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Entry 2022/12/24
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【映画ネタバレ】ガントレット|あらすじ結末感想と評価解説。ラスト銃撃は“贖罪”と“通過儀礼”?クリントイーストウッドの危うい魅力つまる快作【すべての映画はアクションから始まる34】

  • Writer :
  • 松平光冬

連載コラム『すべての映画はアクションから始まる』第34回

日本公開を控える新作から、カルト的に評価された知る人ぞ知る旧作といったアクション映画を時おり網羅してピックアップする連載コラム『すべての映画はアクションから始まる』。

第34回は、1977年製作のアメリカ映画『ガントレット』

証人護送を命じられた刑事と、事件のもみ消しを謀る警察幹部との対決を描いた、クリント・イーストウッド主演・監督作です。

【連載コラム】『すべての映画はアクションから始まる』記事一覧はこちら

映画『ガントレット』の作品情報


(C)1977 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.

【公開】
1977年(アメリカ映画)

【原題】
The Gauntlet

【監督】
クリント・イーストウッド

【脚本】
マイケル・バトラー、デニス・シュリアック

【製作】
ロバート・デイリー

【撮影】
レックスフォード・メッツ

【音楽】
ジェリー・フィールディング

【キャスト】
クリント・イーストウッド、ソンドラ・ロック、パット・ヒングル、ウィリアム・プリンス、マイケル・カバナー

【作品概要】
腐敗した警察上司に立ち向かう刑事の活躍を描く、1977年製作のアメリカ映画。

クリント・イーストウッドが監督・主演を務め、当時交際していたソンドラ・ロックが共演。その他のキャストはパット・ヒングル、ウィリアム・プリンス、マイケル・カバナーなど。

音楽は、『ダーティハリー3』(1976)、『アウトロー』(1976)といったイーストウッド作品に参加したジェリー・フィールディングが担当。

クリスマスシーズンに全米での初公開を迎えると5400万ドルもの興行収入を記録し、世界中での劇場公開を終えるまでに1億ドルを超えるヒットとなりました。

映画『ガントレット』のあらすじとネタバレ

アメリカ・アリゾナ州フェニックス市警のベン・ショックリーは、警察委員長(コミッショナー)に就いたブレイクロックから、現在州から告訴されているデルーカという男の裁判にて検察側証人として出廷予定の女性を、ネバダ州ラスベガスから護送してくるように命じられます。

上司命令には逆らえぬと、やむなくラスベガスに向かったショックリー。しかし証人のガス(オーガスタ)・マリーは、売春の罪でラスベガス警察に捕まっていました。

「命を狙われているから動きたくない」と拒むマリーを強引に連れ出し、空港に向かったショックリー。しかしその途中で、何者かの襲撃を受けます。

マリーの家に逃れたショックリーはブレイクロックに保護を求めますが、その直後、地元の警官隊が周囲を取り囲みます。

警官たちの凄まじい発砲をかいくぐった2人は、パトロールをしていた警官コンステーブルを脅してパトカーに乗り込み逃亡。コンステーブルから「本部命令でマリーの家を包囲した」と聞いたショックリーは、再度ブレイクロックに護衛を要請します。

警察内に裏切り者がいると指摘するマリーの言葉を受け、2人はネバダ州境の手前でパトカーから降り、コンステーブルにそのまま州境へパトカーを走らせます。すると待ち構えていた警官隊の一斉射撃を受け、パトカーはハチの巣と化します。

身を隠した洞窟で、ショックリーはマリーから「1度だけデルーカに、フェニックス市警の人物を紹介された」と聞かされます。ショックリーはその人物がブレイクロックと直感し、今回の護送はマリーの命を狙うための罠だったと気づくのでした。

暴走族からバイクを奪い、フェニックスへと向かう2人。その途中でショックリーは、公衆電話から友人の刑事ジョセフソンに連絡を取ります。

ジョセフソンから、自身も「警官殺害の容疑」で指名手配されていると知ったショックリー。そこへ警官が乗ったヘリが現れ、上空から狙撃してきます。

バイク運転を駆使し、ヘリを高圧線に接触させて墜落させることに成功するも、銃撃を受けバイクが故障してしまった2人は貨物列車に乗り込みます。しかし車内には、先ほどショックリーにバイクを奪われた男たちが乗っていました。

ショックリーはリンチを受けるも、身を挺して囮になったマリーの機転で男たちを列車から叩き落します。

アリゾナの町キングマンまで来た2人は、フェニックス行きのバスの発車時刻までの間、モーテルで休息。必死の逃避行を続けるうちに心惹かれあっていた2人は、互いの想いを確かめ合うのでした。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『ガントレット』のネタバレ・結末の記載がございます。本作をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

ショックリーはモーテルからジョセフソンに連絡を取り、今からフェニックス裁判所に直接乗り込むから、近隣の市民を避難させてくれと頼みます。

ショックリーはマリーをホテルに残そうとしますが、彼女も同行を決意。2人は乗っ取ったバスを鉄板で防護し、フェニックスへと走らせます。一方、ジョセフソンは地方検事のフェイダースピールに事の成り行きを相談するも、彼はブレイクロックと通じていました。

無人街となったフェニックスに到着した2人の元にジョセフソンが現れ、バスから降りて一緒に裁判所に行こうと説得されます。

説得に応じバスを降り、ジョセフソンのパトカーに乗り込もうとしたショックリーとマリー。しかしその直後、ブレイクロックの息のかかった警官にジョセフソンは射殺され、ショックリーも足を撃たれてしまいます。

怒りに燃えたショックリーはバスに戻り、裁判所へと向かいます。裁判所までの道は、銃を構えた警官隊に挟まれていました。

ゆっくりと進むバスを、四方八方から銃弾の嵐が襲います。ショックリーとマリーは身をかがめて弾を除け、バスは裁判所前の階段に乗り上げ停車します。

ブレイクロックとフェイダースピールは、バスから降りた2人を射殺するよう命じるも、警官隊は動きません。その隙にフェイダースピールを捕らえたショックリーは、真実を話すよう迫ります。

デルーカを通してブレイクロックがマフィアとつながっていることを隠すために、マリー殺害を目論んだと白状したフェイダースピール。真実を明かされてしまったブレイクロックは彼を射殺し、そのままショックリーも撃ちます。

続けてマリーに向けて引き金を引くも、弾切れに。すかさずマリーはショックリーの銃をとり、ブレイクロックを撃ち殺しました。

マリーの手を借りて起き上がったショックリーは、そのまま2人で裁判所を後にするのでした……。

『ダーティハリー』とは真逆の刑事像


(C)1977 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.

1977年、クリスマスシーズン向けの大作を欲しがったワーナー・ブラザースは、クリント・イーストウッドにその大役を依頼。『ダーティハリー3』(1976)が前2作以上のヒットとなり(シリーズ最大のヒット作は1984年の『ダーティハリー4』)勢いに乗っていたイーストウッドが選んだのは、またもや刑事を演じた『ガントレット』でした。

元々、スティーブ・マックィーンとバーブラ・ストライサンドのダブル主演を念頭に執筆された脚本をイーストウッドが気に入ったのは、「『ダーティハリー』シリーズと対極にある作品だったから」という理由からでした。

常に上司と対立し、躊躇なく犯人を射殺できるハリー・キャラハンに対し、本作のベン・ショックリーは今まで重要な捜査に関わったこともなく、酒を嗜みながら徹夜ポーカーを楽しむ事なかれ主義な人物。

そんな彼が、「ある裁判の証人となった売春婦マリーを護送する」という簡単な任務が、実は警察の腐敗に絡んだ一大事と気づき、大卒の学歴を持つ知性あふれるマリーと立ち向かっていきます。

とことんまで犯人を追い詰め、サディスティックな拷問も辞さないハリーですが、新しい相棒をすぐに殉職させてしまう。一方のショックリーは常に敵に追われ、リンチに遭ったり銃撃を何度も喰らうも、最愛のパートナーを見つける……2人の刑事は何から何までコインの裏表な人物といえます。

最初の予定通り、ストライサンドをマリー役にキャスティングしようと考えていたワーナーの案をイーストウッドは一蹴し、当時の恋人ソンドラ・ロックを起用(2人とも既婚者だったので、厳密には不倫の間柄)。

1977年4月に撮影を開始し、イーストウッド監督作の特徴でもあるワンテイク&早撮りで、予定通り同年12月に公開された本作は見事、世界中で大ヒットとなりました。

「贖罪」と「通過儀礼」を孕んだクライマックス


(C)1977 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.

列車、バイク、バスと逃走手段を変えていくショックリーとマリーに、それを追う警官隊の攻防が繰り広げられる本作は、「500万ドル」というそれまでのイーストウッド作品で最も高額の製作費がかかりました。

そのうちの125万ドルをさまざまなアクションシーンに費やしており、中でも二列に並んだ警官隊が放つ銃弾の嵐をバスで通過していくクライマックスでは、家やバスに各25万発もの爆竹を仕込み、電気仕掛けで銃弾大の穴が空くという特殊撮影を敢行。

古代ローマや中世ヨーロッパで行われていた罪人への刑罰「ガントレット」を現代に置き換えたこのクライマックスは、『奴らを高く吊るせ!』(1968)、『許されざる者』(1992)、『ミリオンダラー・ベイビー』(2004)などで“贖罪”を繰り返しテーマに盛り込んできたイーストウッドの作家性が表れています。

また、一部のネイティブ・アメリカンの間では、ガントレットは成人になるための儀式という意味合いも持っています。

「棍棒や鞭で殴られる」という想像を絶する苦痛に耐えることで一人前と認められるように、ひたすら警官隊から逃がれ、最後の銃撃の嵐を耐えたショックリーも、晴れて一人前の刑事となったのです。

1970年代アクションを堪能できる快作

ジェリー・フィールディング『ガントレット』

アクション以外にも、派手な銃撃の前の静けさを冷たく彩る、ジェリー・フィールディングによるジャズを基調とした劇伴も印象的な本作。

今の視点で観れば、クライマックスでのバス銃撃は大きくモラルを逸脱していますし、なによりタイヤにまったく弾が当たらないのが変といったツッコミも出てくるでしょうが、そこは外連味たっぷりな1970年代製アクションだからと許容してください。

俳優より監督としての名声が高まった感がありますが、1970年代はまさにクリント・イーストウッドがアクション俳優として脂の乗り切った時期。

『ガントレット』は、そんなイーストウッドの危うい魅力が詰まった快作です。

次回の『すべての映画はアクションから始まる』もお楽しみに。

【連載コラム】『すべての映画はアクションから始まる』記事一覧はこちら

松平光冬プロフィール

テレビ番組の放送作家・企画リサーチャーとしてドキュメンタリー番組やバラエティを中心に担当。主に『ガイアの夜明け』『ルビコンの決断』『クイズ雑学王』などに携わる。

2010年代からは映画ライターとしても活動。Cinemarcheでは新作レビューの他、連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』『すべてはアクションから始まる』を担当。(@PUJ920219




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