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【操演怪獣特集】日本の特撮技術はゴジラの着ぐるみだけではない!ワイヤーワークでシャープな造形美を活かす|邦画特撮大全28

  • Writer :
  • 森谷秀

連載コラム「邦画特撮大全」第28章

ゴジラシリーズの特集はひとまず今回で終了します。最後に特集するのが操演怪獣です。


東宝作品『怪獣島の決戦 ゴジラの息子』(1967)

読者の皆様は怪獣というと、着ぐるみやCG(コンピューターグラフィックス)で表現されたものが、最初に頭に浮かぶはずです。

しかしCGがない時代には“操演”といった技術で表現された怪獣たちも数多くいます。

今回はそんな“操演怪獣”を特集していきます。

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そもそも“操演怪獣”とは

まず “操演”とは何なのかを説明しなければいけません。

映画における“操演”という役職はワイヤーで役者や怪獣のミニチュアを吊り上げて操作したり、ミニチュアに電飾を仕込んだり、火薬を扱ったりなどと多岐に渡るものです。

今回のコラムでいう“操演怪獣”とは着ぐるみではなく、人形などの造形物をピアノ線やワイヤーで操作して表現した怪獣のことを指します。

日本映画に登場する怪獣は着ぐるみ(ぬいぐるみ)が主流です。

参考映像:『ゴジラ』(1954)

これはゴジラシリーズの第1作目『ゴジラ』(1954)で採用されて以降主流になりました。

人間が被り物を着込んで怪獣を演じるという手法は、ハリウッド映画などで見られた人形によるストップモーション・アニメーションと比べて、予算や撮影スケジュールを緩和できるというメリットがあります。

一方で人が被り物を着て演じるため、怪獣の体形(フォルム)に限界が出来てしまうというデメリットもあります。

操演怪獣の場合、人が中に入って演じるのではなくピアノ線を操作して動かすため、着ぐるみ怪獣とは違ったシャープな造形の怪獣を表現することが可能です。

また前回紹介した『ゴジラVSビオランテ』(1989)に登場するビオランテや、長い3つ首と2本の尻尾が特徴的なキングギドラのように、着ぐるみと操演技術を組み合わせた怪獣たちもおります。

参考映像:『ゴジラVSビオランテ』(1989)

操演怪獣の代表格【モスラ】


東宝作品『モスラ』(1961)

着ぐるみではない操演怪獣の代表格がみなさんご存知のインファント島の守り神・モスラです。

モスラは巨大なガの怪獣で、人間が中に入って演じられないフォルムをしています。フォルムだけでなく、飛行や翼の羽ばたきといった動きを表現するにも操演技術が不可欠だったのです

モスラ幼虫は初登場作品『モスラ』(1961)では総勢8人がかりで動かす着ぐるみも利用されていますが、以降の作品ではギニョールが基本的に使用されました。またモーター仕掛けで動くモデルも使用されています。

モスラ成虫は天井から人形を吊って操演しています。翼の羽ばたきもピアノ線による操演によって表現されました。

モスラ成虫の造形物は2つ存在し、大型サイズのものと小型サイズのものが、場面に応じて使い分けられています。

参考映像:『モスラ対ゴジラ』(1964)

モスラとゴジラの初対決を描いた映画『モスラ対ゴジラ』(1964)で大型サイズのものは新たに作られました。

しかし小型サイズは『モスラ』で使われたものがそのまま流用されています。

モスラ成虫がゴジラの尻尾を持ち上げる場面では、小型サイズが効果的に用いられました。

このモスラ成虫の小型サイズは『ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘』(1966)までの5年間現役で、計4作品で活躍したのです。

参考映像:『ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘』(1966)

操演の最高峰【カマキラスとクモンガ】

参考映像:『怪獣島の決戦 ゴジラの息子』(1967)

操演の最高峰とされるのが『怪獣島の決戦 ゴジラの息子』(1967)に登場するカマキラスとクモンガです。

名前からわかるようにそれぞれカマキリとクモがモチーフの怪獣で、実在のカマキリとクモをそのまま巨大化させたデザインとなっています。

『怪獣島の決戦 ゴジラの息子』の特技監督・有川貞昌によれば、この2体の操演はとてつもなく大変だったようです。

クモンガの造形物の大きさは5mもあります。足1本につき2~3人のスタッフが付きました。クモンガは8本も足があるので計16人のスタッフが必要になります。

そのほか、首と胴体を操演するスタッフも合わせて総勢20名余りの手によって操演されたのです。操演スタッフだけでは手が足りず、他部署のスタッフもクモンガの操演にあたったのです。

照明が置かれている撮影ステージの天井の梁の上からピアノ線で操演するのですが、普段は2~3人の人間しか登らない場所です。

人によってはだいぶ危険な場所に登って操演していました。また近くに照明があるため、スタッフたちは照明の熱に悩まされたようです。

スタッフの苦労もあり、クモンガとカマキラスの動きは非常に滑らかなもので、今日の視点から見てもその技術に驚愕します。

まとめ

実際の造形物をワイヤーやピアノ線によって動かす“操演怪獣”は、CG技術の発展により近年の映像作品では見かけなくなりました。

実際の造形物であるがゆえの迫力とリアリティ、ピアノ線での操作とは思えない滑らかな動き。“操演怪獣”とその技術は決してCGがなかった時代の代替品ではなく、CGとはまた違った味わいを持った映像技術なのです。

次回の邦画特撮大全は…

次回の邦画特撮大全は方向をガラリと変え、水木しげるの漫画『ゲゲゲの鬼太郎』の実写化の歴史を辿りたいと思います。

お楽しみに。

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