【連載コラム】全世界視聴No.1デスゲームを目撃せよ10
2021年9月17日(金)よりファーストシーズン全9話が一挙配信されたNetflixドラマシリーズ『イカゲーム』。
生活に困窮した人々が賞金456億ウォンを賭け、最後の勝者になるために挑む命懸けのデスゲームが始まりました。
主人公ソン・ギフンを演じるイ・ジョンジェを始め、本作が役者デビューとなるチョン・ホヨンなど魅力的なキャスト陣が演じる社会問題を反映させた壮絶な人間ドラマに注目が集まります。
監督と脚本を手掛けたのは映画『トガニ 幼き瞳の告発』(2011)『怪しい彼女』(2014)の監督として知られるファン・ドンヒョク。
この連載コラムでは、Netflixにて視聴数1位を獲得し、全世界に社会現象を巻き起こす大ヒットとなったNetflixドラマ『イカゲーム』のシーズン1を各話ごとに紹介してきました。
今回はそのヒットの背景に迫るべく、ドラマが描いた社会問題や物語に反映された強い政治色についての考察をしていきます。
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ドラマ『イカゲームシーズン1』の作品情報
【原題】
Squid Game
【監督・脚本】
ファン・ドンヒョク
【出演】
イ・ジョンジェ、チョン・ホヨン、ウィ・ハジュン、パク・ヘスン、コン・ユ
【作品概要】
Netflixにて配信が開始した2021年9月17日(金)以降、韓国をはじめ、香港、台湾、アメリカ、ベトナムなど23カ国で視聴ランキング1位を獲得した注目のドラマ作品。
主人公ソン・ギフンを演じるのは『10人の泥棒たち』(2012)『新しき世界』(2013)のイ・ジョンジェ。
ゲーム参加者の中で一際異彩を放つキャラクター、セビョクを演じるのは、韓国国内外でモデルとして活躍し、本作が役者デビューとなるチョン・ホヨン。
その他『最高の離婚』(2018)のウィ・ハジュン、『新感染ファイナル・エクスプレス』(2016)『82年生まれ、キム・ジヨン』(2020)のコン・ユが出演。
監督脚本は映画『トガニ 幼き瞳の告発』(2011)『怪しい彼女』(2014)の監督として知られるファン・ドンヒョク。
本作独特の世界観を演出する広大なセットを手掛けた美術監督は『マルモイ ことばあつめ』(2020)『EXIT』(2019)のチェ・ギョンソン。
ドラマ『イカゲームシーズン1』のあらすじ
第1話
母親と貧しい2人暮らしを送っていたソン・ギフンは、ギャンブルに日銭を使い果たす毎日を送っていました。離婚した妻と暮らす娘ガヨンの誕生日プレゼントも買ってあげられず、来年には「新しいパパ」とともにアメリカに転居する予定でした。
そんなギフンは、駅で声をかけてきた怪しい男から名刺を貰い、大金が手に入るチャンスをかけたゲームへ招待されます。
ギフンを含めた456人の参加者が、456億ウォン(約45億円)の賞金をかけて競うゲームとは、命をかけて挑戦する究極のデスゲームでした。
第1のゲーム『だるまさんが転んだ』では、脱落した参加者が次々と射殺され、会場はパニックになります。最初のステージにて255名が射殺され、201名が生き残りました。
第2話
身の危険を感じた参加者たちは多数決の投票により、ゲーム参加を拒否。主催者もルールに従い、ゲームは一時中断となり、ギフンたちは解放されました。
しかし、ギフンの母が深刻な病であったことが発覚。大金が必要な手術を迫られ、ギフンはゲーム再開に乗り出します。
ギフンの幼馴染のエリート、チョ・サンウは多額の借金と横領の罪で警察に追われていました。
母親を捜索している脱北者、カン・セビョク。妻子とともに母国パキスタンに帰る金が必要なアリ・アブドゥル。反社会組織に身を置きながら、弟分から命を狙われるチャン・ドクス。
それぞれ現実の社会に居場所のない参加者たちは、ゲームに再参加することを余儀なくされます。
第3話
ゲームに参加者して以来、行方不明になった兄を探している警察官のファン・ジュノは、参加者たちとは別に、運営側に潜入。ゲーム進行係の1人と入れ替わって会場に潜入し、運営者の謎を解いていきます。
ゲーム会場で合流したギフンとサンウは、ゲームを生き残るためにアリや脳腫瘍を患う高齢者、イルナムと協力するようになります。
2番目のゲーム『型抜き』が始まり、ギフンは最も難しい「傘」の型抜きに挑戦することになります。しかし、唾液で型を溶かすことを思いついたギフンは他の参加者を助ける形でクリアします。
このゲームでは79名が脱落し、残る参加者は108名になりました。
第4話
会場で支給される食料が少ないことを理由に、就寝時間に暗闇の中でプレイヤー同士の乱闘が発生。
そこでギフンたちはドクスと敵対することになり、彼と因縁があるセビョクを仲間にして生き残ります。ゲームの間に勃発したこの乱闘では27名が脱落。残る参加者は80名になります。
3番目のゲーム『綱引き』は10人一組の団体戦となり、男の参加者たちは体力のある者同士でチームを組むようになります。
女性と年寄りのいるギフンのチームは苦境に立たされるも、イルナムの綱引きの経験とサンウの機転により逆転勝利を果たします。このゲームで参加者の半数が脱落。参加者は残り40名となります。
第5話
自称医者の111番は秘密裏に進行係の一部と共謀して、臓器売買のための摘出を手伝う見返りとして次のゲームの内容を教えてもらっていました。
しかし、それがゲームの公平性を尊重する支配人、フロントマンの怒りを買い、彼らは始末されてしまいます。
ドラマ『イカゲームシーズン1』の考察解説
世界的なヒットをもたらしたテーマ
子どもの遊びを基にしたゲームで人が死ぬというシュールさがキャッチーな本作は、デスゲームジャンルの醍醐味を網羅するような王道な作品でした。
身の危険を目前にし怖気付くも、一度大金を目にしたらゲームへの意欲を見せるという参加者の強かさを始めとした感情豊かな人物描写、そして一時的な信頼に基づいた協力とそれを自ら破壊する瞬間を切り取ったドラマ的な盛り上がりなど、押さえるべきポイントを確実に押さえるジャンルとして面白いことを全部やるのだという気概に満ちていました。
例えばシュールな状況で人が死ぬことを面白く描くと同時に、脱落者の無惨な姿をはっきりと映すなど残酷な描写も必然と盛り込んでおり、作り手がテーマに対し忠実であることを痛感されます。
そんな本作がテーマとして作品に反映させた現実の社会問題は、最終話である第9話にて明確に提示されました。
真相の種明かしとなるイルナムとの会話を終えたギフンは床屋へ行き、新たに人生を始めるため、身なりを整えます。
床屋を映したショットで最初に画面に映し出されたのは「韓国の家計債務が世界規模で深刻な問題になっている」と報じるニュース映像。
これまで行ってきたデスゲームが現実の格差社会の縮図であったということは視聴者の誰しもが気付いていたことですが、この演出によりテーマに対する直接的な答え合わせがなされたのです。
そんなゲームで最後に戦ったのが、ギフンとサンウの2人でした。
第8話のレビューにて、彼らは善悪の二項対立と同時にイデオロギーの対立として対決を果たすと予想しましたが、対立する分かれ方が日本製同ジャンル作品とは明らかに異なることに驚かされました。
日本作品は、ドラマを描く上で効率や合理主義を善として主人公側に背負わせるのに対し、本作におけるその役割は悪であるサンウが担っています。
体力勝負において男が有利であると自覚した上で女性や老人を排除するドクスと同じ行動を取る上に、彼には悪事を進める知恵や人を欺く技術があり、アリを利用し、セビョクを殺します。
サンウの非道さには現実の社会が透けて見え、アリとのやり取りからは外国人労働者の搾取が、女性や老人の排除からは男性至上主義に基づいた合理性”のようなもの”を標榜する男性による言説を連想させられます。
サンウをゲームにおけるラスボスとして配置したことで、ネオリベラリズム”のようなもの”を危険視している製作側の意図が伺えました。
対立するギフンとて、最初から善たりうるヒーローとして描かれていたわけではありません。
老人の認知力を利用しゲームに勝利しようとする狡猾さも込みで描かれており、誠実ではないギフンの人間的
香港のプロテストを彷彿とさせる会社のストライキ以来、人の死に目にあってきたギフンは脱落者の死を通し人間性を失っていくようでした。
ギフンを信頼し弟を託したセビョクの死をきっかけにギフンはサンウと正面から対立する覚悟を見せます。
ギフンが正しく勝つことが出来たのは他でもないセビョクのお陰であり、(仕組まれていた事とは言え)サンウとは違い、合理性や一元的な価値判断で他者を見捨てなかったからです。
知恵や技術だけではなく、潜在的な直感やトンチが勝敗を、ひいては生き死にさえも左右するのだというシステムに6種類全てのゲームがなっており、主人公だから勝ち残っていくメタ的な都合を納得出来るものに仕上げていました。
富裕層の正体
ドラマ終盤にようやく姿を現した正体不明のVIPたち。
その正体は英語圏の中年白人男性であり、それ以上の背景は語られていないことから権力の象徴としてあえて記号的に描かれていました。
あえて意地悪な見方をすれば、彼らは自粛に退屈し刺激を欲するNetflixユーザーそのものを揶揄しているように見えます。
高級な観覧席に集まり、デスゲームを見物する姿も同時視聴やウォッチパーティのように捉えられますが、そんな解釈をしても、デスゲームに興じる貧乏人を第三者として嘲笑するような特権階級の邪悪さを描いた以上の意味はないでしょう。
また、第3話でのギフンを捉えたショットなど、ハリウッド映画っぽい演出がギミックとして小出しにされていた本作の中で、ホストの正体が明かされる最終話の場面は『市民ケーン』(1941)を彷彿させます。
人間を信用するのか、ギフンに執拗に問うイルナムは、信頼しないことで金持ちになり、大人になったのでしょう。
第2話で行われたゲームの中断を決める投票の際に、イルナムは止めるに投票していました。
彼がホストであったことから逆算すると、あえてゲームを中断させることで、再開の折に参加者個人個人の自発性を強めたかったのだと気付かされます。
人を信用しないからこそこういった保険をかけてきたことが、イッキ見の後に観返すことで見えてきます。
第3話のレビューで触れたギフンの子供っぽさ、やたら子どもの頃の話をする場面が印象的に描かれているのは、最終回まで観ることでイルナムの目線を通し強調されていたギフンの一面に過ぎないことが分かりました。
イルナムにとってギフンはノスタルジーや懐古主義の象徴だったのでしょう。
イルナムはギフンと遊ぶことで「楽しかった頃のこと、金持ちではなかった頃のことを思い出せた」と礼を言います。
まさに『市民ケーン』(1941)における新聞王ケーンが最後に口にした言葉「バラのつぼみ」の答えそのものでした。
少なくともそう見える描かれ方をしていましたが、デスゲームを経て、過去への禊を済ませたギフンはもはや過去を懐かしむための道具などではなくなりました。
まとめ
今回は『イカゲーム』シーズン1を解剖すると題し、作品がモチーフとしたものとメッセージ性についての考察を行いました。
現実社会を生きる我々の目には本作で描かれた「貧困層同士での争い」は非常にグロテスクに映り、『パラサイト 半地下の家族』(2019)でも描かれたような下層階級の怒りがフィクションである作品と現実とを結びつけていました。
同作の主人公ギテクが怒りを噴出させたように、本作のギフンも参加者(=下層階級に身を置く1人)として、富裕層(または上流階級)への復讐を誓う決断をしたところでシーズン1は幕を下ろしました。
シーズン2では、ゲームの運営を認知したギフンによる復讐劇という展開が予想されます。
また潜入調査の結果、運営の秘密を暴く寸前で殺されたジュノ。
弟を殺し、ゲームホストのイルナムを看取ったフロントマンは今後どのような動きを見せるのか。
王道な展開を衒いなくやり遂げる本作の展開を更に予想するならば、ギフンが次のフロントマンに…なんてこともあるかも知れません。
物語だけではなく、6種のゲームや古めかしい体操着のコスプレなど、ギミックやファッションとしても話題に事欠かない本作、掘り下げるテーマはまだ多く残されています。