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映画『ZAPPA』あらすじ感想と評価解説。フランクザッパのドキュメンタリーで見えてきたロックミュージックの価値とは⁈

  • Writer :
  • 桂伸也

映画『ZAPPA』は2022年4月22日(金)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国ロードショー!

「ロック界の奇人」の一人といわれながらも、数々の名作を作り上げ歴史にその名を刻んだミュージシャン、フランク・ザッパの生涯を追ったドキュメンタリー『ZAPPA』。

ロックミュージシャンとして偉大な功績を作り上げたフランク・ザッパの歩んできた道を、貴重なフッテージとともに綴ります。

本作では彼の生前のライブやインタビュー映像とともに、彼を取り巻く家族やミュージシャンなどの証言も収録。彼の作り上げてきた音楽の存在意味から、人が芸術に携わる意味を問うていきます。

映画『ZAPPA』の作品情報


(C) 2020 Roxbourne Media Limited, All Rights Reserved.

【日本公開】
2022年(アメリカ映画)

【原題】
ZAPPA

【監督】
アレックス・ウィンター

【出演】
フランク・ザッパ、ブルース・ビックフォード、パメラ・デ・バレス、バンク・ガードナー、デヴィッド・ハリントン、マイク・ケネリー、スコット・チュニス、ジョー・トラヴァース、イアン・アンダーウッド、ルース・アンダーウッド、スティーヴ・ヴァイ、レイ・ホワイト、ゲイル・ザッパ

【作品概要】
アメリカのロックミュージシャンであり、作曲家や思想家としても活動したフランク・ザッパの人生を追ったドキュメンタリー。

音楽家として目覚めた1960年代から、1990年代にかけて活躍したザッパの生前の活躍の姿やコメントなどと合わせ、周囲の人間による証言などを映し出し、その人間性に迫ります。

作品を手掛けたのは「ビルとテッド」シリーズなどに俳優として出演、『悪魔の棲む部屋』(1999)などを手掛けたアレックス・ウィンター監督。

映画『ZAPPA』のあらすじ


(C) 2020 Roxbourne Media Limited, All Rights Reserved.

1960年代にミュージシャンとして台頭して以降、自身が手掛けた膨大な数の作品で多くの音楽家に影響を与えたフランク・ザッパ。

きわどい内容や難解で複雑な構成と、彼の作り上げていった作品は音楽的には高い評価を得ながらも、商業主義とは一線を画し音楽のメインストリームからは型破りな存在でありました。

しかしそんな世間の評価などはよそに、彼は常に真剣な姿勢で創作に向き合い、時に政治にも深く関わることもありました。本作はそんな彼の本質に迫ります。

映画『ZAPPA』の感想と評価


(C) 2020 Roxbourne Media Limited, All Rights Reserved.

ロックという文化の中でもひときわ強い印象と実績を残し、歴史に名を刻んだフランク・ザッパ。

一方でその難解な作品の数々は、単に「ロックが好き」という人にはなかなか受け入れられず、彼の作品はどちらかというと「マニアックなファン向け」という方向に追いやられてきました。

有名であるにもかかわらず、作品を知られていない。そんな矛盾の中に実は現代の芸術文化に対する課題が見えるようでもあります。

本作は、フランク・ザッパという一人のアーティストの姿を通して、そのことを世へ問いかけるように描いています。

先述のザッパの作品が受け入れられない現代の「ロック好き」が、どのような音楽なら受け入れられるのかを考えると、そこに一つの答えは見えてくるかもしれません。

近年いわゆるロックなどのポピュラー音楽は、耳触りがよく、わかりやすく、躍動感があり前向きな気分にしてくれる、変にケンカ腰にならない、そんなキャッチーな印象のイメージに帰着する傾向にあるようでもあります。

その理由はごく簡単なもので、人になじみやすいもの、キャッチーなものほど「金を儲けやすい」からです。つまり多くの音楽はビジネス、金儲け自体が目的になっているわけです。

その意味でザッパの音楽は、金儲けの対象とはなり難く、玄人筋には評価されてもレストランや喫茶店のBGMにはなりにくいとっつきにくさを持ったものでもあります。

それでも彼が自身の音楽を作り続けたことには、金銭を超えた価値の創造という目的がありました。

劇中では、アメリカのテレビによるインタビュー・バラエティ番組に彼が出演したシーンがありますが、ここでは彼がアルバムの製作において、とある有名なオーケストラと共演したことへのインタビューの様子が描かれています。

そんな有名なオーケストラとよく共演できたものだ、ということを皮肉るように、インタビュアーは「彼らと共演するなんて、本当だったらお金がかかるんじゃない?」と尋ねると、彼は「そうだよ、だからたくさん金を払った」とすんなりと返して笑いを取ります。

結果として冗談話で終わってしまった一場面ですが、改めて彼の言葉を振り返ると、実にまともな意志を持った返答にも聞こえます。

また、彼は自身の音楽製作を社会への奉仕的なものと発言しています。こうした作品のポイント一つ一つを検証してみると、ザッパが音楽を作ってきた目的は金よりも音楽を作ること自体、そしてその音楽を多くの人に聴いてもらい、感じてもらうことに終始していたようにも見えます。

そしてそのザッパの生涯を、作品を通して眺めると芸術に携わることの意味を考えさせられるでしょう。

この作品では現代の芸術家はある意味その芸術家が作った作品の値段でしかその価値を示されていない、つまりは「芸術作品」と呼ばれるものが金、ビジネスというものに取り込まれてしまい、その本来の意味を失っていることを示しているようでもあります。

ザッパの作り出したものは、それとは対照的に「いにしえの偉大な芸術家」のステータスを自身に作り上げようとしていたようでもあります。

まとめ


(C) 2020 Roxbourne Media Limited, All Rights Reserved.

本作で一つ興味深いのは、劇中にも登場する息子の一人、ドゥイージル・ザッパの存在にあります。

その特徴的な鼻づらから、ルックスでの評価は今一つだったフランク・ザッパとは対照的に、ドゥイージルはロック・ギタリストの伝説的な存在であるエディ・ヴァンヘイレンにレクチャーを受け腕を磨き「イケメン」と評され、鳴り物入りでザッパとは違う形でのミュージシャンデビューを果たしましたしました。

音楽家として親と同じ道を進んだわけですが、本作でドゥイージル自身のコメントは登場しません。

そこには親と違う音楽への思いがあるのか、様々な思惑も見られますが、その一方で、こうした事情はある意味フランク・ザッパの作り上げてきたもの、彼の思いは孤高のものであったと改めて思い知らされる部分でもあります。

また、この作品はザッパの家族とのつながりに言及している点にも魅力があります。メディアの写真などで見られる彼の表情は、大半が笑顔など見せないムッとしたような表情を見せているものでしたが、この作品では幼少の子供たちと戯れる場面や、笑顔でミュージシャンと接する場面など貴重なシーンも多く見られます。

こうしたシーンからは、彼が単に音楽に没頭した奇人というよりは人が好きであり、人のために音楽を作っていたという彼のまた違った見え方が現れるでしょう。

映画『ZAPPA』は2022年4月22日(金)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国ロードショー

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