あなたの好きな人のスマートフォンに着信されたメールや電話の相手が誰なのか?気になることはありませんか。
また、逆にあなたは大切な人に、自分のスマートフォンを見せられますか。
今回ご紹介する『おとなの事情』は、男女7人が自身のスマフォをテーブルに出して、掛かってくる電話をオープンすることで、お互いの信頼関係を確認するゲームを始めたからタイヘン!
それぞれ夫婦には、もちろん秘密はないはずが…。心理的な会話劇の行方は?
映画『おとなの事情』の作品情報
【公開】
2017年(イタリア映画)
【脚本・監督】
パオロ・ジェノベーゼ
【キャスト】
ジュゼッペ・バッティストン、アンナ・フォッリエッタカル、マルコ・ジャリーニ、エドアルド・レオコ、バレリオ・マスタンドレア、アルバ・ロルバケル、カシア・スムトゥアニク
【作品概要】
新婚カップルや倦怠期を迎えた夫婦、娘の反抗期に悩む夫婦などが、スマートフォンに掛かってくる電話やメールをみんなの前で披露するというゲームをきっかけに巻き起こるイタリア製のワンシチュエーションコメディ。
イタリアのアカデミー賞と言われるダビッド・ディ・ドナテッロ賞にて、作品賞、脚本賞を受賞。ニューヨークのトライベッカ映画祭にて、脚本賞受賞など多数の映画賞を獲得。
映画『おとなの事情』のあらすじとネタバレ
(C)Medusa Film 2015
月食の晩に、ロコ夫妻の自宅に幼なじみがパートナーを連れて、ホームパーティーの食事に集まります。
集まったのは男女7人、イチャイチャな新婚カップルのコジモとビアンカ、その逆に倦怠期の夫婦レレとカルロッタ、思春期の娘に手を焼いているエヴァとその娘と妻の板挟みに悩むロッコ。
そして、やっと“彼女ができた”が、なぜか1人でやってきたバツイチのペッペ。
幼なじみに秘密などはないと気心の知れた7人は、楽しく食事する余興がきっかけで、スマートフォンを使った「信頼度確認ゲーム」を始めます。
ルールはいたってシンプル。各自のスマートフォンをテーブルの上に置き、メールが届いたら、メンバーの前で開いて読み上げる。もし、電話が鳴ったらスピーカーフォンに切り替えて、メンバーの前で話をすること。
やがて、それぞれのスマートフォンには電話が鳴り、メールが届くと、ひとつスマートフォンが鳴る度に、それぞれの秘密が暴かれていく…。
映画『おとなの事情』の感想と評価
(C)Medusa Film 2015
この作品は、食事を囲みながらお喋りをするイタリア人らしい大らかな性格を見せた粋な会話劇。変に難しい哲学的なことがなく、ストレートに人間の本質をさらりと描いています。
個人的には、最近のイタリア映画を観る度に思うのですが、どれもこれもが秀作揃いなような気がします。
ナンニ・モレッティ監督の『母よ、』(2015)や、エドアルド・ファルコーネ監督の『神様の思し召し』(2015)など、映画ファンを魅了するような、ハリウッド映画とは違った世界観を持っています。
ウィットに富んだ会話で大人のドラマが楽しむことができるのが、『おとなの事情』と言っても良いでしょう。
監督はCM界で長年活躍をして数々の受賞歴のあるパオロ・ジェノヴェーゼ監督の初監督作品。
同じ年のイタリア映画には、パオロ・ソレンティーノ監督の『グランドフィナーレ』や、ジャンフランコ・ロージ監督の『海は燃えている~イタリア最南端の小さな島~』といった大物監督を抑えて、第60回ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞にて作品賞&脚本賞のW受賞は快挙と言えるでしょう。
ジェノヴェーゼ監督は、会話劇の重要なアイテムを2つ用意しました。ひとつはスマートフォン。もうひとつは月食の月です。
スマートフォンについては、映画の小道具として“電話”は重要な会話(台詞)や場面転換の進行で役割を担ってきました。しかし、携帯電話の登場と普及によって映画やドラマの脚本に大きな変化をもたらしました。
スマートフォンとは、他者とのコミュニケーションとしてパブリックなこと、プライベートなこと、秘密といった、3つの日常の全てを持っている感情のブラックボックスとして描いています。
ジェノヴェーゼ監督のこのアイデアは秀逸で、流石CM監督だけあって、物の本質を見せてくれました。
また、もうひとつのアイテムである“月食”は、光を覆い隠すことで覆われている“人の持つ秘密”を視覚的なメタファーとして表現しています。
この作品を見ながら、月食が終わった後に男女7人があまりにもあっけなく、何事もなかったかのようなにあっさりと関係を修復した場面をどのように読むかが、ジェノヴェーゼ監督が観客に投げかけたメッセージなのでしょう。
あなたは、この大人の事情という秘密の暴露ゲームに何を感じるのでしょう。
まとめ
(C)Medusa Film 2015
ジェノヴェーゼ監督は、1つのテーブルを囲んだ男女7人の会話で映画を最後まで飽きさせずに観せてくれます。
正確に指摘するなら、男女8人のカップル4人組の関係という秘密の食材を調理して、テーブルに並べて料理を味わうように、人の欲望と信頼の不安を見せてくれました。
観客がそれぞれの登場人物に自分を重ねられるような設定と、あえて、メンバーの中で1人幼なじみではなく仲間入りしたビアンカという存在を、観客の視線として導入させて機能させています。
また、テープルにはいない8人目の存在のルチオを、観客という存在にクロスオバーさせた点も脚本は素晴らしい粋な構成です。
「男女7人、スマートフォン、月食」。
これだけで観客の心の琴線に触れた映画の深さは、パオロ・ジェノヴェーゼ監督の実力そのものですね。
世界中の映画祭で脚本賞・観客賞など16冠の栄誉を獲得した、『おとなの事情』は、2017年3月18日から新宿シネマカリテを公開に全国順次上映予定。
ぜひ、映画館ではあなたのスマートフォンをオフにした状態で、他人を覗きみたい男女7人のスマートフォンに注目です!
全国の劇場にて大人の映画をお見逃しなく!
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