Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

インタビュー特集

【マルコ・トゥッリオ・ジョルダーナ監督インタビュー】イタリア映画界の重鎮監督が問う物語『女性の名前』

  • Writer :
  • 加賀谷健

映画『女性の名前』が「イタリア映画祭2019」にて日本初公開!

『ペッピーノの百歩』(2000)や『輝ける青春』(2003)など、映画史に刻まれる名作の数々を世に送り出してきた巨匠マルコ・トゥッリオ・ジョルダーナ監督


©︎Cinemarche

2019年4月27日(土)から5月4日(土・祝)にかけて東京・有楽町朝日ホールで開催された「イタリア映画祭2019」では、映画『女性の名前』が日本初公開され、全編92分とは思えないスケールで多くの映画ファンを圧倒しました。

長年イタリア映画界を牽引してきたマルコ・トゥッリオ・ジョルダーナ監督にインタビューを行い、『女性の名前』の社会的背景や映画好きの心をくすぐるエピソードまで、ユーモアを交えたお話を伺うことが出来ました。

スポンサーリンク

女性の物語

──本作で女性に対するセクシュアル・ハラスメントをテーマにするにあたって、何か実際の出来事などがあったのでしょうか?

マルコ・トゥッリオ・ジョルダーナ監督(以下、ジョルダーナ):20年前に実際に起きた出来事に着想を得ています。脚本家のクリスティーナ・メナルディが読ませてくれた脚本を気に入ったんです。女性が書いてるということで、自分がひとりで書くよりは勇気がある作品になっていると思います。

ヒロインだけでなく、ヒロインの周りで怖れを抱いている女性たちの姿まで描いています。その意味で、セクシュアル・ハラスメントを巡る暴力についての色々なニュアンスを描くことが出来たのではないかと思っています。

イタリアのフェミニズム運動


©︎Cinemarche

──事件があった当時から、イタリアでは女性が抵抗していこうという意識があったのでしょうか?

ジョルダーナ:イタリアの男尊女卑や男性主義に対する反逆は、1970年代からありました。フェミニズムの大きなムーブメントがあって、それは大きな勝利を得たのです。例えば、中絶を可能にする法律であるとか、セクシュアル・ハラスメントをモラルに対する犯罪ではなく、個人に対する犯罪として認めさせることが出来ました。

歴史的な女性の勝利でしたが、それがこの20年の間で退行してしまっています。テレビでは女性の描き方が欲望の対象であるかのような描き方が多くなり、その影響が大きいです。ファッションでも同様なことが言えます。

それが、ごく最近になって、反抗の精神がまた少し戻ってきているような感じがしています。それも、70年代に戻るだけではなくて、さらに前へ大きく進めていけるものであることを私は望んでいます。というのも、人間のメンタリティーというのは10年、20年で変わるものではないですし、何世紀もかけて変わっていくものだと思うからです。

スポンサーリンク

力強いヒロイン像

──女性の抵抗運動というのは現代的なテーマですが、実際にバラッタの施設長に抗議の声をあげた主人公の逞しさからは、まるで戦士の奮闘を描いた歴史劇のような印象を受けました。

ジョルダーナ:そうですね、それは服装についても言えると思います。彼女は働く時はユニフォームを着ているわけですが、私服の時は少し山賊のような、マンガのヒロインのような服装をしています。彼女は同僚たちとも全く違いますし、セクシュアル・ハラスメントと戦っているだけではありません。

がむしゃらに周囲の悪意に対しても戦っていきますし、彼女のことを大事に思っている人の言うことも素直には聞かない。たった1人で、暴力やメンタリティ、みんながもっている怖れといった全てのものと戦っているわけです。その姿は、まさに戦士そのものです。

──主人公ニーナを演じたクリスティアーナ・カポトンディの表情がとにかく素晴らしかったですが、監督はご自身の作品にどのような女優をキャスティングされますか。

ジョルダーナ:人物について勉強するために色々調べて、きちんと対応してくれる女優さんです。自分を捧げてくれるようなタイプで、完璧にプロと呼べるような女優なので、彼女との仕事はとても楽でした。

ただ、彼女はこの作品以前はコメディ作品への出演が多く、割と軽い役が多かったんです。だからこそ彼女を選んだわけです。観客の期待を裏切って、ちょっと騙すようなつもりで彼女を選びました。劇的な感じで、暗くて、問題を抱えているような女性が犠牲者になったとしたら、それは普通なわけですね。ところがそうではなくて、非常に明るくて、人生の喜びを感じさせるよう彼女が犠牲になることで、この映画の中では非常に機能したと思うんです。彼女である必要がありました。

艶やかな老女優の存在感

──もうお一方、88歳になっても衰えない演技をみせたアドリアーナ・アスティをキャスティングした経緯も教えてください。

ジョルダーナ:アドリアーナ・アスティは大好きな女優です。『輝ける青春』にも出演しています。この老女優の役は、まさに彼女のことを意識して考えたんです。

彼女は高齢であるにも関わらず、多くの舞台に出演していて、撮影日数が数日しかとれませんでした。彼女のやりやすいように撮影を進めました。劇中でニーナに語っている湖に裸で浮かんでいたという撮影現場でのエピソードはほんとうに彼女自身の話ですし、部屋に置いてある写真もすべて彼女個人のものです。

彼女がもつ視点は、男たちを支えて守る立場です。ただ、事の真相を知っているという意味では、彼女はニーナに証言者を紹介することが出来るし、彼女を助けることも出来る人間なわけです。セクハラは、昔は賛辞だと言われていたという重要な発言もします。ニーナに対してセクハラがいかなるものであったかを正しいかたちで教えているわけです。

法廷の場面でも彼女に出演してほしかったのですが、残念ながら、イタリアのスポレートでの演劇フェスティバルがあって撮影に参加することが出来ませんでした。

──部屋に置かれたルキーノ・ヴィスコンティの写真もアスティさんの私物ですか?サント・ルキーノと呼んで、聖人扱いしているのが面白かったのですが。

ジョルダーナ:そうです、あの写真も彼女の私物です。実はあれはサプライズで、助監督たちがセットに用意しておいて、アスティさんに演じてもらいました。

彼女は『若者のすべて』に出演したりと、ヴィスコンティとはたくさん仕事をしています。

ヴィスコンティ、ストレーリ、ルカ・ロンコーニというのは、イタリアの三大舞台演出家であるわけですが、彼らを聖人だと言うことが出来る台詞を彼女も喜んでいました。最初は、サン・ルキーノ、サン・ジョルジョ、サン・ルーカの順でしたが、私はヴィスコンティのところを強調したいから、名前を呼ぶのを一番最後にしようと言ったんです(笑)。

スポンサーリンク

小津安二郎に憶う生と死の感覚


©︎Cinemarche

──監督が強調したヴィスコンティの他に、影響を受けた監督はいらっしゃいますか?

ジョルダーナ:小津安二郎監督が好きです。彼の映画はほんとうに素晴らしい。私は小津という名前を呼ぶ時に、必ず立ち上がるようにしているんです。今も立ち上がりましょうか?(笑)

しかし、鎌倉にあるお墓には行きたくないんです。みんな生きているものとして考えていたいからです。誰かが死んだということも拒否したいので、お葬式にも行きません。その人の電話番号も消しません。それは、いつかまたかけ直すことが出来ると思うためなんです。

イタリアの風土を生きる

©︎Cinemarche

──ジョルダーナ監督は長年イタリア映画界を牽引されてきましたが、今回の撮影はいかがでしたか?

ジョルダーナ:6週間で撮影しました。複雑な物語にしては早かったと思います。気に入っているのは、北イタリアのロンバルディアを舞台にしたことです。ロンバルディアの自然をみせることが出来てとても嬉しいです。

イタリアというと、トスカーナやナポリ、シチリアなどの自然が映画の舞台になってきました。ロンバルディアというと、ミラノなど街ばかりになってしまいます。ところが、この映画ではミラノの周りの自然も映し出すことが出来ました。

私はミラノ出身ですが、50年前からローマに住んでいます。それでもやはりミラノは自分の土地です。観客のみなさんには是非、イタリアが誇る自然の美しさも堪能してもらいたいです。

マルコ・トゥッリオ・ジョルダーナ監督プロフィール

1950年、ミラノ生まれ。

処女作『Maledetti vi Amerò(呪われた者たちを愛す)』(1980)がロカルノ国際映画祭でグランプリを受賞。

その後もイタリア現代史を題材に、人間の内面の感情を描き分け、躍動感のある映像表現を生み出し続けています。

2000年の『ペッピーノの百歩』はベネチア国際映画祭はじめ多数の映画祭で絶賛され、日本でもイタリア映画祭で上映され人気を博しました。

一つの家族の姿を1966年から2003年にいたる37年間のイタリア現代史に重ねた6時間余の大河ドラマ『輝ける青春』(2003)は、カンヌ国際映画祭ある視点部門での最優秀賞受賞他、ナストロ・ダルジェント監督賞を受賞し、世界的な評価を不動のものに。

近年も、イタリア最大の未解決事件「フォンターナ広場爆破事件」を扱った『フォンターナ広場 イタリアの陰謀』(2012)など、野心的な作品を発表し続けています。

インタビュー・撮影/ 加賀谷健
通訳/ 岡本太郎

映画『女性の名前』の作品情報

【公開】
2019年(イタリア映画)

【原題】
Nome di donna

【監督】
マルコ・トゥッリオ・ジョルダーナ

【キャスト】
クリスティアーナ・カポトンディ、ヴァレリオ・ビナスコ、アドリアーナ・アスティ

【作品概要】
『ペッピーノの百歩』(2000)や『輝ける青春』(2003)の巨匠マルコ・トゥッリオ・ジョルダーナ監督の最新作。

豪華な高齢者向け施設で起きる職員へのセクシュアル・ハラスメントの実態が女性視点で描かれていきます。

孤軍奮闘する主人公をクリスティアーナ・カポトンディが体当たりの演技で熱演し、さらにアドリアーナ・アスティなど、往年のイタリア女優の登場も大きな見どころ。

映画『女性の名前』のあらすじ

高齢者向けの豪華なケアハウスで働くために、シングルマザーのニーナ(クリスティアーナ・カポトンディ)は、娘とともにミラノから地方の小さな村へ移り住みます。

職を得てほっとしたのも束の間、すぐにケアハウスのマネージャーによるセクハラが横行していることを知ってしまいます。

この状況を是正しようと、決死の行動を取るニーナですが、マネージャーの強大な権力の壁に阻まれ、職を失いたくない同僚からも孤立していくのでした……。

関連記事

インタビュー特集

映画『カニバ』佐川一政の実弟・純さんインタビュー|パリ人肉事件38年目を経た“佐川兄弟”の現在

映画『カニバ/パリ人肉事件38年目の真実』は2019年7月12日(金)より、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかロードショー! 1981年。日本人留学生としてフランス・パリに訪れ、そこで知り合い友人となっ …

インタビュー特集

【壷井濯監督インタビュー】映画『サクリファイス』を通じて現代の孤独と闇に向き合う

SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2019にて壷井濯監督作品『サクリファイス』が7月15日に上映 埼玉県・川口市にある映像拠点の一つ、SKIPシティにて行われるデジタルシネマの祭典「SKIPシティ国際D …

インタビュー特集

【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力

映画『ある船頭の話』主演・柄本明インタビュー 2019年9月13日(金)より全国ロードショーされるオダギリジョー長編初監督作品『ある船頭の話』は、第76回ヴェネチア国際映画祭“ヴェニス・デイズ”部門に …

インタビュー特集

【伊原六花インタビュー】実写ドラマ&映画『明治東京恋伽』の綾月芽衣役で初主演に挑む意気込みを語る

映画『明治東京恋伽』が2019年6月21日(金)より全国ロードショー! スマートフォン向けのゲームアプリから人気を博し、舞台、アニメなどのメディアミックス化でも大きな人気を集め、テレビドラマ、映画と実 …

インタビュー特集

【シルヴィオ・ソルディーニ監督】映画『エマの瞳』独占インタビュー。イタリア人気質の名匠が作品に託した魅力

2019年3月23日(土)より公開されたイタリア映画『エマの瞳』 ヴェネツィア国際映画祭で世界初公開され、日本でも「イタリア映画祭2018」で『Emma 彼女の見た風景』の日本語タイトルで公開され、好 …

映画『天気の子』特集
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
映画『ある船頭の話』2019年9月13日(金) 新宿武蔵野館他 全国公開
【望月歩×文晟豪インタビュー】映画『五億円のじんせい』の公開に思いを馳せる
【平田満インタビュー】映画『五億円のじんせい』名バイプレイヤーが語る「嘘と役者」についての事柄
【阿部はりか監督インタビュー】映画『暁闇』若さが抱える孤独さに共に“孤独”でありたい
【エリック・クー監督インタビュー】斎藤工との友情の映画制作とアジア発の若き映画作家たちの育成に努めたい
映画『凪待ち』2019年6月28日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開【主演:香取慎吾/監督:白石和彌】
【白石和彌監督インタビュー】香取慎吾だからこそ『凪待ち』という被災者へのレクイエムを託せた
【Cinemarche独占・多部未華子インタビュー】映画『多十郎殉愛記』のヒロイン役や舞台俳優としても活躍する女優の素顔に迫る
日本映画大学
FILMINK
国内ドラマ情報サイトDRAMAP