Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

ドキュメンタリー映画

Entry 2021/02/17
Update

映画『フィールズ・グッド・マン』感想評価レビュー。マットフューリーの漫画が映すネット社会と創作の現在

  • Writer :
  • 桂伸也

映画『フィールズ・グッド・マン』は2021年3月12日(金)より全国順次ロードショー!

何の悪意もないユーモラスなキャラクターが、突然「諸悪」の象徴に? ある漫画のキャラクターに起きた奇妙な顛末の経緯を追ったドキュメンタリー映画『フィールズ・グッド・マン』。

インターネットでカルト的人気を誇る漫画『Boy’s Club』の登場キャラクター・ぺぺが、とあるきっかけからインターネット・ミーム(インターネットを通じて人から人へ、模倣的に拡がっていく行為/コンセプト/メディアなど)となり、まったく意図しない認識のされ方をしていく様を追います。

漫画作家という視点を持つと同時に、ジャーナリズムに関連した映像関連の仕事も手掛けてきたアーサー・ジョーンズが本作の監督を務めます。

映画『フィールズ・グッド・マン』の作品情報

(C) 2020 Feels Good Man Film LLC

【日本公開】
2021年(アメリカ映画)

【原題】
FEELS GOOD MAN

【監督】
アーサー・ジョーンズ

【キャスト】
マット・フューリー、ジョン・マイケル・グリア、リサ・ハナウォルト、スーザン・ブラックモア、サマンサ・ビー、アレックス・ジョーンズ、ジョニー・ライアン

【作品概要】
アンダーグラウンドのアメリカン・コミックのキャラクターである「カエルのぺぺ」をテーマにしたドキュメンタリー。作者マット・フューリーによって生み出されたキャラクターであるぺぺにまつわる数奇な運命を、アニメーションやリサーチの内容などを織り交ぜながら綴ります。

監督は映像作家のアーサー・ジョーンズ。また映像にはフューリー本人やその周囲の人たちとともに、アニメ『トゥカ&バーティー』の企画・製作総指揮を務めたリサ・ハナウォルトや漫画家のジョニー・ライアンらクリエイターも登場します。

映画『フィールズ・グッド・マン』のあらすじ

(C) 2020 Feels Good Man Film LLC

キャラクターたちのユニークな姿を通して若者たちの日常を象徴的に描いた、漫画家マット・フューリーの『Boy’s Club』。

漫画はアンダーグラウンド界隈で人気を博していた一方、とある回にて、漫画の主人公であるカエルのぺぺが「feels good man(気持ちいいぜ)」というセリフを発した場面が、一つのイメージ画像としてインターネットの掲示板やSNSで拡散されていきます。

やがてぺぺはインターネット上のミームの一つとなり、2016年のアメリカ大統領選時には匿名掲示板「4chan」などで人種差別的なイメージとして拡散されてしまいます。

さらにはユダヤ人組織の名誉毀損防止同盟からヘイトシンボルに認定されたり、トランプ大統領の当選にも関わったりと、キャラクターの生みの親・フューリーのまったく予想だにしない方向へと引っ張られ続けます……。

映画『フィールズ・グッド・マン』の感想と評価

(C) 2020 Feels Good Man Film LLC

ネット社会と創作の今を描くドキュメンタリー作品

映画『フィールズ・グッド・マン』は、インターネット環境の急速な拡大により、クリエイターが生み出した作品を容易に広く伝えることができるようになった現代において、逆に危惧しなければならないものが生じたという事実を、一つの例を用いてユーモラスに、また同時に辛辣にも描いています。

物語のキーマンとなるフューリーやその周辺の人々、関係者へのインタビューとさまざまなリサーチの内容、そして意図せずして「インターネット・ミーム」と化してしまったぺぺを描いたアニメーションなどで構成された本作。

アーサー・ジョーンズ監督はマット・フューリーと同じく、インターネットを作品発表の場として漫画家活動を行っていることから、漫画家としての観点でも一連の出来事を捉えており、かつ国際ジャーナリスト企業などでの仕事経験もあることから、監督としては本作がデビュー作でありながらも、一連のテーマを的確に、そして鋭く描写しています。

(C) 2020 Feels Good Man Film LLC

一方で、この作品におけるぺぺを取り巻く出来事の特徴は、大きな主題として製作陣側の主観で構成し、そのフッテージを一つの作品として組み上げている点にあります。

その主題とは、表現者が生み出したものが一人歩きするうちに奪われ、まったく意図しない方向へと進んでいく中で「怪物」と化すということ。

そしてこの主題に対し、「ここが問題」という要因を敢えてまとめていないことが重要なポイントとなります。その意図としてはやはり、見る側の人たちにこの問題を深く考えてもらいたいという点にあるようです。

現代は同様の出来事がさまざまなケースで起こりつつあり、人それぞれの観点でこの問題を見つめてもらう必要がある状況の中、このような形で一連の出来事を取り上げて現象を提起することは、非常に大きな意味のあるものでもあります。

特に日本のアニメブームを発端に漫画、アニメという文化が世界中に拡がりつつある現在において、クリエイターの作品が一人歩きしてしまうケースへの危惧が日々高まりつつある中、本作で取り上げられた要点はなおさら注目、注意していくべきものであると言えるでしょう。

まとめ

(C) 2020 Feels Good Man Film LLC

ぺぺというキャラクターに愛らしい表情があり、作者もそれを意図して描いたという事実がある中で、この映画で語られる実際の出来事はクリエイターの立場からするとショッキングである一方、その活動の難しさと覚悟の必要性を改めて感じさせられるものです。

この覚悟こそが、物語の結論と言えるものかもしれません。物語はフューリーが作品を書き上げて発表したことから展開を始めますが、それは企業や政府などの大きな力に左右されないインターネットの掲示板サイトによって、作者が予想だにしない方向に振られていき、エスカレートしていきます。

その経緯は、ついには政治の一端にすら利用されてしまうという、作者がまったく意図しない、望まない方向に進んでしまうわけです。

物語ではさまざまな事件からその問題点を挙げています。物語を見たクリエイターが帰着する結論として、現代における「メディア」というものの在り方に対する警鐘を鳴らしています

同時に、まさしく「こういったことが起こる可能性がある」ということを「創作」に関わり触れる者たちへと再認識させ、だからこそ覚悟をもって「創作」に関わり触れ続けてほしいと示しているようでもあります。

映画『フィールズ・グッド・マン』は2021年3月12日(金)より全国順次ロードショーされます!


関連記事

ドキュメンタリー映画

茅ヶ崎物語(野村周平/桑田佳祐役)映画公開日いつ劇場はどこ?

2017年9月16日(土)より、全国公開される熊坂出監督作品『茅ヶ崎物語 〜MY LITTLE HOMETOWN〜』。 サザンオールスターズの名付け親である洋楽ポップスプロモーターの宮治淳一が、同級生 …

ドキュメンタリー映画

映画『21世紀の資本』ネタバレ感想と考察。難しい資本主義の実態を原作者トマ・ピケティが監修

働いても働いても裕福になれない!? 現代の資本主義に潜む闇とは。 フランスの経済学者トマ・ピケティの著書「21世紀の資本」を映像化した社会派ドキュメンタリー映画。 「21世紀の資本」は、35カ国で翻訳 …

ドキュメンタリー映画

『アントラム/史上最も呪われた映画』ネタバレあらすじと感想。結末はフェイクか実話か観たら死ぬ!?

映画『アントラム/史上最も呪われた映画』は2020年2月7日より公開。 1979年に製作され、関わる者が次々と命を落とす呪われた映画『アントラム』。 1993年に行方不明になったこの作品を入手した、2 …

ドキュメンタリー映画

映画『We Margielaマルジェラと私たち』ネタバレ感想。天才ファッションデザイナーが姿を見せなかった理由

映画『We Margiela マルジェラと私たち』天才デザイナーが姿を見せなかった理由とは 80年代末、彗星のごとく現れ90年代のファッション界を席巻、そして2009年に突然表舞台から姿を消した天才デ …

ドキュメンタリー映画

今週公開のおすすめ映画ドキュメンタリー『ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男』

映画『ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男』は、2018年1月13日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野ほか全国順次公開。 世界のセレブリティから愛されるファッションデ …

U-NEXT
【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学