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Entry 2020/03/13
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韓国映画『チャンシルさんには福が多いね』あらすじと感想評価レビュー。監督キムチョヒの初長編監督作品で作家の姿を語る|OAFF大阪アジアン映画祭2020見聞録6

  • Writer :
  • 西川ちょり

第15回大阪アジアン映画祭上映作品『チャンシルさんには福が多いね』

毎年3月に開催される大阪アジアン映画祭も今年で15回目。2020年3月06日(金)から3月15日(日)までの10日間にわたってアジア全域から寄りすぐった多彩な作品が上映されます。

コロナウイルス流行の影響により、いくつかのイベントや、舞台挨拶などが中止となりましたが、連日、熱心なファンが詰めかけています。

今回紹介するのは韓国映画『チャンシルさんには福が多いね』です。

【連載コラム】『OAFF大阪アジアン映画祭2020見聞録』記事一覧はこちら

映画『チャンシルさんには福が多いね』の作品情報


【日本公開】

2020年公開(韓国映画)

【原題】
Lucky Chan-sil(찬실이는 복도 많지)
*大阪アジアン映画祭上映時のタイトルは『チャンシルは福も多いね』

【監督・脚本】
キム・チョヒ

【キャスト】
カン・マルグム、ユン・ヨジュン、キム・ヨンミン、ユン・スンア、ペ・ユラム

【作品概要】
長年ホン・サンス映画のプロデューサーを務めてきたキム・チョヒの初長編監督作品。カン・マルグムがヒロイン・チャンシルを演じ、ユン・ヨジュン、キム・ヨンミン、ユン・スンア、ペ・ユラム等、一流俳優が顔をそろえたヒューマン・コメディー。

2019年釜山映画祭で、KBSインディペンデント映画賞、CGVアートハウス賞、韓国映画監督組合賞の三冠に輝いた。

映画『チャンシルさんには福が多いね』のあらすじ

映画プロデューサーのチャンシルは、長年タッグを組んできた監督が酒の席で倒れ帰らぬ人となっため、仕事がぷつりとなくなり、途方にくれていました。

彼女は40代になっていましたが、これまで結婚せず仕事に打ち込んできました。でも仕事を失ってしまうと、自分には何もない、一体何をやってきたのだろう?と落ち込むばかりです。

映画関係者からも「監督の個性で出来ていた映画だったからあなたはたいしたことを何もやっていない」と言われ、「私がどれだけ頑張ってきたか」と言い返すと「プロデューサーなんて誰にでもできる仕事よ。」と突き放されます。

チャンシルは後輩たちに荷物を運ぶのを手伝ってもらい高台の風変わりな老人が住む家に間借りさせてもらうことになりました。

すぐにでも働かないと生活していけないので、自分を慕う女優、ソフィーの家で家政婦代わりに働き始めます。

女優業の傍ら、忙しく習い事にいそしむソフィーのところに、フランス語の教師がやってきます。何度か会ううちにチャンシルは彼にひかれ始めました。

思い切って告白しますが、姉のように慕っていると言われ、見事玉砕してしまいます。

さらに落ち込むこととなったチャンシルのもとに現れたのは「レスリー・チャン」と名乗る幽霊でした。

キム・チョヒ監督のプロフィール

釜山生まれ。映画プロデューサーとして活躍した後、監督として短編映画「冬のピアニスト」(2011)、「私たちのスニ」(2013)、「Ladies Of The Forest 」(2016)を制作。『チャンシルは福も多いね』で長編映画監督デビューを果たします。『チャンシルは福も多いね』は、2019年釜山映画祭で、KBSインディペンデント映画賞、CGVアートハウス賞、韓国映画監督組合賞の三冠に輝きました。第45回ソウル独立映画祭観客賞も受賞。高い評価を得て、2020年3月に韓国でロードショー公開されました。

『チャンシルさんには福が多いね』感想と評価

本作は、『ハハハ』や『自由が丘で』など多くのホン・サンス映画のプロデューサーを務めてきたキム・チョヒの初長編監督作品です。

幸多そうなタイトルとヒロインが朗らかな表情をして走っているというメインビジュアルから受けるメージとはまったくかけ離れた物語が展開するのがまずユニークです。

主人公の女性、チャンシルは、映画が好きでその業界に入り、一生懸命やってきたはずが、ふと気づくと伴侶もなく、家もなく、金もなく、映画界での実績すら過小評価され、すっかり落ち込んでいます。

40代の女性が直面する試練がユーモラスに綴られていきますが、これは彼女だけの特別な事柄ではなく、誰にでも起こりうる身近な問題だけに身につまされ、思わず共感してしまいます。

チャンシル役のカン・マルグムは、2020年春公開予定の『悪の偶像』(2019/イ・スジン)で見せた役柄とは真逆の、このなさけなくも愛おしいヒロインをひょうひょうとした演技で表現していて好感が持てます。

人生の転換期に入って困惑しているチャンシルの周りにいるのは個性的な人々ばかり。大家さんのおばあさんとのやり取りには、人生の悲しみと慈しみが宿り、フランス語教師と交わす映画談義は、映画ファンならあるあるの“同族嫌悪”の光景が展開して笑いを誘います。

チャンシルを慕う女優のソフィーのような好人物も居るかと思えば、調子のいいことを言っていたくせに金にならないと見るや、さっさと関係を切る映画業界人もいます。

さらには、ランニングシャツ姿のレスリー・チャンと名乗る幽霊が現れ、「本当に自分がしたいことはなんなのか」とチャンシルに問いかけ、考えるように促します。大阪アジアン映画祭での上映では、冒頭から笑いが耐えなかったのですが、特にこのレスリー・チャンが出現するときは、場内、爆笑に包まれていました。

一方で、失恋や、チャンシルのなかなか将来が見えてこない現実が自虐的に描かれ、思わず同情してしまうことも。しかし映画を観終えたあと、タイトルの意味が静かにじわじわと心にしみてきます。

失恋しても友だちでいられたり、おばあさんの勉強のちょっとしたお手伝いをすることができたり、「また映画を作りましょうよ」と言ってくれる後輩がいたり、そんな取るに足りない些細なことこそが、人生の幸せであることを映画は教えてくれるのです。

まとめ

チャンシルと心を通わせる大家のおばあさんを演じるのは、名優ユン・ヨジョンです。ホン・サンス監督の『ハハハ』でキム・サンギョンの母親役を演じていたのを記憶されている方も多いでしょう。キム・チョヒ監督作品は、短編映画「Ladies Of The Forest 」(2016)に継ぐ二度目の出演です。

フランス語の教師を演じたペ・ユラムはホン・サンス監督の『教授とわたし、そして映画』(2010)、『次の朝は他人』(2011)などに出演している実力派俳優です。最近では『ミッドナイト・ランナー』(2017)や『EXIT』(2019)にも出演しています。

レスリー・チャンを演じたのはキム・ヨンミン。キム・ギドク監督の『殺されたミンジュ』(2014)が代表作です。寒い韓国の冬に白のタンクトップ姿に白パンツ姿で現れ、「レスリー・チャンです」と名乗るところの可笑しみといったらありません。

女優のソフィーを演じるユン・スンアの愛らしさも忘れがたいものがあります。誰もが彼女にめろめろになるのも頷けます。そして何より、チャンシルに扮したカン・マルグムが、キム・チョヒ監督の分身とも言うべき役割を見事に演じています。彼女は30才から演技の道を志したという遅咲きの俳優ですが、これまで男性偏重主義の部分があった韓国映画界において昨今じわりと存在力を増してきた女優陣の中でもとりわけ今後の活躍が楽しみなひとりです。

『チャンシルさんには福が多いね』は、2021年1月8日(金)、福いっぱいのロードショー!

*大阪アジアン映画祭上映時のタイトルは『チャンシルは福も多いね』ですが、日本での劇場公開にあたり、『チャンシルさんには福が多いね』に記事表記も変更いたしました。



【連載コラム】『OAFF大阪アジアン映画祭2020見聞録』記事一覧はこちら

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