2020年の映画おすすめランキングベスト5
選者:シネマダイバー森田悠介
年半ばに劇場が再開してからしばらく経ちましたが、感染症対策で外出する機会は減り、世評を知るための興行収入も『鬼滅の刃』の独走状態で参考にはならないため、ここでは連載コラム「映画道シカミミ見聞録」で取り上げた作品の中から、2020年のベスト5を選びました。
まさに映画は時代を写し取るもので、各作品の考察を振り返ってみると、背景で共有しているテーマや課題が浮かび上がってきました。
その関連性を明らかにするため、5位から順にお読みいただくことで、全体像が見えてくる構成にしています。ぜひ通してご一読いただけますと幸いです。
【連載コラム】『2020年映画ランキングベスト5』一覧はこちら
第5位『音楽』
【おすすめポイント】
『鬼滅の刃』に真っ向から勝負できるアニメーション作品。
アニメ特有の「物語」ではなく「形式」に徹底してこだわり、線と反復の無駄のない文体で男子高校生たちの青春を描きました。
国外のマーケットに目を向けるならば、この省略のリズムにこそ、ジャパニメーションの自律的な価値が見いだせるのかもしれません。
第4位『どうにかなる日々』
【おすすめポイント】
その“余白”を原作となる漫画の段階から活かしているのが、志村貴子です。
漫画のコマはそのまま映画のフレームに置き換えられ、その「カット割り」は「コマ割り」から派生しています。
むしろアニメ化したことで原作の魅力が際立ち、主題の“それなりに特別な日常”が鮮やかに彩られていました。
第3位『mellow』
【おすすめポイント】
そんな日常の「告白の瞬間」に注目した群像劇です。
特筆すべきは、その場に必ず第三者がいて、ふたりの関係性が恋愛によって閉じられない点にあります。
だれかを想い、自分以外の傷にも痛みを感じられるようになることが、成熟(メロウ)につながっていくのです。
第2位『喜劇 愛妻物語』
【おすすめポイント】
そして本作には、そのような“想い”の極北が、罵詈雑言の衣装をまとって示されています。
売れない脚本家と、それを支える妻の姿は、泣くに泣けぬ、笑うにも笑えぬ愛情が存在することを教えてくれます。
喜劇か悲劇のどちらに転ぶかわからないからこそ、夫婦を最期まで演じられるのかもしれません。
第1位『あなたにふさわしい』
【おすすめポイント】
そんな人生劇場の虚構性に思い至った妻が、“ほんとうの夫婦”を求めさまよう物語です。
夫婦が夫婦でいられる確かな理由を、戸籍以外に求めようとするならば、何が残るのか?
この理知的な問いを、感覚的な答えに落とし込んでいく映像の力と、夫婦の真髄を軽やかに描写した洞察力に、感銘を受けました。
2020年注目の監督とキャスト
監督賞:足立紳
女優賞:水川あさみ
男優賞:濱田岳
【コメント】
ここまで述べてきた夫婦像(恋愛観)を具現化した功績を称え、『喜劇 愛妻物語』の“夫婦”に女優賞・男優賞をそれぞれ贈ります。
またこれが実体験に基づいているという点で、監督賞をもって現実の足立夫妻に敬意を表します。決して『嘘八百』ではないという希望を世界中の夫婦に与えてくれました。
まとめ
「テレワーク」や「おうち時間」といった言葉が人口に膾炙した2020年。今後、映画の主要な舞台も“家”に移っていくことは間違いありません。
もとより、日本映画は“ホームドラマ”が多く制作されてきましたが、疑似家族をはじめ人々が寄り添う姿を描いてきたこれまでの流れとは、また変わってくるはずです。
女性の自殺率増加に代表されるように、ステイホーム時代に“ホーム”がない人々はどうすればよいのか。これを思うと、安易に“家”の価値を称揚することも憚られていくでしょう。
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