Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2021/10/07
Update

映画『〈主婦〉の学校』感想解説と内容評価。アイスランドの男女共学家政学校で学ぶ家事という‟生きる”ための知恵|映画という星空を知るひとよ79

  • Writer :
  • 星野しげみ

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第79回

アイスランドのレイキャビクに、1942年に創立された伝統ある「主婦の学校」。

その授業内容に迫った映画『〈主婦〉の学校』が、2021年10月16日(土) よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショーされます。

「主婦の学校」は寮での共同生活を送りながら、生活全般の家事を実践的に学ぶことができる、一学期定員24名の小さな学校です。

1990年代には、男子学生も受け入れて男女共学となりました。現在でも、性別に関わりなく「いまを生きる」ための知恵と技術を求めて学生たちが集まってくるといいます。

映画『〈主婦〉の学校』は、ステファニア・トルス監督が、時代の移り変わりと共にその役割を変化させてきた「主婦の学校」に注目して手掛けたドキュメンタリーです。

【連載コラム】『映画という星空を知るひとよ』一覧はこちら

スポンサーリンク

映画『〈主婦〉の学校』の作品情報


(C)Mús & Kött 2020

【日本公開】
2021年(アイスランド映画)

【原題】
Húsmæðraskólinn

【英題】
The School of Housewives

【監督・脚本・編集】
ステファニア・トルス

【キャスト】
・卒業生 アゥスロイグ・クリスティヤンドッティル(1947年在学)、ラグナ・フォスベルグ(1967年在学)、ラグナル・キャルタンソン(1997年在学)、グズムンドゥル・インギ・グズブランドソン(1997年在学)、ヒルマル・グズヨンソン(2005年在学)
・在校生(2016・2017・2018年)
・マルグレート・ドローセア・シグフスドッティル(校長)、カトリン・ヨハネスドッティル(教師・刺繍/洋裁担当)、グズルン・シグルゲイルスドッティル(教師・調理担当)、エッダ・グズムンドスドッティル(教師・織物/編物担当)、インギビョルグ・オラフスドッティル(寮母)

【作品概要】
1942 年から現在まで続く、レイキャビクの男女共学の家政学校「主婦の学校」。性別に関わりなく、それぞれの思いを胸に「いまを生きる」ための知恵と技術を求めて学生たちが集まってきます。

「主婦の学校」は1970年代に「家政学校」に名称が変更されました。本作『〈主婦〉の学校』は、この学校のことに興味をもったステファニア・トルス監督が、学校の役割に注目して製作したドキュメンタリーです。

映画『〈主婦〉の学校』のあらすじ


(C)Mús & Kött 2020

1942年に創立された首都レイキャビクの中心部にある男女共学の家政学校「主婦の学校」。ここは学位のためではなく、学びたい人が自分のために行く学校です。

白く美しい建物が優雅な雰囲気を醸し出すこの学校には、現在でもアイスランド全土から、様々な期待を胸にした学生が集まってきます。

「私は手仕事に興味があるわ」「将来使える技能を学べるのを楽しみにしてる」「服に開いた穴を直す方法も習えるかな」

彼らの多くは寮で共同生活を送りながら、一学期3ヶ月の間、あらゆる家事や手仕事を基本から学んでいきます。

秋学期は、草原でのベリー摘みから始まります。摘んだベリーはジャムやケーキに使われ、学生たちのお腹におさまります。

学校では、調理や裁縫、編み物、刺繍、洗濯、アイロンがけなど、一つ一つを実践的に教え、毎日の食事も調理担当の学生が作ります。

学生は多くの課題制作や試験もこなしていかなければなりません。

カリキュラムが半分を過ぎる頃には、学生の家族を招待して、制作した作品の展示や料理をふるまうパーティーも開催。

歴史ある学校の卒業生たちは、学生時代を振り却って様々な証言をしています。中には、学校初の男子学生だった卒業生の証言も……。

性別に関係なく「いまを生きる」ための知恵と技術を身につけた学生たちが、今日も「主婦の学校」を巣立っていきます。

スポンサーリンク

映画『〈主婦〉の学校』の感想と評価


(C)Mús & Kött 2020

「主婦の学校」で学ぶもの

「主婦の学校」という言葉を耳にしますと、「花嫁学校?」と思いがちです。けれども、本作に登場する学校は、「花嫁学校」と同じような感じですが、少し違っていました。

本作ではまずこの学校の学生たちになぜ入学したのかを聞いています。

「主婦になるために行くわけじゃない」と答える人や、「自分のことは自分で面倒を見られる人間になりたい」という人。

ハンバーガーは焼けるからもっと他の料理が出来るようになりたい、服をリフォームできるようになりたいなど、入学する動機も様々です。

全寮制のこの学校では、入学するとまず寮の中での最低限度の生活ルールを体験。

授業では、テーブルセッティング&マナーを始め、初歩的な料理からおもてなし料理・伝統料理の調理法を学び、衣類の種類に応じた洗濯法や正しいアイロンがけ、素材の理解と縫製技術、火災予防のための消火器の使い方などまで学びます。

料理だけを教えるのではなく、素材となる野菜を種から育てて料理に活かしたり、無駄のない料理の活用方法や破れた服を目立たないように繕うやり方まで授業に取り込んでいます。

そこには、生きることに役立つ知恵を身につける工夫があふれていました。

「主婦の学校」が人気のわけ


(C)Mús & Kött 2020

アイスランドは、2021年世界経済フォーラム公表のジェンダーギャップ指数ランキングにて12年連続1位の“ジェンダー平等”が進んでいる国です。

性別にかかわらず何事も平等に出来る意識が進むこの国で、「主婦の学校」が今でも存続しているのは、主婦がこなす家事こそ生きるための大切な知識という認識が出来ているからではないでしょうか。

私たちが普段何気なくしている「食べること」は、生きていく上で最も大切なことです。いかに美味しく栄養価の高い食べ物を安価で摂取するかと、工夫も重ねられます。

そういう意味では、美味しい物を食べさせ、家族に心地良い毎日を過ごさせてあげたいという思いで家事をこなす主婦は、生活の知恵者と言えます。

また、「主婦の学校」では余った料理もムダにせず、施設に振る舞ったりして、食品ロスを防いでいます。地球環境問題も考えてのこのような学校の方針に賛同する人も多いでしょう。

「主婦の学校」の入学志願者は、世の中が不況になると急増するそうです。志願者は、低所得の中で自分の生活を守り通す方法を、「主婦の学校」に求めているのかも知れません。

まとめ


(C)Mús & Kött 2020

主婦が行う家事のノウハウから、ムダの無い生活の工夫までを余すところなく教えてくれるというアイスランドの「主婦の学校」。

その学校に惚れ込んだステファニア・トルス監督が、ドキュメンタリー映画として作り上げた『〈主婦〉の学校』からは、自分の手で毎日の生活を創っていくことの大切さが伝わってきます。

実際の卒業生たちは、異口同音に「主婦の学校へ入学してよかった」と言い、その中には政治家になった男性もいます。

主婦の学校で学ぶと、男性であれ女性であれ、誰にも頼らず自立していける自信がつくと言います。生活する上で役立つ実践的なものが多いということも言えるでしょう。

自立した人生を楽しむための秘訣が主婦の学校の授業に満ち溢れ、主婦業の素晴らしさを実感できる本作。

「主婦の学校」が伝授する家事のノウハウをスクリーンで観て、日本の現状と何が違うのか、と比較するのも良いでしょう。

映画『〈主婦〉の学校』は、2021年10月16日(土) よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー!

次回の連載コラム『映画という星空を知るひとよ』もお楽しみに。

関連記事

連載コラム

ホラーSFの近年「VS映画」おすすめ4選。人気キャラクター対決の魅力から争いを超えた共闘まで|SF恐怖映画という名の観覧車41

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile041 映画ではしばしば、映画の主軸となる「物語」よりも、「キャラクター」に人気が集まることがあります。 キャラクターデザインや行動理念などその …

連載コラム

『仮面ライダー剣ブレイド』感想と評価解説。トランプと昆虫のダブルモチーフが平成版の特徴的な魅力|邦画特撮大全40

連載コラム「邦画特撮大全」第40章 平成仮面ライダー第4弾である『仮面ライダー剣』(2004~2005)が今年放送開始から15周年をむかえました。 そのため椿隆之、森本亮治、梶原ひかりといったメインキ …

連載コラム

映画『ストレンジ・ハウス』ネタバレあらすじ感想とラスト結末の評価。本格ホラーミステリーで呪われた家の秘密を暴く|Netflix映画おすすめ38

連載コラム「シネマダイバー推薦のNetflix映画おすすめ」第38回 夏が近づくに連れて恋しくなるのは爽やかでありながらもどこかジメジメとした「ホラー映画」。そこに「田舎町」と「青春」の要素が加われば …

連載コラム

映画『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』評価解説。海外の“ジョーシキ”を略奪せよ!|だからドキュメンタリー映画は面白い16

連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』第16回 あのマイケル・ムーアが、ドキュメンタリー作家から“侵略者”に転身!? 『だからドキュメンタリー映画は面白い』第16回は、2016年公開の『マイ …

連載コラム

講義【映画と哲学】第7講「恋愛・性的欲望・性的行為について:サルトルの観点から『デカローグ6』を見る」

講義「映画と哲学」第7講 日本映画大学教授である田辺秋守氏によるインターネット講義「映画と哲学」。 第7講では、恋愛・性的欲望・性的行為に対してサルトルが展開した「眼差し」論を踏まえた上で、彼の「眼差 …

U-NEXT
CINEMA DISCOVERIES【シネマディスカバリーズ】
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
【連載コラム】光の国からシンは来る?
映画『哀愁しんでれら』2021年2月5日(金)より全国公開
映画『写真の女』
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【KREVAインタビュー】映画『461個のおべんとう』井ノ原快彦の“自然体”の意味と歌詞を紡ぎ続ける“漁師”の話
【玉城ティナ インタビュー】ドラマ『そして、ユリコは一人になった』女優として“自己の表現”への正解を探し続ける
【ビー・ガン監督インタビュー】映画『ロングデイズ・ジャーニー』芸術が追い求める“永遠なるもの”を表現するために
オリヴィエ・アサイヤス監督インタビュー|映画『冬時間のパリ』『HHH候孝賢』“立ち位置”を問われる現代だからこそ“映画”を撮り続ける
【べーナズ・ジャファリ インタビュー】映画『ある女優の不在』イランにおける女性の現実の中でも“希望”を絶やさない
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
アーロン・クォックインタビュー|映画最新作『プロジェクト・グーテンベルク』『ファストフード店の住人たち』では“見たことのないアーロン”を演じる
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
【平田満インタビュー】映画『五億円のじんせい』名バイプレイヤーが語る「嘘と役者」についての事柄
【白石和彌監督インタビュー】香取慎吾だからこそ『凪待ち』という被災者へのレクイエムを託せた
【Cinemarche独占・多部未華子インタビュー】映画『多十郎殉愛記』のヒロイン役や舞台俳優としても活躍する女優の素顔に迫る
日本映画大学