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Entry 2023/12/07
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『夜明けの詩』あらすじ感想と評価解説。《韓国版ジョゼと虎と魚たち》キム・ジョングァン監督が描く“葛藤からの脱却”|広島国際映画祭2023リポート4

  • Writer :
  • 桂伸也

広島国際映画祭2023・特別招待作品『夜明けの詩』

2009年に開催された「ダマー映画祭inヒロシマ」を前前身として誕生した「広島国際映画祭」は、世界的にも注目されている日本の都市・広島で「ポジティブな力を持つ作品を、世界から集めた映画祭。」というポリシーを掲げ毎年行われている映画祭。

「ダマー映画祭inヒロシマ」の開催より、2023年は15周年という節目を迎えました。

本コラムでは、映画祭に登壇した監督・俳優・作品関係者らのトークイベントの模様を、作品情報とともにリポートしていきます。

第4回は、キム・ジョングァン監督作品の『夜明けの詩』。トークイベントではキム・ジョングァン監督とともに、作品に出演した俳優イ・ジュヨンが登壇しました。

【連載コラム】「広島国際映画祭2023リポート」記事一覧はこちら

映画『夜明けの詩』の作品情報


(C)2019 Vol Media co. ltd., All Rights Reserved

【日本公開】
2022年(韓国映画)

【英題】
Shades of the Heart

【監督】
キム・ジョングァン

【キャスト】
ヨン・ウジン、イ・ジウン/IU、キム・サンホ、イ・ジュヨン、ユン・ヘリほか

【作品概要】
海外から帰国し今後の人生に迷う一人の小説家が、人びととの出会いから自分自身とも向き合っていく姿を描いたドラマ。

主人公である小説家のチャンソク役を、映画『愛に奉仕せよ』(2022)『パーフェクト・ドライバー』(2022)『出国 造られた工作員』(2018)やドラマ『39歳』などのヨン・ウジンが務めます。

また出演者の一人であるイ・ジウン(IU)は『ベイビー・ブローカー』(2022)などの出演で知られていますが、キム・ジョングァン監督のNetflix映画『ペルソナ -仮面の下の素顔-』(2019)に出演したことをきっかけとして本作に特別出演となりました。

キム・ジョングァン監督プロフィール

1975年生まれ、韓国・テジョン広域市出身。2004年の短編映画『ポラロイドカメラの使い方』が数々の映画祭で賞を獲得し、観客や評論家から注目を浴び、以来『最悪の一日』(2021)、『窓辺のテーブル 彼女たちの選択』(2016)、『ペルソナ -仮面の下の素顔-』から『ジョゼと虎と魚たち』(2020)とさまざまな長編作品を手掛けている。『夜明けの詩』は第20回全州国際映画祭の全州シネマプロジェクトに選定された。

イ・ジュヨン プロフィール


韓国出身。2012年に映画『遭遇』で俳優デビュー。2019年に映画『野球少女』で商業映画初主演を果たし、2020年には日本でもヒットしたドラマ『梨泰院クラス』でトランスジェンダーのマ・ヒョニ役を演じ注目を集めている。



「広島国際映画祭2023」キム・ジョングァン監督×イ・ジュヨントークショー

本作は「広島国際映画祭2023」の三日目となる11月25日に上映され、上映後には特別ゲストとしてキム・ジョングァン監督と、出演を果たしたイ・ジュヨンが登壇し、舞台挨拶とともに撮影当時を振り返るトークショーを行いました。

魅力的なキャストも注目されている本作。「とても会話の多い映画でもあり、たくさんの言葉が出てくる映画。その言葉の間に見せる俳優さんたちの表情がとても大事な作品でした。その意味で個性が強く、演技も上手な俳優さんを選ばなければなりませんでした」と、キャスティングは入念に取り組んだ様子を見せます。

本作で主演を務めたヨン・ウジンは、キム監督の『窓辺のテーブル 彼女たちの選択』で現場を共にした際に「一緒に作品を作れたら」と思ったのがきっかけで、温かい人柄のヨンを「水のような人」とイメージし、「人の話を聞く」という役柄にぴったりと感じたと振り返ります。

一方、イが演じたチュウンは、主人公チャンソクが酒場で出会う「記憶を買うバーテンダー」という役柄。チャンソクの出会う人物の中では唯一、チャンソク自身の話を聞く側に回り「チャンソクを観察する」という、登場人物の中ではアクセントになる重要な役柄。キム監督はもともとキャラクターを設定した段階では、誰に演じてもらうかということは決めていなかったものの、演じる人間によって作品の空気間も大きく変わると踏んだため、役者を決めるのは非常に大変だったと振り返ります。

イはチュウンという人物を「非常に新鮮で、うまく演じたいと思った」と考え、オファーを受託。「彼女だけのストーリーを持っている、霧の中にいる人のようなイメージ」と人物像を想像したとコメント。

一方、バーテンダーという役柄のための役作りとしておこなったのは、監督とのバー巡り。酒好きなキム監督に対し「酒が飲めない」というイではありましたが、もともと詩のような文章を書く趣味があり、物語中で自分の詩を語るチュウンとは共感する性質を見つけたと語ります。キム監督も「酒が飲めない以外は、ほとんどの部分が共通している」と、その意見に同意の様子を見せます。

また「一度仕事を共にした俳優さんと、また新しい作品を作るのが好き」と語るキム監督。「その人のウィークポイントも特徴も(事前に)よく知ることができるので、作業が楽にできるし、(新しい作品で)新たな挑戦をしてみたいとも考えるんです」とその理由を明かします。

そしてイに対してはちょっといたずらっぽく「チュウンとは違う役柄がいいかも。ものすごい悪人か狂った役なんかはどうだろう?」と言葉を投げかけると、イは「うまくできると思います!自身があります」と即答、会場の笑いを誘っていました。

映画『夜明けの詩』のあらすじ


(C)2019 Vol Media co. ltd., All Rights Reserved

7年ぶりにイギリスより韓国のソウルに帰ってきた小説家のチャンソク。ある日彼は、とあるコーヒーショップで「時間をなくした」という一人の女性と出会います。

さらに「思い出を燃やす編集者」「希望を探す写真家」「記憶を買うバーテンダー」と、チャンソク自身とさまざまな関わりを持ちつつ、心に深い迷いを抱えながらも人生を歩み続ける4人との出会い、さまざまな話を耳にします。

そして彼は、自身が心に閉ざしてきた記憶と向き合い、その歩みを再び進めていくのでした。

まとめ


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本作は一人の男性が、それぞれの境遇を持った人と会話をするという、ただそれだけの話。話の中にどこか明確な起点が見えてくるわけではありませんが、心の琴線に触れるような特質が感じられます。

単に会話をしていくだけなのにアンデルセンの『絵のない絵本』、あるいは宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』のような寓話を見ているような感覚。見る側としてはまさに自分が主人公・チャンソクになり、注意深く相手の話の真意を考えたくなっていきます。

心に葛藤を抱えながら、海外より自国に戻ってきたチャンソクの心情を描くにあたり、キム監督は以下のようなことを考えたと語っています。

「僕が創作を続けていくには、僕自身、そして他人を見つめていくということが必要です。その意味では「僕が生きている人生」の中から、言葉を紡ぎ出していけると思っています。この映画の中にも、そのような意味を込めたくて、この映画を作りました」

ここには創作という観点に特化しての思いが見えますが、「明日を切り開く」という広義的な意味でとらえると普遍性が感じられる、多くの人が共感できるテーマであると言えるでしょう。どこか全体にモヤモヤした雰囲気が漂う中に、新たな一歩を踏み出すヒントが隠れているようで、何度も見返してみたくなるような作品であります。

【連載コラム】「広島国際映画祭2023リポート」記事一覧はこちら






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