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映画『3つの鍵』あらすじ感想と解説評価。モレッティが歪んでいく‟三家族の素顔”を巧みに描き出す|映画という星空を知るひとよ109

  • Writer :
  • 星野しげみ

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第109回

イタリアが世界に誇る名匠ナンニ・モレッティ監督待望の最新作『3つの鍵』。

第74回カンヌ国際映画祭コンペティション部門正式上映され、「モレッティの大いなる帰還」「開かれた世界への招待」と海外メディアからも高い評価を受けた作品です。

衝撃の事故をきっかけに、隣人たちの隠された素顔が次第に露わになって行く『3つの鍵』。日常が歪みだす出来事を見事に描き出しています。

『息子の部屋』(2001)『ローマ法王の休日』(2011)などを手がけたナンニ・モレッティ監督が、卓越した演出で魅せる緊迫のドラマをご紹介します。

映画『3つの鍵』は、2022年9月16日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、アップリンク吉祥寺他全国順次公開

【連載コラム】『映画という星空を知るひとよ』一覧はこちら

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映画『3つの鍵』の作品情報


(C)2021 Sacher Film Fandango Le Pacte

【公開】
2022年公開(イタリア・フランス合作映画)

【原作】
エシュコル・ネヴォ:「3つの鍵」(仮題)五月書房新社

【原題】
Tre piani

【監督・脚本】
ナンニ・モレッティ

【編集】
クレリオ・ベネベント

【出演】
マルゲリータ・ブイ、リッカルド・スカマルチョ、アルバ・ロルバケル、アドリアーノ・ジャンニーニ、エレナ・リエッティ、アレッサンドロ・スペルドゥーティ、アンナ・ボナイウート、パオロ・グラツィオージ、ステファノ・ディオニジ、トマーゾ・ラーニョ、ナンニ・モレッティ、デニーズ・タントゥッキ

【作品概要】
『3つの鍵』を手がけたのは、『息子の部屋』(2001)でカンヌ国際映画祭パルムドール、『親愛なる日記』(1993)で同監督賞を受賞しているイタリアのナンニ・モレッティ監督です。

ひとつの事故をきっかけに同じアパートに住む3つの家族の素顔が、次第に露わになっていく様子をスリリングに描いた人間ドラマ。本作は、イスラエルの作家エシュコル・ネボの小説『Three floors up』を原作にしています。

出演はマルゲリータ・ブイ、リッカルド・スカマルチョ、アルバ・ロルバケルら。

映画『3つの鍵』のあらすじ


(C)2021 Sacher Film Fandango Le Pacte

ローマの高級住宅地にあるアパートで、3つの家族が暮らしています。それぞれが顔見知り程度で、各家庭の扉の向こう側にある本当の生活は知りません。

ある夜、建物に車が衝突し女性が亡くなりました。

運転していたのはアパートの3階に住む裁判官夫婦の息子アンドレアでした。

2階の住人のモニカは初めての出産をまじかに控えた妊婦。夫が長期出張中のため、一人で出産のため病院に向かっていました。

1階に住む夫婦は、事故によって仕事場が崩壊したので、娘を朝まで向かいの老人に預けることにしました。

事故が発生した後、アンドレアが起こした事故を巡って裁判官夫婦は、始末に奔走します。

モニカは無事に出産しますが、留守がちな夫はあてにならず、ほとんど1人での子育てに不安が募ります。

1階の夫婦は娘の預け先の老人が娘と2人で迷子になったことを知ります。娘を探しまわる父親は、老人が娘に悪戯をしたのではと疑惑の目を向けます。

それらの小さな出来事が、予想もしなかった家族の不和を引き起こし、彼らを次第に追い詰めていきます。

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映画『3つの鍵』の感想と評価


(C)2021 Sacher Film Fandango Le Pacte

息子は交通事故の犯人

車での事故が引き金となって、同じアパートに住む3つの家族の生活が露わになって行きます。

まずは事故を起こしたアンドレアの家族。

犯罪者となった息子のことで苦しむヴィットリオ(ナンニ・モレッティ)とドーラ(マルゲリータ・ブイ)夫妻は裁判官です。

アンドレアは何とか自分に都合のよいように裁判を取り計らってくれるよう、頼みます。

そんな甘ちゃん息子の更生のために動こうとするドーラですが……。

子どもが事件を起こしたらどうすればよいのか、子どもの将来にとって良いと思われる方法とは何でしょう

母の選択が問われます。

育児不安を抱える女性


(C)2021 Sacher Film Fandango Le Pacte

2階には夫が不在がちで赤ちゃんを出産したモニカが住んでいました。

初めての出産・育児で、何から何まで自分でしなければならないモニカ(アルバ・ロルバケル)は、耐えず人との交流を求め、一人で子育てをする不安に押しつぶされそうになっていました。

もしかすると誰もがなるかも知れない「育児不安」は、妊娠出産を経験した女性にとって避けられない現実問題です。

たまに帰宅する優しい夫と可愛い我が子。生まれてきた子どもに罪はなく、モニカは懸命に子育てをしようとしますが……。

産むべきか、または育てられるのかという不安を解消するには、どうすればよいのでしょう

ここでも、女性特有の問題が鋭く問われます。

隣人は犯罪者?


(C)2021 Sacher Film Fandango Le Pacte

仕事場が事故で崩壊した1階に住むルーチョ(リッカルド・スカマルチョ)とサラ(エレナ・リエッティ)夫妻は、娘を隣の老紳士レナード(パオロ・グラツィオージ)に預けました。

しかし、レナードは認知症を発症していました。娘と2人で散歩に出たまま行方不明になってしまいます。

娘の両親が血眼になって探していると、公園のベンチで娘の膝枕で寝ているレナードが発見されました。

ルーチョは、レナードに対して性的な悪戯を娘にしたのではないかと疑います。

心に芽生えた黒い疑惑は日に日に濃くなり、隠しきれないほど露骨なものとなって、隣人同士の争いになりました。

ここでもこんなトラブルは避けられなかったのか、と問われます。

本作では、3つの家族のその後も映し出されます。自動車事故が起こったすぐあとの選択1つで、こんな人生になったかと思うと、選択肢の大切がよくわかることでしょう。

そして、誰もが持っているであろう家庭内の秘密や悩みが徐々に明らかにされていくことに対しても、恐ろしく感じるのではないでしょうか

スリルに満ち溢れたストーリー展開と平和な家庭が脅かされていく描写がリアルに描かれ、この3つの家族から目が離せなくなるにちがいありません。

まとめ


(C)2021 Sacher Film Fandango Le Pacte

平凡で幸せそうに見える家族にも表には出ない裏の顔がありました。

交通事故がきっかけで徐々に明らかになる各家族の事情。その時のひとつの判断に導かれたその後の成り行きが、本作『3つの鍵』では、大きな意味を持っています。

ターニングポイントでの選択肢はとても重要! 人生の扉を開く鍵を握るのは自分の判断と本作から教えられます。

ナンニ・モレッティ監督が描く、スリリングに描かれる日常生活が歪んでいく様子に目を見張ることでしょう。

第74回カンヌ国際映画祭コンペティション部門正式上映の映画『3つの鍵』は、2022年9月16日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、アップリンク吉祥寺他全国順次公開です。

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星野しげみプロフィール

滋賀県出身の元陸上自衛官。現役時代にはイベントPRなど広報の仕事に携わる。退職後、専業主婦を経て以前から好きだった「書くこと」を追求。2020年よりCinemarcheでの記事執筆・編集業を開始し現在に至る。

時間を見つけて勤しむ読書は年間100冊前後。好きな小説が映画化されるとすぐに観に行き、映像となった活字の世界を楽しむ。

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