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Entry 2021/06/30
Update

映画『サンマデモクラシー』感想評価と内容解説。玉城ウシら沖縄の人々を通じて“ポジティブ”に戦うことの意味を描く

  • Writer :
  • 桂伸也

映画『サンマデモクラシー』は2021年7月3日(土)より沖縄・桜坂劇場にて先行公開後、7月17日(土)より東京・ポレポレ東中野にて全国順次公開!

第二次世界大戦後、戦争の傷跡によって苦しい生活を強いられてきた沖縄の人たち。そんな中で一人立ち上がったのは、ある魚卸業の女性でした。

戦後の沖縄において、法外なサンマの価格高騰で怒りを覚えた人たちが発起していく姿を追ったドキュメンタリー映画『サンマデモクラシー』。

自身の出身地・沖縄で「沖縄戦」をはじめとした沖縄に関する数々の取材とドキュメンタリー作品制作を行い、映画・映像において多くの賞を受賞した山里孫存が本作を手掛けました。

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映画『サンマデモクラシー』の作品情報

(C)沖縄テレビ放送

【日本公開】
2021年(日本映画)

【監督・プロデューサー】
山里孫存

【キャスト】
志ぃさー(ナビゲーター)、川平慈英(ナレーション)

【作品概要】
アメリカ統治下の1960年代の沖縄で、一人の女性がサンマの輸入関税の還付を求めて訴訟を起こしたことをきっかけに、沖縄が大きく変革を遂げた軌跡を取材したドキュメンタリー。

魚卸業を営む中で訴訟を起こした実在の女性・玉城ウシさんを中心に、裁判を支えた下里恵良弁護士、映画『米軍が最も恐れた男』で知られる政治家・瀬長亀次郎氏ら沖縄の自治権を求めて奮闘した人々の行動を探ります。

『カントクは中学生』『岡本太郎の沖縄』『ちむぐりさ 菜の花の沖縄日記』などのドキュメント作品を手掛けてきた山里孫存が監督、プロデュースを務めました。またキャストとしてうちな~噺家として活動する志ぃさーがナビゲーターを、俳優の川平慈英がナレーションを担当します。

映画『サンマデモクラシー』のあらすじ


(C)沖縄テレビ放送

アメリカの統治下で大きく締め付けを受けていた第二次世界大戦後の沖縄。1963年には人々が昔から親しんでいたサンマにすら輸入関税がかけられ法外な価格高騰が発生、人々の生活を苦しめていました。

ところが琉球列島米国民政府の物品税法においてサンマは「関税がかかる魚」として項目内で指定されておらず、この問題に魚卸業の玉城ウシさんは立ち上がりました。彼女は徴収された税金の還付を求め「下里ラッパ」と呼ばれた下里恵良弁護士と共に、琉球政府を相手に訴訟を起こしていきます…。

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映画『サンマデモクラシー』の感想と評価


(C)沖縄テレビ放送

「それでも、何をすべきか」を考える意志

2019年公開の映画『i-新聞記者ドキュメント』では、新聞記者・望月衣塑子の取材現場における活動の姿を通して、メディアとしての在り方を問う一方で政治権力という抑圧に対抗する一つの姿を示しました。こういった作品と並べてみると、『サンマデモクラシー』ではその出来事の顛末として、さらに一歩推し進めた実例を見せているようでもあります。

しかし反面、大きな力のその背景にあるさらに大きな力によって、単に声を上げるだけで相手に対抗することはかなり難しいことも同時に示しています。実際、これら裁判の結末が訴訟を起こした側に対してハッピーエンドで終わっているかといえば、日本の一部と認められその状況は日々改善されつつも、未だ米軍基地問題など戦争の傷跡といえるさまざまな問題を抱えた沖縄の状況を見ると、決して「ハッピーエンド」とはいえないのは明らかでしょう。

それでも『サンマデモクラシー』という作品は、自分たちからはなかなか手の届かない大きな力に対して、自分たちはどうあるべきかと考えていく意志を導き出すものとなっています。本作の中心人物である玉城ウシさんは、どのようにその訴えの声を上げ「勝訴」にまで持ち込んだのか。もちろん映像では、その彼女の思いの強さがさまざまなエピソードの記録とともに描かれます。

そして重要なのは、結果的に下里弁護士との協調により裁判に打ち勝ったということ、その下里弁護士の巧みな施策によってこの訴訟は大きな問題として膨れ上がり、ついには沖縄のその後の行方につながったということにほかなりません。


(C)沖縄テレビ放送

先述の望月衣塑子は『i-新聞記者ドキュメント』が出品された第32回東京国際映画祭でのティーチインにて、やはり臆さず声を上げ続けるべきという趣旨の発言を行いましたが、それは『サンマデモクラシー』にも大きくつながるものが感じられます。

戦いには結果的に勝つときもあり、同様に負けるときもありますが、その結果云々だけで何もかもをあきらめてはいけない、「常に自分たちの生活の問題をとらえ、声を上げ戦い続けることこそが重要である」ということを示しています。

また映画の物語展開がほぼ志ぃさーのナビゲーション、川平慈英のナレーションでユーモラスに進められているのも特徴的です。

作中で描かれる訴訟において、結果的に原告が望む方向に進んだのかという疑問には賛否が別れるところもあるかもしれません。しかし上記のユーモラスな語りの演出をふまえると、たとえ訴えが退けられても悲壮感を抱かせるような演出を敢えてしていない、いわば「外す」ことで表現しているとも受け取れます。

それは『サンマデモクラシー』で描かれた問題を「戦後」の人々に対して、つまり戦争を実際に経験しそれを引きずる人々以上に、戦争を知らないながらも生まれながら「戦後」の影を背負う宿命の人たちに向けて、問題に対してポジティブに向き合い、そのポジティブさをもって戦い続けることを訴えているようでもあります。

まとめ


(C)沖縄テレビ放送

『サンマデモクラシー』のナレーションを担当した川平慈英は沖縄の出身ですが、作中の証言者として川平の父・朝清が登場します。彼は「沖縄初のアナウンサー」として活躍したマスコミ業界のレジェンドであり、映画のテーマに深く関連したエピソードを持っていることからも、映画により深い趣を与えています。

また本作は、「戦後」を考える意味でも重要な意味を示しています。2020年は「終戦後75周年」という節目を迎えましたが、さまざまな世界的トラブルが続発し世界全体に緊張が高まる中で、戦争について考える視野をさらに広げ、「戦後」を深く考える必要性も叫ばれています。

『サンマデモクラシー』は終戦後も「日本」とは違う理不尽な扱いを受けたことに大きな異議を唱え、ついに抑圧された人々による戦いへとつながってゆく物語が描かれています。そして本作で描かれたエピソードは、今でこそ日本と認められながらもいまだ「日本」でない部分を持つ沖縄の、長きにわたり抱えた傷の一側面を示しているようでもあり、戦争が被る「戦時の被害」の甚大さに隠れた大きな問題、「戦後」にまで影響する問題を提起しているともいえるでしょう。

映画『サンマデモクラシー』は2021年7月3日(土)より沖縄・桜坂劇場にて先行公開後、7月17日(土)より東京・ポレポレ東中野にて全国順次公開!





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