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Entry 2023/12/20
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『義足のボクサー GENSAN PUNCH』あらすじ感想と評価解説。フィリピンの名匠監督ブリランテ・メンドーサによる“初挑戦のスポーツ映画”|広島国際映画祭2023リポート5

  • Writer :
  • 桂伸也

広島国際映画祭2023・特別招待作品『義足のボクサー GENSAN PUNCH』

2009年に開催された「ダマー映画祭inヒロシマ」を前身として誕生した「広島国際映画祭」は、世界的にも注目されている日本の都市・広島で「ポジティブな力を持つ作品を、世界から集めた映画祭。」というポリシーを掲げ毎年行われている映画祭。

「ダマー映画祭inヒロシマ」の開催より、2023年は15周年という節目を迎えました。

本コラムでは、映画祭に登壇した監督・俳優・作品関係者らのトークイベントの模様を、作品情報とともにリポートしていきます。

第5回は、ブリランテ・メンドーサ監督作品の『義足のボクサー GENSAN PUNCH』。トークイベントではメンドーサ監督とともに、作品に出演した俳優の金子拓平が登壇しました。

【連載コラム】「広島国際映画祭2023リポート」記事一覧はこちら

映画『義足のボクサー GENSAN PUNCH』の作品情報


(C)2022「義足のボクサー GENSAN PUNCH」製作委員会

【日本公開】
2022年(フィリピン・日本合作映画)

【英題】
Gensan Punch

【監督】
ブリランテ・メンドーサ

【キャスト】
尚玄、ロニー・ラザロ、ビューティー・ゴンザレス、南果歩、金子拓平ほか

【作品概要】
義足を抱えながらもプロボクサーを目指して日本からフィリピンに渡った青年の姿を、実在の人物を基に描いたヒューマンドラマ。

『キナタイ マニラ・アンダーグラウンド』(2009)『ローサは密告された』(2016)『罠 被災地に生きる』(2015)などのブリランテ・メンドーサ監督が作品を手掛けました。

沖縄出身の尚玄が主演を務めるとともに、プロデュースも担当しました。さらにフィリピンのボクシングジムでトレーニングに勤しむ男性役を、日本出身でフィリピンにて活躍する俳優・金子拓平、尚生を見守る母親役に南果歩が名を連ねています。

ブリランテ・メンドーサ監督プロフィール

1960年7月30日生まれ。フィリピン、サン・フェルナンド出身。プロダクションデザイナーとして活動を始め、その後CMディレクターに。初長編監督作品『マニラ・デイドリーム』がロカルノ国際映画祭のビデオ部門金豹賞を受賞し、世界に名を知られるようになる。

『キナタイ─マニラ・アンダーグラウンド─』で第62回カンヌ国際映画祭監督賞を受賞。『グランドマザー』で第66回ヴェネチア国際映画祭コンペティション部門に出品。イザベル・ユペールを主演『囚われ人 パラワン島観光客21人誘拐事件』は第62回ベルリン国際映画祭コンペティション部門に出品され、世界三大映画祭のコンペティション部門された。またダンテ・メンドーサ名義でほぼ全ての監督作でプロダクションデザインも担当している。

金子拓平 プロフィール


1989年8月2日生まれ。34歳。広島県出身。 広島県で小学校教員を経て俳優の道へ進むために上京。日本で数々の映画・ドラマ・舞台に出演していたが、あるときにブリランテ・メンドーサ監督の作品『ローサは密告された(MA’ROSA)』に衝撃を受けてフィリピンで俳優活動することを決意。

ブリランテ監督の作品をはじめさまざまなフィリピン映画に出演。現在もフィリピンにて活躍中。

「広島国際映画祭2023」ブリランテ・メンドーサ監督×金子拓平トークショー

本作は「広島国際映画祭2023」の三日目となる11月25日に上映され、上映後には特別ゲストとしてブリランテ・メンドーサ監督と、出演を果たした金子拓平が登壇し、舞台挨拶とともに撮影当時を振り返るトークショーを行いました。

作品は主演の尚玄とプロデューサーよりアイデアをもらい、調査を進めていく上で興味を深め製作を決めたというメンドーサ監督。作品作りにおいては「(作るものを)ドラマものにするか、ドキュメンタリーにするか、みたいなことをそこまで深く考えることはない」と語ります。

さらに「(フィクションであろうが)映画を作るときには『本当のこと』と感じさせることを目標として、カメラの角度や撮影方法、役の演じ方などについてはとにかくリアルに撮影することを心がけている」と撮影に向けた自身のポリシーを明かします。

また本作に出演した金子は、メンドーサ監督の現場では「役者に台本や脚本を渡さない」という手法が行われていることを告白。これについて監督は「出演者が物語を理解し、何を伝えればよいかがわかっていれば、現場で詳細を指示していけばいいので問題ない」とコメント。

一方、フィリピンでの現場を事前に見ていた金子は、このような特殊な手法が行われていることは知っていたものの最初は困惑しながらも「とにかく『演技』はするな、ナチュラルに、という指示をいただきました」と現場を回想します。

そして「僕は日本語でのセリフなんだけど、噛んでしまってもわからないんですよね。だから『すべて一発勝負』のつもりでやっていました」と思い切り、ナチュラル性を考えて現場に向き合っていたと語ります。

もともとメンドーサ監督の『ローサは密告された』に感銘を受け、自ら足を運んで会いに出向いたという金子。対面したときの印象を、監督は「熱心で強いやる気が伝わりました。そしてその上で自分から現地語や文化について学ぼうとする姿勢が、非常に良いと思いました」と回想、役者としては「柔軟性がある。(今回も現場説明で演技してもらったが)その柔軟性でうまく対応してくれた」と好評を明かします。

またこの日は製作を担当した山下貴裕をはじめ日本のスタッフ、関係者も来場。久々の対面で親交を深めるとともに、新作で再びの広島国際映画祭上映、登壇を約束しました。

『映画義足のボクサー GENSAN PUNCH』のあらすじ


(C)2022「義足のボクサー GENSAN PUNCH」製作委員会

沖縄でボクシングジムに通いながら、母親と2人で暮らす男性・津山尚生(なお:尚玄)は、プロボクサーになる夢を抱いているが、幼少期に右膝から下を失っていました。そのため日本のボクシング協会にプロボクサーのライセンス申請を行うも、残念ながら認められません。

それでも夢をあきらめきれない尚生は、フィリピンへ渡ることを決意します。

現地のジム「GENSAN PUNCH」でトレーナーのルディと対面する尚生。彼が確認した内容では、フィリピンでは彼と同じようにプロを目指すボクサーたちの大会で3戦全勝すればプロライセンスを取得でき、さらに義足の尚生でも毎試合前にメディカルチェックを受ければ、ほかの者と同じ条件で挑戦できるとのこと。

それを聞いた尚生は、この地で夢への再挑戦を試みるのでした。

まとめ


(C)2022「義足のボクサー GENSAN PUNCH」製作委員会

本作で最も印象的なのは、義足というハンデを持ちながらもひたむきにプロボクサーを目指す尚生の人間性にあります。

メンドーサ監督はフィリピンのボクシング事情に関し、やはり日本とは異なり「ボクシングは稼ぐためのスポーツであると見る現実があります。その背景には貧困問題があり、ゆえに貧しい子供たちの多くはフィリピンの英雄マニー・パッギャオのようなチャンピオンを目指している」と捉えていることを明かしました。

尚生がプロボクサーを目指す理由はこの方向と合致するものではありませんが、それでもフィリピンという地におけるボクシング界隈の空気に触れることでさまざまな影響を受けつつも、プロボクサーという夢への思いをさらに強めていきます。その一方で彼は体のハンデにより叶えられないことを潔くあきらめ、逆に不正には感情をむき出しにして激しく抵抗します。

その人間性は、ヒューマンドラマ映画を見慣れた人には、最初に少し違和感をおぼえるかもしれません。例えば「夢を叶える」という意思を表現するのであれば、ライセンス取得を拒否する日本のボクシング界に対して尚生が強い憤りの感情を示したりするほうが、ドラマ的には自然に感じられることでしょう。

しかし物語が展開していくにつれ、その違和感は「新たな視点、そして表現の現れ」と感じられていきます。このポイントはトークショーでメンドーサ監督が自身のポリシーとして掲げた「リアルにこだわる」という点が存分に発揮されているものであり、人物の動作や表情、そしてその姿を映し出すアングルなど、どこかドキュメンタリー的な空気すらおぼえることでしょう。

作品に用いられているテーマは現代のさまざまな課題について想起させるものではありますが、物語の趣旨をメンドーサ監督が「自分ならではの表現として表現している映画人としての熱意が強く感じられる作品であります。

【連載コラム】「広島国際映画祭2023リポート」記事一覧はこちら







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