連載コラム「邦画特撮大全」第92章
今回の邦画特撮大全は、前回記事に引き続き『シン・仮面ライダー』を紹介します。
2021年4月3日、「仮面ライダー」生誕50周年企画発表会見での庵野秀明監督による映画『シン・仮面ライダー』の製作発表は、仮面ライダーファン・特撮ファンのみならず多くの人々を驚かせたでしょう。『シン・ゴジラ』『シン・ウルトラマン』に続き、庵野監督が日本を代表する特撮作品を手掛けるのです。
今回は庵野秀明監督の代表作「エヴァンゲリオン」シリーズで描かれた、仮面ライダーの要素を読み解いていきます。
映画『シン・仮面ライダー』の作品情報
【公開予定】
2023年(日本映画)
【原作】
石ノ森章太郎
【脚本・監督】
庵野秀明
【作品概要】
1971年4月に第1作目『仮面ライダー』の放送が開始され、今年2021年で50周年を迎える仮面ライダーシリーズ。生誕50周年作品として企画された映画作品が本作『シン・仮面ライダー』です。
脚本・監督を務めるのは、今年2021年公開された『シン・エヴァンゲリオン劇場版』で「エヴァンゲリオン」シリーズを完結させた庵野秀明監督。本作は庵野秀明監督から東映に持ち込まれた企画で、企画メモから今回の製作発表まで足掛け6年の歳月がかかっています。
闇の中に光る眼
庵野秀明監督の代表作『新世紀エヴァンゲリオン』(1995)は、市街地内で巨人と未知の生命体が戦うシチュエーション、怪獣を発展させた敵・使徒のキャラクター性など、その設定ベースは『ウルトラマン』(1966)です。そのため「エヴァンゲリオンシリーズ」に取り込まれた『仮面ライダー』を思わせる要素は、比較的少ないように思われます。
まず、エヴァ初号機の「闇に光る眼」のイメージです。第2話「見知らぬ天井」での初号機の初戦闘、第3使徒サキエルとの戦闘の舞台は夜の第3新東京市街でした。TVシリーズ制作時の90年代はまだアナログのセル画によってアニメーションは制作されています。技術的な問題やアクションシーンで動きが多いなどの点から、初号機の目の光、緑や橙色の体の電飾は塗りで表現され、透過光による撮影処理も初号機が暴走する部分の目にのみ取り入れられていました。
後にこの戦闘場面は『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』(2006)でも描かれますが、技術の進歩によってデジタル処理が加えられ、初号機の目、体の電飾は全面的に光らされています。技術の進歩によって、庵野監督が本来イメージしていたビジュアルにより近づいたと言えるでしょう。
参考映像:これまでの『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』
庵野監督のこうした“闇の中で光る眼”のイメージ元を辿ると、『ウルトラマン』と『仮面ライダー』のナイトシーンへ行き着きます。
『ウルトラマン』の第2話「侵略者を撃て」(脚本:千束北男・監督:飯島敏宏)で描かれた、バルタン星人と戦うウルトラマンの光る眼。そして『仮面ライダー』の第2話「恐怖蝙蝠男」(脚本:伊上勝、監督:折田至)のナイトシーンで光る仮面ライダーの複眼、第4話「人喰いサラセニアン」(脚本:市川森一・島田真之、監督:折田至)での終盤の夜のアクションシーン。
庵野監督は自身の中の仮面ライダーのイメージビジュアルが上記2話の戦闘場面だと言っています。そのため庵野監督が構成した生誕50周年「仮面ライダー」メモリアル映像にも、この蝙蝠男とサラセニアンの回のアクションシーンが全面的に使用されていました。
特に『仮面ライダー』第2話での本郷猛が仮面ライダーに変身した直後に複眼が発光する描写は、いわば「人間が人間を超える」描写での使用であり、『新世紀エヴァンゲリオン』第2話「見知らぬ天井」での初号機暴走時の眼の発光と意味合い的にも合致します。
庵野監督の妻・安野モヨコが自身の夫婦生活を描いた漫画『監督不行届』では、日曜日の朝に夫婦2人で戦隊モノや平成仮面ライダーを楽しむエピソードが描かれていました。中でも庵野監督のお気に入りは『仮面ライダー555』(2003)だったようです。『仮面ライダー555』に登場するライダーたちは複眼と体のラインが発光するのが特徴で、OPの闇の中にいる555の体のラインが光っているのも印象的でした。庵野監督が自身の仮面ライダーのイメージビジュアルと合致する『仮面ライダー555』に魅かれたというも納得でしょう。
〆の技は、ダブルライダーキック!
参考映像:生誕50周年「仮面ライダー」メモリアル映像
TVシリーズ『新世紀エヴァンゲリオン』の第9話「瞬間、心、重ねて」。『ローレライ』(2005)や『日本沈没』(2006)の樋口真嗣監督が画コンテを担当したこの回は、全体的にコメディタッチで、従来のロボットアニメらを彷彿とさせる展開が盛り込まれた娯楽編となっています。
この回で主人公の碇シンジと惣流・アスカ・ラングレーの2人は、2体のエヴァンゲリオンの攻撃をシンクロさせて使徒を討ち果たします。エヴァ初号機とエヴァ弐号機が使徒にとどめを刺す際に放った技が、一緒に高く跳び上がり使徒に蹴りを入れるというものでした。この動きは、仮面ライダー1号と2号の2人が同時に放つ必殺技「ダブルライダーキック」と合致します。
「エヴァンゲリオン」シリーズでは使徒が殲滅された際に、十字架のような爆発を起こす演出が施されています。しかしこの回に登場した第7使徒イスラフェルはそのような発光と爆発は起こさず、シンプルに大爆発を起こして討ち果たされます。この描写も『仮面ライダー』で敵怪人が必殺技を受けた爆発して死滅する様をオマージュしたものだと思われます。
このエピソードはアスカの初登場となる『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』(2009)では描かれませんでした。しかしアスカの駆るエヴァ2号機と第7の使徒の戦闘場面で、2号機は使徒のコアを蹴り砕いて倒しています。この時の2号機の動きは仮面ライダーのライダーキックを思わせるものでした。
仮面ライダーを構成する3要素
参考映像:『仮面ライダー』第1話【公式】
ここまでエヴァンゲリオンシリーズにおける仮面ライダーの要素を見てきましたが、どちらかと言えばビジュアル面の影響や、小ネタやお遊びの部分でした。この項ではもう少し作品の核心部分に迫りましょう。
平成仮面ライダーシリーズのプロデューサーを歴任し、「仮面ライダー」生誕50周年企画発表会見にて『シン・仮面ライダー』の製作発表を行った東映の白倉伸一郎は、仮面ライダーを構成する要素として「親殺し」「同族殺し」「自己否定」の3つを挙げています。
まず仮面ライダーは自身を作った悪の組織ショッカーという「生みの親」、いわば「創造主」を打倒することが目的です。そして敵の怪人たちも仮面ライダーと同じ経緯で誕生したショッカーの改造人間であり、彼らの戦いは「同族」同士の殺し合いとなります。そして仮面ライダー自身の出自が悪の組織にあるため、最終的には自分を消さなくてはなりません。
こうした要素は平成仮面ライダーシリーズでもしっかりと取り入れられています。例えば「同族殺し」は、平成ライダー以降「改造人間」の設定が取り入れられていないため、仮面ライダーと怪人の力の根源を同じにすることでその要素を成立させています。
ではこの3つの要素を、エヴァンゲリオンシリーズの中から考えてみましょう。
参考映像:「現在のエヴァンゲリオン」
まず「同族殺し」です。エヴァンゲリオンは、第1使徒アダム(新劇場版では「第1の使徒」)ないし第2使徒リリス(新劇場版では「第2の使徒リリス」)の能力をコピーして人類が建造したという設定です。敵である使徒はリリスとリリンを除いて総じて第1使徒アダムから生み出されました。つまりエヴァンゲリオンと敵の使徒は共に生みの親が第1使徒アダムであり、その力の根源が同じであるのです。
また旧劇と呼ばれる劇場版『Air/まごころを、君に』(1997)では、主人公たちの所属する特務機関NERVと戦略自衛隊による「使徒対人類」ではない「人間同士」の戦いが描かれます。この描写も「同族殺し」と共通しますが、恐らく永井豪の漫画『デビルマン』や岡本喜八監督の『激動の昭和史 沖縄決戦』(1971)や『ブルークリスマス』(1978)から発想された描写だと考えられます。
そして「親殺し」と「自己否定」ですが、この2つに関しては完結編である『シン・エヴァンゲリオン劇場版』(2021)で顕著に表れているといえます。
主人公・碇シンジが最後に対峙する相手は実の父・碇ゲンドウでした。ゲンドウはシンジの父親であるだけでなく、「ネブカドネザルの鍵」を取り込み「神」に等しい力を手に入れています。新劇場版の「ネブカドネザルの鍵」は、旧シリーズに登場した「再生されたアダム」の代りに登場しておりこの2つが同種のものと考えると、ゲンドウは使徒の生みの親である「アダム」を体に取り込んでいることになり、シンジの父親であり使徒とエヴァの生みの親であるという2つの意味での「親」ということになります。
最後に「自己否定」ですが、「さようなら、すべてのエヴァンゲリオン」という台詞が表すように『シン・エヴァンゲリオン劇場版』でシンジは最後「エヴァのない世界」を望みました。自らの持つ大きな力を放棄する幕引きは、『仮面ライダー』シリーズの「自己否定」に当てはまるでしょう。
まとめ
「エヴァンゲリオン」シリーズが『ウルトラマン』から大きな影響を受けていることは、多くのファンの方が御存じだと思います。しかし要素を細かく見てゆくと、そこには『仮面ライダー』の影響も描かれていることがわかっていきました。
「エヴァンゲリオン」シリーズが過去の作品のオマージュを多数取り込みながら大きな飛躍を見せたことから、庵野秀明監督の『シン・仮面ライダー』も、過去作品へのリスペクトを忘れずに“仮面ライダー”をさらなる高みへ押し上げる作品となるのは間違いないでしょう。