2024年11月22日(金)より、映画『チネチッタで会いましょう』全国順次公開!
巨匠と呼ばれる一人の映画監督が、ある日をきっかけに自身と周辺の人たちとのギャップに悩みながらも、新たな世界を見出していく姿を描いた『チネチッタ出会いましょう』。
現代イタリアの重鎮的映画監督であるナンニ・モレッティが手掛け、また自身で脚本、主演も務めたこの作品は彼自身の私小説的な物語。成熟しながらもさらに新たな道を模索するというポジティブなメッセージをおぼえるドラマ作品です。
モレッティ監督はカンヌ映画祭の常連でもあり、本作も2023年・第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品されました。
映画『チネチッタで会いましょう』の作品情報
【日本公開】
2024年(イタリア・フランス合作映画)
【原題】
Il sol dell’avvenire
【監督・脚本・製作】
ナンニ・モレッティ
【キャスト】
ナンニ・モレッティ、マルゲリータ・ブイ、シルビオ・オルランド、バルボラ・ボブローバ、マチュー・アマルリックほか
【作品概要】
巨匠と呼ばれながら時代の変化に取り残された一人の映画監督が、人々との度重なる行き違い、衝突により自身にとって本当に大切なことに気づく姿を描いたヒューマンドラマ。
『ローマ法王の休日』『息子の部屋』などを手掛け、カンヌ映画祭とも縁の深いイタリアのナンニ・モレッティ監督が作品を手掛けるとともに主演を担当。さらに『3つの鍵』『母よ、』『夫婦の危機』など、モレッティ作品も多く出演しているマルゲリータ・ブイ、フランスの俳優、映画監督のマチュー・アマルリックがキャストに名を連ねています。
映画『チネチッタで会いましょう』のあらすじ
巨匠の呼び名も高いイタリアの映画監督ジャンニ。彼はこれまで40年間、彼の映画作品でプロデュースを務めた妻とともに、意欲的な映画製作を進めてきました。
今日もチネチッタ撮影所での新作撮影を目前に控え、頭の中はアイデアでいっぱいのジャンニ。ところがこの撮影が「順調だ」と思っていたのは当の本人だけでした。
女優はナンニの演出に口を出すだけでは収まらず、政治的なテーマを描いたこの映画を「ラブストーリーだ」と言い出す始末。一方で娘が「ボーイフレンドだ」と紹介された人物は、自分と同い年位にも見える高齢の男性。誰の理解も得られないまま打ちひしがれて一人帰宅、目を覚ますと追い打ちをかけるように、妻から別れを切り出されてしまいます。
さらに悪いことに、映画の資金を管理していたプロデューサーが詐欺師であることが発覚、彼は逮捕されるとともに映画の資金不足が露呈し、撮影は止まってしまいます……。
映画『チネチッタで会いましょう』の感想と評価
本作の大きなポイントとしては、主人公ジャンニの日常から見える周囲との衝突、そしてその瞬間から知る「自分の知り得なかったこと」への理解にあります。
ジャンニは映画界において数々の名作を作り上げ、どこからも一目置かれる巨匠監督。しかしある映画製作の際に俳優陣との衝突が発生、自身が絶対的なものとして頭の中に構築していた世界が一挙に崩壊します。
さらにこのタイミングに合わせたかのように、家族とのさまざまな衝突。そして絶大な信頼を寄せていた妻から別れを切り出され、長いキャリアの中で築き上げてきた「自信」がゆらいでいきます。
そしてとどめを刺されるかのように発覚するプロデューサーの詐欺。映画製作は頓挫し万事休す、唯一期待したインターネットの映画配信サービスとの提携も、作品カラーが合わないからと拒絶されてしまいます。
しかし絶望と思われるジャンニの映画製作に、妻の紹介で救いの手が差し伸べられるところから物語は大きく展開していきます。
ジャンニの映画製作に向ける姿勢を含めた思想は、周囲との反発の光景からすれば「古い」「時代に合わない」「誤っている」と、一見現代では受け入れられないものであるように思われます。
しかし物語の中で中盤までほぼ否定されてきた彼の思いは、後半からは理解を示す人物も現れ、かつ彼が周囲の人間の意思を受け入れることで、その居場所を新たに確保していくような光景へと変化していきます。
これらの光景からは「さまざまな努力を積み重ね築き上げたキャリア、思想は絶対的なものと思われがちであるが、必ずしもそうではない。しかしだからといって『古い考え』と完全に割り切り、切り捨ててよいものでもなく必要な時がある」と、常に模索を続けながら生きていくことの重要性を説いているようにも見えます。
本作でジャンニが描こうとしている映画の主人公には、当初イタリア共産党の歴史を描いた時代劇。1956年、ソ連によるハンガリー侵攻を舞台とした劇中劇で、イタリア国内での共産主義を貫きながらも旧ソ連との決別を推し進める人の動き、そしてその時代の変化についていけず最後には自決するという人物像がありました。
そして彼はこの「自決」の部分を作品のもっとも重要な部分であるとして構築していました。しかしこの筋書きも、ジャンニ自身の思想に変化が見え始めたところでさまざまな議論を経て、彼は新たなドラマを描いていきます。
この劇中劇の筋書きとジャンニの振る舞い、思想の変化は物語中でリンクした格好となっており、物語の主となるテーマを強く印象付けています。
まとめ
1978年に『青春のくずや おはらい』で当時のカンヌ映画祭コンペティション部門に初登場、以後多くの作品を同映画祭に出品、受賞を重ねるとともに自身も審査委員長を務めたりと、世界的な映画サイトのつながりも深く、高い評価を獲得してきたモレッティ監督。
一方でフェデリコ・フェリーニやミケランジェロ・アントニオーニなどといった前世代のニューウェーブと呼ばれる映画監督の作品と比較し、評論家からは飾り気のない率直なスタイルの作品を「映画的」ではないと批評されるなど、さまざまに評価が分かれる立場にあることもうかがわれます。
その意味で本作の物語は、彼が今作り上げる作品としての意味の強いものであり、一人の映画に携わる人物の遍歴をたどるものとして非常に存在意義の強い作品であるといえるでしょう。
なおモレッティは若くして共産党員として活動をしてきた遍歴をもち現在もどちらかというと保守的な思想であるといわれており、本作はその意味で自身の思想、思いをたっぷりと描いた集大成的な物語であることは確かであると見られます。
映画『チネチッタで会いましょう』は2024年11月22日(金)より全国順次公開!