Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

ヒューマンドラマ映画

映画『歓びのトスカーナ』感想レビューと評価。あらすじ紹介も

  • Writer :
  • シネマルコヴィッチ

映画『歓びのトスカーナ』は2017年7月8日より、シネスイッチ銀座ほかにて全国順次公開。

実はこの映画は広く女性に見ていただきたい作品だなっというのが第一の感想!

“人生は悲しくて、でも愛おしい”というキャッチコピーは、まさにイタリア映画の本質と女性の気持ちを示したものかもしれません。

最高の友情を手にしたちょっと奇妙な女性たちとは?!そして、かけがえのない愛のカタチとは?

1.映画『歓びのトスカーナ』の作品情報


COPYRIGHT (C) LOTUS 2015

【公開】
2017年(イタリア・フランス合作映画)

【監督】
パオロ・ビルツィ

【キャスト】
バレリア・ブルーニ・テデス、ミカエラ・ラマッツォッティ、バレンティーナ・カルネルッティ、トンマーゾ・ラーニョ、ボブ・メッシーニ、セルジョ・アルベッリ

【作品概要】
『人間の値打ち』などで知られるイタリアの名匠パオロ・ビルツィ監督が、心療内科の診療施設を抜け出した2人の女性が、旅するうちに次第に友情で結ばれていく様子を描いたロード・ムービー。

主人公のひとりベアトリーチェ役をパオロ監督の『人間の値打ち』に続き主演を務めバレリア・ブルーニ・テデスキ、『ハートの問題』『ハッピー・イヤーズ』のミカエラ・ラマゾッティがドナテッラ役を果たしています。

イタリアのアカデミー賞と言われるダビッド・ディ・ドナテッロ賞で17部門にノミネートされ、作品賞、監督賞、主演女優賞など5部門を受賞。

2.映画『歓びのトスカーナ』のあらすじ


COPYRIGHT (C) LOTUS 2015

イタリア・トスカーナ州の丘の上に、緑豊かな自然に囲まれたレンガ作りの精神診療施設ヴィラ・ビオンディ。

心に様々な問題を抱えた女性たちが、善良で経験豊富な診療スタッフとともに暮らしていました。

ここでは利用者の女性たちそれぞれの療養と治療プログラムが行われています。

そのひとり、異彩を放つお喋り好きなベアトリーチェは、まるで施設の女主人さながらに振る舞う様子や、虚言癖な言動が目立っていました。

それゆえに他の利用者からは少し煙たがれる存在のようです。そんなある日。瘦せ細った身体にタトゥーを入れた女性ドナテッラが新たに入所してきます。

しかし、ドナテッラの表情は暗く、何かを抱え込みながら深く孤独感に傷ついているようです。

おせっかいで好奇心旺盛なベアトリーチェは、そんなドナテッラのことがどうしても気になって仕方なく、施設スタッフの医師になりすまして彼女に接し近づきます。

しかし、成りすましたベアトリーチェの無邪気すぎる行為に反感を感じて、一層心を開こうとはしません。

それからしばらくして、ベアトリーチェとドナテッラは施設外のハーブ畑作業で報酬を得ると、施設に帰るマイクロバスではなく、別の方向へ向かう一般の公共バスに飛び乗ってしまいます。

彼女たちはまるで自由を楽しむ少女のようにお茶でも飲みましょうと、バスの終着所にあるショッピングセンターに入ります。

2人は作業報酬を得たお金を使い、それぞれのショッピングを楽しみます。ベアトリーチェは下着売り場に走り、ドナテッラはドラックストアで精神安定剤を購入します。

そんな2人の様子を覗き見ていた見知らぬイタリア男は、彼女たちに近づき、自分の車に乗ってドライブに行き、レストランで食事をしようとナンパされます。

無邪気なベアトリーチェはふたつ返事で承諾して、いち早く車に乗り込みますが、一方のドナテッラは、男に対して不信感を感じてレストランの様子を見に行った隙に、彼女が運転席に乗り込み車を奪ってしまいます。

ベアトリーチェとドナテッラは昔からの親友のようにトスカーナのハイウェイを気分気ままなドライブを楽しみます。

一方で診療施設スタッフは、行方を眩ませた彼女たちを必死に探し続けます。

なぜなら法で定められた医療行為として、ベアトリーチェとドナテッラには、精神安定剤などを定期的に処方して飲ませなければならないからです。

やがて、2人の乗った車は、ドナテッラの生まれ故郷にたどり着きました。

久しぶりに再会した彼女の母親は、金持ちの老人の愛人となっていて、時季に訪れる死期を待ち望んでいるようでした。

そんな母親から現金を盗み出し、ベアトリーチェとドナテッラはふたたび旅を続けます。

夜の街に繰り出した2人は若い男たちと出会い、相変わらず行動的なベアトリーチェは彼ら車に搭乗し飲みに出かけと出発。

しかし、その場所こそがかつて、ドナテッラの働いていた職場でした。

当時、クラブのオーナーマウリツィオと交際をしていた相手だったのです。

しかも妻子がいた彼との間に子どもを宿して、男の子を出産したものの、マウリツィオはドナテッラと赤ん坊を見捨てたという過去があったのです。

絶望したドナテッラは赤ん坊とともに橋の上から岬に飛び込み心中を図るも、救出された事件があったのです。

その後はドナテッラの養育権は剥奪され養子に出され、彼女は病んでしまったのです。

そんなマウリツィオと数年ぶりにクラブで再会したドナテッラは、彼に頼みウォッカとテキーラをオーダー。

ドナテッラはテキーラを一気に呑み干し、もうひとつのウォッカを彼に浴びせかけ、その場を後にすると何もことの次第を知らない呑気なベアトリーチェとも諍いとなり、彼女の頭を酒瓶で殴るドナテッラ。

やがて駆けつけた警察に連行され、その後は司法精神科病院に以前のように収監されてしまいます。

一方のベアトリーチェはドナテッラを救出すべく、著名な弁護士の元夫が住む邸宅に乗り込んで行きます。

そこでは海辺が見渡せる庭先でパーティーの真っ最中。彼女は招かれざる客のベアトリーチェであったが、いつものように減らず口なお喋りとともに怯まず入って行きます。

やがて、元夫に過剰な睡眠薬を飲ませ熟睡している間に、元夫のタブレットを使いドナテッラの過去の事件について調べあげると、今度は寝室の金庫から宝石を盗み出して、親友のドナテッラを救い出すための軍資金にします。

しかし、利用者の管理の厳しい司法精神病院からドナテッラは救い出せるのか?

また、ドナテッラの赤ん坊だった息子は今どうしているのか?

ベアトリーチェとドナテッラの2人は、またも車を手にすると、目的に向かって疾走するのだが…。

3.映画『歓びのトスカーナ』の感想と評価


COPYRIGHT (C) LOTUS 2015

この作品を鑑賞した最初の感想は、またしても、イタリア映画はやってくれたよ!ということを率直に感じました。

近頃なぜかイタリア映画は、これでもかと続々と“元気で粋な秀作”を輩出していますね。

今作『歓びのトスカーナ』は、ベアトリーチェとドナテッラという2人の友情の物語でしたが、2016年にはオッサン2人の友情物語の『神様の思し召し』がありましたね。

また、イタリア人の大人の滑稽さを描いた映画では、2017年公開の『おとなの事情』も面白かっただけに、このあたりが好みのイタリア映画ファンのあなた!

名匠パオロ・ビルツィ監督の『歓びのトスカーナ』は劇場公開で外さずに見て欲しい作品です!

また、この作品をジャンル分けするなら、ヒューマンドラマ、あるいは、ロード・ムービーとして位置するかもしれませんね。

そんなこともあって、男に傷つけられた女性たちは自動車を走らせて、どのような結末をむかえるのだろう?

と思っている最中に思い起こし作品は、毛色は異なるものの、女性の傷つき閉じた心境の解放と友情は、1991年に公開されたアメリカ映画『テルマ&ルイーズ』を彷彿させてくれますね。

リドリー・スコット監督の『テルマ&ルイーズ』(1991)

7月8日より公開されるパオロ・ビルツィ監督作品『歓びのトスカーナ』


COPYRIGHT (C) LOTUS 2015

さて、パオロ・ビルツィ監督は最新作『歓びのトスカーナ』についてどのような思いを持っているのでしょう。

パオロ監督はインタビューで今作をこのように語っています。

「愉快で人間味あるドラマにしたいと思っていましたが、同時におとぎ話やサイケな旅の要素も恐れずに取り入れた物語にしたいと思っていました。また、社会からレッテルを貼られ、無視され、非難され、遮断や隔離されている女性たちのように、繊細な人々が直面する不正や、支配、苦しみといったものに光をあてたいと思いました」

また、だからとはいえ、ドキュメンタリー映画のようにはしたくなかったようです。

だからこそ、この作品をあなたがご覧になっても、思わず笑ってしまったり、ドキドキと興奮したり、じーんっと幸せを感じるのかもしれません。(ボクは泣きましよ、ずるい、笑)

パオロ監督は彼のこれまでのどの作品より、あえて悲劇的な場面を明るい場面に変換させる演出に全力を尽くしたようです。

その一方でリアリティも大切にしたパオロ監督は、イタリアにある多くの精神診療施設に出向き調査を行ったようです。

数多く精神科医と心理士の方々や、強硬症から多動性障害、うつ病、注意欠陥・多動性障害、不信などの症状の利用者とコミュニケーションに取り組んだようです。

そのことについて、暗く心を病んだドナテッラ役を演じた女優ミカエラ・ラマッツォッティは、今作の撮影に協力をして出演した施設の利用者について、次のようにインタビューで語っています。

「撮影のためにやってきた女性たちはとても優しくて寛容でした。山あり谷ありの彼女たちの人生について、またいかに毎日25錠もの薬をのむ生活から抜け出して、回復したいかなど、熱心に話してくれました。彼女たちはとても愛らしい女性で、生きることや触れ合うことへの欲望を持っていました」

と述べています。その上で、その利用者に驚かされたのは感受性が豊かで、人の話に耳を傾ける姿勢だったようです。

女優ミカエラは彼女たちのように慈悲深く話しを聞いてもらったことが、これまでないかもしれないとも話しています。

そのようなことを通して、女優ミカエラは今作『歓びのトスカーナ』について語っています。

「私たちの誰しもが内側に抱えている精神病的な部分を受け入れることを教えてくれたのかもしれません」

このように述べて、心に傷を負った母親ドナテッラ役を演じたのです。

ミカエラ・ラマッツォッティは、1979年生まれのローマ出身の女優。ソフィア・ローレンを継ぐ女優とイタリアでは言われているようです。

主演を果たした明るいお喋りなベアトリーチェ役のバレリア・ブルーニ・テデスも見事な演技でしたが、ぜひ、女優ミカエラ・ラマッツォッティに要注目ですよ!

とっても、オススメな作品ですよー。

4.映画『歓びのトスカーナ』の公開される劇場は?


COPYRIGHT (C) LOTUS 2015

【関東】
東京・銀座:シネスイッチ銀座(03-3561-0707)
7/8(土)〜
神奈川・横浜:シネマ・ジャック&ベティ(045-243-9800)
8/5(土)〜
神奈川・川崎:川崎市アートセンター(044-955-0107)
8/12(土)〜

【北海道・東北】
北海道・札幌:シアターキノ(011-231-9355)
8/5(土)
岩手・盛岡:盛岡ルミエール(019-625-7117)
近日告知予定です。
宮城・仙台:チネ・ラヴィータ(022-299-5555)
8/19(土)〜
山形:フォーラム山形(023-632-3220)
近日高知予定です。

【中部】
愛知・名古屋:伏見ミリオン座(052-212-2437)
7/29(土)〜
静岡:静岡シネ・ギャラリー(054-250-0283)
9/2(土)〜

【関西】
大阪:シネ・リーブル梅田(06-6440-5930)
7/15(土)〜
兵庫・神戸:シネ・リーブル神戸(078-334-2126)
7/22(土)〜
京都:京都シネマ(075-353-4723)
近日告知予定です。

【中国・四国】
広島:サロンシネマ(082-962-7772)
近日告知予定です。

【九州・沖縄】
九州・福岡:KBCシネマ(092-751-4268)
近日告知予定です。

5.まとめ


COPYRIGHT (C) LOTUS 2015

イタリアのアカデミー賞とされるダビッド・ディ・ドナテッロ賞で最多17部門にノミネートされ、作品賞を含む5部門を受賞した映画『歓びのトスカーナ』。

ベアトリーチェ&ドナテッラは2人の絆と友情を通じて、自然光の美しい中で少し見えた希望の光を見つけます

男たちや家族から強く当たられたことで、心に多くの傷を抱えた彼女たち。

そんな女性たちだからこそ、たった1人でも理解者がいたら生きていけることを、当たり前のように、最高に美しいカタチで見せてくれる素敵な映画です。

名匠パオロ・ビルツィ監督『歓びのトスカーナ』は、7月8日より東京のシネスイッチ銀座ほか全国で順次公開。

女性に見ていただきたい年間ベスト級作品です!ぜひ、お見逃しなく!

関連記事

ヒューマンドラマ映画

映画『ワイルドライフ』ネタバレ感想とラストまでのあらすじ。原作が自己体験に近かったと語るポール・ダノ監督

個性派俳優ポール・ダノが初監督を務め、『ナイトクローラー』のジェイク・ギレンホールと『ドライヴ』のキャリー・マリガンが夫婦役を演じる。 『ワイルドライフ』は、ピューリッツァー賞作家リチャード・フォード …

ヒューマンドラマ映画

北村匠海映画『アンダードッグ』期待の若手ボクサー龍太役を熱演【演技評価とプロフィール】

東京国際映画祭「TOKYOプレミア2020」オープニング作品『アンダードッグ』。 『銃』『全裸監督』『ホテルローヤル』の武正晴監督が、『百円の恋』以来6年ぶりにボクシングをモチーフに、森山未來、北村匠 …

ヒューマンドラマ映画

映画『最後のランナー』あらすじネタバレと感想。ラスト結末も

映画『最後のランナー』は、7月14日より全国順次公開中。 人は何処まで、希望を捨てずに尊厳を失わず、生きていくことができるのか。 1924年パリ・オリンピック金メダリストを描いた名作『炎のランナー』の …

ヒューマンドラマ映画

映画『きらきら眼鏡』ネタバレ感想レビュー。考え方ひとつで日常を輝かせることが出来るアイテムとは

見たものすべてを輝かせる「きらきら眼鏡」、あなた心の眼鏡は曇っていませんか? 『津軽百年食堂』『夏美のホタル』など多数の映画化が続く人気作家の森沢明夫が自ら犬童一利監督に熱烈オファーをし映画化した作品 …

ヒューマンドラマ映画

三澤拓哉映画『ある殺人、落葉のころに』モンゴル人と日本人の特徴を活かし合う交流

三澤拓哉監督の映画『落葉のころ』には香港人の撮影監督ティムのほかにも外国人スタッフがいました。 三澤監督と香港人の撮影監督ティム 東京芸術大学に映画を学ぶために留学中の内モンゴル人のトリグルです。 ト …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学