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Entry 2021/07/10
Update

映画『オキナワ サントス』感想評価と内容あらすじ解説。ブラジルであった日系移民強制退去事件を取材しながら明らかと隠された史実

  • Writer :
  • 桂伸也

映画『オキナワ サントス』は2021年8月7日(土)よりシアター・イメージフォーラムほかにて全国ロードショー!

1943年にブラジル・サントスで日系移民たちに何が起きたのか?大きな戦争の裏に隠れた真実に迫る『オキナワ サントス』。

第二次世界大戦直前、内戦の絶えなかったブラジルで発生した「日系移民強制退去事件」という事件に迫った本作。

ドキュメンタリー作品『花と兵隊』で戦後もタイ・ビルマに留まった「未帰還兵」たちの今に迫った松林要樹監督が、本作にて歴史の闇に埋もれた事件の真相解明に挑戦、ブラジル沖縄県人会の協力を得て当時の生存者たちを訪ねるなど念密な取材を敢行しました。

映画『オキナワ サントス』の作品情報

(C)玄要社

【日本公開】
2021年(日本映画)

【監督・撮影・編集】
松林要樹

【作品概要】
1943年にブラジル・サントスで起きた「日系移民強制退去事件」の真相を、当時の事件に遭遇した人たちの証言とともに迫るドキュメンタリー。

ドキュメント映画『花と兵隊』『祭の馬』を手掛けた松林要樹監督が本作でこの歴史上の不穏な出来事に挑みます。松林監督は2016年に文化庁新進芸術家研修制度でブラジル・サンパウロに滞在も経験しました。

また本作は『第21回東京フィルメックス』のコンペティション部門に出品されています。

映画『オキナワ サントス』のあらすじ

(C)玄要社
第二次世界大戦前夜から戦中にあったブラジル。当時の独裁政権は約20万人の日系移民に対して日本語新聞の廃刊、日本語学校の閉鎖、公の場における日本語の使用禁止など不条理な命令を下しました。

そして1943年7月8日、南東部の港町サントスで暮らす日系とドイツ系の移民に、24時間以内に町から退去せよとの命令が下されました。ある者は収容所へ送られ、ある者は家族と生き別れ、移民同市で構成されたコミュニティは崩壊しました。

一方、戦後70年以上にわたり「日系移民強制退去事件」は歴史上のタブーとされ、長らくブラジルの日系人社会で公に語ることもはばかられました。

この作品では発見された当時の日系移民の「名簿」から、強制退去させられた日系585世帯の6割が沖縄からの移民だった事実に注目、ブラジル沖縄県人会の協力を受け、生存者たちを訪ね、日本とブラジル、沖縄の間に埋もれた壮絶な歴史の真実に迫っていきます。

映画『オキナワ サントス』の感想と評価

(C)玄要社
第二次世界大戦を語る上で多く取り上げられる「戦争」「沖縄」という共通テーマ。その中でも、この作品で取り上げたトピックスはあまり知られていないながら、重要なテーマといえるでしょう。

「沖縄」と「サントス」。作品では二つの地の日本人とこのトピックスをつなげると、「日本」というルーツを持ちながらも国籍、戸籍を持てないという問題にたどり着くことを示しており、この点においてさらに掘り下げると「沖縄」というルーツを持つ人たちは、その事実によって「日本人」という認識とは違う社会的地位とされている、という問題にたどり着きます。

さらにこの事件の根が深いのは、戦後の彼らの生活の中でさまざまな傷跡を残した点にあります。例えば日本でもかつて原爆が投下された後に被爆者たちは、自分たちが被爆者であることを隠して生きるよう親に言われて生きてきた、という話もあります。


(C)玄要社

先日公開された映画『カウラは忘れない』では、捕虜として生き残ったことを恥じて、敢えて自分の名を変え元の自分を死に至らしめるというエピソードも示されました。

この移民強制退去事件に関しても、実は同様に自分たちが日本、沖縄というルーツを持つがゆえに強いられる大きな苦しみがあり、敢えてそのルーツを隠すというエピソードが証言者の口からも語られ、戦争により生まれた大きな偏見、憎悪がいかに人々の人生に甚大な影響を及ぼすかを、改めて知らしめています。

これらのことより、日系移民が多く住むブラジルという国と日本の関係が必ずしも良好な関係だけに成り立ってはいないということを改めて知ることにもなるでしょう。戦争という出来事が国と国との関係にどのような変化を及ぼすのか、そして人々の人生にいかなる変化を及ぼしていくのか。世界の様々な紛争が抱える問題とともに、現代の日本という国自体のさまざまな課題を、改めて提起しているともいえるでしょう。

まとめ

(C)玄要社

この作品の大きな特徴は、事件当時を経験した人たちの証言をメインとして構成されていることにあります。事件を経験した当時、彼らはほんの子供でした。そう考えると本作の視点はまさに事件当時の子供の視点で事件を追っていることになります。

子供は自身の境遇を自分で決定することはできません。また何か大きな事件が発生した際に、自分たちではそれに対して対処のしようがありません。そのためこの作品での論点は、この出来事に対してなんのしがらみもない人物が、時代の流れに翻弄され不条理な扱いを受けたという事実にスポットを当てたものとなっています。

沖縄というルーツを持ち、子供の時分からブラジル移民として育った、当時としては特殊な境遇を持つ彼らであれは、この意味はなおさら強いものとなっています。作中では時に当時を回想し感極まって涙を流す証言者の表情に、強く心を動かされるような場面なども見られます。

それゆえに作品からは国同士の争い、人同士の対立という問題に対してその存在に対する疑問感を湧き立たせるとともに、こういった事件が争いに直接かかわらない人の人生にまで大きな影響を及ぼしていくものだということを、深く想起させる作品といえるでしょう。

映画『オキナワ サントス』は2021年8月7日(土)よりシアター・イメージフォーラムほかにて全国ロードショー



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