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Entry 2019/11/01
Update

【黒沢あすかインタビュー】映画『積むさおり』で魅せる女優としての新境地と梅沢壮一作品への想い

  • Writer :
  • 大窪晶

映画『積むさおり』は2019年11月2日(土)より新宿K’s cinemaほかにて全国順次公開。

バツイチ同士の“失敗できない”夫婦の関係崩壊までのカウントダウン。

観る者の聴覚を刺激する体感型サスペンス映画『積むさおり』は、無神経な夫・慶介の些細な行動によって引き起こされる、妻・さおりの変化していく精神状態を、日常の“音”と共に描き出します。


(C)Cinemarche

今回は妻さおり役を演じ「HORRIBLE IMAGININGS FILM FEST2019短編部門」主演女優賞を受賞した黒沢あすかさんのインタビューをお届けします。

本作の監督であり夫でもある、梅沢壮一監督と共に培い生み出した制作の経緯、新たな境地に立った実力派女優の挑戦に迫ります。

実生活から生まれた映画


(C)「積むさおり」製作委員会

──「HORRIBLE IMAGININGS FILM FEST2019短編部門」主演女優賞の受賞おめでとうございます。

黒沢あすか(以下、黒沢):ありがとうございます。50歳を前にして自分の表現したものが、こうやって形になって手元に届くというのは、一層嬉しさがこみ上げてくるものがあります。

──今回は私生活の上でもパートナーである梅沢壮一監督の作品で受賞されたことも大きいのではないでしょうか。

黒沢:そうですね、梅沢の作品で取れたことはやはり嬉しいです。ある意味この作品は、梅沢が得意としているホラーとは少し違って、梅沢が持っている女性性を活かした作品です。

また、普段聞き流しているような「音」を映像化するという点では、梅沢の発想力や、その知識の豊富さには驚かされました。

──お話にも出たように本作は「音」の存在がセンシティブに扱われていました。その中で、黒沢さん演じるさおりは難聴のような症状に悩まされますが、撮影では普通に聞こえてくる「音」に対してどのように向き合っていたのでしょう。

黒沢:想像ですね。ですが、私自身が偏頭痛の症状からくる耳鳴りと目眩で倒れたことがあり、その経験も活かしました。今でもコンスタントに治療していて、梅沢も見守ってくれています。その中で自然と梅沢も頭痛や目眩といったものを身近なものとして捉えるようになり、これを映画に繋げたのではないでしょうか。

──この映画は、黒沢さんのご病気から生まれたものなのですね。

黒沢:バツイチ同士の結婚というのも私たちの実生活と一緒ですし、音に敏感であるというのは梅沢自身でもあります。だからさおりは梅沢であり、本作での夫、慶介は日常生活での私ではないかと思います。

『積むさおり』は、現実の自分達の生活にちょっと近い部分を切りとって映画にした作品です。

普通の役を演じるにしろ「黒沢あすか」として存在する


(C)「積むさおり」製作委員会

──今回の役は、今まで演じてこられたものとは、またひと味違う役でしたが「黒沢あすか映画」だったとも感じます。

黒沢:この映画は、私が普通の役をやりたいと言ったことを梅沢が膨らませて作品にした経緯があります。

ただし普通の役を演じるにしろ「黒沢あすか」という人間はそんな大人しい人間ではないことを梅沢は誰よりも知っていますし、エキセントリックなところをてらいもなく演じ切るところが好きだとも言ってくれています。

ですから、どこかにスパイスとしてエキセントリックな部分を加えないとそれは「黒沢あすか」じゃなくなるからダメだというのが梅沢のポリシーなんです。

その半面、長年やってきた役がエキセントリックなものが多かったので、先入観で今回もそれを期待して頂くと、スパイスとしてはあるけれど大凡の期待を裏切ってしまう。それが良い方向に作用すればいいけど難しいところだよねともふたりで話していました。

──良い意味で裏切られました。そして、れっきとしたスリラーでありホラーでもありました。タイトルのように「積んでいく」行為がとても丁寧に描かれていて、日常のふとした瞬間からストレスをストックしていく様に「あ、今、積んだな」と勝手に想像を膨らませながら楽しんでしまいます。

黒沢:そのように見て頂けて良かったです。私と梅沢とで映画をつくる時には、映画に余白を作ることを心がけています。

日本人は、感じ取る、あるいは寄りそうといった、相手の表情だったり何かを汲みとって行動することが得意な国民性だと思います。

「好き」という表現も言葉だけではなく、手を握る力のかけ方や握り方だけでも、どの程度好きなのかという深さを表せる。日本映画はそういう描写を得意としていると思っています。幼い頃に見て共鳴できた「よき映画」というのは、そういった部分を大事にしていたのではと。

ですから自分たちが作品をつくる時は、自分たちが納得できるものを時間をかけて積み重ねていけば、1人でもイイねって言ってくれる人が現れるんじゃないか、そんな想いで年数をかけて作っています。

それが今回、思いもよらない形で賞を頂けたりと、少しずつですが自分たちの輪が広がり受け入れられたのが、この『積むさおり』ではないかなと思っています。

エキセントリックな役からの模索


(C)「積むさおり」製作委員会

──演技について改めてお伺いします。先程、難聴についてお聞きしましたが、ほかにも演じる上で具体的に気をつかった点はありましたか?

黒沢:自分の特徴として「スタート」の声がかかってカチンコが鳴ると、エキセントリックな役が条件反射で出てきてしまうので「今回アナタは出て来なくてイイ、自分が築いた結婚生活や、子育てといった中で培った母性だったりを充分に引っ張り出してきて、さおりという人を表現しなくちゃいけないんだよ」って言い聞かせていました。

うっかりすると自分の得意分野の言い回しや表情、身体の使い方が簡単に出てくる。私のキメ顔はこんな感じといういう自分が出てきたり、言い回しも変にしゃくってたりと、エキセントリックな役を演る上でルールみたいなものがあって、本当に染み付いているんだなと痛感しました。

でも年齢を重ねて、それを被っぺ返したかった。苦労でしたね、この映画は。

──撮影は順撮りだったのでしょうか。フラストレーションを徐々に積み上げていく状態を表現するのは、繊細な作業だったのでは。

黒沢:ほぼ順撮りでした。最近は順撮りでの撮影が増えましたが、10〜20年前は撲殺するような気持ちが昂ったシーンから撮影が始まることも多分にありました。ですから初日に一気にそのテンションに持っていって現場で対応するということもやってきていたので、その点は大丈夫でした。

そういった意味では、女優として歩いて来た道、年数というのを噛みしめた作品でもあって、対応できている自分がいるのは喜びでしたね。

──本作を拝見して、改めて幅広い演技力を感じました。

黒沢:これまでも有難い事に幅ができるような作品群に出会ってきました。期待を込めてお話を頂き、更に今までやった事のない感じを求められると、出来ませんとは言えません。

そして現場のセットから、着せて頂いた衣装、メイク、そういったありとあらゆるものを役に吸収させるために、穴という穴を全部開けて取り組む。その結果が恐らく幅広くと言って頂けているのだと思います。根は凄い不器用で、決して器用ではないですから。

女優としての新たな挑戦


(C)Cinemarche

──黒沢さんにとって女優とはなんでしょうか?

黒沢:現実逃避できるもの。これは若い時から思っていたことですね。ただ、今の年齢で改めてそれを聞かれると考えてしまいますね。

自分の存在価値を自分自身で目にする事が出来る場でしょうか。

家庭を持って子育てもして、母親、家庭人としては充分にやってきて、足りない部分は夫に支えてもらいながら、長男も二十歳を迎えてやり遂げた自負はあります。

だけど女優という部分に関してはまだまだ自分では掴めてないので、それを模索してこれからも自己表現をしていきたいです。

──それはある意味で挑戦ということでしょうか。

黒沢:日々挑戦です。まだまだです。ようやく子育ても落ち着いて来たので、役者中心にフル稼働が出来るのが楽しみです。

──具体的に挑戦したいことはありますか?

黒沢:舞台です。今のこのフラットな状態で舞台に立ってみたいです。

最近は「静」と「動」でいえば「静」の方に意識が向いているので、この部分を活かして舞台のお話を頂くのを待ちながら映画作りに励みたいです。

そして何よりも舞台に立つ度胸をつけたいです。映画での度胸は充分つきました(笑)。国内や海外で賞も頂けて、じゃあどこを一番チャレンジしていないかというと、自分がずっと苦手と感じていた舞台なんです。

もちろん舞台も立ってはきましたが、どこかで自分の逃げ場を作りながらやっていたように感じます。今なら舞台にも立ち向かえる気がします。不器用ですが、この勢いを大事に舞台でもバシッとやりたい想いはあります。

インタビュー・写真/大窪晶

黒沢あすか(くろさわあすか)プロフィール


(C)Cinemarche

10歳から児童劇団に所属し、1990年『ほしをつぐもの』で映画デビュー。

柳町光男監督『愛について、東京』や、ドラマ「あすなろ白書」などに出演後、2002年の塚本晋也監督『六月の蛇』では、オポルト映画祭、東京スポーツ映画大賞などで主演女優賞を受賞。

その後2010年の園子温監督『冷たい熱帯魚』では、殺人鬼の妻を演じた村田愛子役が評価され、ヨコハマ映画祭助演女優賞を受賞。

2017年のマーティン・スコセッシ監督『沈黙〜サイレンス』では主演ロドリコの妻を演じ、高く評価されました。

2019年10月18日より全国公開中の瀬々敬久監督『楽園』では主人公の母親役を務めます。

本作『積むさおり』でもHORRIBLE IMAGININGS FILM FEST2019短編部門、主演女優賞を受賞。現在三児の母。

映画『積むさおり』の作品情報

【日本公開】
2019年(日本映画)

【監督・脚本・編集】
梅沢壮一

【キャスト】
黒沢あすか、木村圭作

【作品概要】
妻さおりを演じるのは、園子温監督作『冷たい熱帯魚』(2010)や、マーティン・スコセッシ監督作『沈黙 サイレンス』(2016)の実力派女優、黒沢あすか。

夫役には『クライングフリーセックス』(2018)の木村圭作が扮します。

監督を務めたのは、特殊メイクアーティストとして、数々の映画やTVに参加し、黒沢の夫でもある梅沢壮一です。

映画『積むさおり』のあらすじ


(C)「積むさおり」製作委員会

間もなく結婚5周年を迎えるバツイチ同士の夫婦、さおりと慶介。

ある日、さおりは犬の散歩中、積み枝の前に見たことのない穴を発見します。

風が起こり、音が吸い込まれるような不可思議な体験をするさおり。

それ以来耳鳴りが起こり、さらには夫の立てる些細な音にも敏感になってしまいました。

夫や仕事に不満を抱えることなく暮らしていた日々が一変、気づかぬうちに積み重なっていた鬱屈が頭をもたげ始めます。





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