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Entry 2021/02/27
Update

細野辰興の連載小説 戯作評伝【スタニスラフスキー探偵団~日本俠客伝・外伝~】13

  • Writer :
  • 細野辰興

細野辰興の連載小説
戯作評伝【スタニスラフスキー探偵団~日本俠客伝・外伝~】(2021年2月下旬掲載)

【細野辰興の連載小説】『スタニスラフスキー探偵団~日本俠客伝・外伝~』の一覧はこちら

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第四章『ロールプレイの復活』

第一節「【語り手】不在」其の弐

◯ 舞台

   喫茶店ルノアール会議室の場。
   『真っ赤な太陽』を熱唱するウェイトレスの
   和田演じる美空ひばり。
   外の登場人物たちは「ゴーゴー」のリズムに
   乗って和田を盛り上げている。
ひばり「まっかに燃えた~♪ 太陽だから 真夏の
 海は 恋の季節なの~♫ 渚をはしるふたりの髪
 に せつなくなびく甘い潮風よ~♪ はげしい愛
 に 灼けた素肌は 燃えるこころ 恋のときめき
 忘れず 残すため~♪ まっかに燃えた 太陽だ
 から 真夏の海は 恋の季節なの~♪ 恋の季節
 なの~♪ 恋の季節なの~♫」(作詞・吉岡治
 作曲・原信夫)
   と唄い上げるのを待って風間重兵衛がロール
   プレイを開始する号令をかける。
風間「ヨーイ、・・・アイッ。」
   綾部演じる錦之助と円山演じる岡田茂が瞑想
   の後静かに動き始め各々の位置に着く。
   その傍らに来るひばり。
岡田「ひばりちゃんからも錦ちゃんに言ってやって
 下さいよ。『日本俠客伝』にはこれから10年の
 東映の命運が掛かっているんじゃけん。のう。」
ひばり「駄目よ、岡田さん、広島弁は。知っている
 でしょ、神戸の小父ちゃまは広島嫌いなんだか
 ら。それに錦兄ィには錦兄ィの考えがあってのこ
 となんでしょうから。」
岡田「錦ちゃん、何でそこまで松竹に気兼ねしなけ
 ればいけないんだッ。松竹が播磨屋錦之助に何を
 してくれたと云うんだ。10年前、お嬢、否、ひ
 ばりさんの映画に出たいと云う錦ちゃんに松竹が
 した仕打ちをよもや忘れたわけじゃないでしょ
 う?」
ひばり「あら、悪いのは錦兄ィの舞台を観て一目惚
 れし映画出演に誘った十六歳の私みたいに聴こえ
 るけど。そんなことはないわよね。その御蔭で映
 画界は播磨屋錦之助と云う不世出の大スターを得
 て、日本国民が一年に12回映画館で映画を観た
 と云うあの昭和33年の全盛期を迎え、錦兄ィ主
 演で数え切れないほどの名作、傑作を生みだした
 のですからね。」
岡田「その播磨屋錦之助主演の名作傑作群を作った
 のは東映なんだッ、松竹じゃないッ。」
錦之助「岡田さん、泣くなよ、喚くなよ。もう、止
 しましょうよ。何も東映を辞めて松竹に戻ろうっ
 て言っているんじゃないんだからさ。一箇月だけ
 親父と兄貴の追善興行に出るだけなんだから
 さ。」
ひばり「そうよね。播磨屋挙げての三代目、四代目
 時蔵の追善興行に錦兄ィが出ない訳には行かない
 わよね。」
岡田「出るなッ、と言っているんじゃない。私が東
 映の命運を賭けている『日本俠客伝』にも主演し
 てくれと言っているんだ。俠客伝を当てて、何と
 しても京撮を立て直したいんだッ。そうすれば、
 これ以上、仲間の首を切らないで済むんだッ、錦
 ちゃん、解かって欲しいッ。」
錦之助「解ってますよ、解っているんですよ、岡田
 さん。でも本当に4日間しか遣り繰り出来ないん
 だ。これ以上は無理なんだ。4日間でマキノ先生
 の作品の主演は無理でしょう。」
ひばり「でも、錦兄ィがやらなければ誰が俠客伝の
 主演をやることに成るのかしら。橋蔵さん? 千
 代乃介さん? 大友さんじゃ歳だし、里見の浩
 ちゃん? まさかね(笑)。」
岡田「悪いが今の橋蔵さんたちじゃあ、全国400館
 の東映直属の映画館主が首を縦に振りゃせんけん
 のう。」
ひばり「また、広島弁! だったら私が男に扮して
 出ましょうか? 『ひばりの雪之丞変化』みたい
 に。・・・無理よね、もうそう云う時代ではない
 ものね。『家族皆で観る映画』では客は来ないも
 のね。お客さんは現実的だから。」
岡田「テレビが此処まで家庭に入り込んでしまえ
 ば、いくらお嬢の人気が高くても『家族皆で観る
 映画』ではね。暗闇でコッソリ知らない世界を覗
 き見る様な要素が必要なのさ、これからの映画に
 は。」
錦之助「だからと言って、本当のヤクザがプロデュ
 ーサーに成ってヤクザの世界を映画にする必要も
 ないと思うけどね。」
岡田「亦、そげなことを、それは誤解なんじゃ。俊
 藤プロデューサーはヤクザじゃないんじゃけ
 ん。」
錦之助「でも、橋蔵さんのベンツが退かされた話、
 聴いたよ。あんなことは俊藤一派が来るまではな
 かったからね。」
岡田「・・・矢張り錦ちゃんは、一部で噂されてい
 る様に『日本俠客伝』に、否、着流しのヤクザ映
 画に出るのが嫌なのか?」
錦之助「そうじゃない。そうじゃないけどさ、岡田
 さんが時代劇の製作を止めてヤクザ映画にシフト
 を換えると云う噂が本当なら喜んで出ると云う気
 持ちにはならなくて当たり前でしょう。」
ひばり「・・・橋蔵さんが駄目、千代乃介さんも駄
 目。だとすれば一人しか居ないじゃない、錦兄ィ
 の代わりが務まるスターは。」
錦之助「誰だよ? お嬢」
ひばり「(言い淀み)それは、ネエ」
錦之助「誰なんだよ?」
岡田「ま、鶴さんしかおらんじゃろうの」
錦之助「鶴田浩二!? 冗談じゃない。そりゃ駄目
 だ。それはいけないよ岡田さん。」
岡田「でも、錦兄ィの代わりに東映のお盆映画の主
 役を張れるのは今の東映だったら鶴さんの外に
 は」
錦之助「・・・分かった、だったら俺がやるッ、出
 ますよ俺がッ。」
ひばり「でも錦兄ィ、4日間しか空けられないんで
 しょう。仕方ないじゃない。」
錦之助「クランクインをずらせば良いんだ。ずらせ
 ば良いんだ、インを」
岡田「ウ~ンッ、じゃけん、それが出来るなら、最
 初からそうしているさ。」
錦之助「分った。お袋に言って後3日何とかして貰
 うから。7日あれば何とかなるでしょッ。」
ひばり「でも錦兄ィ、小母さまが7日間もくれるか
 しら? 岡田さんには悪いけど梨園の名門播磨屋
 の御曹司が『ヤクザ映画』に出演したら大変なこ
 とになるんじゃないの? 映画に出ると云うだけ
 でアレだけの大騒ぎをした松竹よ。錦兄ィに五代
 目時蔵を襲名して貰いたがっている小母さまを裏
 切ることにならないの?」
岡田「ひなさんは錦ちゃんを松竹に戻そうとしてい
 るのか!?」
錦之助「嗚呼! 壁だッ、壁だッ、壁だッ。梨園の
 名門に生まれ落ちたために映画への出演にもあれ
 だけの仕打ちを受け、功成り名を遂げてからも播
 磨屋、時蔵の名跡が俺を苦しめる。俺は梨園にも
 時蔵の名跡にも未練は無いッ。映画だッ、映画
 だッ、映画なんだ! 俺は、只、映画に出演した
 いだけなんだ! 映画俳優として生涯生きて行き
 たい、それだけなんだッ。それがお袋にも、否、
 和枝にも解って貰えないとは無念だッ、無念
 だッ。」
ひばり「錦兄ィ、何を言っているの!? ひばり
 が、否、加藤和枝だけは錦兄ィのことを解かって
 いるのを知っているでしょう。」
岡田「まるで『反逆児』の徳川信康の母子関係にも
 似た錦ちゃんの今の境遇。・・・しかし、たとえ
 スケジュールを変更したとしても播磨屋錦之助は
 この役を請けるのだろうか?」
ひばり「岡田さん、なに独り言を言っているの?」
岡田「錦ちゃんに丁髷を付けない時代劇とも云える
 任俠映画で『関の弥太ッぺ』の様な、『瞼の母』
 の様なヤクザの哀感を出して貰えれば新しい映画
 の歴史が必ず始まるんだッ。そして、その錦之助
 を一番観たいのが何を隠そうこの岡田茂なんだ。
 ・・・しかし、しかし播磨屋錦之助の中には時代
 劇には執拗に固執しながらも、再生産を嫌うと云
 う相反した拘りがある様にも思えてならない。そ
 れが、『反逆児』『ちいさこべ』『武士道残酷物
 語』『鮫』と云うプログラムピクチャーではない
 一連の作品に向かわせたと言っても過言ではな
 い。それなのに今更、『次郎長三国志』の様な
 『忠臣蔵』の様なプログラムピクチャーであり、
 しかもヤクザ映画である『日本俠客伝』に出れる
 のだろうか? 東映京都撮影所長としてではなく
 播磨屋錦之助ファンとしてはそう思えてならない
 のだ!」
錦之助「解らないッ、俺にも解らないんだッ。お袋
 は俺に五代目時蔵を襲名しろと云う。梨園を飛び
 出したこの俺に、歌舞伎界には二度と戻らぬ覚悟
 で映画界に行ったこの俺にッ。」
   「播磨屋ッ」と客席から絶妙な掛け声が飛
   ぶ。
錦之助「一方、岡田さんは、時代劇に固執する俺の
 中にそれとは矛盾した再生産を嫌う何かが在ると
 言う。プログラムピクチャーを拒む何かが在ると
 云う。言われてみればそうかも知れない、が、そ
 れも俺には解らない。俺には演じたい役があるだ
 けだッ、出演したい映画を撮りたいだけだ。それ
 なのにッ。嗚呼! 壁だッ、壁だッ、壁だァ。」
風間「カット!・・・ウ~ン、かなり良いんだが、
 これも微妙に違うんだなァ、微妙に」
綾部「演じていて、錦之助さんがヤクザ映画に出た
 いのか出たくなかったのかがもう一つ解り難く
 て。難しかったですね。」
日野「そうかな、時代劇に固執しながらも再生産を
 拒む何かが在ると云うのは解った気がしたけど
 ね。」
和田「外様スターで、『人生劇場 飛車角』のス
 マッシュ・ヒットで受けに入って来て京都撮影所
 まで進出して来た鶴田浩二に対する敵愾心は解り
 ましたけど。」
円山「錦之助が再生産を嫌っている部分はどうだっ
 た?」
風間「だから、そこは一番腑に落ちたかな。」
和田「でも部外者の私から見ていると台詞が長く
 て、もっとこう前回の様なアクションで考える必
 要があるのではないかと思うのですが。」
蓋河「私が前に力説したことじゃないッ。」
円山「ほう、具体的には?」
和田「いやあ、只のウェイトレスですから。」
風間「判ったッ、それだよ。アクションだよ。顔を
 斬り付ける様なアクションを今回もやってみるん
 だよッ。」
蓋河「チョット待ってッ、錦之助が長谷川一夫の様
 な被害に遭ったと云う事実はおろか噂話すらもな
 いじゃない!」
風間「何回同じことを言わせるんだ。事実なんかど
 うでも良い。真実を追究出来る面白いインタレス
 ティングな仮説さえあればそれで良いんだ!」
蓋河「でも、錦之助が『日本俠客伝』の主演を降り
 た、請けなかった原因が判るそんなアクションな
 んて何処にあるの!?」
風間「在るッ。」
全員「在る!?」
風間「在るッ、貌にではなく、心に傷をつけるん
 だッ。剃刀の様な武器ではなく、言葉の暴力で心
 に傷を付けるんだッ。錦之助の心に一番深いトラ
 ウマを残した者を『日本俠客伝』降板事件の犯人
 とするんだ!」
円山「それだけでは弱いのでは。東映を辞める切欠
 にもなる犯人としなければ。」
風間「それだッ。で、播磨屋錦之助の心に決定的な
 トラウマを負わせることが出来る犯人の候補者
 は?」
綾部「錦之助を藝術志向へと煽っておきながら、錦
 之助が一番苦悩している時に芸能界に復帰し、遂
 には離婚した有馬稲子は外せないでしょう。」
蓋河「A級戦犯ね。」
風間「否、予断を持ってのロールプレイは禁物だ。
 あくまでもその人の当時の気持ちに成ってアプロ
 ーチするんだッ。」
円山「初代・中村獅童こと錦之助の実兄である小川
 三喜雄プロデューサーは?」
風間「どちらかと云うと協力者であり良き理解者だ
 ろう。」
円山「確かに、10年以上も弟である錦之助に尽く
 しては来たのだが、だからこそ本音を知りた
 い。」
風間「成る程。流石は日本を代表する脚本家だけの
 ことはある。」
円山「穴が在ったら木に登りたいね。」
風間「綾部、外には?」
綾部「もう居ないでしょう。」
風間「だからお前は万年助監督から抜け出せないと
 言うんだ。灯台下暗し。肝心な人間を忘れてい
 るッ。」
綾部円山「誰です?」
風間「分からない時は『人間革命』で戸田城聖を演
 じ、仏とは何か?を探求した時の丹波さんの気持
 ちになって考えてみるんだ!」
全員「丹波さん!?」
風間「違うッ、丹波哲郎が演じた戸田城聖の気持ち
 に成って考えてみろと言っているんだ。」
綾部「生憎、ウチはカソリックですから。」
   瞑想していた和田、何やらブツブツと呟き始
   める。
和田「・・・動く物でもなければ動かない物でもな
 い。・・・アレでもなければコレでも無い。松方
 弘樹でもなければ北大路欣也でもない。・・・梅
 宮辰夫でなければ千葉真一でもない。山本麟一で
 なければ今井健二でもない。・・・嗚呼!」
風間「判ったか!?」
和田「否、駄目です。」
蓋河「健さんよ。片倉健さんを出さなくてどうする
 のよッ。」
円山「エ!? 蓋ちゃん、カツライスは、諦めた
 の?」
蓋河「それとこれとは別の話よ。」
風間「よし、三人揃った! ロールプレイをやる
 ぞッ。」

 え? 何か怒っているの? ああ、行き成り舞台から始めたから解り難かったんだ? でも俺は「語り手」じゃないからさ、高井ちゃんや悪戯のオッサンみたいにスマートには行かないよ。
それに俺の詰まらない話を聴くより舞台を再現した方がアンタたちにも好いだろう。
まァ、初演だし、清水と山田がリリーフで書いているから粗削りだけどね。でも期待以上には成っているから勘弁してやってよ。え、何でアンタが勘弁してやってくれッて気遣いをするんだッて? 気遣いはしないよりした方が良いだろう。ハハハ、気遣いする理由ね。どうせ言っても信用して貰えないからパスしたいね。ダメ? ナニ、素性も明かさないとダメなの。しょうがないな。

名前は××××××。ハハ。声が小さくて良く聞こえなかったか。何処かで聞いたことある名前だって? それはそうだろうさ。そう、それだよ。それが俺。何だよ、その顔は。だから言いたくなかったんだよ。劇中劇の登場人物が出て来ても良いのかッて? そんなこと俺に言われたってさ。まッ、考えるのは後にしてよ。前回は喋り過ぎて字数を大幅にオーバーしたから。今回は簡潔に行きたいんだ。

だから全ては、混沌を目指している作者の細野辰興監督の仕業さ。完成度より混沌を目指しているんだから、仕方ないさ。前作の『スタニスラフスキー探偵団』でもそうだけど、今回のがもっと混沌としているからね、構成とか全てが。「入れ子構造」+劇中舞台と楽屋だもん。秩序が嫌いなんだろうね。だから、俺をこうやって「語り手」として登場させたんだよ。ああ、「案内人」だった。

解らない? そうか、解らないか。俺はね、映画黄金期のあの時点で時間が止まってしまった細野辰興監督のメタファーなんじゃないの。映画ファンのモンスターって言っても良いけど。あの時代で時間も思考も止まっているから、中村錦之助に対する愛情が純粋すぎて、深すぎて、錦之助の悲劇性を見詰め切れなくなったんじゃないの。だから失踪させられた。失踪させられて、今日まで細野監督の別の作品に登場させられていたって云う訳。興味ないか、こんな話。

ああ、高井ちゃんとは連絡取れたよ。ウン、次回は「語り手」として復活するんじゃないの。だから、今日の処の解説も高井ちゃんから聴いてよ。その方が理路整然とするだろうから。

一つだけ言っておくとさ、清水と山田コンビの仕事は見事だったね。何って、全国400館の館主の要求に応える為に何としても錦之助を出演させなければならなかった岡田茂の策略の仮説がさ。つまり、錦之助が可愛がっていた高倉健を鶴田浩二の対抗馬として育てると云う計画に錦之助にも一枚噛ませたと云う仮説を立てた処がさ、素晴らしかった。高倉健への想いと「俳優の業の深さ」と云うものを良く出していた。
 そのサワリを紹介して俺はフェードアウトするから。え、気持ちは嬉しいけど。別れなければ、亦、遇えないだろう。ホラ、笑って。


(C)1964 東映

◯ 舞台
  
   先ほどと同じ喫茶室ルノアール・会議室の
   「場」に播磨屋錦之助を演じる風間と岡田茂
   を演じる日野だけが残って居る。
   蓋河など外の登場人物は壁際のソファに座っ
   て注視している。
錦之助「和枝抜きで男同士の話し合いかい。大方の
 見当はついているよ岡田さん。健ちゃんを『日本
 侠客伝』の主演にと考えているんでしょう。大賛
 成だよ。」
岡田「でも、それだけじゃないんだ。」
錦之助「それも判ってますよ、皆まで言わなくて
 も。健ちゃんの為だ、4日間はフルに出演させて
 貰いますよ。『沓掛時次郎』の様な役を作って下
 さいな。髷無しで一度ああ云う役を演じてみた
 かったんだ。ハハハ。その替わり大ヒットさせて
 健ちゃんを鶴田に拮抗するヤクザ映画の金看板に
 育ててやって下さいよ。健ちゃんは何て言っても
 東映の『子飼い』なんだから。それとこれも約束
 して貰わないと。時代劇は作り続けるッ、とね。
 作り続けて任俠映画と二本立てで興行していく
 と。勿論、宮本武蔵は完結させるッ、と。おっ
 と、『七人の武蔵』は願い下げですけどね
 (笑)。でないと俺の東映での居場所がなくなっ
 ちまいますからね。」
岡田「約束するよ、錦ちゃん。・・・時代劇は滅び
 ても播磨屋錦之助主演の時代劇だけは残します
 よ。」
錦之助「天下の東映京都撮影所長の岡田茂さんにそ
 う言って貰えれば、オイラ本望ですよ。」
岡田「・・・実は錦ちゃん、もう一つあるんだ。」
錦之助「(笑って)宣伝を播磨屋錦之助押しで行き
 たいと館主たちが言っているんでしょう。あまり
 感心出来るやり方じゃねえけど、健ちゃんさえ承
 知するなら俺に異存はありゃしませんよ。但し、
 トップタイトルだけは健ちゃんにしてやって下さ
 いよ。」
岡田「錦ちゃん、この借りは必ず返させて貰う
 よ。」
錦之助「なァに、『日本俠客伝』がヒットして健
 ちゃんがヤクザ映画の金看板になり、時代劇も細
 々ながら作り続けられるようになれば万々歳じゃ
 ありませんか。オイラ、お星さまに成った様な良
 い気分だ。・・・嗚呼、明日も天気か。」

【この節】了

【細野辰興の連載小説】『スタニスラフスキー探偵団~日本俠客伝・外伝~』の一覧はこちら

*この小説に登場する個人名、作品名、企業名などは実在のものとは一切関係がありません。作家による創作物の表現の一つであり、フィクションの読み物としてご留意いただきお楽しみください。

細野辰興プロフィール


(C)Cinemarche

細野辰興(ほそのたつおき)映画監督

神奈川県出身。今村プロダクション映像企画、ディレクターズ・カンパニーで助監督として、今村昌平、長谷川和彦、相米慎二、根岸吉太郎の4監督に師事。

1991年『激走 トラッカー伝説』で監督デビューの後、1996年に伝説的傑作『シャブ極道』を発表。キネマ旬報ベストテン等各種ベストテンと主演・役所広司の主演男優賞各賞独占と、センセーションを巻き起こしました。

2006年に行なわれた日本映画監督協会創立70周年記念式典において『シャブ極道』は大島渚監督『愛のコリーダ』、鈴木清順監督『殺しの烙印』、若松孝二監督『天使の恍惚』と共に「映画史に名を残す問題作」として特別上映されました。

その後も『竜二 Forever』『燃ゆるとき』等、骨太な作品をコンスタントに発表。 2012年『私の叔父さん』(連城三紀彦原作)では『竜二 Forever』の高橋克典を再び主演に迎え、純愛映画として高い評価を得ます。

2016年には初めての監督&プロデュースで『貌斬り KAOKIRI~戯曲【スタニスラフスキー探偵団】より』。舞台と映画を融合させる多重構造に挑んだ野心作として話題を呼びました。



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