものと重なっていきます。


(C) 2021 映画『浜の朝日の嘘つきどもと』製作委員会

例えば東日本大震災の際、その復興が大きく叫ばれる中で多くのアーティストたちは、自分の領分に対する無力感と創作活動へのうしろめたさを感じたといわれています。その後盛んにおこなわれたアートによる復興支援や募金活動は、ある意味その無力感への抵抗であったともいえるでしょう。

こういった事情を踏まえると、アーティストやクリエイターたちは社会的に大きな問題が発生するたびに自身の存在意義を問われ、その答えを求めて苦しみ続けていることがわかります。

そして「SDGs」なる行動指針が叫ばれている状況など、一つの行動をとっても明確な理由や具体的な指針が必要とされる現代においては、その問いはさらに重いものとしてのしかかってきていることでしょう。

本作はその構図を、ある映画館とその映画館を廃館に追い込もうとする人たちや事情との関係を通じて描写しています。

注目すべきは、後者にあたる映画館の廃館を考える人々やその事情の存在が、ごく当然のこととして、万人に理解される理由としてそこに在る点です。その一方で映画館を守ろうとする人たちには、自分たちがなぜ「映画館を残すべき」と思うその理由を明確に見出せず悩み続けるのです。

それでも映画を最後まで観ると「やはり映画館は、そこにあるべきだ」と感じられ、その意味において芸術や「創作」の存在意義を、明確な言葉では表現できないながらも強く感じることになるでしょう。逆に「言葉で表現できない」からこそ、余計にその存在意義が大きいものであると感じられるわけです。

本作の物語は、そんな思想を人々のつながりや個々の思いの強さといった要素による展開で描いており、その結果として多くの人たちが「やはり映画館は必要だ」と唱えることで、映画館や映画の必要性を伝えようとしているのです。

まとめ


(C) 2021 映画『浜の朝日の嘘つきどもと』製作委員会

本作の主演を務めた高畑充希は、これまで『過保護のカホコ』『とと姉ちゃん』などのドラマ主演作ではなぜか周囲の人たちを惹きつけ、巻き込んでしまう個性的な役柄を演じてきました。

そうした女優・高畑充希自身が持つ魅力は本作でも発揮されており、明確な理由が示されないながらも多くの人を巻き込み映画館の存在にまい進するという主人公像を描いています。映画を観た者の多くは、「高畑充希だったからこそこのテーマが描けた」という必然性を感じられるはずです。

一方、主人公たちと対立する人物・市川和雄役神尾佑が演じたことも、大きな意義が感じられます。ドラマなどではどちらかというとヒール役を担当することも多い市川ですが、本作では映画館を取り壊すことに一つの意味を唱える、真摯な役柄を演じています。

そして神尾自身が実際に福島出身であることを考えると、彼が物語の中でこのポジションに立つことは非常に意味のあるキャスティングといえるでしょう。こうしたキャスティングの妙も、作品の説得力を増す大きな要因となっています。

映画『浜の朝日の嘘つきどもと』は2021年9月10日(金)より全国ロードショー





関連記事

ヒューマンドラマ映画

映画『空母いぶき』キャストの迫水(さこみず)洋平役は市原隼人。演技力とプロフィール紹介

累計400万部を突破する人気コミック作品・かわぐちかいじ原作の『空母いぶき』を実写化した映画が、2019年5月24日より公開されます。 監督は『ホワイトアウト』『沈まぬ太陽』などで知られる若松節朗。 …

ヒューマンドラマ映画

『バハールの涙』ネタバレ感想レビュー。実話を基にした映画でゴルシフテ・ファラハニバが演じた女性の強さとは

2018年ノーベル平和賞受賞者ナディア・ムラトの言葉によって、全世界に性暴力の被害の実態が訴えられました。 映画『ババールの涙』は、ナディアと同じ境遇を持ち、捕虜となった息子を助けるために銃を取り立ち …

ヒューマンドラマ映画

がんちゃん映画Vision(ビジョン)あらすじ。岩田剛典の演技力は?

河瀬直美監督の映画『Vision』は、6月8日より全国ロードショー。 今やフランスをはじめ海外から高い評価を受ける河瀨直美監督。彼女が故郷の奈良を舞台に、『イングリッシュ・ペイシェントで米アカデミー賞 …

ヒューマンドラマ映画

映画『狼たちの午後』あらすじネタバレと感想。アル・パチーノの若き35歳の迫真の演技力

この物語は実際に起きた事件に基づいたものです。 第48回アカデミー賞で作品賞ほか6部門にノミネート、フランク・ピアソンが脚本賞を受賞した話題作『狼たちの午後』。 ニューヨークを舞台にした社会派作品を得 …

ヒューマンドラマ映画

【ネタバレ】星の王子ニューヨークへ行く2|あらすじと評価レビュー。続編にエディマーフィらお馴染みのキャストが帰ってきた!

映画『星の王子ニューヨークへ行く2』は『星の王子ニューヨークへ行く』の続編! 『星の王子ニューヨークへ行く2』は、前作『星の王子ニューヨークへ行く』に引き続き、主演のアキーム王子役にエディ・マーフィ、 …

U-NEXT
タキザワレオの映画ぶった切り評伝『2000年の狂人』
山田あゆみの『あしたも映画日和』
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
【連載コラム】光の国からシンは来る?
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【KREVAインタビュー】映画『461個のおべんとう』井ノ原快彦の“自然体”の意味と歌詞を紡ぎ続ける“漁師”の話
【玉城ティナ インタビュー】ドラマ『そして、ユリコは一人になった』女優として“自己の表現”への正解を探し続ける
【ビー・ガン監督インタビュー】映画『ロングデイズ・ジャーニー』芸術が追い求める“永遠なるもの”を表現するために
オリヴィエ・アサイヤス監督インタビュー|映画『冬時間のパリ』『HHH候孝賢』“立ち位置”を問われる現代だからこそ“映画”を撮り続ける
【べーナズ・ジャファリ インタビュー】映画『ある女優の不在』イランにおける女性の現実の中でも“希望”を絶やさない
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
アーロン・クォックインタビュー|映画最新作『プロジェクト・グーテンベルク』『ファストフード店の住人たち』では“見たことのないアーロン”を演じる
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
【平田満インタビュー】映画『五億円のじんせい』名バイプレイヤーが語る「嘘と役者」についての事柄
【白石和彌監督インタビュー】香取慎吾だからこそ『凪待ち』という被災者へのレクイエムを託せた
【Cinemarche独占・多部未華子インタビュー】映画『多十郎殉愛記』のヒロイン役や舞台俳優としても活躍する女優の素顔に迫る
日本映画大学