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Entry 2020/03/10
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映画『評決』監督インタビュー|レイムンド・リバイ・グティエレスが語るフィリピン映画界の現在と自身が追う主題

  • Writer :
  • 桂伸也

第20回東京フィルメックス「コンペティション」作品『評決』

2019年にて記念すべき20回目を迎えた東京フィルメックス。令和初の開催となる今回も、アジアを中心にさまざまな映画が上映されました。

そのコンペティション部門にて出品された作品の一本が、レイムンド・リバイ・グティエレス監督の映画『評決』です。


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本作はグティエレス監督にとって初の長編作品ですが、監督はこれまでフィリピンの名匠ブリランテ・メンドーサ監督の作品で助監督を務めた経験、さらに短編作品でさまざまな映画祭における受賞歴などから、東京フィルメックスでも多くの注目を浴びました。

このたび、本映画祭の開催に際して来日したレイムンド・リバイ・グティエレス監督にインタビュー取材を実施。映画『評決』の制作に至る経緯からまたグティエレス監督の映画作りのモチベーション、作品作りに向けた情熱や影響など多岐にわたりお話をうかがいました。

【連載コラム】『フィルメックス2019の映画たち』記事一覧はこちら

一つの問題から視野を広げてゆく


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──本作はDV(ドメスティック・バイオレンス)に対する問題のみならず、貧困などフィリピンという国が抱える諸問題も描かれていました。本作における問題提起に関して、レイムンド監督はどのような思いを込められているのでしょうか?

レイムンド・リバイ・グティエレス監督(以下、グディエレス):私が本作で光を当てたかった点は“法と制度”というものでした。ただ本作のように、一つの社会問題を扱うことでその周囲にも光が当たり、連関する形で他の問題も見えてくるという構成は多くの作品で用いられています。

ですから本作に関しましても、「とある家族の中で起きたDV」を物語の主軸に置きつつも、それを超えた先に潜むさまざまな社会問題を映し出したいと考えていました。

そして、メディアの携わる方々や観客のみなさんが「私がなぜこの映画を撮ったのか?」という思いに対し、それぞれの人生や解釈を通じてそのメッセージに気づいてくださることが、映画が持つ重要な役目の一つだとも思っています。

“生々しさ”を撮り逃さない

──脚本についてですが、その執筆に向けてはどのような調査や取材を行われたのでしょうか?

グティエレス:劇中で描かれているエピソードなどにはフィクション、ノンフィクションが混在しています。実際に法廷で扱われたケース、記録会などで扱われたケースなどの記録を調べ、それらを自分たちの中で解釈・統合してゆく形で劇中の会話部分へと盛り込んでゆきました。

また撮影において、私は事前にすべての脚本を俳優に渡すということはしていません。シーンのたびに俳優の方々とコミュニケーションを取り、設定を伝えています。

それは役者にセリフを暗記させたくないからでもありますし、必要に応じてセリフを伝えることで「役者がその場でセリフを解釈しなくてはならない」という状況を作り、役者が深く思考することを敢えて防ぐためでもあります。これは一種の映画のマジックであり、そうすることで役者が発するセリフに“生々しさ”というリアリティが生じるんです。

──映画における“生々しさ”を演出される上で、他に意識されていることはありますか?

グティエレス:最も大切なことは、“良いタイミング”を確実にカメラで捉えることだと考えています。

また現場で生み出される“生々しさ”を見逃すことなく捉え切るには、撮影の手法や技術は非常に重要です。本作の撮影でもマルチカムスタイルとして5台のカメラでの同時撮影を行い、そのうちの一台を私が担当しました。そうすることで役者の動きを制限してしまうことを防ぎ、ありのままの演技を撮り逃さないようにしました。

役者との信頼関係


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──「役者に事前に脚本を渡さない」という演出は、役者との信頼関係が大前提といえますが、本作の撮影ではその関係をどのように築かれていったのでしょうか?

グティエレス:撮影を行う前に作品のコンセプトを深く丁寧に説明しています。そういったことによって信頼というものが生まれ、役者側も自信をもって演じられると思っています。

それと合わせて、作品の出来に対する責任に関しては監督やスタッフ陣が負うことを必ず役者たちには伝えるようにしています。「あなたたちを守る」と伝えることで、信頼を築くんです。

また本作において最も配慮したのは、の企画や撮影スタイルに合った俳優を探すということでした。大抵の映画制作の現場では「事前に脚本をくれ」と要求されますし、本作での演出法は現在主流の撮影現場ではおそらく受け入れてもらえないものでしょう。そのため本作の現場では自身の意図を理解してもらうべく、それを役者たちやスタッフたちに伝える際には細心の注意を払いました。そういった意味では私は非常に恵まれていて、本作はよい“理解者”たちを起用できたと思います。

手軽に映像が作れるようになった現状の弊害

──近年の映画界では、助監督を経験することなく映画監督として活躍する方も多く存在しますが、助監督の仕事を経て初の長編監督作である本作を撮られたグティエレス監督からみて、現在の映画制作のあり方はどのように映りますか?

グティエレス:現在、映画を作ろうと思えば誰でも作れる状況にあります。しかし一貫性をもって継続していけるかと言えば、そうではないとも感じています。

私にとって、映画制作はとても崇高な仕事だと思っています。一方でこの仕事は、いわゆる普通の仕事とは異なり安定性は低く、ギャンブル的な側面もあります。そして、自分の伝えたいこととプロデューサーやスポンサーが欲するもの、売り出したいものとのせめぎ合いという側面も持ち合わせています。

ですが、その葛藤を抱えることなく映画が制作できる状況は、実は私たちにとって危機的な状況だとも感じています。

今の社会には、さまざまな場面における忍耐、例えば映画をゆっくり観るといった忍耐が失われることで他者を理解しようとする共感の力も失われ、自分とは違う考えや立場を理解することがおろそかになっているという負の側面が存在します。

その現状を踏まえると、自分にとって映画制作で必要なのは、映画作家としてのアイデンティティを確立することだと思うのです。ヒッチコック風、タランティーノ風、メンドーサ風……現在は監督ごとに撮影スタイルが研究・確立され、映画に携わる人間である以上、その影響は少なからず受けるのは避けられないことでしょう。けれども、“レイムンド・リバイ・グティエレス監督の映画”を撮れるようになるためには、本当に苦労して切磋琢磨していくことが必要だと感じています。

自分の思いと観客の興味との両立


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──本作ではフィリピンの社会問題とそれを取り巻く諸問題を描かれたと先ほど語られていましたが、今後の監督作でもその手法は用い続けるのでしょうか?

グティエレス:そうですね、やはりそういった作品を作っていくと思います。ただ私は計画を立てたくないタイプでもあるので、訪れたチャンスや与えられた機会を常に生かしていきたいし、その中で自分ができることに取り組み続けたいと思っています。また社会的な問題に関しても、より洗練された手法で描きたいとも感じています。そして何かに対して深く物事を考える方、あるいはそうでない方にもアクセスしやすい作品を制作していきたいですね。

また現在の国内映画祭への出品者は私よりも年長の方が多く、逆に若い世代の監督たちはジャンル映画など娯楽作品としての映画を多く撮っているという傾向があります。

そのような現状があるからこそ、自身が興味や関心を抱いているテーマを描きつつも、同時にうまく多くの人々の興味や関心を惹くことができる、そうした異なる性質の両立を作品の中で保ち続けたいと思っています。一方で一つの制作スタイルに囚われたくないという思いもあるため、さまざまな手法を常に試していきたいとも考えています。

──初の長編監督作の完成を経た現在、グティエレス監督が最も興味や関心を抱いているテーマとは何でしょう?

グティエレス:やはり人間として生きている上で最も興味や関心を抱かざるを得ないのは、人がその一生において何らかのことを成し遂げようとする意味、あるいはその原動力やモチベーションについてです。

それは「人間性」と呼ばれるものに深く関わっていて、人間性を理解することが“共感”という現象にもつながっていると感じています。また人間性について考えることで、共感を養うことができる。そうすることで、白黒つけることができない、グレーな部分が存在する人生にこそ“人間らしさ”が存在することに気づけるんだと思います。

インタビュー・撮影/桂伸也

レイムンド・リバイ・グティエレス監督のプロフィール


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フィリピン出身。フィリピンの「マルチメディア・アーツ」を卒業したのち、ブリランテ・メンドーサが主催するワークショップに参加。その後メンドーサ監督作の助監督を務めました。脚本家として、メンドーサの多くの作品でコンサルタントを務めるアルマンド・ラオの影響を強く受けていることでも知られています。

2016年に初の短編監督作『IMAGO』がカンヌ映画祭・短編コンペティション部門に選ばれ、トロント映画祭、ストックホルム映画祭、ロンドン短編映画祭、ミニマレン短編映画祭などで賞を獲得。さらに短編第2作『JUDGEMENT』も同じくカンヌ映画祭・短編コンペティション部門に選出されています。

映画『評決』の作品情報

【上映】
2019年(フィリピン映画)

【英題】
Verdict

【監督】
レイムンド・リバイ・グティエレス

【作品概要】
ドメスティック・バイオレンスの問題を正面からとらえ、日常的に暴力を振るう夫と、それを訴える覚悟を決めた女性の戦いを、多方向から撮影した臨場感溢れる映像で描きます。

また本作はブリランテ・メンドーサ監督がプロデュースを務めており、ヴェネチア映画祭・オリゾンティ部門で審査員特別賞を受賞しました。

映画『評決』のあらすじ

日常生活の中で夫のダンテからDVを受けていた女性ジョイ。物語はその暴力シーンから始まります。ある日、その暴力は6歳の娘にまで及び、その様に動転したジョイはナイフで夫に反撃、そして警察に駆け込んで夫の暴力を訴えます。

ダンテは逮捕され、ジョイと娘は保護施設へ。ジョイの体にはいたるところに傷がありダンテの暴力は明らか。そのため彼女は裁判はすぐに決着がつくと期待していました。

しかし逮捕の連絡を受けたダンテの母は彼の保釈を請求するとともに、古くから馴染みの弁護士にダンテの弁護を依頼。裁判ではさまざまな人が証人喚問に登場しますが、不確かな供述とそれに対して行われる揚げ足の取り合いで、裁判は混迷を極めていくのでした…。

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