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Entry 2021/03/10
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シンエヴァンゲリオン考察解説|アスカの式波シリーズと惣流の謎×ケンスケとの絆×使徒化の伏線を考察【終わりとシンの狭間で6】

  • Writer :
  • 河合のび

連載コラム『終わりとシンの狭間で』第6回

1995~96年に放送され社会現象を巻き起こしたテレビアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』をリビルド(再構築)し、全4部作に渡って新たな物語と結末を描こうとした新劇場版シリーズ。

そのシリーズ最終作にして完結編となる作品が、映画『シン・エヴァンゲリオン劇場版』(以下、『シン・エヴァンゲリオン』)です。

本記事では『シン・エヴァンゲリオン』のキーキャラクターの一人「式波・アスカ・ラングレー」をピックアップ。

眼帯の下に隠された秘密と“使徒化”、「シキナミシリーズ」の複製体としての出生、ケンスケとの関係など、作中にて登場した様々な描写の意味やその真意を探っていきます。

【連載コラム】『終わりとシンの狭間で』記事一覧はこちら

映画『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の作品情報


(C)カラー

【日本公開】
2021年3月8日(日本映画)

【原作・企画・脚本・総監督】
庵野秀明

【監督】
鶴巻和哉、中山勝一、前田真宏

【総作画監督】
錦織敦史

【音楽】
鷺巣詩郎

【主題歌】
宇多田ヒカル「One Last Kiss」

【作品概要】
2007年に公開された第1作『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』、2009年の第2作『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』、2012年の第3作『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』に続く新劇場版シリーズの最終作。

庵野秀明が総監督が務め、鶴巻和哉・中山勝一・前田真宏が監督を担当。なおタイトル表記は「シン・エヴァンゲリオン劇場版」の文末に、楽譜で使用される反復(リピート)記号が付くのが正式。

映画『シン・エヴァンゲリオン劇場版』アスカ考察・解説

眼帯の下の秘密と“使徒化”

『Q』にて描かれた「『破』ラストから14年の時を経た世界」で初めて登場し、その意味を巡って多くの仮説が生まれたアスカの眼帯。

そして『シン・エヴァンゲリオン』にてついに、その眼帯に隠されていた左眼とその秘密が明らかになりました。

ネルフ/ゼーレによる「人類補完計画」……ゲンドウが目論む「アディショナル・インパクト」の儀式遂行を阻止、そのために儀式の鍵の“一つ”を担うエヴァ第13号機を無力化すべく、アスカが乗るエヴァ新2号機は「強制停止信号プラグ」で第13号機を貫こうとしますが、“第13号機を恐れる新2号機自身”のATフィールドに阻まれてしまいます。

そこでアスカは新2号機の裏コード“ビースト”を展開したのち、眼帯を外し左眼に埋め込まれていた小型の封印柱を引き抜き、『破』作中で取り込まれてしまった際に残った「第9の使徒」の力を解放。自らを“使徒化”することで、新2号機のATフィールドの中和を試みたのです。

眼帯が外されたアスカの左眼は、“青い十字形の光”。誰もが「パターン青・使徒です」というセリフを連想したはずです。そして機体の“獣化”とアスカの“使徒化”が重なったことで、新2号機は“シン化”とも“覚醒”とも異なる新たな変貌を遂げたのです。

『破』作中、起動実験のため搭乗したエヴァ3号機が「第9の使徒」に“寄生”されてしまったアスカ。その後「第9の使徒」が撃破され救助されたものの、使徒による精神汚染を疑われたため「貴重なサンプル体」として隔離処分を受けていました。

彼女が「貴重なサンプル体」として隔離処分を受けたのは、無論“一度使徒に取り込まれた被験体”だったからと考えるのが妥当です。

しかし『シン・エヴァンゲリオン』作中でのゲンドウとマリのセリフによって、アスカが「貴重なサンプル体」とされたのは、“人類補完計画の裏にある、アディショナル・インパクト遂行に不可欠な存在だったため”という、ゼーレもその全てを把握できていたかは微妙な、ゲンドウの思惑も含まれていたのではと考えられます。

「シキナミシリーズ/アヤナミシリーズ」と人類補完計画

そして作中では、眼帯の下の秘密以上にファンを驚かさせたであろう「式波・アスカ・ラングレー」にまつわる出生の秘密……「新劇場版」シリーズに搭乗したアスカは「アヤナミシリーズ」同様、“エヴァの搭乗”と“儀式の遂行に不可欠な贄”を目的に製作された、「シキナミシリーズ」の複製体の一人であったことが明かされました。

また第13号機に取り込まれてしまう直前、新2号機のエントリープラグ内でアスカは「シキナミシリーズ」の“オリジナル”と遭遇。そこでのアスカと“オリジナル”の会話、のちのゲンドウの説明からも、「シキナミシリーズ」の“オリジナル”の正体は「新劇場版」シリーズ以前のアスカ=“惣流・アスカ・ラングレー”であると推測できます。

一方で、アスカが当初から“儀式の遂行に不可欠な贄”として機能していたのかは定かではありません。ゲンドウが人類補完計画を利用し再会を願っていたのはあくまで妻ユイであり、儀式も常に「アヤナミ」シリーズが根幹にあったこと。また「第9の使徒」での一件により「貴重なサンプル体」と呼ばれるようになったことからも、あくまで儀式に必要だったのは「第9の使徒」=“人類の手で保管可能な使徒”であったといえます。

なお、ネルフの管理下を離れてしまったのが原因で、存在することに耐えられずLCL化してしまった「アヤナミシリーズ」複製体のアヤナミに対し、同じネルフの元で製作された「シキナミシリーズ」複製体であるアスカがなぜ生き続けられた理由も、「第9の使徒」の力がその肉体に残ったことで“変質”が生じたことが最大の要因と推測できます。

永遠の少女“惣流”と大人になった“式波”

「シキナミシリーズ」の複製体=“惣流・アスカ・ラングレー(以下、惣流)”のクローンという出自が判明した「新劇場版」シリーズのアスカ。この事実によって、彼女と“惣流”それぞれの人物像、そして“つながり”がより明確になりました。

『新世紀エヴァンゲリオン』/「旧劇場版」シリーズの“惣流”は幼少時、エヴァとの接触実験失敗の後遺症によって精神が崩壊し、自身を見なくなった母親を振り向かせるため、エヴァパイロットを目指すように。しかしパイロットに選ばれた日、母親が“自分の娘”と思い込んでいた人形と“心中”してしまったことで、彼女はトラウマを抱えることになります。

それゆえに“惣流”は「“人形”ではない生き方」に努めながらも、母親から得ることのできなかった承認欲求と愛情に飢えるように。そして“承認欲求を得られる自身”を求めるあまりに、その心の孤独はより複雑に、より脆弱に悪化していったのです。

対して「新劇場版」シリーズの“式波”のアスカは、マイナス宇宙内にて語られる過去の回想通り、そもそも両親の存在を知りません。そして愛用の“人形”を大切に(「シキナミシリーズ」のオリジナル“惣流”の魂或いは肉体の記憶の残滓なのかもしれません)しながらも、エヴァに乗るためだけに生きてきました。

そして、母親どころか親という存在すらも知らないクローンである“式波”のアスカが抱える孤独は、「幼少期に感じた“親子”への渇望」という点では共通しているものの、“惣流”以上に漠然とし、それゆえに純粋なものといえます。

またアヤナミとは異なり、オリジナルの“惣流”は一度もたどり着いたことない「14歳以降からの14年間」を“式波”のアスカは経験しています。その結果、彼女は「ガキに必要なのは恋人じゃなくて母親よ」と吐き、のちに「あの頃はシンジのこと好きだったんだと思う。でも私が先に大人になっちゃった」とシンジに明かせるまでに、永遠の少女“惣流”のクローンという領域を超えた“大人”となったのです。

孤独と渇望の果てにあったケンスケとの“絆”

かつての同級生トウジやヒカリたち同様、生きるために“大人”になった“式波”のアスカ。一方で、幼少期に味わい、オリジナル“惣流”の頃から引きずり続ける孤独と愛の渇望を、彼女は常に抱え続けてきました。

しかし『シン・エヴァンゲリオン』作中、マイナス宇宙内にて展開されるアスカの記憶の世界に、ニアサード・インパクト以降の世界を同じく生き、容姿の差はされど同じく“大人”となったケンスケが現したことで、アスカはマイナス宇宙、そして孤独と愛の渇望から救い出されることになります。

アスカが幼少期の頃から大切にしていた人形のキグルミを着て、彼女のもとに現れたケンスケ。それは、アスカにとっての健介が「いつも心のそばにいてくれる存在」であることを暗示しています。

シンジの知らない「空白の14年間」にて、アスカとケンスケがどのような関係性を育んできたのかは、作中では明確に描写されていません。しかし『シン・エヴァンゲリオン』序盤、第三村に居づらいという事情はあるものの、ケンスケの家に滞在する様子や会話等のやりとりの光景などからは、アスカとケンスケの間に絆(それは“恋愛”とは一概に言えない、しかし確かなるもの)が存在すること、アスカにとっての「居場所」はケンスケの家なのかもしれないことを想像できるのです。

まとめ

『新世紀エヴァンゲリオン』と「旧劇場版」シリーズ、そして「新劇場版」シリーズ……カヲルが語った「円環の物語」が繰り返される中で、“惣流”の時も“式波”の時も、常に愛に飢え孤独に苦しめられ続けてきた“アスカ”という魂。

それはまさに彼女の宿命であり、作中に登場する“エヴァの呪縛”とは別に背負わされた、“エヴァの存在する世界”を生み出した造物主らに与えられた“呪い”でした。

しかしシリーズに終止符を打つ『シン・エヴァンゲリオン』にて、彼女は「同一化」とも「独占」とも異なる他者とのつながり方……自身の心の傷も虚無を知りながらも、それでも近すぎず・遠すぎずの距離で“そば”に居続けてくれる、ケンスケとの絆に気づくことができました。

その絆こそが、自らを傷つけ続けてきたエヴァ或いは“エヴァの存在する世界”とは違う、“アスカ”という魂が欲していた“居場所”。そして「アスカの呪いを解く」という責任を果たそうとした、“救世主(シュジンコウ)”シンジなりの答えでもあったのです。

次回の『終わりとシンの狭間で』は……

次回記事では、『シン・エヴァンゲリオン』のネタバレあり考察・解説第三弾として、「エヴァ」シリーズの完結にあたって非常に多くの役目を担うことになったマリをピックアップ。

改8号機にMark機体を次々と取り込ませた理由、冬月が口にした「イスカリオテのマリア」という呼び名の意味、その過去と正体の謎などを探っていきます。

【連載コラム】『終わりとシンの狭間で』記事一覧はこちら








編集長:河合のびプロフィール

1995年生まれ、静岡県出身の詩人。2019年に日本映画大学・理論コースを卒業後、2020年6月に映画情報Webサイト「Cinemarche」編集長へ就任。主にレビュー記事を執筆する一方で、草彅剛など多数の映画人へのインタビューも手がける。

2021年にはポッドキャスト番組「こんじゅりのシネマストリーマー」にサブMCとして出演(@youzo_kawai)。


photo by 田中舘裕介

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