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Entry 2020/11/09
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アニメ『ジョゼと虎と魚たち』あらすじと感想評価レビュー。田辺聖子の青春恋愛小説をタムラコータローが描く|TIFF2020リポート3

  • Writer :
  • 星野しげみ

アニメ『ジョゼと虎と魚たち』は東京国際映画祭2020の特別招待作品!

2020年実施の東京国際映画祭の特別招待作品として、上映された『ジョゼと虎と魚たち』。

芥川賞作家田辺聖子の同名小説が原作で、2003年に妻夫木聡・池脇千鶴主演で実写映画化もされた『ジョゼと虎と魚たち』ですが、今回はアニメーション映画となって登場です。

本作は、足の悪い女性と青年とのラブストーリー。30年以上の月日を得て今新たに“世界の輝き”を教える恋を、『おおかみこどもの雨と雪』の助監督や『ノラガミ』シリーズの監督を手掛けたタムラコータローが、監督として手掛けています。

アニメ『ジョゼと虎と魚たち』は、2020年12月25日(金)ロードショーです。

【連載コラム】『TIFF2020リポート』記事一覧はこちら

アニメ『ジョゼと虎と魚たち』の作品情報


(C)2020 Seiko Tanabe/ KADOKAWA/ Josee Project

【公開】
2020年(日本映画)

【原作】
田辺聖子『ジョゼと虎と魚たち』(角川文庫刊)

【監督】
タムラコータロー

【脚本】
桑村さや香

【声の出演】
中川大志、清原果耶、宮本侑芽、興津和幸、Lynn、松寺千恵美、盛山晋太郎、リリー

【作品概要】
アニメ『ジョゼと虎と魚たち』は、2003年に犬童一心監督により実写映画化された田辺聖子の同名小説を、新たに劇場アニメ化したものです。テレビアニメ『ノラガミ』のタムラコータロー監督がアニメ映画初監督を務め、『ストロボ・エッジ』(2015)の桑村さや香が脚本を担当。

『坂道のアポロン』(2017)の中川大志が主役の恒夫、『デイアンドナイト』(2019)の清原果耶がジョゼの声を、それぞれ担当しています。

アニメ『ジョゼと虎と魚たち』のあらすじ

(C)2020 Seiko Tanabe/ KADOKAWA/ Josee Project

大阪の大学生鈴川恒夫は、大学で海洋生物学を専攻。

海と魚が好きな恒夫は、ダイバーショップでアルバイトをしながらも、お金を貯めるためにバイトをかけもちし、慌ただしい毎日を送っています。

それも全てメキシコの大学に留学して、メキシコに生息する幻の魚を見るという夢があるからです。

そんなある日、坂道を転げ落ちそうになっていた車椅子の女性・山村クミコことジョゼを助けます。

祖母・チヅと車椅子で散歩に出たとき、チヅが目を離したすきに、誰かにいたずらされ、車椅子を押されたそうです。

「外には悪い奴らがいっぱいいるんだよ」とチヅはジョゼに言います。

助けてもらったのに恒夫のことを「変態」と呼ぶ口の悪いジョゼとは反対に、チヅはお金のなさそうな学生の恒夫を見て、夕食を食べていくことを勧めます。

恒夫はジョゼと2人で暮らすチヅから彼女の相手をするバイトを持ち掛けられ、引き受けることにしました。

幼少時から車椅子で生活してきたジョゼは、一日の大半を家の中で過ごしています。外の世界に強い憧れを抱いているのに、人とうまくコミュニケーションが取れません。

恒夫のことも信用できないジョゼは、恒夫がバイトに来るたびに、雇い主として冷たく当たります。

けれども恒夫は、「なんだ、アイツは」とショップの仲間に文句を言いながらも、ジョゼに真っ直ぐにぶつかっていきます。

ある日恒夫は、ジョゼから「仕事だから、海へ連れていけ」と命令され、海へ連れて行きました。

久しぶりだという海を訪れ、海の水の味を知り、喜ぶジョゼ。恒夫は、初めてジョゼの可愛さと寂しさに気が付きます。

その後、「外出禁止」をうるさく唱えるチヅの目を盗み、恒夫とジョゼはたびたび外出して、次第に心を通わせていくようになります。

アニメ『ジョゼと虎と魚たち』の感想と評価

(C)2020 Seiko Tanabe/ KADOKAWA/ Josee Project

本作の原作者田辺聖子は、大阪出身の芥川賞作家です。作品も関西弁で書かれることが多く、本作もそうなっています。

関西弁でしか表現できないニュアンスが、この作品のほんわりと漂う“優しさ”を演出しています。

微笑ましい大阪ムード

まず、全ての登場人物が話す関西弁に注目。黙っているとかわいいジョゼですが、口からでるのは辛辣な関西弁で、最初はそのギャップに驚くことでしょう。

しかし、物語が進むにつれ、インパクトの強い関西弁もかわいく思えてくるから不思議です。

ジョゼの祖母のチヅはかなりの高齢者ですが、シャキシャキした感じで車椅子のジョゼの世話をしています。

最初に出会った日、チヅが恒夫に夕食をごちそうするのですが、たまたまご飯が無く用意したのが“たこ焼き”でした。

初対面の恒夫に大阪名物“たこ焼き”を出すチヅ。このあたり、まさしく大阪の物語です。

また、チヅがジョゼの元気が出る証のポーズとして、「ジョゼは今にも走り出しそうや」と片足と両手をあげて、道頓堀にあるグリコ看板のポーズをします。

グリコ看板は大阪のシンボルみたいなものですから、「さすが、大阪」とクスリとします。

そしてもう一つの例。外出中にジョゼの車椅子に男性がぶつかり怒鳴られますが、その男性がまた別の年配女性にぶつかります。「ちょっとあぶないやん」。今度は年配女性から男性が怒られていました。

これが大阪のオバちゃんです。歯に衣着せぬ物言いではっきりと悪いところを指摘します。

年配女性は、とてもさばさばした感じで嫌味がなく、その勢いに「すんまへん」と頭をかいて謝る男性の姿に、そばで聞いていたジョゼと恒夫も思わず笑ってしまうほど。

ストーリーは、底抜けに明るい大阪らしさ満載。観る方もそれを楽しんでいるうちに、険悪ムードだったジョゼと恒夫もいつしか目を合わせて笑いあえるカップルへと変化していました。

伝えられる愛の真意

(C)2020 Seiko Tanabe/ KADOKAWA/ Josee Project

田辺聖子の原作『ジョゼと虎と魚たち』は、2003年に実写映画化されていますが、今回はアニメーションとなって登場しています。

外出もままならないクミコことジョゼの憧れる海や空想の世界が、美しい映像で表されている作品です。

“ジョゼ”はクミコの大好きなフランソワーズ サガンの小説『一年ののち』に登場する人物の名前です。“虎”はクミコの恐れるものの代名詞、“魚たち”はクミコの仲間や好きなもの。

こんな意味合いを持つタイトルですが、ジョゼと恒夫の2人はこの先どうなるのか、とハラハラするストーリーが待っています。

大好きな人と一緒にいることと、夢を叶えることは同時にできるのでしょうか。もしもどちらかを選ばなければならなくなったら、どっちを選択すればいいのでしょう。

身体の不自由なジョゼと恒夫が自分たちの将来について悩む姿は、今も昔も決して変わるものではありません。

この作品は、相手にとって一番大切なことは何なのかと、相手へのおもいやりを切々と教えてくれています。

まとめ

(C)2020 Seiko Tanabe/ KADOKAWA/ Josee Project

「東京国際映画祭2020」の特別招待作品である大阪を舞台とした青春ラブストーリー『ジョゼと虎と魚たち』をご紹介しました。

主役の恒夫は『坂道のアポロン』(2017)の中川大志、ジョゼは『デイアンドナイト』(2019)の清原果耶が、それぞれ担当。

2人ともすれ違う恒夫とジョゼの思いを、もどかしさや苛立ちを交えた感情豊かな声で、アニメの主役たちに命を吹き込まれています。

アニメーションとなって新たに伝えられる『ジョゼと虎と魚たち』。

“青春恋愛小説の金字塔”と言われるその理由はどこにあるのかと、探ってみてはいかがでしょう。

映画『ジョゼと虎と魚たち』は、2020年12月25日(金)ロードショーです。

【連載コラム】『TIFF2020リポート』記事一覧はこちら







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