連載コラム『仮面の男の名はシン』第2回
『シン・ゴジラ』『シン・エヴァンゲリオン劇場版』『シン・ウルトラマン』に続く新たな“シン”映画『シン・仮面ライダー』。
原作・石ノ森章太郎の特撮テレビドラマ『仮面ライダー』(1971〜1973)及び関連作品群を基に、庵野秀明が監督・脚本を手がけた作品です。
本記事では、2022年12月22日発売の「週刊ヤングジャンプ」新年4・5合併特大号より連載が開始された、映画『シン・仮面ライダー』のスピンオフ的作品である漫画『真の安らぎはこの世になく シン・仮面ライダー SHOCKER SIDE』(脚本:山田胡瓜・作画:藤村緋二)にクローズアップ。
映画に登場する秘密結社「SHOCKER」の視点から作品世界を描き出した漫画の第1話「「願い」の始まり」の内容から、映画『シン・仮面ライダー』の内容を予想・考察していきます。
CONTENTS
漫画『真の安らぎはこの世になく シン・仮面ライダー SHOCKER SIDE』第1話を徹底考察・解説!
漫画タイトルの“元ネタ”はクラシック曲!
映画『シン・仮面ライダー』のスピンオフ的作品であり、同作に登場する秘密結社「Sustainable Happiness Organization with Computational Knowledge Embedded Remodeling」……「SHOCKER」の視点から映画の世界を描き出したオリジナル漫画『真の安らぎはこの世になく シン・仮面ライダー SHOCKER SIDE』(以下、『真の安らぎはこの世になく』)。
そのタイトルに掲げられている「真の安らぎはこの世になく」という言葉ですが、その“元ネタ”は音楽家アントニオ・ヴィヴァルディによるクラシック曲『真の安らぎはこの世にはなく』と思われます。
ヴァイオリン協奏曲『四季』などで知られるヴィヴァルディが手がけたモテット(ヨーロッパ中世末期からルネサンス音楽期にかけて誕生・発展した、ミサ曲以外のポリフォニーによる宗教曲であり、声楽曲の1種)の1作である『真の安らぎはこの世にはなく』。
「真の安らぎはこの世になく、苦痛なき真の安らぎは、慈愛に満ちた救世主(イエス)の御身の中にこそ在る」「苦悩と苦痛に苛まれても、魂は幸福に在る」と謳うその詞は、「計算機的知性の移植改造を用いた持続可能な幸福の機構」と名乗る映画『シン・仮面ライダー』のSHOCKERが思い描く「人体改造」の思想と深く通じているように想像できます。
また「救世主」が詞の中に登場することからも、“それ”が原作のテレビ特撮ドラマ『仮面ライダー』に登場する「首領」なのか、あるいは石ノ森章太郎による漫画『仮面ライダー』に登場する「総統」なのかは定かでないものの、SHOCKERという結社内にもまた「救世主」とみなされる者が存在する可能性も推察できるのです。
「十字仮面」──“if”の仮面ライダーが登場?
漫画『真の安らぎはこの世になく』の序盤、本作の主人公・イチローは「あるスーツ」を身に纏いながら、炎が燃え盛り死体が散乱する惨状の中で「世界を変える前にSHOCKERを変えよう」「人類の幸福のために」と父・弘に語ります。
そんな彼が着ているスーツは、ブーツやスカーフなど仮面ライダー1号/2号の姿と共通する箇所が(なお、彼の足元に転がる死体もグローブやスカーフ、フルフェイスヘルメットなどを身に付けています)。そして最も注目すべきは、イチローが被るヘルメットに「十字形」のデザインが施されているという点です。
テレビ特撮ドラマ『仮面ライダー』の制作に至るまでに、「子ども向けの実写変身ものドラマ」から『マスクマンK』『仮面天使(マスク・エンジェル)』などの名で企画書が作成され、その過程を経て至ったのが『十字仮面(クロスファイヤー)』という企画でした。
「怒りの感情が高まると顔にる十字形の傷跡が浮かび上がるため、それを隠すためにヘルメットを被っている」という設定も同企画の時点で登場し、石ノ森によるヒーロー「クロスファイヤー」のデザイン画も好感触であったことから、企画書および作品名も『十字仮面 仮面ライダー』へと変更され放送開始日までも決定されていた十字仮面。
しかし「もっとグロテスクなリアリティのあるヤツにしたい」と考えた石ノ森は、自身が以前に執筆した漫画に登場した、「ドクロ」がデザインモチーフの仮面のヒーロー「スカルマン」を主人公にした企画書を急遽提案。その案は結局ボツとなったものの、その後石ノ森が膨大なキャラクターデザインを描いた中で誕生したのが、「バッタ」をデザインモチーフとした現在の「仮面ライダー」だったのです。
ショッカーライダーとは異なるメタ的な意味で、「あり得たかもしれない仮面ライダー」といえる十字仮面。漫画作中にて「十字形のデザインが施された仮面を被る男」を目にした時、多くの『仮面ライダー』ファンは「漫画『真の安らぎはこの世になく』は“仮面ライダーになれなかった者”十字仮面の物語なのでは?」を連想したはずです。
緑川弘の“息子”イチローが「仮面ライダー0号」?
主人公・イチローの父であり、通り魔の無差別殺傷事件によって昏睡状態と陥った妻・硝子を救うべく、「脳と繋がる兵器の開発」を進めていた企業「ファウスト」……そして秘密結社「SHOCKER」と協力関係にあった科学者・緑川弘。
その名は、『仮面ライダー』の主人公・本郷猛の恩師にして、ショッカーの改造人間研究に携わる中で本郷を被験体へと推薦してしまった生化学者・緑川弘と同名。『仮面ライダー』では娘・ルリ子のみが登場したにも関わらず、漫画『真の安らぎはこの世になく』の主人公・イチローは「緑川弘の知られざる息子」である可能性が判明しました。
当時東映テレビ部にてプロデューサーを務め、テレビ特撮ドラマ『仮面ライダー』の誕生に尽力した一人・平山亨がかつて執筆し、『仮面ライダー コレクターズ・ボックス』(1998、宇宙船文庫)の1冊『仮面ライダー 変身ヒーローの誕生』に収録された短編小説『二人ライダー・秘話』。
その小説内では、「緑川博士は本郷の改造手術以前、“仮面ライダー0号”ともいえるバッタ男を作り出すも、その被験体は体力が保たずに悲壮な最期を遂げた」という情報が記されています。
“仮面ライダー0号”の被験体は緑川弘の息子・イチローであり、漫画『真の安らぎはこの世になく』は映画『シン・仮面ライダー』の前日譚にあたる作品なのではないか……その可能性は、非常に高いはずです。
『ロボット刑事』からあのキャラクターが出演!
父・弘に誘われて訪れたSHOCKERの施設でイチローが対面した、「外世界観測用自律型人工知能」ことケイ。「ダブルのブレザー」にネクタイ姿のロボットの容貌を見て、特撮ファン、ひいては石ノ森章太郎ファンの多くは『ロボット刑事』(1973)に登場した機械仕掛けの刑事「K」を思い出されたはずです。
1971年放映開始の『仮面ライダー』からの新たな「変身ヒーローブーム」が訪れていた中で、本作を同じく企画した平山亨曰く「あえて変身しないヒーローを作ってみた」というコンセプトで作られたテレビ特撮ドラマ『ロボット刑事』。「変身しないヒーロー」という仮面ライダーと対極をゆくヒーローが、「SHOCKERに属する者」としてのまさかの“ゲスト客演”に、多くの方が驚かれたかもしれません。
そして何より気になるのは、「外世界観測用自律型人工知能」という不穏な名称。「外世界観測用」という言葉からは、何者かが地球ならびに人類社会という「外世界」を観測するためにケイが開発されたことが推察できますが、果たしてその「観測者」は何者なのでしょうか。
映画『シン・仮面ライダー』の作品情報
【公開予定】
2023年(日本映画)
【原作】
石ノ森章太郎
【脚本・監督】
庵野秀明
【キャスト】
池松壮亮、浜辺美波、柄本佑
【作品概要】
1971年4月に第1作目『仮面ライダー』の放送が開始され、今年2021年で50周年を迎える「仮面ライダー」シリーズの生誕50周年作品として企画された映画作品。
脚本・監督は『シン・ゴジラ』(2016)と『シン・エヴァンゲリオン劇場版』(2021)にて総監督を、『シン・ウルトラマン』にて脚本・総監修を務めた庵野秀明。
主人公の本郷猛/仮面ライダーを池松壮亮、ヒロイン・緑川ルリ子を浜辺美波、一文字隼人/仮面ライダー2号を柄本佑が演じる。
まとめ
十字仮面/クロスファイヤーに緑川博士の“息子”、『ロボット刑事』のKと“観測者”、そして“仮面ライダー0号”登場の可能性……第1話にして、映画『シン・仮面ライダー』のスピンオフ的作品である漫画『真の安らぎはこの世になく』は多くの謎を読者に放ってきました。
今後の連載の中で、それらの謎は明かされるのか。そしてその解明を通じて見えてくる、“持続可能な幸福”を追求する謎の秘密結社「SHOCKER」の姿とは。
2023年公開予定の映画『シン・仮面ライダー』が劇場公開を迎えた時、同作が秘める謎をより多面的に紐解いてゆくためにも、漫画『真の安らぎはこの世になく』の今後には注目せざるを得ないでしょう。
ライター:河合のびプロフィール
1995年生まれ、静岡県出身の詩人。
2019年に日本映画大学・理論コースを卒業後、映画情報サイト「Cinemarche」編集部へ加入。主にレビュー記事を執筆する一方で、草彅剛など多数の映画人へのインタビューも手がける(@youzo_kawai)。